ファイナンシャル・プランナーという肩書が嫌いな男 | 資産管理の不安を減らして、創造的な100年を生きる【白鳥光良の Work Life Fusion】

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100キロマラソン、フラメンコの唄と踊りとギター、創作落語、将棋、ファイナンシャルプランなど、様々な世界を融合(fusion)させる【白鳥光良】が「資産管理の不安を減らして、創造的な100年を生きる」を研究&実践中

「ファイナンシャル・プランナーという言葉が嫌いだ」と男が静かに言い放ったのは、東京駅の近くにある小さな博物館の中だった。



これまで四半世紀近くにわたり20代から80代まで様々なライフステージにある個人の資産管理をサポートし続けてきた男の独白には、真実の響きがあった。


それにしても、男はファイナンシャルプランナーという名称が入った授業を延べ1000人以上の大学生に提供したり、累計40万冊以上も売れたFP資格攻略本を書いたりもしてきたにも関わらず、なぜその横文字が気に入らないと真顔で言っているのか。私は理解に苦しんだ。


確かに、男が26歳のときに外資系コンサルティング会社を辞めて設立した会社の名称には「ファイナンシャル」「プランナー」「FP」いずれの言葉も含まれていなかった。また、男が初対面の相手に「私はファイナンシャル・プランナーです」と名乗ったことは一度もなかったようだが、過去に100キロマラソンを何度も完走した経験のあるその男が「私はファイナンシャルプ・ランナーです」と名乗って沈黙が流れたことは何度かあるようだ。


私は勇気を持って謎に斬り込むことにした。


「ところで、ファイナンシャル・プランナーという肩書のどこが気にくわないのかい?」


男は「あんな中途半端な肩書きを名乗る思考停止した人間の気が知れないよ」とボヤいてから「ファイナンシャルプランナーを直訳すると『お金のプランを作る人』って意味になる。俺はただ単にお金のプランを作るだけの無意味な人間にはなりたくねえんだ」と反抗的な態度で語り始めたので、私はまあまあ落ち着いてと言いながらもっと掘り下げた話を聞いていくことにした。


「ファイナンシャル・プランをお客さんのために作るのは決して無意味じゃなくて、それなりに価値のあることだと思うんだけど?」


「まあ、それなりにはね。どんな相談を受けるときでも相談者の今後の収支や資産の推移を漠然とでもイメージすることは絶対に必要だし、具体的な数字を入れたキャッシュフロー表を作ることは一定の価値があることには同意する。でもそれはあくまでもスタート地点に過ぎないよ」


「そっか。ファイナンシャルプランの作成はスタート地点ね。医師が患者の診断を行った直後の状態みたいなものか」


「そう、それ! 正確な診断を行うことの価値は否定しないけど、病気を治してさらに健康を維持・向上することのほうが100倍は価値があると俺は思う」


「なるほどね。やっと君の言いたいことが分かってきた気がする」


「プランを作ったら『あとは自己責任でどうぞ』みてえな半端な仕事は俺はしたくないんだ。将来のお金のプランを作ったら、それを実現する資産管理の具体的なアクションを提案して実行するところまで伴走しないと、お客さんの人生に素晴らしいインパクトを生じさせることはできないと思ってるんだ」


「人生に素晴らしいインパクトを生じさせるって、例えばお金に換算するとどれくらい?」


「少なくとも500万円から1000万円以上かな。きちんとリスクを取って長期運用した資産がそれくらい増えてくると、老後の不安が減ったり薄まったりして人生の質が上がったと感じ始める人が多い気がするね」


「そういう役割を担う人の肩書は、ファイナンシャル・プランナーじゃないとしたら、一体なんと呼んだらいいのかな?」


「横文字にするなら、正解は『パーソナル・アセット・マネージャー』じゃないかな」


男は前々から言いたかったことを1つ語り切って心が空っぽになったような爽快な表情をしていた。ついこないだ50代の大台に乗ったばかりと思っていたら来月には51歳になっちまうんだよ時の流れは速いもんだねえ人生残り半分は20代に戻った気分で楽しまなくっちゃね、と男はまだアルコールも入っていないのに饒舌に語り続けながら小さな博物館を後にした。