久々に友人と会うことになった。
すごく仲のいい友人。

こいつとは幼稚園のころからの付き合いだ。
本当に仲良くなったのは中学校に入ってから。
中学のとき同じクラスになってそのあと高校もずっと同じ高校。

一番の親友。
本当に仲がいいしお互いなんでもしゃべる。
しかし不思議と有紀のことだけはしゃべったことがなかった。

お互い恋愛に関しては何も言わなかったし聞かなかった。
なんか言わないほうがいいというか言わなくてもわかるというか。
だから有紀のこともこの数年間何があったのかも話したことがなかった。

俺が落ち込んでいたのは知っていたし色々気を使ってくれた。
今彼女いるのかって聞かれていないって答えたら色々紹介してくれたりもした。

ただそれでも俺は有紀のことを話さなかった。


近所のファミレス・・・

友人と会食。

最初はくだらない話から仕事の話・・・
そして・・・・・・

俺は話し始めた。
有紀のこと・・・この数年間のこと・・・・・。

こいつと出会って二十年弱・・・初めて恋愛の話をした。


俺はずっと何かが引っかかっていた。

あの子と出会って・・・そして色々な人に助けられて。
ようやくやる気も生きる気も出てきた。
でも何かが引っかかっていた。

こいつに話しているうちにようやくそれが何なのか気付いた。

奇麗事ばかり言っているが・・・俺は・・・。

俺は有紀に恨まれていたんだ・・・。
有紀が遠くに旅立つ直前・・・俺に恨み言を言って・・・。
有紀の姉が言っていた。


姉・・・・・・。



俺はすっかり忘れていたんだ。
お前の気持ち・・・そしてお前の姉ちゃんの気持ち・・・。
まったく考えずに俺ばっかり背負うだのお前を忘れないだの。
何もかも完全に無視してた。
結局自分のことしか考えてなかったのかもしれないね・・・。

二人姉妹ですごく仲のよかったお前たち。
俺が知ってるころにはお前の家族は若干雲行きが怪しかったけど・・・
二人はすごく仲がよかった。
親があれな分、余計に団結してたのかな?

すごく面倒見のいいお前の姉ちゃん。
俺が初めてお前の家に行ったとき、すごく怖い目で俺を見た。

今考えると娘の彼氏を見る父親の目・・・みたいな感じ。

とにかくお前に呼ばれて家に行っても最初はいい顔されなかった。
親はいなかったけど姉ちゃんがいた。
だからなんか恐る恐る家に入っていた。

でもだんだんとお前の姉ちゃんも許してくれたのか・・・
いやな顔しなくなっていった。

そのうち手作りのお菓子を出してくれたり
遅くなると夕食を作ってくれたり・・・俺にとってもいい姉ちゃんだった。
たまに三人で遊びに行ったりもしたね。

そんなのが姉ちゃんが東京に行くまで続いた。
二つ上だから俺らが高一の終わりのときだったかな?
姉ちゃんが東京に行くって聞いた時すごくショックだった。
俺らに勉強を教えてくれたり、ご飯出してくれたり。
俺にとっては姉ちゃんだったけど、
お前にとってはお母さんでありお父さんだったね。

引越しの荷造りの手伝いしててもお前途中でいなくなったし・・・
何してんだって見に行ったら・・・お前ボロボロに泣いてたね。

新幹線のホームで見送る時も・・・お前はボロボロだった。
俺も悲しかったけどお前があまりにもボロボロだから泣けなかったじゃないか。

姉ちゃんいなくなってしばらくはお前、うわの空だったな。
そのあと何とか立ち直ったけど・・・
あの時は本当にどうなるかと思った。

お姉ちゃん子のお前。
ちょっとだけ姉ちゃんにジェラシー・・・。
それだけ仲良かったんだろうな。

姉ちゃんが東京行った後も追いかけて東京に行くことだけ考えてたお前。
あと何年で姉ちゃんと暮らせる、あと何ヶ月で暮らせる。
ずっとその事が頭にあったんだよな。

だから俺が大学落ちて、浪人生になったとき、
お前が付き合ってくれるとは夢にも思わなかった。
あれだけ好きな姉ちゃんとの生活をあきらめて俺についてきてくれた。
あまり好きじゃないお母さんとの生活に耐えてまで俺についてきてくれた。
お前が好きなのは一番が姉ちゃん、俺は二番手以降だと思ったから。

でも俺の方を選んでくれた・・・。
本当にうれしかったし感謝してもしきれない。
絶対に見捨てないし支えてくれるって言ってくれたお前。


なのに俺は・・・俺は最後でお前を裏切った。
最後の最後で信じてやれなかった・・・。


だから恨まれて当然・・・・・
お前にも姉ちゃんにも・・・・・

俺はお前に謝っていない・・・

姉ちゃんにも・・・。





許してもらおうとは思わないし、許されるはずもない。

俺は数年間ずっと逃げてきた。
有紀が俺を恨んでたということを認めたくなかったのかもしれない。
姉ちゃんが言った俺を恨んでいたという証拠・・・。

それが何なのかまだ確認してない。

証拠を見る勇気があるの?
見る気があるならいつでもおいで・・・。

姉ちゃんの言葉が今も頭を離れない。




もう逃げるのはやめよう・・・。
どんな現実でも受け止めよう。

お前が俺を恨んでいたとしても・・・

俺がお前を愛していた・・・今も愛しているということに変わりはないから。

本当にお前が俺を恨んでいたのなら・・・覚悟を決めよう。
直接謝りに行こう・・・


俺は・・・俺は今でもお前を愛してる・・・・・
いよいよ正式なオープンの日。

俺はもちろん呼ばれない。
非常勤の人間だから。

俺に割り当てられたのは週に一日だけ。
まあ非常勤の人間は基本的にそういう感じになっている。

なんとかあの子のいる日に割り当てられたようだった。

呼ばれていないのだが撮影ということでやってきた。

みんなおもむろに緊張しているようだ。
まあ無理もない。

あの子は・・・やっぱり緊張してるみたいだ。
カメラを向けてみる・・・
精一杯おどけて・・・・・・少し笑ってくれた。

アイちゃんは・・・やっぱり緊張してるみたいだ。
いつもばかばっかりやってるけど・・・
さすがに今日という日はアイちゃんにも堪えてるようだ。

俺と違ってみんなはこの会社を背負っていかなければならない。
だから緊張して当然・・・




背負っていかなければならないもの・・・・・・。




俺はお前を背負って生きていかなければいけない。
ずっとそう思ってた。
お前が本当に会えないとこに行ったと知った時から・・・。

ごめん・・・ずっと重荷になってたんだ。
背負うって意味を履き違えてたよ。

お前に贖罪しながら生きていかなければいけない。
ずっと謝り続けないといけない。
そして自分を責め続けなければいけない。
ずっとそう思って生きてきた。


・・・でもここに入って考えが変わったよ。
みんなの優しさに触れながら・・・。

謝らなければいけない・・・それは当たり前のことだ。
最後の最後でお前を信じてやれなかった。

でも自分を責め続けるのはもうやめることにした。

誰かが言ってた。
人は二度死ぬんだって・・・。

一回目は魂が肉体から離れた時・・・
二回目は人々の記憶から忘れられた時・・・。

もうお前を死なせないよ・・・
俺が死ぬまでは絶対に死なせない・・・

そして今度は一緒に死のう・・・。

でももう少し時間がかかりそうだよ・・・
俺ばっかり生きててごめんな。

他の人を好きになってしまうかもしれない。
いやもう好きな人はいるんだ。
・・・ごめん。

でももうお前を死なせたりしないから・・・。

勝手なやつだけど・・・
お前だけを背負って生きていくのはもうやめにする。

本当は今すぐにでもお前のところに行きたい。
今でもそう思うことはある・・・。

でもまだやり残したことがあるんだ・・・。


もう少し・・・時間をください。

もう少しだけ・・・
ついにオープンの日がやってきた。
正式な始動は明日からだが。

いろいろな人が見学に来る、議員だとかなんだとか。
まあそんなことはどうでもいい。

昨日、心機一転を誓ったばかりだというのに
また憂鬱の状態になってしまっていた。

あの子と会うことももうほとんどない。
考えまいと思っていたが・・・どうしても考えてしまう。
まだ完全に立ち直ったわけではない・・・。

いろいろ考えているうちに見学会もおわり・・・
オープニングレセプションの会場へと向かった・・・。

この会社にとっては今日が始まり・・・
皆のいろいろな思いを乗せ・・・。
そして動き出す。





始まりがあれば終わりがある。

お前との始まり・・・・・
小学生の時にまでさかのぼる・・・。

小学校五年生の時。
とある塾でお前と出会った。
出会ったと言っても最初のころは、
まったくといっていいほど関わってなかったね。

休憩時間中、お前は話の輪にも入らずいつも一人で本を読んでいた。
妙に仲のよかった俺たちのクラス、男女関係なし。
・・・なのにお前だけ話の輪には入ってこなかった。

その時は暗い子だな~って思ってた。

ほぼ毎日塾で会ってたんだけど・・・。
お前はいつまでたっても俺たちの輪に入らなかった。

俺は何度か声をかけようとしたけど、
その度に友達に止められてた。

そっとしておいてあげなよ・・・。

その子は事情を知ってたみたいだけど・・・。
まあ子供ながらに皆、聞いちゃいけないことなんだろうって思ってたんだろう。
だからみんな関わらなかったんだ。

そのままずっと関わらずに終わり・・・にはならなかったな(笑)


初めてお前とまともに関わったのは塾の夏合宿のとき。

うちの塾は夏合宿というふざけた行事があった。
一週間程度、いたいけな小学生を田舎の合宿所に監禁して
強制的に朝から晩まで勉強させるというふざけた行事。

他のメンバー同士はすごく仲がいいのに・・・
十人程度のクラスだからすぐ仲がよくなった。
それなのにお前は・・・・・・。
ちょっと許せなかったのもあったかもしれない。
おれは馬鹿だからそういう裏の事情とかに疎かったし・・・。

飯の時間、たまたまお前が隣になった。
いろいろ聞いてやろうって思って無茶苦茶に話しかけた。
内容はよく覚えてないけど・・・なんなんだろうな?
いつも何の本読んでるのとか、多分そんな感じ。

お前、なに聞いても大して反応しない。
なんか戸惑ってる感じだった。

俺、多分イライラしてたんだろうな。

突然とんでもないことを言った。


君がどうしてそんなになったかは知らない。
でもここにいる以上、仲間なんだよ。
つらかったらなんで一人で抱え込むんだよ。
友達とか仲間ってそういうときに力になるためにいるんだよ。

ってここまで書いて本当に俺がここまで言ったのかって思う。
いまいち記憶にないんだけどな・・・。
まあお前がそういう風に言ってたよって言うんだから多分そうなんだろ。

こんな舌を噛みそうなセリフ本当に言ったのか・・・。
今だったら絶対にいえない。
てか友達とか仲間とかって言えるほど関わってもない・・・。
でもまあ子供だからある意味純粋だったのかな・・・。
一緒に過ごすだけで友達とか仲間って言える・・・そんな時代もあったんだな。

まあいいや。

で、これを言ったあとお前は走ってどっかいっちゃったな。

他の友達には、

あ~あ、やっちゃったね。

とかいろいろ言われたけど・・・。
・・・やっちゃったのか、俺。

ということがあったがまあ何事もなかったかのように続く合宿。
やばって思ったけど、授業にはちゃんと出てきてたし、まあいっかって(笑)

まあ一週間の合宿、色々あったけどまあここで書いても仕方ない。

そして、合宿の最後の夜。

夜に一時間ほど長い休憩があるんだけど、
その時間はその施設にあるもの何をつかってもいい。

みんなバスケをしたりサッカーをしたり。
うちの塾、結構大手だからかなりの人数がいたんだが、
そういう普段関わらない人とのふれあいの時間でもあった。

いろんな人と仲良くなった。
子供ってそういうとこがすごいって思う。
まったくかかわりのないのにこの合宿でたまたま一緒に遊んだってだけで、
いまだに仲のいいやつもいる。

まあ重要なのはそんなことじゃないんだ。

最後の夜。
その休憩の前の短い休憩の時にお前から手紙をもらった。

内容は・・・

話があります。
校舎の裏の川のほとりのベンチに来てください。

だったかな。
校舎の裏に小さな川が流れててそこにベンチがあったんだっけ。
俺はそんなところに行かなかったからそもそも川があることも知らなかった。

でまあ休憩時間になり他の仲間から色々誘われたけど、
気にもなったし約束の場所に行ってみた。

そしたら誰もいない中ぽつんとお前が座っていた。
横に座る俺・・・。

どした?

ちょっと話したいことがあって。

なに?

・・・淡々と聞く俺。
まあ友達と早く遊びたかったんだけど・・・。

で、呼び出してごめんなさいとか何とか色々言ってくるから、

本題は?

って聞いた。
すごく冷たい俺・・・。
あはははははは・・・・・・。

そしたらお前、色々話し始めたね。

父親が単身赴任で家にいないこと。
母親は父親がいないのをいいことに家を空けることが多くなったこと。
姉ちゃんと二人で家にいることが多くなったこと。
姉ちゃんがずっと家事をしてること。
そのことを父親にいえないってこと。

こんなこと話したらみんなに迷惑かけるってこと。
関わればいつか話しちゃうかもしれないって思ってたこと。
だからみんなと関わらなかったこと。

そして・・・俺が言った事、すごくうれしかったってこと・・・。

正直、お前が走ってどっかいっちゃった時、俺すごく心配になった。
余計に壁が出来ちゃったんじゃないかって。
でも結果的に俺のおせっかいはよかったんだな。
お前が心を開いてくれるきっかけになったし・・・。



あと三十分くらいしか休憩残ってなかったけど・・・
お前をみんなのところに連れて行った。

それでみんなに、

色々事情がある子だけど、今日から正式に仲間に入るから。
ちょっと悩んでて元気ないけど励ましてあげてな。

って。

なにリーダー気取ってんだ俺。
今考えるとすごく恥ずかしい・・・。

でもみんないいやつばかりだからすぐにお前も溶け込めた。
本当にいいやつばかり。

その後は・・・色々あったけどまあ塾の中じゃうまくやっていけたな。
家庭の問題も時間が解決してくれたみたいだし。



お前にとっての始まり。
俺たちにとっての始まり。
本当に意外な展開だったけど・・・。




始まり・・・。




オープニングレセプション。
俺は本業がカメラを扱う仕事ということで、
レセプションの模様の撮影をお願いされた。
会場の雰囲気は別の正式な人間がとっているので
俺が撮っているのは主にスタッフの様子。

色々な人間の祝辞やその他つまらない事も終わり皆が会食へと入っていく。

俺たちスタッフも一息つける。
色々撮影しつつスタッフ一人一人に意気込みを聞いていった。
うれしげに色々ポーズをとるおばさん、
恥ずかしがって逃げ回るおばさん、それを追い掛け回す俺・・・・・。

あの子の時だけ少し長めに撮影したのは内緒だ。

ひと段落してアイちゃんとカメラを使って馬鹿をやっていると
あの子も話に入ってきた。

カメラについて色々聞いてきた。
俺が使ってるのは小型だがプロ用だ。
ちょっと複雑だがあの子にも撮らせてあげた。

テンポよくすすむ会話。
いつの間にかアイちゃんがいなくなってた。
気を使ってくれたのかもしれない。
今まで変に意識してほとんど進まなかった会話。

自然体でいいんだ・・・。

会えなくなるといってもまったく会えないわけじゃない。
常勤の人間と非常勤の人間。
でも機会がないわけじゃない。
自然の流れに身を任せよう。

何かフッと、からだが軽くなったような気がした。



始まり・・・。
本当の始まりはここからなのかもしれない。



まだ誰も知らない結末。
いったいどうなっていくのだろう。



少しだけ流れを楽しむ余裕が出てきた・・・のかもしれない・・・。
打ち上げ会場は研修場の近所のイタリアンレストラン。
そこに向かう途中、辻川さんがこういう話をしてくれた。

あの子は性格が私と同じ、血液型も同じO型だし。
だからわかるの。
あの子がどういう人をかっこいいと思い、どういう人がだめなのか。
今のあなたじゃ厳しいよ。
あの子はがんばってる人が好き。

俺は・・・人生を半分投げていた。
人を好きになってはいけなかった。
じゃあどうすればいいのか。
そんな簡単なこともその時すぐには気がつかなかった。


打ち上げ場所にあの子の姿は・・・なかった。
どうやら用事があって帰ったらしい。
アイちゃんもいなかった。
残念だが・・・仕方なかった。

結果二人がいないほうがよかったといえるのだが・・・。
とにかくその場にあの子はいなかった。




俺のそばにお前はもういない・・・。
別れてすぐの時は、どうせあんな男とはすぐ別れる・・・
そしてまた俺のとこに戻ってくる・・・。
そういう考えがどこかにあったのかもしれない。


お前と別れて半年くらいたったある日。
俺はお前の友達から衝撃の事実を聞いた。

俺はその真偽を確かめるためにお前の姉ちゃんに連絡を取った。
なかなか連絡がつかなかったけど何度かトライしてようやく連絡がついた。

姉ちゃんの口からもその事実が語られる・・・
俺は無言で電話を切った。


なんで俺はお前を信じてやれなかったんだ・・・
ずっと付き合ってきてずっと信じてきて・・・
ずっと支えてくれて約束も絶対破らない
嘘なんてついたこともなかったお前が・・・

初めてついた嘘をどうして俺は見破れなかったんだ。
いったいなんの安物トレンディドラマだよ。

俺は一週間くらい・・・多分そのくらいふさぎこんでいた。
多分というのはまったく記憶がないから。
心配して様子を見に来た友人に発見されて何とか事なきを得たらしい・・・。

この友人がいなかったら多分そのまま死んでたんだろう。
別にその時は死んでもよかったんだ。
この世に生きること自体が生き地獄な状態だったと思う。

お前のいないこの世で、どうやって生きていけばいいんだ?
また何かの縁でお前と再会してそしてよりを戻す・・・
そんなことを勝手に想像して何とか半年間やってきたのに・・・

まあこの辺りの記憶は本当にほとんどない。
友人に聞いた話を書く・・・。

俺はそのあと何ヶ月か茫然自失で何もできない状態だったらしい。
友人が飯を作ったり洗濯したり・・・風呂に入れたり・・・・・・。
介護の必要な老人状態。

その友人がいてくれたから俺は何とかこうして生きている。

どうやって動けるまでに回復したかまったく覚えていないが、
俺はようやく動けるまでに回復した。

そして回復してまず俺がしたこと・・・
お前の姉ちゃんに連絡を取った。


墓前に手を合わせたい・・・・・


そ、それは無理。
あの子との約束だから。

約束、あなたには来てほしくないって。
あなたのこと恨んでたから・・・。


恨んでた?


そう、恨んでた。
証拠あるよ、あなたにその証拠を見る勇気があるの?


恨んでいる・・・
そりゃそうだろうな・・・あれだけしてくれたお前を
俺はあっさりと見捨ててしまった。
たった一度の嘘も見抜けずに俺は・・・・・
反論の余地はなかった。

引き下がるしかなかった。

友人には本当に感謝している。
あいつがいなかったら俺はもういないんだから。

有紀の代わりを・・・・・って言って。
なんでここまでしてくれたのかはわからないけど
とにかく世話好きなやつだから。
俺もあいつのために何かしなきゃ、
少しだけ生きる力が出てきた。
ふさぎこんで数ヶ月ようやく少しだけ「時」が動き出した
・・・ような気がした。




動き出した「時」・・・・・・・・。

乾杯から始まる最後の宴。
最後じゃないが俺には最後に思えた。
これが終われば・・・

辻川さんが俺のことを心配してくれたのか横に座ってくれた。
あの子はいない・・・
正直打ち上げなんてどうでもよかったし少し悲しかった。

宴も中盤に差し掛かったころ、
四郎さんが俺らの席にやってきた。
辻川さんたちとぼちぼちやっていたのだが・・・
完全に四郎さんの独演状態になった。
のめのめと勧めてくる。
俺は飲まない・・・一度痛い目を見ているから。

仕方ないので俺は寝たフリをしていた。

しばらくして違う席の山口さんにこっちにくるようにと言われた。

寝るんじゃない・・・・・そう怒られた。

お前は何か暗い・・・何かつらいことがあったのかもしれないが。
何かあったら手を貸すから言ってくれ。
俺もお前に力を借りなきゃいけないこともある。
でも暗いのはだめだ・・・。
明るく盛り上げていこう。

俺は・・・泣いた。
有紀を失って以来、本当の意味で泣いたことなんかなかった。
寂しさで泣くことはあったが、何かが心に響いて泣いた事は無かった。
普通のやさしさに触れただけかもしれない。
多分有紀を失ってから何度となく触れてきた人のやさしさ。
でも今までの俺は正直ありがた迷惑に感じていたんだろう。
素直じゃない自分、ひねくれた自分、それが当たり前のものだった。

でもここに入って以来何かがおかしい。
俺の気持ちが少しずつ変わり始めたのかもしれない。
思えば研修中にも幾度となく人の優しさに触れてきた。
当たり前じゃない人の優しさ・・・。
こうも優しい人ばかりなのか・・・そう思うくらいみんな出来た人たちばかり。


そして山口さんは他の席へと移っていった。


残ったのは温本さんだけ。
その温本さんが一言こういってくれた。

男なら泣くな・・・・・。


普通に聞いてもなんとも思わない言葉。
でも俺にはいろいろな意味が込められているように感じた。

今までの俺に対する言葉・・・それと決別するための言葉。
一言に込められたすべて。
温本さんがどういう意図で言ってくれたかはわからない。
だが・・・

男なら泣くな。


この言葉がすべてだと思った。

すべてから逃げ、何もかもが投げやり、やる気も無く。
何かに一生懸命になることすら忘れてしまった。

考えてみれば有紀を失って以来、いつも泣いていたんだと思う。
寝ても起きても心の中でずっと。
忘れようとしても忘れられない・・・

ゆっくりでも少しだけ動いていたと思っていた「時」は、
実は有紀を失って以来まったく動いていなかった。
それは俺の心の時計・・・
一秒たりとも進んではいなかった。

俺はずっと泣かなかった。
しかし心が・・・泣くことをやめていなかった。
ずっと俺の時計を自分自身で止めていた。


俺は温本さんにすべてを話した。
有紀のことも失ってからのこともすべて・・・。

今まで自分から人に話したことは無かった。
このことを知ってるやつは数人しかいない。
どんなに仲のいい友人でも話したことは無かった。
その時その事が起こった場所にいた奴が知ってただけ。

辻本さんにも聞いてもらった。
どうしても話したい相手だったから。
あの子に対する思いを知ってるのは辻本さんだけ。
なぜ、あの子が気になったか・・・
ようやく話すことが出来た。


止まっていた本物の「時」はようやく動き出した。


本当に少しずつ・・・少しずつ・・・・・・。
いよいよ研修も今日で終わり。
もう・・・あの子とも会う機会もほとんどなくなるだろう・・・。

これが運命なのか。

研修は淡々と進み・・・そして終わりを迎えた。

研修も終了ということで皆で打ち上げに行こうということになった。
すべてが終わった気がした。
これで終わり・・・。





終わり・・・終焉の時。
お前との終わりのときは今でも鮮明に覚えている。
その時は突然にやってきた。


一年間浪人して・・・そしてはれて二人で東京にいけることになった。
同じ大学同じ学部・・・。
付き合い始めて五年くらい・・・ようやく同じ学校に通える。
しかもこれから毎日。
楽しみで楽しみで仕方なかった。
そしてほぼ同じカリキュラムを選びずっと一緒にいられると思った。
最初の一ヶ月は本当に幸せだったよ。

忘れもしない5月のある日・・・。
お前は話があるといって俺を呼び出した。
深刻な声で電話してきて何かと思ったよ。

待ち合わせの場所・・・。
お前は・・・別の男とやってきた・・・・・・・
そして・・・

この人と付き合うことになったから。
バイバイ・・・。

意味がわからなかった。
本当に何が起こってるかわからなかった。

でも俺はこういうときに限って変なプライドがはたらく・・・

ああ、そう・・・幸せにな。

これしかいえなかった。
それ以上の言葉は何も出なかった。

じゃ・・・・・。

これがお前の最後の言葉。

呆然と立ちすくす・・・俺。
その時はまったく頭が働かなかった。

今、その場に戻れるなら殴ってでもそんなこと言わせなかった。
抱きしめて離さなかった。

でもその時は何も知らなかったし俺自身が終わりだと思ったんだ。

その後、俺はお前との写真、手紙、その他の思い出の品・・・
全部捨てた。
そういうときに限って徹底的にやってしまう。
変なところできっちりしてる。
何で一枚くらいとっておかなかったんだろう。

もうお前の顔がはっきりと思い出せないよ・・・。
泣いてもわめいても戻ってこない。

俺はボロボロになった。
大学もやめ無茶苦茶な生活をした。
金だけはかかるのでバイトはしていたがそれ以外のときは
お前を忘れることに必死だったよ。

何もなくなった俺・・・。
もう生きていく気力も失って何度死のうと思ったか。
でもそういう状況ですら死ぬ勇気すらない。
もう無駄に生きていくしかない・・・。

毎日が地獄だった。
もうお前と会えない・・・忘れようとしても忘れられなかった。




もうあの子とも会えない・・・。
まさにその時と同じ感覚だった。
研修が終わってしまうのが恨めしかった。


研修は終わり・・・・・
そして打ち上げ場所へと皆で向かっていく・・・。
一ヶ月ちょっとの研修もそろそろ終わりを迎えようとしていた。
この研修が終わればあの子ともほとんど会えなくなる・・・。
一抹の寂しさとやるせなさが俺をおそった。
研修の終わり・・・それはある意味別れの時なのかもしれない。
みな一様に、迫るオープンの日に向けて士気を高めている・・・
しかし俺は・・・・・マイナスの感情しかわいてこない。
別れではないけど別れの時・・・。
もう経験したくない感情。




別れ・・・

俺は3度目の受験も失敗してしまった。
なんと馬鹿な人間だろうと嘆いたね。
お前ははれて志望校に合格。
俺は・・・俺は浪人だ。
東京の超一流大学に現役で合格したお前。
そして俺は・・・
地方に居残り・・・・・・。
それはすなわち別れを意味してた。
こんなに好きで好きで仕方ないのに・・・
離れ離れになるなんて・・・
口には出さなかったけど俺ボロボロに泣いちゃったね。
ああ、これでお前とは終わりだなって思ったよ。

東京に行けば俺なんかより何倍もかっこいいやつが山のようにいる。
お前もどうせ俺なんか忘れてそういうやつと付き合うんだろ。
もう別れよう・・・。

そういって俺はお前の前から走り去った・・・。
彼岸を過ぎてもなお寒さの残る並木道。
俺はお前をおいて去っていってしまった。

本気で死にたいとも考えたよ。
でもその勇気すらなかった。
簡単に死ねるやつってある意味すごいよ。


お前から何度も携帯に着信があったけど全部着信拒否。
もう関わりたくなかった・・・。
お前に嫉妬してたのかもしれないね・・・。
四月から東京で華やかな暮らし・・・。
俺があこがれてきたものをお前だけが手に入れた。
そして俺は・・・自分が惨めで仕方なかった。

なんでお前をこころよく送り出してやれなかったんだろう。
予備校が始まるまでの何週間か自責の念で押しつぶされそうだったよ。

そして予備校が始まった。

初日・・・

そこで俺はとんでもないものを発見してしまった。


何でお前がいるんだよ・・・。
お前東京にいるんじゃないのか?
いろいろ考えて、そして頭が真っ白になった。
お前は一言・・・

約束は守るから・・。

約束?何のことだ??
しかしあまりにも唐突すぎてその言葉すら出なかった。
言葉にならない言葉を発してたと思う。
ぅぅうぁあみたいに・・・。
ぽかーんとしたまま予備校の初日が終わった。

その後お前を連れてカフェに入ったんだっけ?

俺は事情を聞こうと思ったけどやっぱり言葉が出ない・・・。
お前は察したのか勝手にしゃべりだしたね。

親には一年間だけ猶予をもらいました。
あなたと離れて暮らすなんて考えられません。
だからここにきました。
来年必ず一緒に東京に行こうね・・・。
約束・・・覚えてない?
私はあなたを見捨てないよ。


絶対に支えるから・・・。


そんなことあったっけ?
その言葉すらでない。
唖然呆然愕然・・・。
とにかくお前が目の前にいることすら信じられなかった。

後日お前の姉ちゃんから聞いたんだけど、
親を説得するの大変だったんだってな。
家を出て予備校のお金も自分で出してバイトもして。
結果、何とか親のほうが折れてくれたらしいけど・・・
そこまでしようとしてでも俺についてきてくれたお前。

無茶するなよ、ほんとに・・・。
女の子のくせに無茶が好きだよな。
おしとやかなのかおてんばなのか・・・。

俺の友達からどこの予備校に行くとかどのコースに行くとか
全部聞いて・・・それで俺のところに来てくれたんだよな。
なんでそこまでできるんだよ?

俺はお前に何かしてやったことなんかないのに・・・。
本当に・・・本当になにもしてやれなかったな。



別れではないけど別れ・・・
その時、俺は本当の別れを選択しようとした。
しかしそれは有紀の無謀な行動によって何とか阻止された。



ただそれも今回の話には通用しないこと。
別れではないのに別れの寂しさ。
俺はそれに押しつぶされそうになっていた。

そして思わずアイちゃんに言ってしまった。
あの子が有紀に似ていると・・・。
そしてどうしようもない感情にさい悩まされていることも。

アイちゃんは何も言わなかった。
いや、何かはいったんだと思う。
ただあまりに苦しくてよく覚えていないだけだ。
俺の記憶の中では何も言ってないことになっている。



そして、ただ・・・ただ時が過ぎていくのだった。
研修の場所に来るとなぜかクッキーだのチョコだのいろいろ置いてある。
なんか色々甘ったるい。
・・・今日はバレンタインデーらしい。

前の日の帰りに二十歳の子と話をした。
この子には、以前告白されたことを言っている。
それでいろいろ話しているうちにこういう話になった。

告白するならバレンタインデーにしてくれればよかったのに・・・。

なんで?

俺にとってバレンタインデーって特別な思いがあるから・・・




特別な思い。
そう、お前にも話をしたね。
俺は生まれてただの一度もバレンタインデーに告白されたことなかった。
関係ないときに告白されたことは何度かある。
ラブレターももらった。
でも生まれてこの方一度も、
付き合ってない人から本命チョコをもらったことがない。
だから特別な思いがあるって・・・。


当時は中学生の浅はかな理想・・・だったんだけど、
いまだに引きずってるみたいだ(笑)


その話したら、お前ちょっと悲しい顔したよね。
どした?って聞いたら・・・
バレンタインに告白してたら私の事もう少し好きだった?
って・・・。
・・・俺はこの子になんてひどいことしてたんだって
そのとき初めて気付いた。
今まで好きとも何も言わなかった俺に黙ってついてきてくれたお前・・・。

俺、バカというか空気読めないあほだから思わず聞いちゃったな。
お前、俺のことほんとに好きか?
って・・・。
そしたらお前、何も言わずにじっと俺の目を見つめたな。
そして、そのあとコクって頷いて・・・。
そのあともずっと目をはずさなかった。
俺、感極まってぼろぼろ泣いちゃったな。

情けない男・・・お前、よく俺みたいなの好きになったな。
かっこつけるくせに肝心なところが弱い。
俺が女だったら絶対に付き合いたくないよ。
よくついてきてくれたと思う。
まあ十年たってもいまだに泣き虫で情けない男だけどな。

そしたらお前頭なでなでしてくれったっけ?
俺ボロボロ・・・ごめんごめんって何度もつぶやきながら。

その後俺、何を思ったかいきなりお前の唇奪ったっけ?
お前、唖然・・・。
でもやさしく受け入れてくれた・・・。
その後何時間たったんだろうな?
昼だったはずなんだけどいつの間にやら部屋は真っ暗になってた。
ずっと抱きしめて離さなかった。

俺が初めてお前に気持ちを伝えた日。
そして初めてキスをした日。
バレンタインデーとはまったく関係ない日。
でもお前にきちんと気持ちを伝えられたのはバレンタインデーのおかげ。




バレンタインデーの特別な思い・・・。
そしてバレンタインデーは何かを変えてくれる・・・
そういう予感のする特別な日・・・。
必ず何かが起こる。

ただ今年は何もなさそうだ。
何も変わらない・・・。
あの子がみんなにと配った義理のカントリーマァムのみが
手元にある・・・それだけ。
そしていつもの通り研修の時間も過ぎ去っていった。

何事もなかったように過ぎ去る特別な日・・・。
少しだけさびしい思いのする・・・。
結局何もなく解散となった。

研修の後、本来の仕事の用事で出かけなければならなかった。
片付けもすみ皆が帰宅の途につき始める。
俺も後ろ髪引かれつつ研修の場を後にした。

日もどっぷり暮れていた。
危ないので何人かで固まって駅まで行くことになった。
その中にあの子がいた。
集団の中の一人の人間・・・、大して話もできるわけでもなく。

しかしバレンタインデーの魔力は死んだわけではなかった。
たまたま仕事の用があるという偶然から生まれた、
バレンタインデーという日の魔力。

あの子と電車の向かう方向が一緒だった。
しかも他のメンバーは皆方向が違う・・・。
まさに幸運だった。
二度目の二人だけの時間・・・。
それから十分前後と短い時間だったがいろいろと話した。
どうということのない話。


小さな幸せ。


バレンタインデーの魔力を信じ続けた結果かもしれない。
信じ続けるというのはやはり何かを起こす力があるのかもしれない・・・。
迷信も何も信じない俺が初めてそう感じた日だった。




特別な日はやはり特別な日になったのだった。
あの子とはあいかわらず何も変わらず。
変わったのは俺の気持ちだけ。
似ているから・・・それだけの理由で人を好きになってはいけない。
そんなのはわかっている。
ただ失った穴を埋めるには・・・。
その子もそんな心持の人間とは付き合えないだろう。

ひょんなことからある人に告白された。
友人の友人だ。


告白・・・・・

最初に付き合おうってなったのは中二のときだっけ・・・。
お前はいいとこの学校に入りエスカレーターで高校に行ける。
俺は・・・もう一回受験だ。
そういう状況の時にお前が言ってくれたんだよな。
支えるから・・・絶対に見捨てないから・・・って。
俺は鈍くて鈍くてしょうがないやつだから
その時は思わず聞いちゃったんだよな。
何でそこまでしてくれるの??って・・・。

大分間を置いて言ったっけ?顔真っ赤にしながら・・・。
かわいかったな・・・。あの時の顔は忘れない。
真っ赤になりながらそれでも俺の目を見て言ってくれたよな。

好きだから・・・

俺のほうが目をそらしちゃったよ・・・恥ずかしくて。
多分俺も真っ赤になってたと思う。

好きなんだ、俺もお前が。その言葉が出そうになっては消え・・・。
結局好きって俺が言ったのはかなりあとになってからだよな。

俺が何も言わないでいるとお前は言葉を続けたんだよな。

あなたが好きな人と付き合えるまででいいから支えさせてください、
好きな人がいるのは知ってる。その人と付き合えるまで・・・って。
中二でこのセリフを噛まずにいえるのはお前だけだよ(笑)


俺がラブレター書いてたの知ってたんだよな・・・。
結局出せなかったけど。


でもそのラブレターの相手ってお前なんだよ・・・。
なんでその時いえなかったのか・・・。

でもそれがきっかけで付き合うことになった。
俺は付き合ってやってるみたいな態度だったな・・・。
本当に好きで好きで仕方なかったのに素直になれなかった。
でも文句も言わずに本当に支えてくれたな。

せっかく支えてくれたのに高校受験、結局失敗しちゃったな。
行ったのは近所の高校。


そう、近所の高校・・・。
これが定められた運命の糸のひとつだった。
その時はまだ知る由もなかったが。


告白してくれた子には悪いが断った。
こんな精神状態で受け入れられるはずもない。
その子がすでに特別な人になっていたから。
この会社にかかわる前であれば間違いなく受けていただろう。
本来、俺には到底手の届かないレベルの子だから・・・。
でもいまはあの子のことで頭がいっぱいだ。

俺の相談に乗ってくれるありがたい人物がいた。
辻川さん(仮名)だ。
三十台のメリケン帰りの素敵なお姉さん。
俺をその子に返事をする場所まで車で送って行ってくれて
その着いた先で何分も相談に乗ってくれた。
本当に俺は迷惑なやつ。
でもその時は形振りかまってられなかった。
本当にどうしたらいいかわからなかった・・・。
その子の事が好きだ。
でも、今はっきり支えてくれるという人が目の前にいる。
この六年間、俺は支えを失い、まともではない生活をしてきた。
その黒歴史に終止符を打てるかもしれない。
その葛藤が延々と続いていた。

最後に辻川さんがこういった。
どうしようともあなたの人生・・・。
後悔のないほうを選びなさい。

俺が後悔するのはどっちだろう。
好きなのはどっちなんだ?
答えは一瞬だ。

こうして告白を断った。
でも断り方がまずかった。
つい、
好きな人がいるから今は考えられない・・・。
って言ってしまった。

だから相手は、
その人がだめだったらまた告白します
って言ってきた。
これは最大の誤算だった。
背水の陣で臨まなければならないのに・・・
甘い逃げ道を作ってしまうことになったのだった。
その子と出会って二週間。
うれしいことがあった。
別の仕事の用事があって、研修後出掛けなきゃいけなかったのだが、
その子と向かう方向が一緒で途中まで一緒に帰った。
ほとんど話す機会もなかったし、うれしかった。
ほんの短い時間だったけど、いろいろわかった。
その子の暗い何か。。。
そのときはまだ見えなかったが。


お前と出会った時と一緒だね。
お前も最初は暗かった。いろいろ悩みがあったんだよな。
最初に関わったのが俺だったってだけでお前は慕ってくれた。
忘れもしない小学校5年生の時だったね。塾で出会った。
お前の家によく行っては一緒に勉強したね。
俺の家に来たいって言われたけど・・・うちはぼろいから・・・
っていつも断ってたよね。
冗談じゃなくて本当にぼろい。
恥ずかしいくらいにぼろぼろ。
でもそれでもいいからって一度だけ親のいない時にきたよな。
これがあなたの家か~・・・って感心だけしてたな・・・。
その時はなんでこいつ感心してるんだって思ったんだけど。

その後、お前はいいとこに受かり俺は馬鹿だから公立の中学に・・・。
あの時はお前とここまで仲良くなると思わなかったよ。
運命ってあんまり信じたくないけど今考えると
ある程度決まってるのかもしれないね。


そう、運命。あの子と出会ったのも運命なのかもしれない。
ただその運命はどう転ぶのかまだ誰も知らない。
俺は俺の思う方に運命を転がしたい・・・。
あの時の出会いはやはり運命であった。
そういえる日が来るのを切に願う。

ただそれは許されることなのか・・・。
自問自答の日々がこれから続く。
京都に住む知人が入院したと聞いたのでお見舞いに行った。

京都・・・この地に何度立ったことだろう。
無念の思いはいまだに消えていない。

あの子に会って二週間、変な感覚にさい悩まされながらこの地を訪れた。
お前はお前、あの子はあの子。そんなことを考えながら京都に降り立った。

知人のお見舞いを済ませ・・・いつもの場所へ・・・。

清水寺・・・お前がいなくなって何度訪れたことだろう。
もう数え切れないよ。
ちょうど清水の舞台に着いたときお前にもう少し大きくなったら結婚しようね、
そして年をとっても京都にこれるといいね、って言われたとき
俺がここの舞台から飛び降りるくらいの勇気がないとおいらとは
結婚できないぜって言ったら、本当に飛び降りようとしたな。
冗談だと思ったけど結構目が本気だったからびっくりしたよ。
飛び降りても死なない人もいるんだよって・・・おいおいって思ったよ。
でもそれだけ愛されてたんだなってすごい幸せだった。

清水でいっつもおみくじ引くんだけど俺がひくのは凶ばっかなんだよね。
本当にいまだに凶以外引いたことない。
いや吉はたま~に引くんだけど圧倒的に凶。

まあこのことはまた書く。

でもお前はなぜか吉引いたっけ?
で、俺が凶引いてしゅん・・・ってしながらおみくじ結んでたら
お前が俺が結んだおみくじの上にお前のおみくじ結んでこういったんだよな。
守ってあげるから・・・。
最初は??になったけどな・・・。
ああやさしい子なんだなって思ったよ。
こいつだけは失いたくないって。

そんなどこにでもあるバカップルの光景。
でも俺はすっごい幸せだった。

そんな幸せも長くは続かなかったんだ。



研修を黙々とこなす俺とあの子。
まったく接点も何もない、正直悲しかった。
まあ当然といえば当然なのだが。
二十歳の子とはすごくよく話す。
変にフィーリングがあうのか、それとも向こうが俺に合わせてくれてるだけか。
まあとにかく二十歳の子に面倒を見られるという情けない状況だ。
半周り近く違うのに面倒見られてる。
そんな感じで京都から帰ってきてもなんら変わらない・・・。
ただ違うのはその子がいるということ。