「で、アンタはどんな奴がそれに当てはまる思うとるんや?」
「おれが信用できると思うのは『仮説』とか『確率』みたいな言葉を自然に使いこなしてるヤツやな。いや、信用できるいうより『アホじゃない安心感』が根底にあるいう感じやろか。ワシの信じとることが絶対に正しいんじゃーとか言われへん安心感。権威っぽい人が言ったことは絶対に正しいと思い込んで騒ぐ衆愚の成れの果てのゾンビに攻撃されへん安心感。まあ、実際に試してみると分かるんやけど『この仮説はかなり有力だ』とか『このシナリオが実現する確率は7割以上』とか小難しい言い方をしてもフツーの人には伝わりにくいんよ。『みんなこうしてる』言うたほうが大衆は動きやすいだろうし、『どうせこうなる』のほうが不安な人は扇動されやすいと思うわ。あと『この確率は70%以上と想定する』とか言っても『絶対にそうなる』と解釈して混乱したり騒いだりする頭の弱い人やコンプラバカは意外と多いから、日常的にそういう言葉を使って緻密な話をするメリットなんてあんまないんや。ああ、バカを説得することに時間を浪費するほど人生は長くないことはおれも実感してるよ。それでも敢えて俗世間では実利が少ない科学的な真理を追求するようなフレーズを紡ぎながら会話をしてる人は信用できる確率が高いと思うねん。知らんけど」
「なんやねん。ごっつええ話きかせてもろたー思うて頷いてたのに、最後の最後に『知らんけど』つけたら説得力なくなるやろ!」
「いやいや。そもそも俺はお前を説得しようとしてないし、自分の考えが全て正しいと思うほど俺はアホやないから『知らんけど』ってつけてるんや。ノリでつけてるんやないで。俺が認識した世界で絶対的に正しいと信じてることさえも現時点の個人的な仮説に過ぎひんちゅう慎重な哲学を持って『知らんけど』言うとるんやで」
「そんなに深い哲学を持って『知らんけど』つこてる奴はじめて見たわ!」
「え? 科学的な思考を持っとる人間はみんな『これは仮説や』っちゅう意味で『知らんけど』つけとると思うてた。もしガリレオ・ガリレイが関西人だったら、牢獄にブチ込まれずに済んだんやないかな」
「それ、どういう意味や?」
「ガリレオが自著で地動説を発表した翌年の宗教裁判で『それでも地球は回っている。知らんけど』って言うてたら『なんや、知らんのか〜い!』って爆笑されて執行猶予3年くらいはついてたんちゃうか?」
「もうええわ」