伊藤忠・アサヒの中国食品事業(頂新)再編 ~ 会計・税務上の取扱いと再評価益のカラクリ分析 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


伊藤忠商事(伊藤忠)が中国・台湾食品事業会社の頂新(在ケイマン持株会社)を持分法投資から非連結出資に切り替え、600億円の再評価益を認識するそうです。

また同時に出資パートナーのアサヒも評価益140億円を認識します。

この再評価益の金額はちょっと疑問なところもあり、現時点で調べたところを纏めておきます。答え合わせは決算発表又は有報に期待します。

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1.現在の出資スキーム(2010年再編)

伊藤忠は2008年に頂新の株式20%を取得していました。取得価額は有報の注記からおそらく679億円です。

その後、2010年11月頃にアサヒビール(アサヒ)との再編を行います。

具体的には、国内に共同持株会社シーエフアイ(CFI)を設立し、伊藤忠は頂新株式20%を拠出(或いは現金拠出と株式譲渡)、アサヒは435億円を拠出しました。

そしてCFIが頂新の第三者割当増資435億円を引受け、出資比率を25.2%に引き上げました。

更に、アサヒが保有していた康師傅飲品社の株式の一部を435億円で頂新に売却し、アサヒの拠出した資金がぐるっと回って帰ってきた形になります。

尚、CFIへの出資比率は伊藤忠74.1%、アサヒ25.9%で、頂新に対する間接持分は伊藤忠18.7%、アサヒ6.5%です。

つまり、アサヒの拠出した435億円が頂新の6.5%相当の価値なので、伊藤忠保有の頂新株の時価は1,243億円だったことになります。

これを合計すると1,678億円です。

一方、今回の開示によればCFIの資本金は839億円だったようで、おそらく払込資本の半分は準備金に組み入れていたでしょうから、これを倍にするとピッタリ1,678億円になり、うまく整合しました。


2.2010年再編時の伊藤忠の会計・税務上の取扱い

上記の再編は、税務上、伊藤忠は株式譲渡益を認識していると思われます。

現金で出資した上で株式譲渡を行っていた場合は勿論ですが、仮に現物出資だったとしても適格要件は満たせず、いずれにせよ課税ディールになります。

時価1,243億円に対して出資額679億円だとすると、売却益564億円、税額で231億円(税率41%)です。これはけっこうなインパクトですね。

一方、連結会計上はどうでしょう。

有報によれば、みなし売却益が税効果後で19億円だったようです。

当時は米国会計基準を採用していましたので、持分法投資の一時差異には通常の41%の税率で税資産を計上していたと思われ、上記の課税インパクトがそのままPLヒットしているわけではないと思います。

税効果後で19億円ということは、税前にすると32億円です。

みなし売却というのは、頂新への出資比率が20%から18.7%に1.3%低下したこと意味するわけですが、その希薄化の対価として、アサヒの出資485億円×18.7%=81億円を得た計算になります。

81億円を得て32億円の利益ですから、1.3%相当の売却原価は49億円になります。

ここから逆算すると、伊藤忠の保有していた20%の持分法投資の簿価は747億円だったことがわかります(出資額679億円に持分法利益が積み上がっていたとして、違和感のない水準です)。

纏めるとこんな感じです。

 ①みなし売却対価:81億円(485億×18.7%)
 ②みなし売却益 :32億円(19億円の税前換算)
 ③みなし売却原価:49億円(①-②)
 ④再編前連結簿価:747億円(③÷1.3%×20%)

そして再編後の簿価は779億円(みなし売却益32億円を加算)になります。


3.今回の再編スキームと各社の会計・税務インパクト

今回の再編は、伊藤忠が保有する全CFI株式にCFIに1,619億円で自己株取得させ、同時に(前後関係は不明ですが)、CFIから頂新株式18.7%(ここはやや正確ではないかも知れません)を取得します。

つまり、頂新への出資を間接から直接に切り替えるわけです。

それにより出資比率が20%未満となり、持分法を停止して非連結出資になるわけです。

一方、アサヒは持分法投資だったCFIが100%子会社になるということで、段階取得による時価評価益を認識するというわけです。

但し、伊藤忠がCFIから頂新株を取得する対価の金額は開示されていません。1,619億円と同額なのかも知れませんが、CFIにおける譲渡益課税を勘案すれば、CFIの時価と頂新の時価は一致しないわけで、1,619億円よりも高い金額になっているのでは?という気もします。

ここは適当に仮定を置く前提で、各当事者の会計・税務インパクトを見てみます。


(1)伊藤忠

まず伊藤忠ですが、実は、開示されている評価益600億円というのがちょっとしっくり来ません。

開示資料にてCFIの直近3期の業績が公表されているのですが、2012/3期から2014/3期の純利益が各々32億、38億、53億円です。

一方、伊藤忠の取込損益は24億、27億、43億です。また2015/3期Q3は33億円。ここから配当受領分を差し引くと累計で100億円程度と思われます。(ちなみに2012/3末から2014/3末のCFIの連結純資産は1,732億円から1,969億円に増加しており、純利益/配当の動きと一致しませんが、おそらくは為替換算調整勘定(TA)の影響ではないかと思われ、TA部分は持分法適用停止時にPLにリサイクルされますので、持分法投資簿価の変動には含めていません)

すると、再編時の持分法簿価779億円にこの100億円を乗せると、再編前簿価が879億円になります。これに対して売却価額が1,619億円ですので、売却益は税前740億円になります。

税務上はどうでしょう。

今回CFIは資本金を取り崩して資本剰余金にし、これを原資に自己株を取得します。ただ、元々設立時点から保有している株式ですので、伊藤忠のCFI株式の税務上の簿価と、CFIの税務上の1株当り資本金等の額は一致しているはずです。

つまり、この自己株取得では伊藤忠に株式譲渡益は発生せず、利益部分はみなし配当として実質非課税になります。

更に、2010年再編時に計上した税資産約200億については、売却予定がないということでおそらくIFRS移行時に取崩し済みではないかと想像します。(実質的にPLを傷めず、うまくやった感じはしますね)

とすると、伊藤忠の連結PL上は、税前=税後で740億円になります。

会社側の開示600億円とはかなり差が出てしまいました。。

正直、原因がよくわかっておらず謎です。

考えられるとすれば、頂新への出資についてTAヘッジを行っていた、IFRS初度適用によって持分法簿価が膨らんでいた、或いは今回の再編に際して中国で源泉課税が生じる等、といった感じでしょうか。

今後の伊藤忠の決算/有報等の開示で何か判明することを期待しつつ、ここではこの辺に留めておきます。


(2)CFI

CFIは伊藤忠から自己株式を1,619億円で取得するとともに、伊藤忠に頂新株18.7%を譲渡します。但し、上述の通り、伊藤忠への譲渡対価は明らかにされていません。

伊藤忠持分でCFIの時価が1,619億円だとすると、CFIにおいては頂新株の譲渡に際して譲渡益課税が発生するわけですから、CFIの価値はその税効果分を差し引いた後の金額と考えるべきかと思います。

つまり、逆算すると、頂新株の時価は1,831億円、税効果は▲212億円(譲渡益588億円(時価1,831億円-簿価1,243億円)×税率36%)で差引CFIの時価は1,619億円という計算です。

ここは勘ですが、もし頂新の譲渡価額が1,831億円だとすると、CFIでは212億円の税負担が発生することになります。


(3)アサヒ

最後にアサヒです。

アサヒは2010年に435億円を出資してCFIを持分法投資としています。

その後の持分変動は伊藤忠100億円とすると35億円程度と思われます。但し、アサヒは日本基準を採用しており、暖簾相当の償却費を追加で検討する必要があります。

今回の再編での会計処理は、CFIが連結子会社になるということで既存持分の時価評価益(段階取得利益)を計上するというものです。

CFI株式の時価は、伊藤忠の74.%で1,619億円なので、アサヒ持分25.9%だと567億円になります。

これで140億円の利益だということは、会計簿価は427億円ということになります。当初の出資額が435億、その後の持分変動(償却除く)が35億なので、暖簾償却が累計▲43億円程度あったということでしょうかね。(詳細は確認できませんが。)

また、100%子会社化になるということで、CFIへの投資に係る一時差異については、売却等の予定がなく税負債は認識しないものと思います。

CFIが継続保有する頂新株(非連結出資)は改めて時価で認識し、一時差異には税負債を計上するものと思いますが、その税効果計上後のCFIの時価が567億円だということかと思います。(アサヒが連結納税を採用しているかどうかは有報に開示がなく不明なので、取り敢えず時価評価課税もない前提で考えておきます。)

尚、上述の通りCFIにおいて▲200億円規模の税負担が発生しますが、アサヒは子会社化によってCFIを再評価して連結開始ですので、この税負担もアサヒの連結PLには影響しません(正確には、CFI株式の時価そのものに反映されるということですかね)。

しかし、1つ疑問があります。

今回、アサヒはCFIを子会社にするわけですが、CFIは所詮持株会社に過ぎないわけで、アサヒ連結グループの経済実態としては頂新株の持分法適用停止(非連結出資化)ですよね。

持分法の非連結出資化は、日本基準においてはIFRSと異なり、時価評価を行うイベントにはなりません。

形式的にみればCFIの子会社化なのでしょうけど、本当にそれで時価評価を行うべきなのか、少々悩ましい気もします。

この点はIFRSでも議論になっていて、例えばIFRS10号で連結区分が変更になる場合は時価評価となっているところ、その子会社が「事業」に当たらない場合は対象外とする改正が予定されているところですね(たしか)。

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ということで、今回はここまでです。

要は共同保有から直接保有に切り替えただけで、両社にこんなインパクトが発生するんですね。

未解決のところがけっこうありますので、何か判れば追記します。