子会社・関連会社が保有する親会社株式売却益の連結会計上の取り扱い(日本基準、IFRS) | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


今回は、子会社が保有する親会社株式を売却した場合の、親会社連結財務諸表上の取扱いについて。

Twitterを見ていて気になったので、ちょっと調べてみました。


1.日本基準

まず日本基準です。

自己株式会計基準に明確に記載されています。

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15. 連結子会社が保有する親会社株式は、親会社が保有している自己株式と合わせ、純資産の部の株主資本に対する控除項目として表示する。株主資本から控除する金額は親会社株式の親会社持分相当額とし、非支配株主持分から控除する金額は非支配株主持分相当額とする。

16. 連結子会社における親会社株式の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社持分相当額)の会計処理は、親会社における自己株式処分差額の会計処理(第9 項及び第10 項参照)と同様とする。非支配株主持分相当額は非支配株主に帰属する当期純利益に加減する。

9. 自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上する。
10. 自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額する。
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ということで、例えば80%子会社が親会社株式簿価100を保有し、これを150で売却した場合の連結上の仕訳イメージはこんな感じです。(法人税等は省略)

【売却前BS(純資産)】
 非支配株主持分▲20
 自己株式▲80

【売却仕訳】
(借)現金150
(貸)自己株式80
   資本剰余金40
   非支配株主持分20
   株式売却益10
(借)非支配株主帰属利益10
(貸)非支配株主持分10

【連結PL】
 株式売却益10
 当期純利益10
 内、非支配株主帰属利益10
 内、親会社株主帰属利益0


子会社が親会社株式を外部売却するということは、親会社持分部分については実質的に自己株の処分(≒新株発行)であり、自己株式処分差損益は資本剰余金として処理されます。

ここは全く違和感ありません。

一方、非支配株主持分部分は、いわば、非支配株主が親会社株主に対して親会社株式を売却し、それによって非支配持分となる現金が払い込まれたことを意味します。

日本基準では、この売却益が非支配株主に帰属する利益として連結PLに残る形になっています。

同基準は平成25年9月の企業結合会計基準等の改正による修正を反映した内容と注記されており、基本的な連結概念としては経済的単一体説を取り込んだはずなのですが、この連結グループの株主間(親会社株主と非支配株主)の取引に係る損益が連結PLに残るという、非常に違和感のある処理になっています。

ただ、親会社説という立場で考えるにしても、そもそも非支配株主帰属の利益だけを連結PLに残すというのは、やっぱり不思議な感じもするんですよね。

尚、持分法適用関連会社が投資元企業の株式を保有している場合も同様の処理となります。持分法は一行連結、という考え方からきている印象ですね。

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17. 持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社が親会社株式等(子会社においては親会社株式、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社の株式)を保有する場合は、親会社等(子会社においては親会社、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社)の持分相当額を自己株式として純資産の部の株主資本から控除し、当該会社に対する投資勘定を同額減額する。

18. 持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社における親会社株式等の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社等の持分相当額)は、親会社における自己株式処分差額の会計処理(第9 項及び第10 項参照)と同様とし、また、当該会社に対する投資勘定を同額加減する
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また、同適用指針にて、法人税関係もこれに含めて処理される旨が明記されています。

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16. 自己株式等会計基準第 16 項及び第18 項に会計処理を定めている連結子会社における親会社株式の売却損益及び持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社における親会社株式等(子会社においては親会社株式、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社の株式)の売却損益は、関連する法人税、住民税及び事業税を控除後のものとする。
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2.IFRS

IFRSにおいても、親会社及び子会社が保有する親会社株式は自己株式として取り扱われます(IAS32号par.33)。

しかし、子会社が親会社株式を売却した際の、非支配株主帰属部分の処理について明確に規定したところは見当たりません。

KPMGのガイダンスで100%子会社が親会社株式を売却する設例はありましたが、そこについては日本基準と同様ですので、あまり参考になりませんでした。

一方、同ガイダンスで、持分法投資先の保有する投資元企業株式の取扱いについて、以下のような記載がありました。

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7.3.470.10 An associate may have an investment in its investor. The carrying amount of the associate under the equity method will include the investor's share of the associate's investment in the investor's own shares. [IAS 1.79, 32.33]

7.3.470.20 In our view, the investor is not required to make any adjustment in respect of treasury shares held by an associate. We do not believe that the investor should reclassify this portion of the carrying amount of the investment in the associate as a deduction from equity. Similarly, if dividends are declared on these equity instruments, then no adjustment should be made to the entity's share of the associate's profit during the year. We believe that the lack of control over an associate, and also the definition of a group (i.e. a parent and all its subsidiaries (see 2.1.50.10)), distinguishes these from cases in which treasury shares are held by a subsidiary. Information about own equity instruments held by associates should be disclosed in the notes to the financial statements. [IAS 27.4, 32.33]
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連結グループは親会社と支配する子会社という定義であり、関連会社に対する支配はないことから、子会社が保有する親会社株式の処理とは切り離して考えるべきとの立場です。日本基準とは異なる取り扱いですね。

IFRS上、必ずしも明確ではないのでしょうけど、経済的単一体説に基づく処理として、個人的には非常に納得感があります。

逆に、ここから考えると、子会社が保有する親会社株式の場合は、非支配株主と親会社株主の取引となる部分も資本取引として処理すべきと考えられるものと思います。

上の設例だと、こうなります。

【売却仕訳】
(借)現金150
(貸)自己株式80
   資本剰余金40
   非支配株主持分30

【連結PL】
 なし

うん、やはりこの方がしっくりきます。

尚、関連する法人税等も資本取引に含めるのは日本基準と同様のようです。

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7.3.460.10 In consolidated financial statements, treasury share accounting applies to own equity instruments that are held by a consolidated subsidiary. [IAS 32.33]

7.3.460.40 See 7.3.480 for a discussion of the presentation of any surplus or deficit on the sale of treasury shares. Any current or deferred tax on the transactions should also be recognised in equity (see 3.13.400).
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ということで、今回はここまでです。