のど元過ぎて、元の木阿弥になりゃせんか!? | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。



朝、日経新聞1面の大見出しを読んでがく然とし、かつ大いに腹が立ってきた。

「原発『安全対策が完了』」続けて「経産相がきょう表明 再稼働 理解求める」とあったのだ。

とんでもない勘違いである。
この政府が「安全」に対して、今までどういう責任を取ってきたと言うのか。


「この政府」と言うのは、歴代の自民党政権、そして今の民主党政権のこと。
原発を一貫して推進してきた自・民の歴代政権がしてきたことと言えば、
机上の「安全対策指針」を策定してきただけではないか。


原子力安全委員会など機能せず、専門家もいないありさま。
ほとんどノーチェックできて、
(電力会社の言いなり。その電力会社も米技術陣の言いなり)
一朝、巨大地震が起これば「想定外でした」と言って恥じない。
専門家なら誰でも分かっていた津波襲来を過小評価し続け、
いま未曾有の原発震災、地球規模の放射能汚染という大災害を引き起こしている。


■この今「原発安全対策『完了』」宣言ですか

その政府の海江田万里経済産業相が、あすにも「安全対策完了宣言」をし、
地方政府に原発再稼働容認を求めると言う。
ばかも休み休み言え、と思わず僕はツイートしてしまった。
それを言うなら、福島第一原発の放射能汚染を完全に止め、
この危機を終わらせてからにすべきである。

hidekidos かく語り記-福島原発 惨状


『想定外』がまかり通るような「原発安全指針」など、ないに等しい。
いや、指針があるだけ免罪符を与えるようなもので、
ない方がましと言いたいくらいのものだ。
「指針にこう書いてあります。私たちはその通りやりました。
それなのに事故は起きました。想定外でした。それでも私らの落ち度ですか?」
と、電力会社から切り返されるのが落ち。


今度も形をつくることに懸命で、大急ぎで指針を策定し、
大慌てで「点検」し、「大丈夫でした」と言っている感じがする。
これにはさすがに地元自治体も疑いの目で見ており、
財界寄りの日経新聞も「自治体側は個々の原発で追加対策を求めており、
全原発の再稼働にはなお時間がかかる可能性が高い」
と書かざるを得なかった。


今この時期に、どれほど愚かで技術音痴の知事でも、
「そうですか、それでは原発稼働させましょう」なんて答えるわけがない。
こんな簡単な心理も見抜けず、起こってしまった事実からさえ学べずに、
ただただ財界、官僚、一部(と言ってもかなり大部な)政治勢力に背中を押されて、
「安全宣言」を出そうという海江田氏という政治家はどういう政治家なのか。


■怒りにまかせ連続ツイート

第一この時期、誰のため、何のために原発再開を急ぐのか。
夏の電力だって他の発電の稼働率を上げれば乗り切れる。
「電気予報」とは何ぞや。
まるで電気が足りなくなることを前提にしているではないか。
そうやって国民を刷り込んでおいて、
「だから原発だ」とでも言うつもりなのか。


けさのツイート第2弾である。
続けて第3弾。僕は初めて「揚水発電」にふれた。


hidekidos かく語り記-揚水発電 原発は危険な上に、ばかばかしい発電方法でもある。
 たかがお湯を沸かすだけのために燃やせば強毒に変わるウラン を原料に使う愚かさ、はさておき、
 いま言いたいのは「揚水発電」のことだ。
 原発は止められないので夜でも電気を作る。
 蓄電できないから電気がムダになる。ではどうすれば…。

 原発を1年中止めないために考え出されたのが揚水発電。
 僕も最近まで、この存在自体を知らなかった。
 誰も説明しないからだ。
原理は簡単。
夜作ってしまった電気を使い、せっせと水を上部に汲み上げ貯めておく。
朝、これを放流してまた電気を作る。
そのロス、30%。



第5弾、なおも揚水発電の話。


蓄電できない、原発で作った夜間の電力を揚水発電を使ってロスを30%に抑える。
揚水発電がごく安く建設できるなら、妙案であったかもしれないが、
実はこのコスト、原発をつくる何倍も掛かるらしい。
ここでも「原発は割安な発電」と言ってきたことのウソが露呈する。



揚水発電のことは、小出浩章京大助教の著『原発のウソ』(扶桑社新書)で知った。
揚水発電所の建設コストについては小出氏もグラフに示しただけなので、
原発施設の建設費に対して何倍掛かるのか、確かなことは分からない。
この点、専門家にぜひご教示願いたい数字である。


僕があえて「揚水発電」をやり玉に挙げたのは、一読して
『ああ、こんなにもばかばかしいことを原発推進のためにやってきたのか』
と、感じているからだ。


■功を奏している「原発必要」の国民への刷り込み

ばかばかしいというより、さらにずっと腹立たしいことも原発についてはある。


なぜ電力会社が原発に血道をあげるのか。
それは法律で守られているからだ。
原発事故を起こしても、最大1200億円で免責される…
原発建設コストに対する「一定の率」を利益にすることができる…
など、あからさまな電力会社優遇策がある。


この辺も自分で調べあげればいくらでも批判できそうだが、
今のところ著書の受け売りということになるので、これ以上は控える。


と書いたところで、ツイートに対する反響が…。


他の(発電の)稼働率を上げれば、環境破壊、大気汚染はより深刻なものになり
死者数は増えます。
放射能への「恐怖心」を減らし、
起こりうる「恐怖」を歓迎するのは
どうお考えですか?



返信をくれた人の善意を僕は疑わない。
しかし、これも典型的な”刷り込み”による誤解だ。
原発は、原料のウラン精製のことまで考えれば、CO2排出量は巨大だし、
毎日毎晩、大河の流れに匹敵する温排水を海に注いでいることを考えれば、
あるかどうか分からないCO2排出による地球温暖化効果より、
影響は直接的、かつ顕著で膨大だ。


しかし国民はこれまでずっと
「原発はクリーンなエネルギー」
「火力発電はCO2排出が甚大で環境危機を招く」
と、刷り込まれてきた。


■原発マフィアの「虎の尾」を踏んだ菅首相?!

朝、連続ツイートしている間に、家内が興味深い新聞記事に気がついた。
すばらしい論説だったのでさっそく、僕は要約のツイート。


朝日新聞論説委員の星浩さんが「政治考」で書いている。
『菅氏の八起目 脱原発へ「虎の尾」踏み込め』とある。
なんてセンスが良いのだろう。
電力会社、財界、自民党のトライアングルに一撃を加えるとすれば、
市民運動出身の菅首相しかあり得ない。
言葉は悪いが、最後っ屁で泡を噴かせてほしい。



トライアングルと表現したが、官僚も加えて
「原発マフィア」と言った方がよいかもしれない。
6月18日付朝日朝刊4面「政治考」で星氏は次の一文も紹介している。


「これまで多くの非難や中傷を受けてきたが、浜岡原発の運転停止を求めて以降の
私に対する攻撃は、経験したことのない異常な激しさだ」。
菅氏が最近、周辺に漏らした話だ。



こうした政官財+マスメディアまでを総動員しているかの感がある「菅降ろし」について、
菅氏側近は「『虎の尾』を踏んだかもしれない」と表現している。


これの裏を返せば、けさの日経新聞朝刊の「原発の『安全対策完了』」の
大見出しの意味がいっそうはっきりしてくる。


新聞というメディアの中で生きてきた僕からすると、
日経が原発マフィアたちにカネで買われたとは思わない。
しかし、新聞はその習性として「先読み」が仕事だと思っている。
だから記者は、海江田経産相が実際に発言してから書けばいいことを
きのうのうちに出稿しまった、と言えなくもない。


しかしこの記事をよそから読めば、見事な”観測気球”になっている。
僕みたいな個メディアが「おかしいじゃないか!」と叫んでも、痛くもかゆくもないだろうが、
もしも他の新聞・放送メディアが批判するようなことがあれば、
海江田氏は「私はそんなこと言っておりません」と言うだろう。
事実、海江田氏が表明するのは日経も「きょう」だと書いている。


真実がどの辺にあるにせよ、
新聞が原発再稼働を狙う勢力にエールを送るような記事を書いていることに対しては、
「国民のみなさん、よーく注意したほうがいいですよ」と警告を発せざるを得ない。
のど元過ぎて元の木阿弥にならないように。


何度でも繰り返すが、原発大震災は終わっていない。
放射能汚染を食い止める対策も、まだ実っていない。


夕刊各紙には、放射能汚染水の除去システムは5時間で失敗、と出ていた。
第一、「除去」効果を最大に活かす炉心冷却の循環システムの構築が
本当に可能かどうかさえ「不明」の状況なのだ。


この今も、福島原発からの放射性物質は空気中に、海中に垂れ流されている。
そして、全国の至る所で放射能が検知され、その度、地域に波紋を投げかけている。


そういう最中に、海江田経済産業相は
「原発対策完了宣言」を出そうとしているのである。



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