井上真偽さんの作品を読むのはは「その可能性はすでに考えた」に続き二作目になります。

 

その可能性はすでに考えた」は舞台設定がトリッキーで面白く、かつその舞台を彩る個性的な登場人物たちがいてとても面白かったです。

 

しかもこの作品も”犯罪を未然に防ぐ探偵”と言うこれまたトリッキーな設定に期待も高まります。

 

そんな期待を抱きながら読み始めました。

 

途中、上巻の半ばから私はあるイヤな予感がしてきました。

それは物語が”型どおり”になっていくことです。

 

これと同じ感想を持ったのが麻耶雄嵩さんの「さよなら神様」と「貴族探偵対女探偵」で、そこでも同じ感想を書いていますが、主人公が無双キャラであるほど展開がテンプレ化してくるんですよね。

 

しかしそこは井上さんのこと!

おそらく下巻で変化をつけてアッと驚かせてくれるものと思い、楽しみにしながら下巻を読み始めました。

 

読み終わって・・こうきたか!!と驚きとともに久しぶりに“読書っていいな”と思えるくらいとても面白い作品だと思いました。

 

ミステリアスな橋田の存在が終盤でクローズアップされたのには驚きです。

しかも慇懃無礼な態度に無愛想で感情を表に出さないようにしていたのは、“尊大”になりがちなタリオの生業によるものだったとは・・深いです。

 

トリックもテンプレ化してきながらも変化を加え、無駄にしないところもすごいと思います。

 

特にそう思うえるのが、ホテル内での天后の刺客たちの怒濤の連続の仕掛けが雑で、これはてっきり捨てトリックかと思っていました。

しかしそれが最後の建物倒壊のための伏線(?)になっていたという壮大なトリックには驚きました。

 

そして「その可能性は・・」でも言えることですが、物語の中の“現在”では誰も死んでいなくて(回想の中では死にまくってますが(汗))、物語がキレイに終わるため読後感もさわやかと言うことが共通しています。

 

そしてこれも共通していますが、ミステリー小説ではなく戦闘モノです。そしてキャラ小説です!

そしてなんといろいろと言いたくなる事が多い作品であることか(笑)。

 

と言うことで、これからどうでもいいツッコミやら、思うところやらを長々と記載していきます。

 

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読み終わって、探偵業界もここまできたかと思いました。

アイデアが出尽くしたと思われる中で、目新しい探偵を出すのも大変だと思います。

その中で“タリオ”を思いつく井上さんは天才ですね!

 

しかもタリオの設定はミステリー小説、特に古典的なミステリー小説に対しての井上さんなりの挑戦ではないかと思いました。

 

横溝正史さんの金田一シリーズでもあったことですが、今まで名探偵と呼ばれる人は事件が発生してすでに犠牲者がいる状態で呼ばれて、さらにその後に何人も犠牲者を出してから事件を解決していきます。

 

場合によっては、“こうなることが分かっていたのに防げなかったのは私のミスです”と曰う始末・・分かってたなら防げよ!と私も思った事もあります。

 

それに比べたら事件を起こさせない光や橋田のタリオの存在は真の名探偵と言えるのではないでしょうか。

 

ただ未然に防いでしまうと、外から見ると実績ができないため、評価されにくいというのではと思いますが・・しかし世界中にタリオがいると判明しているらしいので、それなりに評価はされているようです。

 

どんなに敵が威厳ある大物やミステリアスな悪役であっても、どうやって暗殺をするかという話し合いや思考するシーンを出されると、その途端にみんな小物臭がしてくるものであると知りました(笑)。

 

物語の性質上、どうせ探偵に破られそして返されるのがオチである暗殺トリックを語るシーンは滑稽に映ってしまいます。

 

別の見方をすれば、この物語の中で一華は死なない、そして悪い奴は罰が当たるのが分かっているので、ハラハラドキドキとは無縁で、とても安心して読めました。

 

上述2にも関係しますが、この作品においてトリックを破られる刺客側の人間の様子はさながら「ドッキリを仕掛けようとして、反対に逆ドッキリを仕掛けられるお笑い芸人」を彷彿とさせます。

 

さらに後半の連続で襲ってくるホテル内の刺客のやっている仕掛け(特にボーリング玉を転がして暗殺を謀るところ!!)は、まるでNHKのEテレの番組の「ピタゴラスイッチ」です。

 

もしくはプレイステーションのトラップを仕掛けて敵(?)を虐殺するゲーム「刻命館」シリーズを思い出しました。

 

「安心して見ていられる+ピタゴラスイッチ+逆ドッキリ」の組み合わせに、もう井上さんは読者を驚かすと同時に笑かしにきているとしか思えず、読んでいて思わず頬が緩みます(笑)。

 

井上さんはきっとこの作品を楽しみながら書いたのかなと思います。

 

特にハロウィンの冒険のくだりとか(笑)。

あとは全編にわたって絵に描いたような個性豊かな登場人物にあふれ、敵が仕掛ける荒唐無稽で大胆なトリックなどなど・・

 

しかしそれのせいで作品全体が軽く感じます。

 

その原因として登場人物の個性が分かりやすいのはいいんですが、ドラマ化を前提にしているのか、ライトノベル的というか・・分かりやすいのと引き換えに、紋切り型に感じます。

その登場人物がポップな文体で描写されると、どうしてもコメディタッチに感じて、私にはおちゃらけが過ぎるかどうかのギリギリのラインでした。

 

もっともこの感想は東川篤哉さんの「 館島 」でも同様の感想を書いていますが、結局は個人の好みの問題なんですが・・

 

反面、「 盤上の敵 」や「 少女は踊る暗い腹の中踊る」は、落ち込んでいる時や疲れて元気のない時には多大な精神的ダメージを被るためとても読めませんが、この作品はいつでも安心して読めるのはいいことなんですけどね。

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いろいろ書きましたが、これは私のお気に入りの本になり、久しぶりに【1 お気に入りの作品】にランクインしました。

 

しかしこの“探偵が早すぎるシリーズ”が今後続いていくのか・・ネタが続かなさそうで心配になりますが、そこは天才井上さんの事。

何かアッと驚く展開を見せてくれるかもと思いますので、次回作も期待しています。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆☆☆☆

トリック  ☆☆☆☆☆

登場人物  ☆☆☆☆☆

展開の驚き ☆☆☆☆☆


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