My Favotite Reissured CD Award 2010 | What's Entertainment ?

What's Entertainment ?

映画や音楽といったサブカルチャーについてのマニアックな文章を書いて行きます。

今年も、去年一年間で再発されたCDのうち、僕が特に嬉しかった物を紹介していきたいと思う。

2010年の再発市場は、前年以上に地味な印象を受けた。
一応のトピックとしては、ジミ・ヘンドリックスの各種再リマスター、ビートルズに続くアップル・レコード作品のリマスター、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』とデビッド・ボウイ『ステイション・トゥ・ステイション』の拡大盤リマスター辺りだろう。だけど、前年のビートルズ・リマスターほどのインパクトもなくて、再発市場もいよいよルーティーン化してきた感は否めない。
その一方で、地味ではあるけれど金澤寿和のAOR再発シリーズ「Light Mellow」は今年もいい仕事振りだったし、日本のジャズやマニアックなソウル系良作の再発も嬉しかった。

基本的な問題点は前年同様で、紙ジャケ・プラス高音質盤化、デラックス・エディション化の2大パターンの踏襲が主だったスタイルと言えるだろう。技術革新は続いて行くから、数年ごとのリマスター化は必然だと思うが、やはりオールディーズのアナログ・マスターの劣化問題が今後の再発市場には大きく立ち塞がって来るだろうし、CD後の次世代ソフトについても混沌が続いている。
日本においては、以前ハガクレ・レコードが提示して頓挫状態にある幻盤や未発表音源の今一度の発掘作業が望まれるし、海外においてはニュー・ウェイヴの更なる再発に期待したいものである。やはり、アズテック・カメラの1stのデラックス盤リマスターやポップ・グループとリップ、リグ&パニックの再発の頓挫は早く何とかしてほしい。

それでは、ランキングを付けずに、順不同(基本的には僕の購入順)でベスト選を紹介していこう。


○ JOAO GILBERTO / CHEGA DE SAUDADE
35mmの夢、12inchの楽園

これがなくては始まらない、ボサノヴァ黎明期の決定的名盤がようやく再発された。ジョアン・ジルベルトの初期音源については、20年前にパシフィック・ジャズのアンソロジーが組まれたが廃盤になって久しかったから、これはまさに待望であった。年末には、セカンド・アルバムも再発されているので、こちらも要チェックだ。

○ GOLEM / ORION AWAKES
35mmの夢、12inchの楽園

かなりコアなロック・ファンにさえあまり知られていない、ドイツはケルンのサイケデリック・ロック・バンド。録音は70年代初頭であり、謂わばジャーマン・プログレの異端的カルト作品である。音的には、ホークウィンドとキング・クリムゾンの畸形的折衷とでも言えばいいか。その手の好事家なら、市場から消える前に入手する価値大である。

○ NEIL SEDAKA / LITTLE DAVIL AND HIS OTHER HITS+THE MANY SIDES OF NEIL SEDAKA
35mmの夢、12inchの楽園

ニール・セダカについては、ここ数年彼の70年代に注目が集まり再発されていたのだが、彼のポップス黄金期である60年代が完全にスルーされていた。これは、ポール・アンカにも言えることだろう。だが、ここに来てようやく先ず聴くべきこの重要作がリマスター再発された。しかも、2in1の良心設計。再発したのは、このところ良心的な仕事ぶりが目立つWounded Birdである。ポップス・ファンは、まずこの辺りを確実に押さえるべきである。

○ SYLVIA STRIPLIN / GIVE ME YOUR LOVE
35mmの夢、12inchの楽園

レディーズ・オブ・エイティーズと並んで、ロイ・エアーズのもっとも優れた仕事の一つ。これも以前再発された時には、内容の良さにもかかわらず惨憺たる音質であった。今回は、それとは雲泥の音質であり、細かいところまで確実に聴きとれる。このスウィートでフレッシュでキュートな作品を、今こそ多くのメロウ・サウンド好きに聴いてほしいものだ。

○ TWINN CONNEXION
35mmの夢、12inchの楽園

これは、VANDAやエム・レコードでお馴染みのソフト・ロック研究家・江村幸紀のガイド・ブック「Soft rock A to Z」で取り上げられて注目されたカルト作品である。数年前にも一度ブートで市場に出回ったのだが、今回は正規再発でボーナス曲まで追加された決定版。とにかく、曲も歌もアレンジも素晴らしく、発掘されるべくして発掘された隠れ名盤の典型である。ソフト・ロック・ファンなら買って間違いない。

○ THE ENID / IN THE REGION OF THE SUMMER STARS
35mmの夢、12inchの楽園

この作品を待ち望んでいたプログレ・ファンは本当に多かったはずだ。ようやく、いい音でエニドの1st『夏星の国』(オリジナル・ヴァージョン)の封印が解かれたのである。同時に、やはり傑作の2nd『エアリー・フェアリー・ナンセンス』(オリジナル・ヴァージョン)も再発された。
2006年にWHDから一連のエニド紙ジャケ再発の折には、リマスターもされず、再録ヴァージョンでの発売。しかも、再発全13品を購入すれば、特典として非売品の1st&2ndオリジナル・ヴァージョンCDがもらえるというあこぎ商売であった。待った甲斐ある留飲の下がる再発である。

○ ROBERT JOHN GODFREY / FALL OF HYPERION
35mmの夢、12inchの楽園

上述したエニドのリーダーというかミスター・エニドのロバート・ジョン・ゴドフリーの名作ソロも同じくリマスター再発。この、ロックともクラシックともつかない独特の美意識は、そのままエニドの音宇宙にも受け継がれている。まさしく、ワン・アンド・オンリーのオリジナリティであり、ようやくいい音で聴ける喜びは大きい。
ちなみに、この作品も2006年にあこぎに紙ジャケ再発された13アイテムの1枚であった。

○ 吉野大作&プロスティチュート / 死ぬまで踊りつづけて
35mmの夢、12inchの楽園

ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴに対する正しき日本からの回答。彼らにしてもEP-4にしてもしばらくは忘れられた存在となっていただけに、この再発の意義は大きい。フリクションを筆頭に東京ロッカーズ周辺は、ジャパニーズ・ニュー・ウェイヴの代表格として絶えず評価され続けているのだが、もっと評価すべき素晴らしいバンドは存在するというその好例である。要注目。

○ KING SUNNY ADE / SYNCHRO SYSTEM+AURA
35mmの夢、12inchの楽園

80年代に、中村とうよう「ミュージック・マガジン」周辺でワールド・ミュージックがブームになったことがある。その時に注目されたアフリカのミュージシャンには、ナイジェリアのフェラ・クティ、セネガルのユッスー・ンドゥール、マリのサリフ・ケイタ、ジンバブエのトーマス・マプフーモ等がいたが、当時最も人気を集めたのがナイジェリアのキング・サニー・アデのジュジュ・ミュージックであった。
しかし、ブームは去り、アデの活動もすっかり地味になってしまった。来日までしたことがまさしく遠い過去である。その当時発表した2大名作が、本当に何のアナウンスもなくひっそりと2in1でリマスター再発されていた。しかし、ワールド・ミュージックが過去の流行になったとしても、彼の残した音楽の素晴らしさは永遠に聴き継がれるべきである。

○ SMOKEY ROBINSON / THE SOLO ALBUMS:VOLUME2
35mmの夢、12inchの楽園

Hip-Oの再発は、昨年も我々音楽マニアを喜ばせてくれたが、とりわけ一番のいい仕事と言えば第3弾までリリースされたスモーキー・ロビンソンのソロ・ワーク集だろう。中でも、人気の高い3rd『A Quiet Storm』('75)と4th『Smokey's Family Robinson』('76)をコンパイルしたこの第2弾は、まさしくファン待望であった。
今こそ、スムース&メロウの天才音楽家スモーキー・ロビンソンの仕事を振り返る絶好の機会である。買い逃しは厳禁だ。

○ MILES DAVIS / BITCHES BREW
35mmの夢、12inchの楽園

もはや、この大問題作については語り尽くされた感がある。『イン・ア・サイレント・ウェイ』に続いて発表された、まさしく帝王マイルスのエレクトリック・ジャズ宣言であり、数多のプロト・フュージョンとは一線を画すジャズ界永遠の異端大作である。
既に何度もリマスター再発されたし、4枚組の『Complete Bitches Brew Sessions』BOXもリリースされている。しかし、今回の再発こそが決定版。これが本当に最後と諦めて、購入することをお勧めしたい。それくらいの価値は十分にある作品である。

○ PAUL McCARTNEY & WINGS / BAND ON THE RUN
35mmの夢、12inchの楽園

世間的な話題性から考えれば、ジョン・レノンの(より発表当時のアナログな音にこだわった)完全限定再リマスター盤やバッドフィンガー、メリー・ホプキンス等のアップル再発だと思うけれど、先ず手にすべきなのはとうとう再発されたポール屈指のベスト・ワーク『バンド・オン・ザ・ラン』の決定的デラックス・エディションである。もちろん、リマスターが施され、DVDまで付いている。
ビートルズ解散後に注目を集めたのは、ジョンのソロ2枚やジョージの活動であり、ポールはいささか分が悪かった。確かに、ポール名義の最初の数枚は彼本来の輝きに欠けていたのも事実である。しかし、この作品で形勢は逆転した。これこそが、真の天才メロディ・メイカー、ポール・マッカートニーの面目躍如の大傑作である。

○ FELA ANIKULAPO KUTI / FELA
35mmの夢、12inchの楽園

キング・サニー・アデのところでも触れたワールド・ミュージック・ブーム。その中でも最も先鋭的なミュージシャンだったのは、間違いなくこのフェラ・クティである。彼が推し進めたアフロ・ファンクは、世界的にも絶大な影響力を誇った。日本において、彼の影響を最も強く受けたのが、江戸アケミ率いるじゃがたらであり、じゃがたらを通じてフェラの存在を知ったロック・ファンは多いことだろう。かく言う僕もまさしくその一人である。
フェラの残した膨大な作品群を、26枚のCDと1枚のDVDにまとめて、しかも価格が12,000円弱という超お得ボックスである。多くの人に勧められる代物ではないけれど、今を逃すと二度と入手することは困難だろうから、ちょっとでも気になった方は即ゲットすべきである。

○ エド&じゃがたらお春 / LIVE 1979
35mmの夢、12inchの楽園

地味に去年一番の問題作であったド級の発掘音源、それがメンバーOTO監修による最初期のじゃがたらの活動を記録したこのライブ音源である。残っていたのだ、あの伝説の「じゃがたらお春」が!個人的には、ここまでやってくれるならボーナス・トラックで財団法人じゃがたらのEP「LAST TANGO IN JUKU」('82)も付けてほしかったが、贅沢は言えない。
この勢いで、OTOにはもっと出し惜しみなく彼らのライブ音源をアーカイヴしてほしいものである。まさしく、全パンク・ファン必聴である。


上記以外では、TOT TAYLORの1stと2nd、THE BODINES『PLAYED』、HEAVEN17『PENTHOUSE AND PAVEMENT』、THE UNITED JAZZ+ROCK ENSEMBLEの諸作、DAVE STEWART&BARBARA GASKINの2枚、THE ISLEY BROTHERSのT-NECK時代が嬉しかった。

今年は、どんなものが出て来るのか期待したい。