米ベインによる雪国まいたけ買収 ~ 会計・税務上の取り扱いとValuation | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


米国投資ファンドのベインが雪国まいたけをTOBにより買収するようです。

粉飾決算からの創業経営者の辞任。そして今回のTOBでは取引銀行が創業家に対する融資に係る担保権の実行によって雪国まいたけ株式を取得した上でTOBに応募するという、話題満載の買収劇です。

その辺の話題は、日経等の記事でもよく纏められていますし、偶然見つけたこの新潟大学齋藤達弘教授の88ページもの論考にも詳しく纏めてあります(これ、一読の価値ありです)。
http://www.econ.niigata-u.ac.jp/~tsaito/WP_No163.pdf
(※リンク未貼付)

ということで、今回はそういった話題はさておき、会計・税務を中心に整理しておきます。

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1.買収スキーム

一応おさらいです。

今回、雪国まいたけに対してTOBを行うのは㈱BCJ-22です。その100%親会社が㈱BCJ-21で、更にその株主は海外のベイン系のファンドになります。

TOB単価は245円(買収公表前の2/20時点株価207円に対して18.4%のプレミアム)で取得対象は全株式&新株予約権。発行済み株式総数は自己株を除いて35.6百万株、買収価額は87億円です。

第四銀行を中心とする銀行団が担保の実行によって18.1百万株(51%)の株式を創業家から取得し、元々の保有株と併せ18.5百万株をTOBに応募して売却します(応募契約あり)。TOB成立の下限が18.5百万株になっていますので、いずれにせよこれを下回ることはありません。

また、1.8百万株を保有する5%株主の大和ハウスも応募契約を締結しており、合計20.2百万株の応募は確定しています。

TOB後、全株取得条項付種類株式を活用してスクイーズアウトした上で、100%親子となったBCJ-22と雪国まいたけは合併する予定です。(雪国まいたけは上場廃止)

尚、BCJ-22の買収資金は、全額、BCJ-21からの出資金で調達されます。つまり、いわゆるLBOではない案件です。おそらく、既に雪国まいたけは多額の有利子負債を抱えており、更にレバレッジを高めることは難しかったのでしょうかね。


2.ValuationとDCF

その有利子負債の水準ですが、2014/3末でグロス285億円、ネット275億円、2014/12末でグロス278億円、ネット249億円という感じです。

TOB価格ベースでの株式価値が87億円ですので、2014/12末のnet debtを足すと企業価値で336億円になります。

EBITDAは2014/3期39億円(営業利益20億、減価償却19億)、2015/3期の会社予想で41億円(営業利益22億、減価償却費は前年程度と仮定)。ざっと40億円とするとマルチプル8.4倍くらいになります。

このマルチプル自体はさほど高い感じはしません。

もちろん財務リスクがかなり高い状況なわけで(2014/3末の短期借入は196億円。2013/3期には財務コベナンツにも抵触していた模様)、それを踏まえれば十分な水準かも知れません。

DCF評価におけるプロジェクション(2015/3~2019/3期)はこんな感じです(表/グラフじゃなくてすいません)。

 営業利益:24億⇒25億⇒25億⇒25億⇒24億
 FCF   :31億⇒29億⇒29億⇒30億⇒23億
 割引率 :5.3%~5.9%

ほとんど利益成長は織り込んでいません。

また、資金繰りの厳しさからか設備投資は抑え気味かと思われます。(実績では、2014/3期は減価償却19億に対して投資CFは▲3億のみ、2015/3期もQ3累計で▲3億のみ)

更に、現在繰越欠損金が残っており(後述の通り、54億円程度と思料)、これが期限切れとなるのが2019/3末とのこと。

この前提でFCF年間30億円程度ということですので、非常にざっくり言うと、営業利益25億円、法人税▲3億円(支払利息と欠損金の損金算入制限を踏まえ)、減価償却費18億円、設備投資▲10億円くらいのイメージでしょうかね。

ちなみにこのプロジェクションでDCF計算をして企業価値336億円から逆算すると、永続価値の前提となる最終年度FCFは15億円くらいになります。

これは、営業利益25億円、法人税▲10億円(繰越欠損金消滅後)、減価償却費と設備投資は同額とすると15億円なので、そういう感じと思われます。

全く成長を織り込まないDCFというのも、ちょっとアレですかねぇ。


3.会計インパクト

株式買収価額87億円に対し、2014/12末の株主資本は29億円。投資差額(暖簾)は58億円になります。

BCJ-22と雪国まいたけは合併しますので、どちらが存続会社になるかわかりませんが、BCJ-22が存続の場合はこの暖簾が会社のBSに計上されることになります。一方、雪国まいたけが存続の場合はこの暖簾は単体BSには計上されず、連結決算上のみ認識する形になると思われます。

いわゆるLBOではありませんので、合併に際してdebt push downが起きたり、自己株となって資本が毀損する、といったことにはなりませんね。

2014/3末の税効果の注記を見ると、繰越欠損金に係る税資産20億円で実効税率37.6%なので、繰越欠損金の残高は54億円程度と思われます。(厳密には、同社は連結納税を採用しており、法人税と地方税でズレてそうですが、あまり重要性はないかと)

評価性引当は▲6億円程度なので、けっこうしっかり税資産を計上しています。

上記のDCFの前提で、営業利益25億円、支払利息▲6億円(有利子負債250億円×利率2.3%程度)として課税所得19億円です。

今回の税制改正も踏まえると、今期は所得の80%まで、来期以降65%~50%という使用制限が生じますので、その前提で2019/3期までに欠損金を控除できる金額を計算すると59億円になります。

丁度、繰越欠損金全額をギリギリ消化できるか、というくらいですね。


4.税務上の取扱い

さて、最後に税務の取扱いです。

まず雪国まいたけがBCJ-22の100%子会社になった時点で、同社の連結納税グループは解消されます。(合併後に再度連結納税を採用するのかは不明)

そして、合併については100%親子関係となってからの合併ですので、基本的に適格合併になるものと思われます。

但し、グループ内適格合併ですので、繰越欠損金の引継ぎに制限が生じる可能性があります。引継ぎが認められないと、DCFのプロジェクションが大きく変わってしまいます。

この点、支配関係発生後5年経過の要件は勿論満たせませんし、BCJ-22は事業のないSPCですので、いわゆるみなし共同事業要件も満たせません。

すると、可能性があるのは時価純資産超過額の特例の適用です。

これは、例えば雪国まいたけの時価純資産が、簿価純資産+繰越欠損金の金額を上回っている場合、合併せずとも自社の含み益によって繰越欠損金の消化が可能だったはずということで、欠損金の引継ぎ制限が掛からなくなる特例です。

この時価純資産特例については、いわゆる営業権の含み益も含めることができると言われています。

今回のケースでは、買収価額=時価87億円、簿価純資産29億円、暖簾58億円ですので、暖簾(営業権)が繰越欠損金54億円を上回っているということで、この特例を使えるということなのでしょうかね。

元々ハイレバレッジな会社ということで、合併によってdebt push downを行うLBOでもなく、繰越欠損金の引継ぎを危うくしてまで合併を行う理由がちょっとよくわかりませんが、まあ、欠損金は問題なしという結論なのでしょうね。


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ということで、今回は以上です。