コノハとカリンは電車を乗り継いで『アニマル喫茶』にやって来た。アニマル喫茶は獣化体験風俗店のビーストトランスが新たに起業した姉妹店である。こちらは一般向けで、〝いろんな動物と触れ合える喫茶店〟をコンセプトにしている。値段価格も低めに設定しているので、収入はまだ少ないものの、リピーターを少しずつ増やしている。ここで働くアニマルズとは全員、動物に変身した従業員のことである。この店にはフルトランス(完全獣化)用の動物変身薬しか置いていない。軽くキッスするなど多少の悪戯は黙認されているが、R-18行為は禁止されている。何故名前がケモノ喫茶ではないかと言うと、一般向けに〝ケモノ〟という単語は受けが悪いという会議での結果、苦心の末、ケモノではなく、アニマルとなった。
コノハは初め、ここでバイトするつもりはなかったのだが、TFフェチのカリンが大学生になって意気揚々とビーストトランスに入店。しかし、カリンは最初の接待で、男性客の裸を見て、赤面しまくった挙句、そのまま恥ずかしがり過ぎて意識を失うと言う大失敗から、相手の裸を見ることがないこちらの姉妹店に回されることになった。コノハは抗癌獣化剤をもらいに定期的にビーストトランスに足を運んでいるので、カリンの経緯を聞いた流れで、変身する必要がなく、接客するだけの店員もほしいとのことで、いわゆる普通の喫茶店のお姉さんとしてバイトすることになったのだ。
カリンがアニマル喫茶の裏口に回り、インターホンを三回連続で鳴らす。
「合言葉」
インターホンから女性の声が流れた。
「猫は?」
「ケモノ!」
「鵺は?」
「モノノケ!」
「男は?」
「ケダモノ!」
「はーい、入って下さい~」
カリンが扉のノブを回して店に入って行く。
「前から思ってたんやけど、あの合言葉って……」
コノハがカリンに言いにくそうに聞いた。
「嗚呼、〝ケッモケモケモ〟は入店客用やから。今のが従業員用やて。うちも入るまで知らなかったわ」
「いや、そうじゃなくて……ま、ええわ」
「?」
コノハが悶々としている横で、カリンは少し首を傾げた。
――従業員の更衣室もとい変身部屋。
「今日はこっちに派遣されてきたわー、よろしくー」
「おぉ、よろしゅう、レイラちゃん!」
「えーっと、二名の予約のお客様で、うちらが変身するのは……トラか」
「トラ」
カリンはトラの行動を思い返した。相手は動物と思って接して来るので、動物になりきった行動をしないといけない。
「そう言えば、掲示板に〝お化け〟出たの知ってる?」
「え……何なん?」
「あたしもちょうどその現場で見てたんだけど、三日くらい前の獣化スレでさ、奇妙なことが起こったんよ」
カリンの表情が徐々に固くなる。カリンはお化けとか幽霊とか怪談系は大の苦手なのだ。
「初めはいつも通りのスレだったんだけど、666番を過ぎてから、イキナリ子供の笑う声が聞こえてさ、仕様の変更かチートしたんじゃないかって話になったんだけど、どうもそういう形跡は無いみたいで、おまけに、その子供の声にはIPとかの表示が全く出ないの」
「ふえぇぇぇぇ~……」
「んでね、その子供の声は666番目にブタになりたいって発言した人に対して望みを叶えてあげようって言ってね、その666番に発言した人の〝まるで本当にブタ化しているような声〟が掲示板に書き込まれて、最後に子供の声が掲示板に666番の人のブタ化に失敗して人の部分が残っちゃったみたいだけどこのスレの人は好きだから見たいよねって感じのことを言って、画像を張り付けて――スレが落ちた。そのスレは今も閉鎖中」
「な、なにそれ、こわい……」
「で、タイミングよく保存できたんだけど、その時、子供の声が張り付けた画像がちょっと問題でねー。見てよ」
「う、うん……!!?」
レイラがカリンに見せた画像は、右手二本が癒合、鼻の一部が肥大化、右耳がブタ耳となり、体全体がブタのような骨格をしているものの、見かけは人のパーツを残しており、その表情は恐怖に歪んでいた。一見すればCGで加工したようにも見えるが、画面の背景に注目すると、どうもネットカフェのようで、リアリティがあった。
「どう思う?」
「CG……やと思うねんけどなぁ……それにしてはリアルな……でも、ここまで複雑に部分獣化できる人っているんやろか?」
「うんー……これをやってみるとなると相当コントロールうまくないとなぁ……それに、そんな撮影聞いたことないし……〝裏切り者〟だったら、問題よねー」
「〝裏切り者〟……」
「そう、動物変身薬は特別な許可が無い限り、店の外に出してはいけない。このルールを破った者は二度と人間として社会復帰はできないってね」
「そんなんあったなぁーどうなるんやろ?」
「さぁ……家畜にされて、そのまま加工されちゃうんじゃない?」
レイラはサラっと言ったが、それは想像するととても恐ろしい事で……
「それじゃあ、そろそろお客さん来る時間だから、変身しようか」
「そ、そやね」