恩田陸さんの作品は「MAZE」に続き2作品目になります。

 

この作品を選んだのは読書の先輩が恩田さんの作品が好きで、そしてこの「Q&A」が面白いと教えてくれたからです。

 

こうして買う本が決まっていたので、この作品はいつも以上に事前情報は全くなしで、裏のあらすじも読まず読み始めることができました。

 

読み終わっての感想は、冒頭から物語に引き込まれるくらい面白く、そして謎に満ちていてその謎が知りたくなり、最後までそのペースが続く稀有な作品だと思いました。

(なお初速からトップスピードで面白く、そのまま最後まで面白く読めた作品は、宮部みゆきさんの「火車」が思い浮かびます。)

 

そして読み終わっても作中では何も真相が分からない、何も解決していないのでモヤモヤが残ります。

謎として残った事が多いです。

 

政府(?)の元調査員の話も、結局真実なのか明らかにされません・・真相はすべて闇の中のまま終わってしまいます。

 

この物語の中ではいろいろな立場の人間が出てきます。

事件に人生を狂わされた人や、事件を利用する人がいます。

 

この事件をきっかけにして人間の持つもろさ、浅ましさ、欲深さなどが表面に出てきたと言えるのではないでしょうか。

 

そしてその人間模様を書くのが恩田さんは上手すぎます(汗)。

しかも事件の聴取の中で、事件と関係があるのかないのか分からない人間の苦悩や醜い部分をさらりとブッこんできます。

 

外岡は不倫、内田は妻の痴ほうの悩みと息子夫婦へ憎悪、麻生はコーチと父親から受けたセクハラや教頭の盗撮、弁護士の田中は殺したいほど憎い奴(元妻)がいたなど・・

 

事件とは無関係でありながら、こういった人間が生活を営んでいく上で生じる様々な負の部分は、どこかMの事件を起こす要因の一つにもなっているように思います。

 

ここまで前半部分で十分嫌な気分になりますが、後半のQ&Aはもっと不穏な空気が漂ってきます。

 

「奇跡の少女」(以下「少女」という)の母親はもう犯罪行為ですね。

ダントツで最低な人物だと思います。

 

そして消防士の話では、家族を失うことを恐れるあまり自分で家族を殺した(?)ようですし・・精神を病んだ人間がしたこととして片づけるにしても、この消防士がしたことは訳が分かりません。

 

・・とまあMの事件を中心にして、いろいろな人間が出ていろいろな思惑があることがよく分かります。

 

それぞれ体験した人間の言うことはすべてが真実でしょう。

しかしその真実をつなぎ合わせてもMの事件の真相にはたどりつけない・・世の中そういうものがいくつもあるんでしょうね。

 

結局どれが真実なのか・・「真実はいつも一つ」と言っている体は子供、頭脳は大人の名探偵に聞いてみたいものです(笑)。

 

さてここからいつもどおり私のどうでもいいツッコミ等を書いていきます。

 

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少女は終盤でどうやら死んだ未来の自分と会話しています。

 

これは少女の妄想なのか、死んだ未来の少女が現代の少女に会いに来たのか、それとも少女にはもともと死者と会話できるなどの特殊能力があったのかは明言されていないので推測でしかありませんが・・

 

私が思うに少女は死者との会話ができたのでしょう。

 

その理由は見張りがいる部屋に入って来られるのは、未来の少女や『子供とか、おばあさんとか、おじさんとか』はすでに死者で、魂(または霊)となっているからでしょう。

 

そしてお嫁さんの悪口を言うおばあさんは、おそらく作中の記述からMの事故で亡くなった少女の祖母であり、少女の母親の義母ではないでしょうか。

 

3歳のころなので顔は覚えていないので祖母とは認識していないとしても、祖母が自分の孫と言うことを告げない理由は分かりませんが(汗)。

年数が経って成長したため、自分の孫と言うことが分からなかったのか・・

 

とにかく死者と話せるというこでは少女は本当に「奇跡の少女」だったようですね。

 

しかし未来の自分のアドバイスがあっても、結局死ぬ未来は変えられないと思えるラストが悲しいです。

 

タクシー運転手となった政府(?)の元調査員は前半に出てくる調査員の一人だったのでしょうか。

 

そして彼が女性の影に般若を見たというのは、作中の2番目に出てきた外岡かと思いましたが、般若というからには少女の母親のほうがしっくりきますが・・これも永遠の謎ですね。

 

タクシー運転手についてもう一つ。

彼は事件の真相として政府の「実験」だったという説を話したために殺害されたようですが、議員の手駒(暗殺者?)を使って殺害するというのは現実としてあり得るのでしょうか。

 

Mの4階で騒ぎを起こした(?)身だしなみのいい老夫婦も新潟の川で死んでいた(他殺?)と書かれてます。

液体をまき散らした男はどうなったのか分かりませんが、この状況ではやはり死亡していると思えてきます。

 

政府の陰謀説はあり得ると思うのですが、陰謀の関係者を次々と殺害していくというのは効率がよくないと思うのですが実際はどうなんでしょうか。

(なおこれと似た感想を伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」でも書いています。既読の方は併せてお読みいただければ幸いです)

 

これは本当にどうでもいいことです(笑)。

「人いきれ」という言葉は小説の中では頻繁に使われるのに、日常生活では一度も聞いたことがないです。

私も使ったことがないです。

 

私の中では文章の中の言葉であって、話し言葉ではないですね。

 

冒頭の笠原のセリフで『いったん何か大きな事件が起きたら、携帯電話なんてただのアクセサリーですよ。』は今もそんなに変わってないと思います。

 

携帯電話会社も対策はしているでしょうが、大災害時等ではやはり携帯電話での通話・通信はダメでしょうね。

 

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一読者としては真実を知りたいところですが、謎を残したままの作品もたまには面白くていいかなと思います。

 

『メタもサイコも消化した日本人』相手にミステリー小説を書くのは大変なことだと思いますが、これからもいろいろなパターンで私たちを楽しませてほしいです。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆☆☆☆

ミステリー ☆☆☆☆☆

人間模様  ☆☆☆☆☆

後味の悪さ ☆☆☆☆☆