ネットカフェからの謎めいた通報を受け、ベテラン刑事はネットカフェにやって来た。刑事は現場に着いた瞬間、場の空気が凍て付いていることをすぐに感じ取った。
「何やら胸騒ぎがするぜ」
困難な事件の予感がした。
「店長、警察だ」
カウンターで警察証を見せると、店長はすぐに現場に案内してくれた。
ネットカフェ利用客が奇異の目でこちらを見て来る。何か大きな事件があったことは間違いないらしい。
「こちらでございます……」
個室に案内された。この中で事件が起きた。悲惨なモノを目にする覚悟で個室の扉を開ける――
「……。う、うわああぁぁぁっ!」
ソレを見た時、一瞬、何がどうなっているのか理解できなかった。一瞬反応が遅れて驚いてしまった。これまで数々のホトケさんを見てきたが、今回のソレは今まで見てきたどれにも属さない、最も奇妙なものだった。
「ブヒぃ……フゴォッ、ダ、だずげで……」
「生きて……いる……のか……」
刑事が見たソレは一言で言うと、グロいとしか言いようが無かった。
個室に転がっていたのは、ヒトとブタとを中途半端に混ぜ合わしたような何かだった……
「今川優奈。二十三歳、フリーター。ネットカフェにチェックインした時は何の変哲もない普通の人間だったが、『ケモノになりたいスレ』の掲示板を閲覧中に事件が発生。顔は一部を除いてブタ化。右手、尻、左足などもブタ化。言葉は話せるが、時々ブタの鳴き声が混じる。X線でレントゲンを撮ったところ、ブタ化しているところの骨は人間のものではなく、内臓の一部もブタと化していることが判明。これまでで最も奇異な事件……か」
ベテラン刑事はあの身の毛もよだつ様な姿をした女の調査結果の報告書に目を通した。あの後、あのままネットカフェに置いておくにもいかず、シーツを被せて、署までアレ……いや、彼女を匿ったのだった。
人間かブタかもよくわからない状態であったが、幸いにも生体チップがあったので、そこから個人情報を取得でき、身元が判明した。
「……」
一体、何がどうして体の一部がブタになるのか? 最初に目にした時はまさにホラー映画を見ているかのような強烈な印象を受けた。
「夢にまで出てくるとは、もう、散々だった」
一番奇妙なことは、あの状態で生きているということ。かなり不自由そうだが、今もブタ化していない方の体のパーツを使って、人間生活を送れているが……ブタ化している部分が治らない限りは外に出ることはできないだろう。
「あれがまた女ってのが不幸だよな……綺麗な姉ちゃんだったのに」
事件が起こる前の彼女の写真を見た。ドラマの女優でもいけるんじゃないかっていうくらい美人だったが、事件が起きてから、とても醜い姿になってしまった。
「おっと、醜いって言っては失礼だな。それにしても……」
一体、何があったのか?
人間が動物化する事件なんて聞いたことが無い。映画やドラマの中での話ならまだ納得できるが、アレは現実で起きている。
「そう言えば、被害者は掲示板で少女の声がしたって言っていたな」
掲示板の制作者にも問い合わせたが、そのような仕様は一切していないとのことだった。
奇妙キテレツ摩訶不思議。調査したところによると、人間と動物の遺伝子を掛け合わせる研究を行っているグループがあるそうだが、それと関係あるのだろうか?
「ちょっとちょっと」
刑事が考えに耽っていると、同僚が手招きしてきた。
「あの変な事件。どうも上から圧力がかかっているみたい」
「と言うと?」
「これ以上の捜索は禁止らしい」
「またどうして?」
「わからない。でも禁止令が出るってことで考えられるってことは」
上が絡む事件だということか。
「ヤバイ事件に首を突っ込んでしまったかもしれないな……」
「ああ、お前も今回は素直に手を引いた方がいいかもな。被害者は上が指定した特殊な病院に入れられたって言うし」
禁止と言われれば真相を暴きたくなるのが刑事の性格。下剋上上等。夢にまで出てくるくらいだ。このまま大人しくしていられる訳ない。
刑事はこの奇妙な事件を暴くために動き出した。
