「ロビーでの会話もお控えください」歌舞伎座 | hermioneのブログ  かるやかな意識のグリッド(の風)にのる

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バシャーリアン。読むことで意識が変わるようなファンタジーや物語に出会ってゆきたい。

 この赤い垂れ幕の上には、「本日初日」と書いてありました。8月1日です。

 第4部を見に行きました。

 普通8月は三部制なのですが、コロナのために「四部制」。四部の「切られ与三」(与話情浮名横櫛 源氏店)は59分しかありません。

 もちろん入り口ではおでこ検温、消毒、そして、場内には、「コロナのため」と種々注意が流れました。

「ロビーでの会話もお控えください」には、ちょっとしゅんとなりました。

 

 トイレには並ぶところにソーシャルディスタンスの足形があるし、席はひとつおき、使わない席には赤い帯2本ずつかけてあり、花道の両側はさらにもう一席ずつ使わないことになっています。

 

1等席の一番うしろで見ていましたが、だれも(客が)両脇を固めない花道を、ふらふらと、蝙蝠安(彌十郎)が出てきて、うしろ姿がとても心許ない感じでした。後ろから幸四郎の与三郎が続きますが、ふだんはもっと「大きく見える」俳優さんたちなのに、お客さんが半数以下、針山にまち針がぽつぽつ刺さっているような状態のなか、空気がスカスカ・・・・・・劇場の熱気がありませんでした。

 

 全く席が買えず、バラバラになったので、前のほうに座ったダンナさんに聞くと、まわりが後援会の和服のおばさまたちなので、最初から舞台に没頭できて、みんな盛り上がったよ、とのことでした。

 

 後ろから客席ぜんたいを見ていると、あー、これだけしかお客さんがいなければ、やりにくいだろうなあ、と思うことしきり。ふだんはいかに少なくても、前はぎっしり目につまって、四分の三以上は入っている。

 

(ただ、その半数以下しか使ってない席はもちろん全席、空きはありません。)

 

⭐️お客さんというマットというかネットに、せりふのボールを投げて、ぽーんとかえってくるのを呑み込んで、次のせりふを出す、その呼吸が、「密」じゃないので(笑)、ちょっと空気の薄いなかでキャッチボールしている感じがしました。

 もちろんひとりひとりの演技は完成しているのですが、

「空間が組み上がっていかない」・・・・・・かな。

 

⭐️幸四郎さん(与三郎)、児太郎さん(お富)、やや腰まわり太った?? 五ヶ月も舞台がなかった役者さんたちは、ふだんのパフォーマンスがハードなだけに、それがないとどうしてもゆるんでしまうのかもしれません。幼いときから舞台に出続けていて、こんなに長い休みはたぶん初めて。

 

 その中で、中車さん(香川照之)はわりと現代劇(「半沢直樹」)でTVに出ているからか、輪郭のまわりに「はまった空気」をまとっていました(うーん、表現しにくい)

 

⭐️「しがねえ、恋の情けがあだ・・・・・・」

 

  の与三郎の名セリフが、

 

 「大向こう」「かけ声」禁止、と前もって場内アナウンスで釘を刺されているので、

これまた真空状態の中で、演技をし、発語をする・・・・・

「こうらい や!」「まってました」の熱気がなく、

拍手だけでした(拍手は奨励されていましたが、間合いがどうも生きない)。

 

⭐️改めて「演劇は観客とのラブコール、ピンポン、阿吽の世界」というのがよくわかりました。3月の国立劇場は観客ぬきで撮って、映像をyoutubeで流す企画がありましたが、それは「尾上菊之助スターダム」の鑑賞になるだけで、演劇空間にはなっていなかった・・・・・・。

 

⭐️コロナのおかげで、「密」のパワーが一番わかったのは、演劇だったのかもしれません。オペラや演奏会だと、スタジオ録音だけで発売する「レコード」が昔からありましたが、演劇はライブ会場(お客さんつき)を録画しないと・・・・・・。

 

 幸四郎さんはしかし完成した気品と巧さで最後まで破綻がありませんでした。

 

 やはり舞台人はまわりの空間に「フェロモン」「オーラ」を流し出すボディを持っています。

 

 受ける客のほうが「緊張しながら」受け止めきれず、「クールに」流してしまったかもしれません。

 スカスカの劇場というものを————歌舞伎座歴ン年で、初めて見ました。

 

⭐️

 いつもの分厚くりっぱなパンフレットはなく、四つ折りの案内書という感じです。無料です。ふだんは1300円以上する。

 

⭐️コーヒーや水は売っていますが、一切食べ物やお土産の売店はなし。(地下の木挽町がやっていたのは驚きました。)

 カーニヴァルの「劇場国」はいつ復活するのでしょうか? 

 (13日には2部と3部を見にゆくので、それまでにコロナで中止にならないことを祈っています。)