手紙を読んだ後のことは良く覚えていない。

なんとなく覚えていること・・・
姉ちゃんとお前のことを語ったこと。
気づいたら朝になっていたこと。

・・・そのまま親戚の家で少し仮眠させてもらったこと。


その後、姉ちゃんとご飯を食べに出た。


なんともいえない気持ち・・・晴れない気持ち。

なんとなく箸の進まない食事・・・正直食べたくなかった。
姉ちゃんに無理やり連れてこられた感じ・・・。

無言で食べてると姉ちゃんが聞いてきた。


これからどうするの?

一生あの子を背負っていくの?
一生前に進まないの?


前に進むためにここまできたんだ・・・
そのために・・・

なぜここに来たか・・・なぜすべて知ろうと思ったか。
・・・忘れかけてた。
でもそう聞かれてようやく思い出した。

新しく守ろうと思った人ができた・・・。
そう・・・だから来たんだ。

姉ちゃんにそのことを正直に話した。


そう・・・なら心配ないね。
あの子の望んだこと・・・あなたの幸せ。
それがかなうなら私はもう何も言わない。

あの子の願いだから。
ちゃんとかなえてあげてね。

これで本当に終わりなんだな・・・
もう振り返ることもないかもしれない。

どことなくお前に似ているあの子・・・
似ているけどまったくの別人だ。
でも似ているとか別人とか関係ない。

ただ守っていければいい・・・。

本当に好きになってしまったのだから。

お前を忘れてしまうわけじゃない。
ただ・・・後ろを振り向くのだけはやめようと思う。

あの時こうすればよかった・・・
なんでこうなってしまったんだ・・・・・そういう風に考えるのはやめよう。

これからはどうすればより良くなるか・・・そのことだけを考える。

そしてこれだけは誓う・・・決してお前のことを忘れない・・・

永遠に・・・・・・・
けんちゃんへ

まず最初に、この手紙を見つけてくれてありがとう!
簡単に見つからないところに隠しておくつもりだから。
それでも見つけてくれたってことは・・・喜んでいいのかな?
もしかしたらおねえちゃんに見つかってるかもしれないけど。
読んでるのがお姉ちゃんだったら・・・(泣)


けんちゃん、元気してますか?
新しい彼女さん見つかりましたか?
もしかしたらもう結婚して子供とかいたりして。
ちゃんと夢、かないましたか?
私が知ってる限りのけんちゃんの夢、弁護士さん!
もう法廷とかに立ってるかな?
でもかなってなくてもきっと素敵な人になってるよね?
私が好きになった人だもん。
ちゃんと幸せになってるかな?
幸せだったら次の紙は読んじゃだめ!
本当に幸せになるんだよ!
私の最後の願いかなえてね!



(二枚目)

幸せじゃないけんちゃんへ

いろいろ悩んでるかな?
この手紙にたどり着いたってことは私のことで悩んでる?
そうだったら私はうれしいけど・・・。
でもそれはだめだよ!
けんちゃんの幸せが私の願いだよ!

こうなったのは少し残念だよ。
ずっとけんちゃんと一緒にすごせるって思ってたから。
でもけんちゃんが幸せになってくれるって思ったから・・・・・
だから離れようって思ったの。
ほんとはね、私・・・小学生の時に人生終わってたんだよ。
本当に悩んでた。
ずっと死にたいって思ってた。
とにかく誰もわかってくれない、誰も助けてくれない。
だからけんちゃんが声をかけてくれたとき、すごくうれしかった。
初めて声をかけてくれたときのこと、よく覚えてるよ!
塾の合宿のご飯食べてるときだよね!
一字一句忘れたことないよ!

いつも暗い顔してるけど何悩んでるの?
悩んでることがあったらいえる範囲で言って!
どうして何も言わないの?
いつも本ばかり読んでるけどどうして話に入ってきてくれないの?
楽しいこといっぱいだから話に入ってきなよ!

私があいまいに答えてたらけんちゃんきれちゃったんだよ!覚えてる?

どうして一人で抱え込むんだよ!
何でそうなったかはしらないけど、
どんな縁か運命かわからないけどこうやって一緒に勉強したり遊んだり
することになったんだ。
そうなった以上は『仲間』なんだよ!
つらいのにどうして一人で悩むんだよ!
友達や仲間ってそういうとき力になるためにいるんだ!

って。
すごくうれしかった。
何度かこういう話はしたよね!
でも死にたい・・・まで考えてたってことはいったことないよね。
本当にそのときは死にたかったんだ。

だからそれ言われたあとどうしようもなくなってトイレで一人で泣いてた。
けんちゃんは私の命の恩人なんだよ!
だからここまで生きて来れて本当に幸せだった。
贅沢を言うならずっと一緒にいたかったけど。
それは運命だから。

でね!けんちゃんが何で悩んでるかはわからないけど。
今がたとえどん底だとしてもいつかはよくなるんだよ!
私が経験してきたことなんだから間違いない!
どんなにどん底でもどんなに落ち込んでも・・・
それを乗り越えた先には必ず幸せが待ってる。
だから今を精一杯生きなきゃだめなんだよ!
けんちゃんは甘えんぼさんだから・・・でもそこがかわいいんだけど!
人生は途中で投げたらだめ!
絶対いいことあるんだ!

私・・・幸せだった。
こんなに大切にされていっぱい愛をもらって。
なのに私はけんちゃんに何もしてあげられなかった。
でもきっと何か別の形で返って来るんだよ!
した分だけはきっと返ってくる!
返すのが私じゃない・・・それが悲しいけど・・・・・・。

長くなっちゃったかな?
昔はよくこうやって手紙書いたよね。
楽しかったな~・・・。

最後の最後のお願い。
わがままな私からの最後のお願い!
けんちゃん!絶対に幸せになってね!
ならないと許さないから!

今までずっと大切にしてくれてありがとう。
私は本当に幸せ者です。
もう何も・・・ないよ!
本当に幸せだったんだから!
だから・・・私のことは早く忘れて他の人を幸せにしてあげてね!







やさしくて素敵でちょっと甘えんぼでおっちょこちょいのけんちゃん!
最後に言わせてね!本当に最後だから・・・。

けんちゃん大好きだよ!
---------
治療受けないって言っちゃった。
だってぼろぼろになってまで生きてたら・・・
みんなに負担かける事になるから。
生きてても迷惑ばっかり。

---------
しんどいな~。
放っておくとどんどん悪くなるって言ってたけど本当みたい。

---------
けんちゃん何してるんだろ。
新しい彼女できたかな?
ちょっとくやしいな・・・。

---------
寝ても覚めてもけんちゃんの事ばかり考えてる。
今までも毎日考えてたしすごく楽しかった・・・
今は・・・悲しい思いしか浮かばない。
こんなのいやだ。

---------







---------
どうしてちゃんとした治療受けなかったんだろ・・・
ちゃんと受けてれば助かったのかな?
受けてればけんちゃんそばにいてくれたのかな?

けんちゃんいなくなるのが怖かった・・・。
だから私のほうから逃げた・・・。
でも・・・結局全部失った
何か残るって思ってた。
残ったよ・・・たった一つ・・・大きな後悔・・・


馬鹿だよね・・・私。
そばにいたかった・・・・・こんなに・・・好きなのに

ばか・・・・・

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そこで日記は終わっていた。

そのページだけしわくちゃになっていた。
涙でぬらしたのかもしれない。


こんなおもいをさせるなんて・・・
俺はなんで気づかなかったんだ・・・
なんて馬鹿なんだ。

治療してたら助かっていたかもしれない?


どうしようもない感情・・・やり場のない想い。


あいつが寂しい思いしてるなら・・・
あいつのところに行ってやるのが俺にできる最後のことなのかもしれない。


その思いを察したかお姉が口を開いた。

あの子の望んでいたこと・・・・・
一つはあなたとずっと一緒に過ごすことだったと思う。

でも本当に望んでいたのは・・・あなたの幸せ。
だからあなたに迷惑がかかるって思った時点で別れようって思ったんだよ。

どんなにつらくても・・・どんなに悲しくても・・・
あなたには生きて幸せになる義務がある。

あの子の事を好きだったなら・・・
罪滅ぼしをしたいって思ったなら・・・

生きて幸せになりなさい・・・。

本当に本当に幸せに・・しあ・・・

言葉にならない・・・・・でもお姉のその想いは伝わった・・・・・


生きて幸せに・・・・・。
ならなきゃいけないのか?
乗り越えなきゃいけないのか?

そんなのきれい事だ。
お前をいつまでも一人にできるわけない・・・・・。


いろいろな想いが頭を駆けめぐる。


どれだけたっただろう・・・
お姉が鞄の中からなにかを取り出す。


これがあなたに渡せる最後のもの。


手紙?

封はまだ切ってないから・・・何が書いてあるかわからない。
あなた宛だよ。
でもその中に・・・全部書いてあるんじゃないかな・・・。
想いも・・・願いも。





封を切るのが怖かった。
事実を知るとかそういうのが怖いんじゃなかった。

この手紙で・・・お前とは本当に本当に最後になってしまう。
お前との本当に最後のやりとり。
もう後にはなにもない。
そう思うと急に怖くなった。

お前との本当の別れ・・・・・
この手紙を読んだとき・・・


そのときが訪れるのだろう・・・・・・・
この数年間、毎日のように後悔をしてきた。

毎日のように苦しみ、眠れない日々が続いた。
悲しみに明け暮れた。

逃げる理由ばかり考えてた・・・・・。

お姉の話を聞くまでは俺は・・・



なぜお姉が恨んでいたか・・・その答えはあまりに大きすぎた・・・・・



静かに穏やかに話し始めた・・・


あの子はろくな治療も受けなかった。
治療を受ければ仮に生きながらえてもぼろぼろになってしまう。
それなら綺麗なままで・・・
それがあの子の望みだった。

私たちの言うことは一切聞かなかった。
意外と頑固なところもあるから。

誰の言うことも聞かなかったと思う。
ただ一人を除いて・・・・・。

何年も考えてようやく考えは変わってきたけど・・・



でももしあなたが気づいてくれたら、
気づいてずっとあの子のそばにいて治療するようにってすすめてくれたら・・・

別れる・・・それはあの子の決めたこと。
あの子の状態に気づかなかったのもあなたのせいではない。

もしあなたと別れる・・・そうならなかったら。

たらればを考えても仕方ない・・・。
でももしかしたら・・・どんなにぼろぼろでも生きていたかもしれない。
そう考えると・・・どうしてもあなたを恨まずにはいられなかった。

こんなのいけないってわかってるのに・・・。
ただあの子がいなくなった後、大分たってあなたが電話してきた。

どうしても恨み言を言わずにはいられなかった。

でもあの子のせいになっちゃってたね・・・・・。
あの子は恨んでない・・・恨んでたのは私。

どういう形であれ、あの子の望んだ形。
あなたには責任はない。
あなたにまでここまでつらい思いさせて・・・


悪いのは・・・弱いのはわたしなんだ・・・・・。



お姉の目から大粒の涙がこぼれた・・・。

俺は・・・俺はどうすればいいんだ・・・。
俺が離さなかったら・・・・・お前は助かってたのか?
頭が真っ白になった。

どれだけ時がたっただろう。

お姉が・・・鞄の中から一冊の日記を取り出す。



これが本当に最後の日記・・・。

出すつもりはなかった・・・。
もしかしたら読まないほうがいいかもしれないって。
いや・・・本当は読んじゃだめなんだと思う。
でも・・・あなたにも真実を知ってほしい。
それがあの子に対する私の贖罪・・・。

いや・・・私が姉としてあの子にできる最後のことなんだと思う。
あの子の最後の思い・・・気持ち。

それをわかってあげてほしいから・・・。

お願い・・・。




最後の思い・・・それを受け取って・・・
本当に最後・・・
本当に・・・
最後の日記。

その日記は大学に入学する・・・その日から始まっていた。
新しい環境で新しい日記を付ける・・・そんな感じの始まりった。

しばらくは二人のどうでもいい話。
日常の会話・・・電話、メールの内容・・・。
でも必ず俺のことが書いてあった・・・
ああ・・・愛されてたんだなって。


少し進むと・・・日付がずいぶん飛んでいた。

しばらく空いてその次の日記。


(原文)
------------------
体調が悪いので病院に行った。
後日精密検査を受けてくださいといわれた。

しばらくして精密検査を受けた・・・

検査の結果・・・
どういうこと・・・?
しっかり治療しないと危険な状況って・・・?

------------
すぐに入院をと言われた。
もうすぐけんちゃんの誕生日・・・
それまでは・・・


------------
けんちゃんの誕生日。
久々に自分の体のこと忘れて楽しめた。
最後の思い出かな・・・。
ありがと。

------------
今日けんちゃんと別れて来ました。
いとこのお兄ちゃんにお願いして・・・一時だけの恋人に。
はじめてけんちゃんについた嘘・・・。

別れを言ったとき案外けんちゃんあっさりしてた。
ちょっと悲しかったけど・・・
でもこれならすぐいい人見つかるよね。

------------



いとこのお兄ちゃん・・・・・
嘘だろ・・・
とんでもない衝撃だった。

ずっとお前に対して思ってたこと。
最後はどうせあの男になびいたんだろ・・・

もしかしたらこれだけが自分への慰めだったのかもしれない。
真実を知ったその後も。

六年間必死に守ってきた何か、
それが一瞬にして崩れ去った。

最後の最後まで俺のことを愛していてくれた。
それなのに俺は・・・・・
なんておろかなんだろう。

ふてくされて自分を責めて・・・
それでもどこかに持っていたお前に対する不信感・・・

お前は俺を裏切った。
だから俺も裏切ってよかったんだ・・・
そう思うことで楽になっていたのかもしれない。

気に病むことはない・・・お前も裏切ったんだから。
逃げ続けていた本当の真実。

絶対にお前はそんなことしない・・・そんなのわかってたのに。


本気で泣いた。
俺にとって真実はあまりにも重過ぎた。

裏切ったのは俺だけだ。
俺だけ・・・・・





お姉がやってくる。


そして・・・少し間をおいて話し始めた。


私があなたのことを恨んでいた本当の理由を教えてあげようか。
恨んでたのはあの子じゃなくて私。
あの子は恨んでなかったよ。
最後まであなたのこと信じて・・・愛してた。

どう?聞きたい?
今以上につらい思いすると思うけど・・・。


そして・・・俺が返事をする前に話し始めた・・・・・
五月のある日、俺は突然呼び出された。
雨の降りしきる五月の終わり。

俺の誕生日からちょうど一週間がたったその日。

このごろどうも元気がなかったお前を何とか喜ばそうといろいろ考えてた矢先だった。

昔買ってやった指輪、薬指にはめるとスカスカなんだというお前に
新しい指輪をと鞄の中に忍ばせていった。

今考えればそのときには指までやつれるほどの状況だったのか。

いつもなら必ず俺より先に待ち合わせ場所に来るお前が
そのときだけ遅れてきた。

男と一緒に・・・・・


この人と付き合うことになった・・・


そのときお前はいったいどういう気持ちだったんだ?
真実を知ってから何度も考えた。

そのときまだ俺のことを信じていたのか。
それともそいつのことが本当に好きになったのかとか・・・

ずっと逃げてばっかりで本当のことは今までわからずじまいだった。

そのあと荒れに荒れた。
お前との思い出は全部捨てた。
本当に何もかも・・・。
捨てても何してもお前のことずっと忘れられないと思った。

でも真実を知ったあと、なぜかお前の顔がはっきり思い出せなくなっていた。
あれだけ好きだったのに・・・
なぜか思い出せない。



唯一お前との思い出で処分しなかったもの・・・。
そのとき渡そうと思った指輪。

最初は捨ててしまおうと思った。
でも捨てれなかった・・・そのときはまだ淡い期待もあった。

もしかしたらまた俺のところに戻ってきてくれるかもしれない。
そのときに渡そうか・・・その程度の気持ちでそれだけは処分しなかった。

時間がたつうちにその存在も忘れていた。

そして真実を知ったとき・・・その存在を思い出す。


もう誰もはめることのない指輪。

お前との思い出は・・・一度も身に付けたことのない指輪だけになってしまった。







最後の日記・・・これに俺の知りたかったこと、
もしかしたらしらなかったほうがいいことが書いてあるかもしれない。
逃げたい・・・・・


でも逃げても進んでもお前は戻らない。

ならせめて逃げるのはやめよう・・・・・
お前のすべてを受け入れよう。
どんなつらいことがあっても・・・

それがせめてもの償いかもしれない。



ゆっくりと過去の扉を開く・・・・・
全く眠れなかった。
ただでさえホテルじゃ寝れない人間だ。
まして・・・。

身支度をして荷物をまとめて京都に向かう。

そしてついに京都に降り立った・・・。

もう逃げることもできない。
いや逃げちゃだめなんだ。

そして待ち合わせの場所へ・・・

姉ちゃんと数年ぶりの再会・・・。
ずいぶん変わった。
すごく大人びた気がする・・・。

それだけ時がたったということか。
俺が逃げてきた分だけ年をとった。

あいさつもそこそこ、言葉少なに姉ちゃんは付いてきなと促す。

そして着いた先・・・
姉ちゃんの親戚の家だった。

俺も何度かお世話になったことがある。
あいつと旅行に来たときに泊まったり。

何もない部屋へと通される。

そこに置いてあったのはただ一つの段ボールだった。

それを読めばわかるから。

段ボールをあけると・・・中身は日記だった。
大量の日記。

小学校四年生あたりからつけ続けていたらしい。
一つ一つ手にとって見てみる・・・。
毎日ではないし短い内容だがそれでもかなりの量だった。

小学校五年生の時の日記・・・

親のことで悩んでたこと・・・
俺たちの輪に加わりたくても加われなかったこと・・・
そして俺との出会い・・・。

それからは俺との内容が多くなっていった。

中二の時つきあい始めた頃・・・
初々しい内容だった・・・
こんな時期もあったんだ・・・。

二人でいろいろ行ったその内容・・・

そのあと俺が受験で失敗したこと。
そして色々考えて心配してくれてた・・・。

二人で行った初めての旅行、京都でのこと・・・
その後再び俺が受験で失敗した時のこと。

びっくりしたのは落ちた瞬間から全く迷いなく俺を支えてくれようとしたこと。
その後の親との一悶着の内容も書いてあった・・・。

そして俺がようやく大学に受かった時のこと・・・。
ようやく二人の夢が叶った・・・。


そこで日記は終わっていた。

しばらくして姉ちゃんがやってきた・・・。


その続きみたい?

俺は深くうなずいた・・・。


最後の一冊だよ。

最後の一冊を俺に渡して再び姉ちゃんはどこかに消えていった・・・。


いよいよ事実と対面するとき・・・
なかなかその一歩が踏み出せなかった。

意を決して京都に入った。

明日、いよいよすべての真実と向き合う。
その前にどうしても訪れておきたかった。

京都・・・あれから何度も訪れた。



いつも言い知れぬ思いを馳せながらこの地を訪れていた。
お前を失った悲しみ・・・断ち切れぬ思い・・・。
何回来ても変わることのない思い・・・悲しみ。
だが今回は違う・・・。
お前に対する思いを断ち切るために京都に来た。

いつもとは違う・・・。
表現のしがたい感覚。
もう思いは届かない・・・それを理解するために来た。

お前に嫌われていたとわかればあきらめもつくかもしれない。
俺は・・・どうなるんだろう。
あきらめがつくとかそういう次元ではないかもしれない。

崩壊するかもしれない・・・。
何もかも失うかもしれない。
無駄に過ごした数年間。
その間の唯一の支えすら失うかもしれない。

一歩でも前に進むために来たのに・・・
いつもの何倍も悲しい感覚がこみあげてくる・・・。




よくよく数えたら俺が一人で京都に来た回数の方が多くなってたよ。
高校生なのに無理して何度も京都にきたけど・・・。
お前と何百回と来た気がするのに・・・
それだけお前との旅行が楽しかったし濃かった。

青春18きっぷを使ってやすい宿に泊まったり、お前の親戚の家に泊まったり。
お金はあまりかけれなかったけど、それでも楽しかった。

今は新幹線に乗って、いい宿に泊まって・・・
そんなのお前がいないのになんになろうか・・・。

京都が楽しいなんてお前がいなくなってから思ったことはない。

それでも来てしまう・・・
未練があるのだろうか・・・

ここに来ればお前を感じられるから?

何なのかはわからないが自然と吸い寄せられてしまう。

京都に行きたいと思ってくる・・・
そして来た後必ず後悔する・・・・・
この数年間同じことの繰り返し。




京都の思い出は本当にたくさんある。

春夏秋冬・・・思い出。

秋・・・初めてつれてこられたのがこの時期だった。
    どうしてもって言うからついてきた京都の地。
    本当はディズニーだとかにいきたかったのに・・・。
    初旅行は京都・・・晩秋の京都。
    葉の散りゆく・・・どこかしら寂しさを感じる平安の地。


冬・・・雪の舞い降りる中、訪れたこの地。
    有紀・・・お前の名前の由来・・・
    京に舞い散るこの雪・・・この雪の中お前は生まれてきたんだね。
    お前にはやっぱりこの季節が似合う。
    お前の大好きな季節。
    寒いのは平気だからと寒いの苦手な俺を極寒の京都に連れて行った。
    古都に振る雪の中・・・お前が一段ときれいに見えた。



春・・・桜を見に来たのにすでに散り始めだった。
    散りゆく桜の中で立ち止まる俺たち。
    桜の花びらの舞い散る中、あまりの美しさに言葉を失った。
    奇跡を感じた瞬間だった・・・。
    桜吹雪に包まれて・・・・・俺たちは・・・。


夏・・・お前の一番苦手な季節。
    名前の通りこの時期は溶けてしまうって言ってたな。
    でもどうしてもすべての季節に来たいからってだけで来た。
    京都の夏は格段に暑い。
    

そんな中きたものだから・・・案の定お前は倒れてしまった。
幸い親戚の家に着く寸前だったから、俺がおぶって家まで行った。
そして、布団まで連れて行って、寝かせた。

そのあとふとお前が言った言葉。


死ぬときってこんな感じかな?
でも好きな人に看取られて死ねるなら幸せだな。
ちょうどこんな感じに・・・




俺は・・・お前の最期の願いも叶えられなかった・・・。
お前を見捨ててしまったんだ。
どうして・・・どうして・・・。



清水寺にやってきた。
一番お前との思い出が多い場所・・・。
京都に来たら必ずここに来てた。

おみくじはいつも凶。
それだけは今も変わらない・・・。
他のことはがらりと変わってしまったのに・・・
おみくじだけはなぜかいつも変わらず凶。
それは未来を暗示してるのか・・・。

お前と来たときはお前が守ってくれてたのに・・・。
もう俺を守ってくれる人はいない。
どうして凶しか引けないんだろう。


今回もやっぱり凶だ・・・。
どうしてこうなんだ、どうして吉を引かせてくれないんだ。


いつもならすぐに音羽の滝の方に降りていくんだが、
なぜか地主神社の方に吸い込まれていった。

お前と来ると必ず寄っていた神社。
清水寺に必ず行きたいって言ってたのはここに来るためだって
いつか言ってたな。

縁結びで有名な神社。
清水寺にきた回数と同じ回数だけここに来た。

二人の永遠の愛を願うために来た。
でもそれはかなわなかった・・・・・。

だからお前がいなくなってからは避けていた。
願ってももうかなわないから・・・。

願い事は・・・しなかった。
だがおみくじは引いた。

ここじゃ立場が逆転してなぜか俺がいいのを引いてお前はだめだった。


清水じゃなくてここで良いの引きたいのに・・・。

っていつもふてくされてたっけ・・・。
だからいつも俺のおみくじと交換してあげてたな。
それって良いのかって思ったけど・・・まあお前が喜ぶなら・・・。


今回も・・・大吉。

ここはものすごく相性がいいのかもしれない。
だがどんなにいいみくじをひいても縁結びの神様は俺にはほほえまなかった。

そして・・・今回は交換する相手もいない・・・。

おみくじを持ち帰ることにした・・・お守りとして・・・。


いろいろ思い出の地をまわって・・・そして決心をした。
ここまで来てもまだ逃げ腰だったが・・・。
明日何があっても受け入れるんだ。


どんなことがあっても・・・・・。

姉ちゃんと連絡を取っておよそ一週間。
俺は旅立つ決心をした。

姉ちゃんの待つ・・・そしてお前の待つ京都へ・・・。



京都・・・こんなにも早く再び訪れることになるとは。
お前のお父さんの出身地・・・そしてお前が8歳まで過ごした京都の地。

姉ちゃんが待っている京都・・・。


姉ちゃんは東京で仕事をしているが、京都で会うことを指定してきた。
お前が眠るであろう京都の地で・・・。

約束の日の二日前に俺は関西に入った。

どうしても京都に泊まる気が起きなかったので宿は大阪でとった。

大阪。


大阪・・・


京都旅行とあわせてよくきた大阪。
なぜか大阪まで来たのに一番よく行ったのは動物園。
天王寺動物園。


お前は動物園が大好きだった。
大して主張もしないお前が唯一連れて行ってくれと言う場所。

まだガキだったしあまり金のかからない動物園は重宝したんだが・・・。

でも俺はもともと動物園が嫌いだったんだよ。
お前がどうしてもって言うからいつもついていってただけ。

俺は行きたくなかった。
でもお前の喜ぶ顔が見たくて何度も行った。

動物園って普通何時間くらいいるものなんだろう。
一時間?二時間?
でもお前といった時は朝から夕方まで。

ずっと動物に見入ってるお前。

ずっとお前に見入ってる俺・・・。

動物に集中してかまってもらえない・・・
と思いきや色々動物について説明してくれる。
ちゃんとこっちのことも気にかけてくれる。
お前のそういうきちんとした心遣いが好きだった。

別に動物に集中してればいいのに・・・。
俺がいるばっかりに集中できなかったかな?
でもお前のその優しい笑顔が好きだった。
・・・今でも好きだ。

ある時お前が聞いてきた。
何の動物が好き?

って。

俺は動物は大して好きじゃなかったんだが、猫だけは好きだった。
だから猫って答えた。
・・・何言ってんだ俺・・・。

動物園に猫っているのか・・・。
普通の猫・・・。

猫・・・ここにはいないねぇ~・・・。
なら今度ペットショップに見に行こうか・・・。

って。

何か完全に的外れな俺を一生懸命フォローしてくれたっけ・・・。

何回も何回も動物園ばっかり行くもんだから、
お前のおかげ(?)で俺まで動物園好きになっちゃったよ。
うちじゃ動物飼えないし・・・
男一人で動物園に行っても変態だと思われるし・・・
どうしてくれるんだよ・・・。
もう一度行きたかった。
お前と全国の動物園を巡りたかった・・・。
お前の笑顔が見たかった・・・。


でももうかなわないこと・・・。




俺は・・・俺はまだ生きなければならない。
お前をおいていかなければならない。

お前をおいて旅立たなければいけない・・・・・
友人はただ一言・・・

無事に帰ってこいよ。

一言それだけ言って別れた。


友人と会ってから色々考えた・・・
俺は逃げていた。
何もかもが怖くてただ逃げ回っていただけ。
前に進もうとも考えなかった。

しかしあの会社に入って、そしてあの子に出会って・・・

初めて前に進もうと思った。
初めて前に進みたいと思った・・・。




俺はお前から逃げていた・・・
お前から、そしてお前の姉ちゃんから・・・
怖かったんだ、お前の気持ちを知るのは・・・
勝手に美化して、そして思い出としてとっておきたかった。
自分勝手な男だよな・・・

でも初めて知りたいって思った。
お前の気持ち・・・俺に対する恨みかもしれない。

ようやくそれを受け止める覚悟が出来たよ。

事実を知らなければ、
今でも愛してる・・・それを軽々しく言えなくなる・・・。

俺はお前を愛してるよ・・・
お前が最後に俺のこと嫌いになったとしても・・・
俺はお前を愛してる・・・

姉ちゃんに会ってすべてを聞くよ・・・。
本当はお前の口から聞きたかったけど・・・
まだ早いみたいだ・・・。
だから姉ちゃんに会って聞く。

怖い・・・逃げ出したい・・・でももう逃げない。
いつまでも前に進めない・・・それは困るから。




ようやくすべてを聞く決心をした。

決意・・・

それほど大げさなことではないのかもしれないけど・・・
俺にとってはとんでもなく大きな壁だった。

大きな壁を越えて、その先にあるのは・・・


次の日・・・俺は姉ちゃんに連絡をとった。
何年ぶりだろう・・・。
何度かかけかけてはやめて・・・
そしてようやく意を決して・・・・・

幸いにも電話番号は変わっていなかった。
姉ちゃんが電話に出る。


久しぶりね・・・。
急にどうしたの。

どうやら覚えててくれた・・・
それはそうだ・・・あれだけ恨まれてたんだから。

どうしても会いたいということを伝える。

ようやく覚悟できたんだね・・・。
どんな現実が待っていてもいいんだね?


俺は決意を伝えた・・・。


そう、なら待ってるよ。
いつでもおいで・・・
ただし・・・知らないほうがいいこともあるんだよ。


知らないほうがいいこと・・・
どんなことでも受け止める・・・そのつもりでいたが・・・
いったいどんなことが待ってるんだろう・・・。

恨んでるだけじゃないのか?
それならそれで覚悟は出来ている・・・。

恨んでいるって事はそもそも聞いたんだ・・・。
知らないほうがいいこと・・・
もしかしたらとんでもない事実・・・なのか。

そう考えた瞬間・・・頭が真っ白になった・・・


俺は・・・俺は・・・・・・。