昨日、「井」の字がお名前に入っている方の篆書体のはんこを作っていました。
この字も人名の中では出てくる頻度の非常に多い文字ですが、篆書で彫るときにはいろいろと問題があります。
篆書体の字典では「井」は真中に点がある形になっているのです。つまり現代ではどんぶり=「丼」という字が「井」だというわけです。
「丼」(どんぶり)という字が存在しなければ、「昔は「井」の中に点があったんですよ」「へ~、そうなんですか」で終わる話なのですが、現代では「井」と「丼」は違う文字だということになっているので、なんともややこしい話になってしまいます。
白川静先生の「常用字解」を見ると、「丼」は井戸の中に水があることを示しているとのことです。もう一方の意味では、「刑罰」などの「刑」の字を「井」と書いていたらしく、罪人を拘束する「井」の形、つまり首かせや足かせの形を「井」という字で表していたというものです。この説からすると「井」の中に点があったほうが良いような気がするのです。
というわけで、自分は「井」の中に点を入れることのほうが多いです。それと同時に「常用字解」の内容をご説明させていただいています。
たぶん、一般の印章店では現代の文字感覚で点をいれないのが普通だと思われますが、どちらかというと篆刻寄りの考え方をしてしまうので点を入れてしまうのです。
柏書房から出ている「篆書印譜字典」で「井」の篆刻作品の事例を見ても、ほとんど点ありですので、篆刻の考え方はそうなんだろうなと思っています。
さて、昨日はまた久々に絵手紙のはんこも彫ってしまいました。「絵手紙印はなるべご自分で彫られた方が良いのではないですか」と言ってしまう自分ではありますが、昨日のお客様は自分でも作っているんだけど、他人の彫ったものも使いたいということなのでお作りさせていただきました。
5ミリ角です。細いリンゴの木をさらに先端を細くして作っています。