※※ この本を読んで一言 ※※

好みが分かれる、または読む人を選ぶ作品かな~という印象です。

改めてメフィスト賞は懐が深い、言い換えれば「何でもアリ」であると思いました。

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さて久しぶりにメフィスト賞受賞作を読みたくなって手に取ったのが汀こるものさんの「パラダイス・クローズド THANATOS」です。

タイトルから何となく「密室モノ」かなと思いながらも、いつも通り前情報を遮断して読み始めました。

 

最初の孤島での殺人シーン、次に場面が変わって船の上での殺人事件と、最初から?(ハテナ)の嵐で戸惑いました。

美樹と真樹がさも当たり前のようにタナトスや探偵として認知されていますし、警察官の高槻も当然のように美樹と真樹に対応し、その場にいない上司の湊参事官の事を美樹たちと話していましたし・・美樹の死神体質についての説明も序盤にありますが、さらっと軽くしている感じです。

 

私は「メフィスト賞受賞作ってだいたいデビュー作って認識だけど、もしかしてこの作品はシリーズ物の途中なのかな??」と思い、表紙の裏の作者紹介を見たらやはりこれがデビュー作のようでした。

 

そして読みにくい文章と誰のセリフか分かりにくい会話が続き、「デビュー作だから粗削りなんだろうな~」と思いながらも「メフィスト賞受賞作になるだけの何かがあったはず!」と思いながら読み進めました。

 

読み終わって、なるほど!!これが受賞した理由か!!!と納得しました。

納得しましたが、私が面白かったと感じたかは別問題です。

 

汀さんは古今東西のミステリに詳しいでしょう。巻末の鳥飼否宇さんの解説の中に『有栖川有栖さんが「本格ミステリを打ち倒そうとする生意気な新人が現れた」』とありました。

汀さんは作中でも「本格」という言葉を使い意識しています。そして「本格」に対して打って出たのがこの作品なのでしょう。

 

しかし・・私にとって作品が面白ければそれでいいのであって、「本格への挑戦」や「本格への復讐」も正直どうでもいい話です。

この作品は・・私には正直合わなかったというのが感想です。

 

この作品を楽しめるのは真にミステリを理解し、「本格」が何たるかを語ることができる方たちなのかなと思います。そういう方であれば、この作品の真髄を存分に味わえるのでしょう。

ということで私はライト層にいる読者なので、「本格」とは何か理解していないし、本格らしさも、アンチミステリーも楽しめていないと思います。

 

 

 

しかし共感できたのは、真樹が『密室の謎解きなんか必要ない。』とか『トリックも犯人も科学捜査のプロの皆さんが裏の裏まで調べてくれるよ。』と探偵役を放棄するところは、私が普段から思っていることでしたので、これには強く首肯しました。

 

もっともそんなことはプロの作家さんなら百も承知であり、そんな中でも「密室である必要性」を探して書いていらっしゃるのでしょう。

 

さてここからは私の感想をとりとめもなく書いていきます。

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セリフの言外の高槻の心情描写がうっとうしいです。

私のセリフの言外の心情描写の考えは早坂吝さんの「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件の感想以降ずっと述べていますが、私はこの表現があまり好きではないので、「久しぶりにキタ~」といった感じです。

 

美樹を神格化しすぎて不自然に感じます。

そして美樹のオカルト論や生命の誕生や愛についてなどの長広舌が薄っぺらく感じます。

さらに最後の美樹がヒョウモンダコを持って瀬尾を脅すシーンは何だか滑稽に感じます。確かにテトロドトキシンは猛毒ですが、その毒を持つタコを直接の武器としてひ弱な17歳が使うのは無理があります。

 

この作品は「キャラ小説」の側面があると思いました。

美少年の双子(兄は死神、弟は探偵)、それに付き合わされる警察官、エリート警察官の上司など今後もメインのキャラクターたちはしっかりキャラ付けがされて印象に残ります。

 

もしかしたら初めからシリーズ化を見越して設定したのではないかと思えるほどです。まさかデビュー前にシリーズ化を見越してメフィスト賞に応募したらそれはそれでスゴイ事ですが(笑)。

 

しかし脇役が余りにも雑・・というか読んでる最中も顔も思い浮かばない、読み終わって名前もうろ覚えで印象に残らないです。

 

特にミステリ作家の4人(棆堂、瀬尾、真行寺、園城)は脇役というより美樹と真樹を引き立てるだけのモブキャラ(汗)というくらい雑な扱いである印象です。

 

しかし汀さんは「本格への挑戦」をしている訳ですから本格ミステリを書く作家を敢えて雑に感じるように計算して書いているのかもしれませんね。

 

蘊蓄が多い、そして長い。生物の起源や進化の話、水槽の話・・きっと汀さんが水棲動物がお好きなんでしょう。

私はこれを読んでモナコ水槽というのを知りました。

これも東野圭吾さんの「超・殺人事件 推理作家の苦悩」でいうところの『資料としての小説』なのでしょうか。

 

作中で美樹は「モナコ水槽はパーフェクトアクアリウムシステム」と言っていましたが、結局電気が供給がなくなったり、人の手を借りなければ中の生物は死滅するのは容易に想像できます。

現に作中でも結局最後には中の生物は死滅していますし、湊に『所詮作り物、偽物の楽園だ』と言われています。

 

それなのに美樹はモナコ水槽のメリットばかり言っていたのがちょっと不自然でした。

しかし今となっては、美樹はそんな単純なことは当然言うまでもない事として敢えて言わなかったのかな~と思っています。

 

ちなみにモナコ水槽の話を読んで、「バイオスフィア」を思い出しました。調べてみたら、今でも人工的に自然環境を完全に独立した循環型に密閉するという試みは成功していないそうですね。

 

それだけ自然は替えの利かないかけがえのないものという事でしょう。

 

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さて私は全体に酷評っぽくなってしまいました。しかしこの作品を読んだ方の多くは、読む人を選ぶ作品と承知していてそれでいて高評価が多いようです。

やはりこれは人を選ぶ作品であることを改めて実感しました。

 

(個人的評価)

面白さ    ☆

登場人物   ☆

キャラもの  ☆☆☆

メフィスト度 ☆☆☆