※※ この本を読んで一言 ※※

リックの苦悩、イジドアの孤独、そしてアンドロイドの存在・・生命とは、人間とは何かと考えさせられる物語でした。

また私が読書に何を求めているのかを考えさせてくれる物語でした。

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この本は私の読書の先輩が「一九八四年」とはまた一味違った近未来を書いた面白い作品として「一九八四年」とともに貸してくれました。

 

タイトルは余りにも有名で、私が過去に読んだ東川篤哉さんの「魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?」のように多くの作品にネタにされています。

そんな世界的に有名なビッグタイトルを読む機会を与えてくれた先輩に感謝です。

 

核戦争後の荒廃した世界の中で人間が生きていくうえで、人工的に生み出されたアンドロイド、そして絶滅に瀕している動物や虫といった生き物との関わり、宗教の在り方などがリックを通してその苦悩が描かれています。

 

正直、リックが不真面目で物事や生命について深く考えずに生きていく性格だったら、作中の世界でもそれなりに楽しく生活はできたでしょうがそれでは物語として成立しませんからね(汗)。

 

アンドロイドを狩る人間の葛藤、人間がであるが「特殊者(スペシャル)」に分類される者の苦悩、アンドロイドでも人間に協力する者の打算、人間に敵対するアンドロイドが持つ不安が描かれて、「一九八四年」とは違う意味で登場人物に救いがありません。

 

ラストではリックがマーサーと融合して何かを悟ったようでどことなく穏やかになり、妻のイーランとの関係が良好になったようですが、本物の生き物だと思ったヒキガエルは電気仕掛けと判明します。

これはマーサーを融合したといっても結局本物と偽物の区別もつかないか、もしくはマーサーが生き物と電気仕掛けの動物に差などないということを言っているのでしょうか・・

 

この後、妻に見守られながらリックは眠りましたが目が覚めればまた悩み多い現実が待っているのでしょう。

 

さてこの作品の印象としては淡々としたストーリーで、特に盛り上がりがあったり謎が解けたりといった事がありませんでした。

作中でも大きな事件が勃発したわけではなく、極端な事を言ってしまえばこの作品は賞金稼ぎとしてのリックの通常の仕事を描き、特殊者のイジドアが思いがけず脱走したアンドロイドと関わって、脱走したアンドロイドが処理され、イジドアは(見た目的には)元の生活に戻ったという事になります。

 

そして私がこの作品を読んだあとに感じたのは「虚無感」であり、その「虚無感」は日本の作品ではなかなか感じられるものではないと思います。

 

「虚無感」と言ってもつまらなかった訳ではありません。

リックとイジドアの心情を慮ると、世界の現実の前にどうにもならないやるせなさが込み上げてくるということです。

そしてアンドロイドも意識は持っているのでアンドロイドの心情も慮れば、悲哀が込み上げます。

そして私の中に最後に残ったのが「虚無感」です。

その結末に対してどうしようもなく心にぽっかり穴が空いた状態です。

 

私が主に読んでいる現代のミステリー小説です。

ミステリー小説に限らず、現代の日本の物語は何か心の中に得るものがあります。

 

しかしこの作品は1968年にアメリカで刊行された本作品は時代も違えば国、書かれた言語も違います。

なので普段私が読みなれている日本国内のミステリー作品と同じような盛り上がりや読後感を求めるのはお門違いと分かっていても、”何か解決の道が”とか”何か結末があるはず”と思ってしまいます。

 

そしてこの作品も「一九八四年」もそれが明示されないので、自分の中で内容を処理して結末を導き出さなければならないで、日本の作品に比べ考察するパワーが必要ですね(笑)。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆☆☆

登場人物  ☆☆☆

世界観   ☆☆☆

生きる苦悩 ☆☆☆☆☆