私の読書の先輩から年末に借りました。
アニメ映画になるくらい有名な本であるということは知っていましたので、読むのをとても楽しみにしていました。
なお宮部さんはゲームがお好きらしいですね。
だから王道ファンタジーの話を書きたかったのでしょうか。
剣と魔法、様々な種族との絆、世界崩壊の危機と救済と言ったまさにRPG的なファンタジーをワタルの成長を通して描いています。
世界観、特に幻界の世界観に関してはいろいろ思うところはあります。
しかしこの物語の神様である「宮部みゆき」さんが創造した世界なので、こういうものなんだと納得するしかないかと思います。
テーマに関しては幅広いジャンルを執筆しているベストセラー作家だけあって、RPGに重いテーマをいくつものっけてきた感じです。
家庭問題、不倫問題、学校でのいじめ、人種(種族)による差別、宗教による差別、貧富の格差などの問題がてんこ盛りでした。
それらを亘(ワタル)が悩みながら経験し、困難に立ち向かう勇気を手に入れて、それらを乗り越えることで現世で生きていける強さを手に入れる成長こそがメインテーマなのだと思います。
そして生きていく強さを得る「成長」に主題を置いているせいなのか、最初から最後までワタルは勇者らしい武の強さを感じさせる事はありませんし、実際に強くはないでしょう。
あえて強い主人公にしなかったせいか、弱い主人公+重いテーマなので冒険ファンタジーらしい明るく爽快な物語ではないのが宮部さんらしいのかもしれません。
前述のとおり世界観はこういうものだと納得する反面、大松香織と石岡の魂はなぜ運命の塔に閉じ込められていたのか、なぜ美鶴は現世で魔法を行使できたかなどはもう少し説明が欲しかったです。
そして幻界の女神様はずいぶんいい加減なんだな~と思います。
幻界が「人間の想像力のエネルギーが創り出した世界」という設定なので、人間の適当さが幻界の女神様にも反映されているからなのかもしれません。
何かのマンガかゲームで「神は善の味方であって、人間の味方ではない」というフレーズがあったような気がしますが、この女神様は分かりやすいくらい人間の味方です。
しかも幻界にいながら現世の人間の味方で、幻界のヒト(種族)に対しては冷たい印象を受けました。
それでいていろいろ無駄な事をやって人間とヒトを試している(弄んでいる?)ような気がします。
きっと幻界の女神様は万能すぎるせいで、気まぐれでヒマのかもしれません(笑)。
もっとも「神のことは人間には理解できない」と言われればそれまでなんですが。
そしてもうひとつ私が気になったのはこの物語の発端となった明になんのペナルティも科せられていないことです。
この物語の元凶なのに・・幻界での明のそっくりさん(ヤコム)はゲス野郎として描かれてましたけどね。
物語の中で結婚前に邦子が明に妊娠したと嘘をついて、里佳子から略奪婚をしたとあります。
しかし明は親公認の里佳子と付き合っているのに邦子の妊娠を信じたのは、邦子と浮気して肉体関係があったからのでしょう。
そしてまた明が里佳子とヨリを戻すだけでなく、邦子との離婚より前に里佳子と子供まで作ったのは、結婚前に邦子とやってきた事の繰り返しです。
明・・なかなかのヤリ〇ンぶり(笑)。彼はきっとまた理由を付けて浮気する気がします。
もっとも現実として浮気や離婚などは当たり前にあり、どれだけ子供が悲しんでも当事者の大人たちは心理的負担や金銭的負担、その他様々な社会的負担を負いながらも、生命の危機のようなペナルティはないので、明もその後は普通に生きていくのでしょう。
しかし明が亘に言っていた「大人になれば分かる」や「1度きりの人生を後悔したくない」は、私はなんとなく理解できます。もちろんやったことに対しては肯定しませんが。
たぶん多くの大人は明の行動はある意味仕方がないと思うのではないかと思います。
ただ明との違いは、それを実行するかしないかではないでしょうか。
最後にどうでもいいことですが、この本(上・中・下)3冊を読むのに1週間以上かかりました。上巻だけで1週間以上かかり、中巻と下巻はあわせて2日で読みました。
上巻の9割が幻界に行くまでの現世の話で、そこまでが重要ではあることは理解しているつもりですが正直あまり面白くなく、幻界で冒険を始めたらようやく面白くなってきました。
私の読書の傾向として物語の始まりが面白くないと、1日5ページくらいで読むのをやめてしまうこともあるので、読了までに時間がかかるようです。
始めから面白い物語が必ずしも最後まで面白いとは限らないですが、最初に人をひきつけるって事は重要ですね。
(個人的評価)
ファンタジー ☆☆☆☆
登場人物の魅力 ☆☆
大人の身勝手さ ☆☆☆☆☆
神様のテキトーさ ☆☆☆☆☆