Accounting, Tax and M&A -10ページ目

Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


コロワイドによるカッパ・クリエイトホールディングス(カッパ)の買収が漸く正式に公表されました。

これまでのレストラン事業(焼肉(牛角)やしゃぶしゃぶ(温野菜)等)にかっぱ寿司が加わることで、肉と魚のバランスが良くなるそうですが、財務的にもなかなか面白い内容なので簡単にまとめておきます。


1.買収ストラクチャー(支配権獲得保証型TOB)

コロワイドの100%子会社「㈱SPCカッパ」が買収の主体です(正直な名前ですね)。

SPCカッパがTOBによりカッパの32.2%(下限)~43.5%(上限)を取得し、その上で出資比率が50.5%になるところまでカッパの第三者割当増資を引き受けます。

32.2%を保有する既存筆頭株主の神明ホールディングが応募の意思を表明しているので、基本的に下限を下回ることはありません。

仮に少数株主が一切TOBに応募しなくても、32.2%のTOBと増資で必ず50.5%を取得できるという、支配獲得保証型TOBということになります。そういえばセブン&アイのニッセン買収もこんな感じでしたが、何となく少数株主保護の観点で問題がないのか、気になります。

TOB価格は1,048円(増資価格も同様)です。

TOBが上限応募の場合、TOB17.8百万株と増資5.8百万株で総額248億円、下限応募の場合はTOB13.2百万株と増資15.2百万株で総額297億円になります。

SPCカッパの資金調達は100%親会社コロワイドからの出資200億円と融資105億円、コロワイド自身はみずほ銀行から300億円の融資証明を得ているとのこと。

当面は50.5%で上場維持ということで、そもそもSPCカッパの設立の必要性がよくわかりませんが、買収に係る開示の簡素化、とかなんでしょうか。ちなみにコロワイドは連結納税を採用しており、SPCカッパは連結納税子法人になると思います。


2.買収価格はディスカウント?

上述の通りTOB価格は1,048円です。

カッパの案件公表前日10/26の終値1,107円に対して5.3%のディスカウント価格です。

コロワイドによれば日経等のリーク記事が出た10月2日以前の価格を参考にし、またボリュームディスカウントを考慮した価格とのこと。しかも第三者機関からの株価算定書は入手していないようです。

バリュエーションレポートなしとは珍しいですね。

リーク記事への怒りも感じられますが、リーク前日の10月1日の終値は1,064円(10月2日は1,141円)。その前1カ月平均でも1,060円。いずれにせよディスカウントじゃん、という感じではあります。

そんなディスカウント価格で大株主間の実質相対取引&第三者割当増資(有利発行には至らないにしても)で、支配権を異動させて問題ないのか、というのがますます気になります。

ところで、カッパの財務諸表を見てみると、2014/8末の連結純資産が152億円。これに対し1,048円ベースの時価総額が430億円でPBR2.8倍。

さらにnet Debtは164億円(内、短期債務が88億円)で企業価値ベースだと594億円になります。

一方、PLを見ると前期は営業赤字18億円に減損損失36億円等が乗って純損失71億円。今期予想では営業利益は8億円の黒字になるものの、第2四半期時点で減損18億円が計上されていて純利益は12億円の赤字予想。

減価償却費をざっくり35億円としてもEBITDAは43億円。EV/EBITDAでも13.7倍になります。

こう見ると、1,048円の評価でも十分過ぎる感じです。

むしろ元々の株価が高過ぎなんですね。買収等の思惑もあってのことかも知れません。もしそうだとすると、そんな株価に対してプレミアムを払う必要なんてありませんし、今回の買収価格も特に問題ではないように思います。

ちなみに本日10月27日の株価は、リーク報道のおかげで1,146円まで高騰し、午前10時の適時開示によって急落、結局前日割れの1,026円となりました。ディスカウント価格での希薄化&買収期待が遠のいた、というところでしょうか。

・・・

ということで、今回はここまでです。


10月14日の東洋経済のローソン玉塚社長インタビュー記事(※リンク未貼付)によると、成城石井の買収価額の内、80億円は繰越欠損金の価値だそうです。

本件は色々と会計・税務的なところで謎が多いということで以前ブログ記事(※リンク未貼付)に纏めていたのですが、この記事によってかなり謎が解けましたので、ちょっと纏めておきます。

・・・

東洋経済の記事では『繰越欠損金による節税効果を見込めば、実質的な買収額は470億円』ということで、買収価額550億円との差額で、繰越欠損金の価値は80億円ということになります。

しかし、同記事にもある通り成城石井の業績はずっと堅調に推移しており(過去5年の経常利益は20~30億円で安定)、本業で欠損金が発生しているとは思えません。

ここから、おそらくこの繰越欠損金の発生源は、丸の内キャピタルが2011年5月に成城石井を事業譲渡によって買収した際の資産調整勘定(税務上の暖簾)だと推測できます。

・・・

丸の内キャピタルの買収価額は420億円でしたが、純資産がわからないので暖簾の金額も不明でしたが、かなりざっくりですが、ずばり330億円程度だったのではないかと推測します。

そのからくりを追っていきます。

・・・

税務上の暖簾は5年で償却されますので、現時点でも一部未償却の残高が残っているはずですが、おそらく繰越欠損金の価値80億円というのは、今後の償却費も含めたものでしょう。

80億円ということは、実効税率36%で割り戻すと欠損金ベースで222億円です。

一方、税務上の暖簾を330億円として、2013/12期までに3年分償却すると償却額は累計198億円(66億円×3年)ですが、この内、どれくらいが繰越欠損金になっているかを試算してみます。

会計上、経常利益は毎期22億円程度ですが、これには会計上の暖簾償却が含まれています。循環計算ですが、税務暖簾330億円に対する税資産を、この経常利益に会計上の償却費13億円を足し戻した所得35億円の5年分の回収可能額として64億円(35億円×税率36%×5年)を計上したとすると、会計上の暖簾は税資産控除後で266億円になります。(で、この266億円を20年償却すると年間13億円の償却費)

尚、特殊要因による巨額の将来減算一時差異(税務暖簾)があるということで監査区分4但し書きと仮定し、税資産は5年分としています。

また、成城石井の減価償却費は、2011/12期17億円に対して2012/12期以降の2期はともに23億円で、6億円増加します。2011/12期の暖簾の償却は買収後の7ヵ月分なので、ちょうど6億円くらい差が生じるのもぴったりです。(設備投資の具合は不明ですが)

で、話がそれましたが、経常利益22億円に会計上の償却費13億円を加え、税務上の暖簾償却66億円を差し引くと、税務上は30億円の欠損となります。

これが3期続いていますので、繰越欠損金の残高は2013/12末で90億円です。これに、税務暖簾の未償却残高132億円を加えると、ちょうど222億円になります。

そして、222億円に税率36%を乗じると、節税効果で80億円になるわけですね。

・・・

さらに、成城石井は2005/12期は売上高355億円、総資産163億円だったのが、買収後の2011/12期は売上高490億円に対して総資産は538億円に大幅に増加しています。

仮に総資産回転率を一定とすると、売上高は38%伸びているので、総資産も38%増加して225億円です。総資産の実績との差額は313億円。ちょうど事業譲渡に係る会計上の暖簾と税資産の金額の増加とピッタリくらいじゃないですか。

・・・

しかし、成城石井の所得レベルが35億円(今期はかなり増益のようですが)として、来年度の税制改正では繰越欠損金の消化額の制限が強化されるという話もありますが、222億円の欠損金が消化し切れるか、なかなか微妙な気もしますね。

ということで、今回はここまでです。

前回のブログ記事の疑問点の多くが解決しました。かなり強引にこじつけたところもありますが、おそらく当たらずとも遠からずじゃないかなと思います。

ローソンが四半期報告等で本件の会計処理を開示したら、ある程度は検証できるかも知れませんね。

IBM事件に係る法人税の会計上の取扱いについて、米IBMの10-K等を確認してみましたので、一応纏めておきます。

事案の概要は省略しますが(本ブログの過去エントリーでも整理してます)、自己株取得によるみなし配当/譲渡損失を認識したのは2002年から2005年にかけてです。

その後、連結納税の採用により日本IBMの所得と通算し始めたのが2008/12期ですので、その直前の2007/12期からみてみます。

■2007/12期

(10-Kより)
The company has certain foreign tax loss carryforwards that have not been reflected in the gross deferred tax asset balance. These losses, the potential tax benefit of which is approximately $1.1 billion, have not been recorded in the Consolidated Statement of Financial Position as the company has not determined if it will claim these losses. The company is currently evaluating whether to claim these losses and expects to make a decision within the next 12 months.

海外の繰越欠損金で潜在的に11億ドルのタックスベネフィットがあるが、gross deferred tax assetとして認識していないようです。

将来の所得見込に基づいて税資産の回収可能性が低い場合は、Grossで税資産を計上した上で評価性引当を認識し、netでは税資産を計上しないようにしますが、Grossとして認識しないということは、そもそものタックスベネフィットの存在が明確ではないということです。

要するに、税務リスクが高いと認識してるということです。

そして、この欠損金を控除しにいくかどうか、12ヶ月以内に決定すると言っています。

尚、繰越欠損金は約4000億円ですが、これを2007/12末の為替レート111.5円で換算して法人税率30%を乗じると11億ドル程度になります。

■2008/12期

(10-Kより)
The company has certain foreign tax loss carryforwards that have not been reflected in the gross deferred tax asset balance. These losses, the potential tax benefit of which is approximately $1.3 billion, have not been recorded in the Consolidated Statement of financial Position as the company has not determined if it will claim these losses. The company is currently evaluating whether to claim these losses and expects to make a decision within the next six months.

2008/12期になっても状況は変わっていません。

結果的には2008/12期の税務申告(正確には更正の請求)で欠損金を控除しますが、期末時点ではまだ方針が固まっていなかったようです。今後、6ヶ月以内に決定すると言っていますね。

尚、金額が13億ドルに増えているのは、為替が90.6円と円高に振れた影響です。

■2009/12期

(10-Kより)
The company has certain foreign tax loss carryforwards that have not been reflected in the gross deferred tax asset balance due to the level of uncertainty associated with the sustainability of the losses which are under examination by the local taxing authority. The tax benefit of these losses approximated $930 million at December 31, 2009. In addition, during the second quarter of 2009, foreign tax losses were utilized against a prior year tax liability resulting in a cash benefit of approximately $360 million. However, the company has recorded an unrecognized tax benefit for the entire amount received given the degree of uncertainty in sustaining the associated tax benefit. The company expects that the local taxing authority will complete its field examination in early 2010.

日本IBMは2008年4月の連結確定申告では欠損金の控除を行わずに法人税を納付した上で、2008年5月に更正の請求を行い、法人税の還付を受けています。色々と税務リスクを考慮した上でのことなんでしょうか。

その結果、会計上はGrossで税資産を計上していない欠損金の税メリットが9.3億ドルとなり、更正の請求によって還付を受けた法人税3.6億ドルについてはUnrecognized tax benefitとして処理しています(つまり3.6億ドルは負債計上)。

これに係る税務調査は2010年に終結するだろうとされています。

■2010/12期

(10-Kより)
In April 2010, the company appealed the determination of a non-U.S. local taxing authority with respect to certain foreign tax losses. The tax benefit of these losses, approximately $1,475 million, has been included in unrecognized tax benefits within 2010 additions for tax positions of prior years. This amount includes the portion of these losses that had been utilized against a prior year liability. As this amount was disallowed and a tax payment made in the first quarter of 2010 it has also been included as part of the settlements amount for 2010. No final determination has been reached on this matter.

日本IBMは2010年2月に更正を受け(税務調査により欠損金が否認)、2010年4月にこれに対する審査請求を行っています。これが上記のappealでしょう。

正式に審査請求を行ったということを受けてか、14.7億ドル全額がUnrecognized tax benefitとして開示されています。

尚、この時の為替レートは81.2円でした(欠損金額としてちょうど4000億円くらいになります)。

■2011/12期~2013/12期

その後2013/12期に至るまで、2011年4月に審査請求が棄却され、2011年6月に提訴していますが、会計的な開示状況は変わっていません。

但し、Unrecognized tax benefitの金額については毎期の為替変動の影響を受け、2011/12期15.6億ドルに増えたものの、2012/12期には13.9億ドル、2013/12期には11.4億ドルまで減少しています。

■2014/6期

(10-Qより)
In April 2010, the company appealed the determination of the Japan Tax Authorities with respect to certain foreign tax losses. The tax benefit of these losses, approximately $1,183 million, has been included in unrecognized tax benefits. In April 2011, the company received notification that the appeal had been denied, and in June 2011, the company filed a lawsuit challenging this decision. In May 2014, the Tokyo District Court ruled in favor of the company. The Japanese government has appealed this ruling to the Tokyo High Court. No final determination has been reached on this matter.

そして2014年5月に東京地裁判決が出てIBMが勝訴したわけですが、国側が高裁に控訴しているということで、引き続きUnrecognized tax benefitという位置付けを変えていないようです(まだPL認識されず)。金額は11.8億ドルになっていますね。

今回はこんなところです。

ローソンが高級スーパーの成城石井を買収するそうですね。

開示資料から色々と興味深い謎が浮かんできましたので、少々思いを馳せてみました。


1.ローソン買収のValuation

これは本題ではないのですが、一応。

成城石井の連結業績については、2011/12期から2013/12期までの3事業年度分と、2014/8時点でのLTM(直近12ヶ月)が開示されています。

営業利益を見ると、過去3期が29億円⇒31億円⇒33億円⇒LTMで49億円、EBITDAでは46億円⇒54億円⇒57億円⇒LTMで73億円と、今期は業績が伸びているようです。

買収価額は株式買収で363億円。有利子負債を含めたEVは非開示ですが、報道では550億円程度とのこと。

LTMでのEV/EBITDAで7.6倍ということになります。まあまあ、妥当な水準ですかね。

100%株式買収のようですが、ローソンは連結納税を採用してませんし、あまり論点はなさそうです。


2.成城石井の実効税率と資産調整勘定(税務暖簾)

で、ここからが本題で、会計/税務的に気になるところを何点か(答えには辿り着いてません)。

2013/12期は、経常利益23億円に対して純利益21億円、LTMでは経常利益45億円に対して純利益も45億円になっています。

つまり、どうもPL上の実効税率が低く、法人税がほとんど発生していないように見受けられるのです(特別損益の状況が不明なので、これと入り繰りがあるかも知れませんが)。

何ででしょうかね。

更には、もともと今回株式売却する丸の内キャピタルは、2011年5月に成城石井を買収していましたが、この時のストラクチャーは事業譲受です。

事業譲渡価額は報道では420億円程度だったようですが、事業譲渡なので、税務上は5年で償却可能な暖簾(資産調整勘定)が認識されているのではないかと思うのです。

暖簾の規模感は色々ググっても掴めていないのですが、この辺りの税効果が関係してたりするのかなぁ、とか。

資産調整勘定に対する税資産を計上していればむしろ実効税率は会計上の暖簾償却分だけ悪化するはずなので、税資産の評価性引当の取崩しなんかが起きてるのかも知れません。

ちなみに、当然この時に暖簾が発生していれば、会計上も20年以内で償却するはずです。成城石井は営業利益率が高いと言われているわけですが、暖簾の償却費は販管費に入っているにも拘わらず高い、ということなんでしょうか。

それとも丸の内キャピタルの買収時にはほとんど暖簾は発生していない?

でも、昔のレックスの開示資料を見たところ、2005/12期の成城石井は売上高355億円に対して総資産163億円でした。

これが、2011/12期は売上高490億円に対して総資産538億円と、総資産の規模が相対的に増えています。

これってやっぱり丸の内キャピタルの買収による暖簾が資産計上されたからなのかなぁ、と思ったりもします。

でもそれにしては、償却費(EBITDAと営業利益の差額)は23億円程度しかなく、暖簾を償却しているにしては金額が小さいなとも思ったり。

わかりませんねぇ。


3.成城石井の減資と丸の内キャピタルの投資回収

次に目を引くのは、純資産の動きです。

連結純資産は丸の内キャピタルによる買収後の2011/12末で227億円でしたが、翌2012/12末には171億円で56億円減少しています。その期は当期純利益11億円、配当はゼロです。

もちろん純利益を介さない資本直入項目もあるでしょうけど、それにしても差引▲67億円の減少は不自然です(尚、その後は不自然な動きはありません)。

考えられるのは、資本金を取り崩した上で、資本剰余金の配当として60億円程度の株主分配を行ったということです。(ググってみると、2011年5月に成城石井が60億円資本金を減少するという公告がありましたが、情報の信頼性は不明)

ちなみに発行済株式数は変動していないようなので、自己株取得ではないと思われます。

更に2013/12には通常の配当を6億円実施していますね。

元々の丸の内キャピタルの出資額もわからないのですが、現在の成城石井の資本金は52.5億円で、これが60億円の減資後であるとすると、買収時の受皿会社の資本金は112.5億円になります。そして、普通なら払込資本の半分は資本準備金にするでしょうから、丸の内キャピタルとしての払込額は225億円と予想します。

なので、買収価額420億円との差額195億円はLBOローンにて調達したのかなと。

で、今回の株式譲渡価額は363億円ですね。

この予想ベースで行くと、丸の内キャピタルは当初出資額225億円で、その後、資本剰余金の配当60億円、通常配当6億円、株式売却363億円と投資回収した計算で、税負担を無視するとIRR23%くらいでしょうか。

まあ、全然あてになりませんが。

ちなみに今回のローソンの買収価額のEV550億円からすると、成城石井の有利子負債は187億円ということになります。LBO時点のローンが195億円で、資本剰余金の配当60億円で更に増加した一方、成城石井のFCFから返済を進めているとして、水準感的に違和感はありません。

・・・

ということで今回はここまでです。

成城石井は非上場なので、情報も少なく、とりあえず謎なまま終了という感じになってしまいました。

ちゃんと決算公告とか入手したら解明できるのかもですが。

スターバックスコーヒージャパン(スタバ)が米国Starbucks Corporationによって完全子会社化されるようです。

かなり面白い広義の強制TOBということで、纏めておきます。

・・・

まず案件の概要から。

①現在、スタバはジャスダック上場で、米国Starbucksの在スペイン子会社であるSCI ventures SLと日本のサザビーリーグが約40%ずつ株式を保有しています。

②今回、SCIが日本に成立した合同会社Solar Japan Holdingsが買収ビークルとしてTOBを行います。

③第1回TOBは公表前日終値1399円を大きく下回る965円で、実質的にサザビーだけが応募するディスカウントTOBです。

④その後、第2回TOBを1465円で実施し、一般株主から株式を取得します。第1回と合わせ、総額は約1000億円です(尚、SCIはTOBには応募しません)。

⑤最後に、全株取得条項付種類株式を活用して少数株主をスクイーズアウトし、その後、スタバを存続会社とする吸収合併によりスタバはSCIの100%子会社になります。

さて、本件は興味深い話題が満載なのですが、順番に見ていきましょう。


1. 二段階TOBの広義の強制性

今回、サザビーが米StarbucksによるTOBを受け入れる背景は、スタバの米国の親会社等との「ライセンス契約」にあるようです。スタバの商標の使用や日本での独占運営権が付与されているわけですが、契約期間は2021年で、自動更新の取り決めはありません。

米Starbucksは、スタバが完全子会社にならない限り契約は延長しないとのこと。さらに、その場合は契約に基づいてスタバの店舗資産を「公正な時価」で米Starbucksが買い取る権利があるそうです。

「公正な時価」の算定方法はおそらく契約に記載があると思いますが、開示されていません。ただ、このオプションが行使された場合、スタバで生じる譲渡益課税等により、最終的に株主が受け取る対価はTOBの場合より小さくなるそうです。

なので、サザビーとしては、今回のTOB提案を受け入れざるを得ない、つまり、半ば強制的なTOBということのようです。

しかも、サザビーは市場株価よりかなり低い965円/株でのTOBに応募します。一応、店舗買取オプションが行使された場合のDCF評価(852円~1086円)に近い水準ではありますし、ボリュームディスカウント的な要素もあるのでしょうけど、一般株主より低い金額で了承した理由はよくわかりません。


2. サザビーの税務リスク

となると気になるのは、サザビーがスタバ株を低廉譲渡したということで、寄付金認定を受ける税務リスクはないの?というところです。

開示資料でも、(二段階)TOBを選択した理由として、事業継続&店舗資産売却の場合、スタバの全株主の取り扱いが同一になってしまうということが挙げられています。そして、サザビーとしてはその方が取り分が多くなると。

これってまさに、低廉譲渡ですよね?(米Starbucksに対して、というよりは、一般株主に対する経済利益の移転)

米Starbucksが全株主からTOBで株式を取得する意向がある以上、本来はボリュームディスカウントを受ける必要もないはずです。

いやいや、同一価格のTOBにすると市場価格を割ってしまい、事実上TOBが成立しなくて株の売却ができないとか、店舗資産買い取りのシナリオを選択するのはレピュテーション上問題があるとか、そんな感じの説明なんでしょうか。

どちらかというレピュテーションは強圧的な手段を採った米Starbucksの問題な気もしますけどね。ここはちょっと気になるところです。


3. 有価証券報告書の記載について

さて、このライセンス契約については、従来、有価証券報告書でも事業等のリスクや重要な契約として記載があります。契約期限は2021年で自動更新の規定はないと。

ただ、契約満了の場合の店舗資産買い取りオプションや競業避止義務については、何ら記載されていません。

結果的に、これらの重要な条項はスタバの株式価値に重大な影響を与えることになったわけですし、有報での開示が十分だったのか?という疑問があります。

一般株主にはそれでも市場株価を一応上回る価格でのTOBになりますし、訴訟は起きないのかもしれませんが、市場価格を割れるようだと、問題になった可能性が高いと思います。

二段階TOBになった背景にはこの辺の事情もあるのかもですね。


4. TOB資金調達と合併の税務

さて、話題は変わりますが、買収ビークルのSolar社の資金需要は、サザビー分で550億円(57百万株×965円)、一般株主分で443億円(30百万株×1465円)の合計993億円です。

第1回TOBの公開買付届出書によれば、買収資金は米国親会社からの融資で賄うようです。

その後、Solar社はスタバに吸収合併され、当該借入金はスタバにプッシュダウンされます。金利等の条件は別途協議ということで開示されていませんが、要は日本から米国に利息を支払う形になります。わざわざ米国で金利を受け取るところが、ちょっと不思議な気もしますが。

仮にLBOローンということで金利3%にしても年間30億円。スタバのEBITDA157億円(14/3期)を思えば余裕の水準でしょうかね。

ちなみにこの合併は、スペイン持株会社SCIによる完全支配関係のある兄弟会社の合併になり(Solarは100%子会社、スタバはSCI40%とSolar60%の共同出資)、税務上は適格合併かと思います。

Solarは合同会社なので、米国でのチェックザボックスと絡めて何か裏があるのかな?とも思いましたが、吸収合併で消滅するということですし、おそらくは資本金にかかる登録免許税のセーブのために合同会社を選択した、くらいの話でしょうかね。


5. 財務モデリングの再現とバリュエーションの妥当性

開示資料では、スタバの2021年までの事業計画について、売上高、営業利益、EBITDA、FCFが記載されています。また、FAが行ったDCF評価では、2021年に店舗資産を売却する前提になっており、その際の売却価額は1310億円~1746億円とのこと。

スタバは無借金で比較的単純なFSなので、上記データと2014/3期実績を元に、事業計画の財務モデリングを再現してみました。(単位:億円)



これを踏まえた再現事業計画です(FY2013は実績)。







一応前提として、営業外/特別損益はなし、法人税はPL=CF(税率36%)、保証金は差入/回収が毎期同額、清算時に運転資本や補償金は簿価ベースでCash化、としました。

尚、店舗資産売却は1310億円で、期末の固定資産簿価335億円との差額利益には法人税負担があり、また1746億円のケースではその分税金も増える計算になります。

これを元にDCFにてEquity Valueと株価単価を計算した結果がこちらです(割引率は開示資料に従い4.8%~5.8%)。




株価ベースで884円~1065円です。開示資料上は852円~1086円でしたので、ほぼ合いますね。

そして、ターミナルバリューの計算を、店舗資産売却ではなく、永続成長ベース(成長率0%)で計算してみると、株価のレンジは1304円~1572円、平均1438円になります。

こう見ると、第2回TOBの価格1465円は十分すぎる水準であり、市場株価1399円に対するプレミアムが小さいといった批判は当たらないように思います。


6. 米国Starbucksの会計処理

最後に米Starbucksの会計処理です。

スタバはこれまで持分法投資でしたので、今回の子会社化に伴って公正価値評価され、差額はPLで認識されます。

では、公正価値はどの株価でしょう?

おそらく支配権を獲得するのは第1回TOBの完了時点でしょうけど、TOB価格の965円は実質的にサザビーとの相対価格であり、市場株価は一般株主向けTOBの1465円に収斂しているはずです。

とすると、公正価値はあくまで1465円というのが妥当なんでしょうか。

買収価格の加重平均をとると1138円とかですが、取り敢えずは1465円説を採用したいと思います(こちらは米Starbucksの財務諸表にそのうち答えが出てきますので)。

ちなみに、米Starbucksのスタバ株式簿価は2013/9期の連結決算上、182百万ドルです。ここに2014/9期までの純利益と配当の持分を加減算すると189百万ドルくらいですかね。

一方、1465円ベースの時価は766百万ドルです(為替109円ベース)。とすると時価評価益は577百万ドル(約630億円)。

でかいっすねー。

ちなみに米Starbucksの連結純利益は、2012/9期で1,385百万ドル、2013/9期はKraft社との訴訟による損失▲1,713百万ドルを除いて1,722百万ドルです。

なので、577百万ドルの利益はかなりのインパクトになります。

一応、加重平均価格1138円説を採用した場合、時価評価益は406百万ドルと計算されます。理屈としては、米Starbucksは買収総額にて意思決定をしたのであり、市場株価はその一部が歪んで反映されたもので、公正価値とは言えない、みたいな感じでしょうか?

・・・

ちなみに、2014/9末のスタバの(簿価)純資産448百万ドル程度に対し、米Starbucksの取得価額は総額1667百万ドル(既存持分の公正価値766百万ドル+TOBによる取得911百万ドル)。

なので、いわゆる投資差額は1229百万ドル。この中から無形資産を認識し、差額は非償却暖簾になるイメージです。

認識される無形資産としては、米国親会社等とのライセンス契約に基づく権利が考えられます。これはいわゆる再取得した権利(Reacquired right)です(つまり、米Starbucksが他社に付与した権利を、買収により再取得したという意味)。

この再取得した権利は、公正価値ではなく、(契約の延長を考慮しない)契約の残存期間に係る価値で測定され、残存期間に亘って償却されます。また、親会社側で、もしこの契約条件が現在の一般的な条件よりも有利或いは不利な内容である場合、親会社側で損益の認識が求められるようです。

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また、おそらく第1回TOBと第2回TOB(及びスクイーズアウト)による取得は単一の取引として会計処理するのではないかと思いますが、議論としては、第1回TOB時点で支配獲得/子会社化が行われ、第2回TOBは子会社持分の追加取得ということもあり得るかも知れません(その場合、第2回TOBで取得する持分は、子会社化時点では非支配持分として認識)。

但し、USGAAPでは、非支配持分の当初認識額は公正価値(暖簾を含む)で測定することが要求されますので(IFRSと異なり、暖簾を含まない時価純資産ベースとの選択適用は認められていない)、単一の取引ではないと整理したとしても、いずれにせよ第2回TOBで取得する非支配持分の公正価値=株価はほぼ1465円ベースのはずですので、結局、米Starbucksが認識する暖簾の金額は変わらないものと思います(仮にIFRSで認められているように非支配持分が時価純資産ベースで認識されれば、追加取得に係る暖簾は認識されず、資本剰余金から直接控除されることとなる)。

この辺りの会計処理は、いずれにせよ米Starbucksの今後の開示資料を待ちたいと思います。

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ということで、今回はこんなところです。

ライセンス契約に基づく強制的な買収劇、米国Starbucksさすが、ということなんでしょうかね。。


(9/29会計処理関係を中心に一部追記しました)