昨日、柚月裕子さんの「慈雨」を読み終わり感想をアップしましたが、今日は外出先で本を読む時間があったので、読むために持っていた中村文則さんの「悪と仮面のルール」を午前10時くらいから読み始めて、午後3時くらいには読み終わりました。

 

普段電車の中で読んでいて1冊読むのに1週間程度かかる私にとってはかなりの珍事です。

集中力が持続しない私も実は”やればできる子”だったようです(笑)。

 

さて相変わらず予備知識を持たないように読み始めた私ですが、読み終わってこれはミステリー小説というより、サスペンス小説であり、ヒューマンドラマだと思いました。

 

テイストとしては以前読んだ芦沢央さんの「許されようとは思いません」に近い気がします。

 

なお序盤を読んだ辺りで、私は文宏が絶望した後に「邪」となってこれから世界に災いを振りまいていく存在になるのだと思っていました。

 

そうなると残酷、非道な鬱展開が来るのかと思い、ちよっと身構えて読み進めたのですが・・その予想に反して文宏の心理的葛藤が最後まで続き、少し肩透かしを食らった感じでした。

 

最初から最後まで文宏は善良であり、13歳の時も香織を守るためにやがて降りかかるであろう捷三からの災厄を振り払うために殺したのも、読者的に見れば拍手モノだと思うのですが・・ここから文宏の転落人生が始まります。

 

この物語の大きな特徴である、久喜家の「邪」の誕生ですが、文宏は香織を守るために人は殺しても邪にならず、久喜家の傍系の伊藤も「邪」になり切れず中途半端だし、幹彦も人生に退屈したただの武器商人で、結局「邪」は感じられないな~という印象です。

 

しかしこの物語の主題は人を殺すことで闇が生まれ、一生その業を背負って生きていかなければならない人間の心理描写だと思います。

 

だから捷三がヒマを持て余して「邪」を生み出すなんていう与太話をメインの題材と勘違いした私が悪いんです(笑)。

 

それにしても文宏はあまりにも一途で健気で本当に香織を大切に想っていたことがひしひしと伝わってきます。

香織を守るために父を殺し、その闇を心に抱え続け、やがては顔と名前を変え自分の人生を捨てても香織を守り続け、最後まで正体を明かさず香織の前から去って行ってしまったのには、そこまで自己を犠牲にしなくてもと思ってしまいます。

 

しかしラストは恭子と希望がもてるいい感じで終わったのでまだ救いがあります。

 

もっとも作中で文宏は、ハッピーエンドの物語の登場人物も物語が終わっても生き続け、その登場人物がどういう未来になるのか誰もわからないみたいな事を言っているので、この物語もこの後の事はどうなるのか油断はできないですね(笑)。

 

さてこの物語についてはいくつか愚にもつかない私の疑問やツッコミ等を書いていきたいと思います。

(^^♪"(-""-)"(^_-)-☆( ;∀;)('ω')ノ((+_+))

人を殺すことや人の人生を滅茶苦茶にする事を「損なう」と表現しているのに違和感を感じるが、これは中村さんなりのこだわりなのでしょう。

しかしどうも「損なう」という表現には最後までなじめませんでした。

 

セリフが難しいし長い。

特に久喜家と男たち(捷三や幹彦と主人公の文宏)は語り出したら長い。

これは中村さんの知識・教養のレベルが高いがため、分身である登場人物たちに語らせているので、登場人物のセリフも難解で文学的になるのでしょう。

(登場人物のセリフに関しては伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」や麻耶雄嵩さんの翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件でも少し論じています。)

 

それにしても私が聞く立場だったら途中で脱落して、内容を何も覚えていないでしょう(笑)。

 

冒頭の「刑事の日記(紙片)」を書いたのは会田だと思うのですが、“一組の男女”はやはり文宏と香織でしょうか。”大きな事件の周辺の不可解な死体”は矢島や幹彦のことでしょうか。

 

また会田が刑事でありながら社会を恨み続けているのはなぜでしょうか。

親しくしていた八重子と紗枝のことがあったらだとは思うのですが・・それとも別に理由があるのでしょうか。

もし別に理由があるなら「邪」となる素質はむしろ会田にあるような気がします。

 

久喜家の先祖が自分の命がなくなるのに世の中が幸せなのは許せないとばかりに、自分の子どもに「邪」を植え付け世の中に災厄を振りまくなどというふざけた話は、物語の中だけと思いたいですが、金と権力を持った狂人だとやりかねなさそうで怖いですね。

 

幹彦の語る戦争と利権の話は別に取り立てて珍しい話ではなく、今までにもよく聞いた話です。

ただ実際に戦争が起きれば軍需産業は潤うんですが、国は疲弊するので、国家間での大規模な戦争は起きないでしょう。

 

しかし紛争への介入は現実に起きているので、作中でも煽って紛争を起こさせていると言っていて、これはおそらく現実世界で起こっていることでしょうから、これからも軍需産業はなくならないでしょうね。

 

あずさが携帯電話をすられた時に新谷の番号を見られたそうですが、携帯電話にロックをかけていないとはあずさは探偵失格ですね。

それともたまたまロックが解除されている状態のところをすられたのでしょうか。

 

もぐりの整形外科医はポイントポイントに出てきては、印象深い会話をするいいキャラですね。

そして文宏の雇った探偵もいい味を出しています。

 

整形外科医と探偵をそれぞれ主人公にして物語ができたら面白い話になりそうですね。

 

上で”文宏の転落人生”と書きましたが文宏は探偵に数千万円単位の報酬をポンと支払えるだけの莫大な遺産があります。

それで整形手術を受け戸籍を買い、恭子を10万円で買おうとしたりしました。

これだけの金があれば、文宏の人生を捨てず贅沢な生活は十分できます。

 

文宏にとっては父親を殺し、自分の全てだった香織と別れたことは今までの自分が死んだに等しい事だったんでしょうが、生活に困ることはないので、傍から見たら何を贅沢なことを言ってるんだと言われそうですね(汗)。

 

(^^♪"(-""-)"(^_-)-☆( ;∀;)('ω')ノ((+_+))

 

人として何が正しいのかを問うような作品は読み終わった後は、考えさせられます。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆

ストーリー ☆☆☆

登場人物  ☆☆

読後感   ☆☆☆