※※ この本を読んで一言 ※※
久しぶりに推理小説を読んだ気がします。
スケールが小さめの作品ですが、短編の一つ一つが意外とシリアスで読みごたえがあります。
ある意味「安定の我孫子武丸」さんだと思います(笑)。
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我孫子武丸さんの作品を読むのは「殺戮にいたる病」と「弥勒の掌」に続き三作品目になります。

この作品は表紙を見て、腹話術師とその人形が主人公で、腹話術師が言えないことを人形の口を借りて毒舌で語り、人形が事件を推理して解決していく物語と予想しました。

結果、大体合っていましたが、斬新に感じたのが腹話術師の朝永が人形の鞠夫に言わせているのではなく、朝永の中の完全な別人格が鞠夫となって現れるという事です。

鞠夫の言葉は朝永が意識して発した言葉ではなく、朝永の深層心理の表れと言えます。
なので朝永が意識をしなくても鞠夫が勝手に話すという事が、予想を裏切られましたが、斬新で面白かったです。

殺人事件は起きますが全体的にスケールが小さい感じですので大作といった趣はありません。

しかし物語は幼稚園で飼っているウサギが死んで、その後に引き裂かれたり、殺人事件や麻薬密売事件に関わりますが、どれも日常生活とはかけ離れた物騒な出来事です。

そして朝永が頼りないというかどこか儚げなせいで、事件と同時に進行するおむつとの恋も危うい感じですし、いつ朝永と鞠夫の関係が壊れないか心配になり、読んでいてもハラハラしていました。

そして最後の第四話「人形をなくした腹話術師」では鞠夫が壊され、一時的に朝永も半分死んだような状態になり読んでいる私も胸が苦しくなるくらいで、その展開はまさに安定の「我孫子ワールド」と思います(笑)。

そんな中でもきちんと推理小説として楽しめたのでこれも安定の我孫子さんだと思います。

しかし第三話「人形は劇場で推理する」で鞠夫の推理が披露され精神科医が殺人犯だと断定していますが、それが正解かどうかは明かされないまま終わります。
見たの夢を日記に記載してそれを基に推理しているので、本当にこれが真相なのかちょっと疑わしい気がしました。

そして1990年発表の作品にしては古臭く感じることがないのに驚きました。
最も時代のギャップを感じたのが鞠夫が”おじん”とか”おばん”といった言葉を使ったことでしょうか(笑)。

あとは刑事が公衆電話でやり取りするくらいです。
舞台となった幼稚園、サーカスのテント、レストラン、アパート、劇場、テレビ局等は現在も存在していますからね。

さて我孫子さんの巻末のあとがきで『世界初の無生物探偵と喜んだものだが、(以下略)』とありましたが、どうやら「多々良伴内シリーズ」で人形が探偵役を務めていた物語があったそうです。

しかし「人形はこたつで推理する」(1990年発表)以前の作品で人形が探偵役を務める物語は本当になかったのでしょうか。
調べても分かりませんでしたが、きっと人形が探偵とか、腹話術師が二重人格とかありそうです。

 

ちなみに少年ジャンプの漫画で「人形草紙あやつり左近」という人形遣いとその人形が事件を解決するというのがありました。1995年から開始なので、「人形はこたつで推理する」の方が早いです。

なお私が過去に読んだ作品の中で滝田務雄さんの「田舎の刑事の趣味とお仕事」の中では主人公の心を折る奥さんが操る腹話術人形が出てきますが、それに比べれば鞠夫は生意気ですが可愛い方だと思います(笑)。

この「人形はこたつで推理する」の続編もあるようなのでこれはぜひとも読んでみたいです。

(個人的評価)
面白さ   ☆☆☆
登場人物  ☆☆☆
推理モノ  ☆☆☆
シリアスさ ☆☆☆