先々週、台風のため、仙丈ヶ岳(3033m)登山を断念し、そのかわりとして、JR秋の乗り放題パス(普通列車だけ乗車でき、連続3日間のみ利用できる、青春18切符に似たもの。7850円)を使って、初日は南アルプス最北端の入笠(にゅうかさ)山(1955m)に登り、二日目は飯田線の秘境駅小和田駅に降り立ち、最終日に天竜峡を散策した。
旅の初日は、まず最寄りの駅から始発(5時04分発)に乗った。9時59分、中央本線で標高が一番高い富士見駅に定刻より8分遅れて着いた。後続の特急「あずさ」が遅れたために、途中の日野春駅で20分ほど待ち合わせとなり、10時に出る無料バスに間に合うか、ヒヤヒヤしたが、バスは出発を遅らせてくれ、ギリギリセーフだった。富士見パノラマランドにあるゴンドラに乗る。ちょっと付け加えたいことがある。往復切符を購入すると、50ページもある散策ガイド小冊子「入笠に咲く花」がもらえるのだ。これは、題名の通り、入笠山の手前にある入笠湿原に咲く花を色別に分け、写真付きで簡単な説明を載せている。それだけでなく、入笠山は360度の展望を誇るが、眺望できる山々のパノラマ写真を載せて、主な山の名も記されている、優れ物なのだ。この小冊子を見て、例えば、アケボノソウ、キバナノヤマオダマキといった花を見たくなり、またここを訪ねたくなった(花期も記されている)。書き忘れたが、入笠山は花の名山なのだ。
僕は二年前にも、入笠山に登ったことがある。ゴンドラの山頂駅から、1時間で登れる山なのだったが、その時は、最後の15分間がひどく急登に思えて、辛い思いをした(後から来た遠足の中学生にもどんどん抜かれた)。今回は、先の南アルプスに登る準備練習として、月300km以上のジョッギングをこなしたおかげで、一気に、途中で止まることもなく登れ、日々の精進が大切なことを身をもって知った。
広い山頂には、多くの登山者がいた。ここも年配の女性グループが多い。残念ながら、ガスっていて、期待した展望は得られなかった。しかし、全く疲れを覚えず、登れたことで自信がついた。これからも、朝、ジョグに励もう、僕にとっては、一番のアンチエイジングでもある。
入笠湿原では、白樺の幹が際立って美しかった
この日の宿は、上諏訪にあり、天然個室温泉とうたったホテル。チェックイン時にも、無人で、タブレットで手続き処理。口コミで、元ラブホテルであることを事前に知っていたが、実際目にすると、やっぱりベットがばかでかいのに驚く。浴室はトイレと分離しており、バスタブは結構広くて、ゆっくり湯につかれた。普段は寝付きがわるいのだが、この日はよく眠れた。
翌朝は、曇り空だった。予報では、終日雨天となっていたので覚悟していたが、外れて幸いだった。9時22分発豊橋行きに乗車。今日は終日飯田線乗車の旅だ。秘境駅が多く、難読駅名がいくつもある飯田線は、「鉄ちゃん、乗り鉄」には、たまらない路線に違いない。僕は、決して「鉄ちゃん」ではないが、飯田線については、高校生になって、時刻表をよく見るようになって以来、ずっと気になっていた。愛知県の豊橋から長野県の辰野まで、全長約195kmもあり普通列車で6時間以上かかり、駅が94もある。平均駅間距離は約2.1kmで、大都市の市街地路線並みだという。時刻表の路線図を見ると、ひどくうねっていて、細かく駅名がたくさん記されており、目をひくので、高校生だった僕もその異常さに驚いたにちがいない。ウィキペディアの概要をみると、飯田線の特記事項がたくさんあることがわかる。特に天竜峡から豊橋に向かう一時間ほどは山間を走り、人家もまったくないようなところに駅があり、何故、こんなところに駅があるの、とまさしく秘境駅としか言いようがない。今回は、雨天ということで、鉄道旅にはむしろ好都合だ。途中、小町屋駅に降り立って、この地域で名物のソースカツ丼の名店「いな垣」(本来は蕎麦屋)で昼食をとった。常連客が大多数の、落ち着いた店で、若い店員さんも、「かしこまりました」と最近あまりきかなくなった言葉をつかうなど、とても好感がもてた。満足して食べ終わり、外に出ると雨脚がひどくなっていた。
小町屋駅発13時半頃の電車に乗車すると、車掌が来て、切符を確認した後下車駅を聞くので、「小和田駅」と答えると、ニヤッと笑った。小和田駅は、全国有数の秘境駅として知られていて、鉄道ファンにとっては、いわば聖地のような駅で、一日に何人か、下車するというより訪れる人がいるからであろう。駅には車道さえも通じていない。この駅の秘境駅ぶりについては、ウィキペディアを御覧いただきたい。さて、その駅が近づくにつれ、好きな女性に会うのと同じくらい、胸が高鳴った。16時1分、駅に降り立つ。雨はやんでいたが、重苦しい曇り空だた。もう一人降りた人がいたおかげで、心細さはなかった。留まれるのは、たった10分。まず、駅舎の正面に立ち、写真を何枚か撮る。駅の周囲を眺め渡す。駅舎(待合室)には机が置かれていて、ノートがあった。「訪問者」の思いがこめられた記録を読んでみたかったが、時間がないので、諦める。ホームに戻って、また周囲を見渡す。上りも下りも100m位先にはトンネルがある。樹木の間から天竜川の渓谷が僅かに見えた。もう一人、降りた人(30−40歳台?の男性)も僕と同じように写真を撮り、あたりを見回していて、言葉を交わす余裕はなかった。16時11分、豊橋方面からの下り列車が来た。たった10分だけだったが、満ち足りた心地で乗車した。
板は下の方が朽ちかけている。字体が何とも味わいがある。
駅より北方向を眺める
17時半、宿のある伊那八幡駅に着く。もうすっかり暮れて暗くなっていた。幸い、宿は駅から5分もかからないところにあり、すぐわかった。宿は古民家をrenovationしたゲストハウス。事前に口コミの高評価をみて、これは絶対泊まらなくては思った。実際、期待以上の洒落た宿だった。会津若松、熊野とゲストハウスは3度目だが、今回が一番居心地よく感じた。ドミトリーベッドも広く、ゆったり眠れた。バーもあり、飲食物を持ち寄ってもいいとのことだった。宿開設までの苦労を記したアルバムを見て、数十年空き家だった古民家を改造することが大変であったか知った。飯田線沿線を訪ねる旅行はこれからもするので、その際は、必ずこの宿に泊まろう。雰囲気がこの上なくいい。
最終日は、昨年も訪ねた天竜峡。前回は、2時間半ほどの列車の待ち時間を利用して、渓谷の西側を歩いたが、今回は反対側を歩く。急な木の階段が2箇所あり、結構きつかった。今回も、地上80m、長さ280まる天竜峡大橋の桁下に設けられた歩道「そらさんぽ天竜峡」を往復する。高所恐怖症なので、あまり渓谷をのぞきこまず、おそるおそる歩くのみで、パノラマビューを楽しめたとは言えないが、前回よりは余裕ができたように思う。もと来た遊歩道を戻って、渓谷で一番の観光スポットである吊り橋「つつじ橋」を渡り、龍が昇るような姿をした奇岩「龍角峯」をしばらく眺めた。残念ながら、紅葉しておらず、していればまさに絶景だったのだが。その後、温泉入浴した後、生ビールを飲み、そばを食べていたら、駅への道を急がねばならなくなってしまった。
龍角峯
天竜峡駅発12時33分の電車に乗って、帰宅したのは、21時半頃。8時間ほど普通列車に乗ったわけだが、さほど疲れも退屈もなかった。
帰宅するちょっと前の電車内で、財布(キャッシュカード、クレジットカード、マイナンバーカードも入っており、現金もそこそこあった)がないことに気づき、旅行の最後になって、暗澹たる気分に陥った。一応、各種届けは出したが、知らせはまだない。今は自分の不治の病「だらしなさ」が最大の原因と悟り、反省をこめて、50年もの飲酒習慣を止めることにした.。






