北村薫さんの作品を読むのはこれが初めてです。
いつも通りインターネットで面白そうなミステリー小説を探してた時に「盤上の敵」を見つけ、紹介文を読まずに買いました。
北村さんの作品と言えば、インターネットでミステリー小説を検索すると高確率でヒットする「空飛ぶ馬」は、“誰も死なない日常系ほのぼのミステリー”と言うことで、この作品もそうかと思っていました。
しかし本を開いて1ページ目の北村さんの“警告文”とも言える異例の前書きにちょっと驚きました。
女性読者が読んで傷ついたということは、その内容は私の苦手な親族から児童への性的虐待か、酷い集団暴行か・・と予想し身構えながら読み始めました。
冒頭にいきなり瀬川が石割に理不尽に拘束された時にすでにイヤ~な雰囲気が漂い始めました。
結局瀬川は殺されたことも判明し、中盤で友貴子の凄絶な過去も判明し、イヤミスと言えるような雰囲気になります。
終盤に予想もしていなかったアッと驚く展開になり、ラストはキレイな描写ながらも、将来的に明るい展望があるとは思えない終わり方にモヤモヤが残ります。
末永が考えたトリックは複雑ではないですがなかなか大がかりで、そのトリックが実行されて今までの伏線を回収されていく様は見事です。
ただ梶原と同じ自動車であることや、友貴子が慣れた道を末永の代わりに警察から逃走して、最後に自分でガムテープで縛って捕まったフリをする事や、栄養ドリンクにシクトシキンを入れて飲ませるなど、チョツト都合よすぎるとかそんなにうまくいくものかと思いました(笑)。
しかし読者のほとんどは末永の『友貴子の行為はどんな神にも許される筈だ。でなければ、神の方が間違っている。』の思いに大いにうなずいたことでしょう。
なので、都合のいい展開も友貴子が助かるならそれでいいですし、物語の後もまた2人で今までの生活ができる事を祈ってやみません。
さて北村さんの文章は心情や背景の描写が丁寧だなと思いました。
特に情景が丁寧に書かれているのでその季節感や空気感も伝わってくる気がします。
しかしこういう全体に暗い物語の中での妙にリアルな情景描写は、かえってこれから訪れる悲劇のための前フリではと思い、余計に不安を煽り立てているようです。
次に私が思ったのは、私は今までの人生で幸運にも人からの悪意に悩まされることはありませんでしたが、世の中には三季のように理由のない悪意を持ち、理不尽に悪意をぶつけてくる者がいるんでしょうね。
そんな中で、被害者の方が泣き寝入りをしなくてはいけない世の中は間違っています。
しかしだから何ができるなかすぐに答えが見つからないのがやるせないです。
これは気分が落ち込んでいるときに読んではいけない作品ですね。
冒頭の「読んで傷ついた」と言う女性読者の気持ちがよく分かりました。
(個人的評価)
トリック ☆☆
叙述トリック ☆☆
友貴子の悲劇 ☆☆☆☆☆
イヤミス度 ☆☆☆☆☆