私は北条早雲(ほうじょうそううん)の子・幻庵(げんあん)です。
(早雲は伊勢早雲(いせそううん)と名乗っています。)
1519年春、伊豆国の韮山城(にらやまじょう)で早雲は酒宴を開きました。
その場には氏綱(うじつな)、氏綱の正室・珠(たま)、孫の伊豆千代丸(いずちよまる)がいました。
伊豆千代丸くんは後の氏康(うじやす)さんだよ。この時、4歳なんだ。
庭で伊豆千代丸が小弓を弾いていました。
カランッ
伊豆千代丸「あ〜、的に当たりませぬ。おじじ様、教えてくだされ〜。」
早雲「わははっ!伊豆千代丸、体を揺らすではない。体の芯をしっかりするのじゃ。」
早雲は庭に出て自ら伊豆千代丸に弓矢を教えました。
氏綱「伊豆千代丸、無理を言うではないぞ。しかし、母上、父上はお元気ですな。」
氏綱さんの母は早雲さんの正室・陽子(ようこ)さん、南陽院殿(なんよういんどの)だよ。
陽子「80を超えても、まだまだ元気ですね。」
早雲「やれやれ、伊豆千代丸は将来楽しみだの。ところで氏綱、頼みがある。わしが死んだ後のことじゃ。」
氏綱「そんなに元気なのに死んだ後のことなぞ。」
早雲「良いではないか。以前からそなたが言っていた姓のことだ。わしが死んだら我が家の姓を北条(ほうじょう)と名乗るがよい。」
氏綱「かしこまりました!」
早雲「そなたの妻は鎌倉の北条の末裔だからな。それともう1つ…わしの菩提寺を建ててくれ。その寺には京の大徳寺(だいとくじ)から僧を招くのじゃ。」
早雲さんは京にいた時に大徳寺で禅を学んだ寺なんだよ。
早雲「伊豆千代丸、小弓はそれくらいにして、こちらで菓子を食べよ。」
伊豆千代丸「わ〜い」
➖➖➖➖
その時分、私は箱根権現社にいました。
(この頃の私は菊寿丸(きくじゅまる)と名乗っていました。)
私が神仏に手を合わせていると…早雲がそこにいました。
早雲「菊寿…菊寿ではないか?」
菊寿丸「父上!韮山城にいるはずではないですか?なぜ箱根にいらっしゃるのです?」
早雲「わらかん。わしは韮山にいたはず。」
菊寿丸「………父上、父上は既にこの世のものではないのでは?」
早雲「…そうか。わしは死んだか。菊寿、我が家を見守ってくれ。そして…そなたが死んで、あの世に来たら我が家の行く末を聞かせてくれ。」
菊寿丸「父上、わかりました。」
早雲「頼んだぞ。…さらばじゃ!」
➖➖➖➖
韮山城では…
伊豆千代丸「おじじ様?」
伊豆千代丸が早雲の体を揺らしますが…
氏綱「父上?父上!」
早雲は縁側で眠るように亡くなっていました。享年88歳。
早雲の遺言により、氏綱は箱根に菩提寺を建立しました。
それが早雲寺(そううんじ)です。
早雲寺には早雲を始め北条氏五代の墓があるんだよ。
ーーー
1589年、私の命も後わずか…私はこれから早雲に我が北条氏のことを報告しなければなりません。
早雲亡き後、我が家は小田原城(おだわらじょう)を本拠とし五代・氏直(うじなお)の代になっていました。
幻庵「父上、今そちらに参ります。北条は滅びますが…民は無事でございます。」
早雲の望んだ戦のない世はもうすぐ…民であった秀吉(ひでよし)により完成するのです。
完
「民の御館様」、今回で終わりだよ。読んでくれてありがとう〜。