英霊の依頼

 

 

 

 プロローグ

 

 

英霊:戦死者の霊を敬っていう語    

 

 

     1999年 12月末日 1人のタイ人女性がタイ王国メーホンソン市の某地区のバンガローホテルに滞在していました。彼女は当時、タイ王国北部の最大の町、チェンマイで大学の講師をしていたが、休暇を利用して、友人達と遊びに来ていました。

 

            12月31日 同行していた友人がバンガローホテルの部屋から外出し、彼女はまだベッドで横になっていると、人の気配を身近に感じました。視線を気配のする方向へ向けると、一人の男性が横になっていました。彼女は驚き、背筋が凍りました。『誰!?怖いっ!』すると、その男性が彼女に向かって話しかけてきました。『どうか怖がらないで下さい。私は日本の兵隊です。貴方はもうすぐ日本に行くことになります。どうか、我々がここで亡くなったことを日本の人々に伝えてもらえませんか?』現れた男性の服装に目をやると、確かに日本の兵隊のようでした。髪はもさもさとしていて、天然パーマに近いような感じでした。中肉中背、体格はがっちりした感じだったようです。とにかく、彼女はうなずいて返事をしました。そうでもしないと、日本の兵隊が消えないような、立ち去ってくれない気がしたからでした。彼女の意思を確認した日本の兵隊は姿を消し、気配がなくなりました。彼女はすぐに部屋を出て、ホテルのフロントへ一目散に走っていきました。

 

『日本の兵隊の幽霊が部屋に出ました!』

 

    部屋の出来事をホテルのスタッフに伝えると、『多くの人が日本の兵隊の姿、幽霊をここで見るんですよ。でも、何もしないようだから、大丈夫だと思いまよ』と答えました。そして、これといった対応も当然のことながらありませんでした。ホテルスタッフも手の打ちようが無く、日本の兵隊の幽霊に対する対応策が浮かばなかったようです。彼女はこれ以上、ホテル従業員に言っても埒が明かないと思いました。そして、その日、そのバンガローホテルをチェックアウトして、チェンマイに戻ったそうです。

 

    日本の兵隊が現れた時、彼女は日本へ行く予定も無かったので、彼女の元に現れた日本の兵隊の言った言葉がとても奇妙に思えたそうです。チェンマイに戻った後も、時折、兵隊の言った言葉が気になることがあり、何故あんなことを言われたのだろうと思っていました。ましてや、日本に行って、日本人に伝えるなんて、当時の彼女の生活を考えれば、ありえない話で一笑に付していました。彼女は大学の講師をする傍ら、大学院にも通っていました。ですので、どこからどう繋がって日本へ行くことになるのか想像がつきませんでした。

 

    休暇を終え、大学に出勤すると、大学の校内ニュースの一部分が目に留まったそうです。それに目を通すと、日本の文部科学省奨学金制度のことが書かれていました。日本の大学へ留学し、日本についての研究論文を書き上げるといった内容だったようです。

 

            その募集要項を読んだ瞬間に、彼女はこれに応募しなければと直感的に思ったそうです。締め切り期日を見ると、残り1週間だった。提出書類を揃えるのに時間的に余裕が無かったが、とにかく準備することだけに意識を集中したようでした。そして、なんとか全ての必要書類を準備することが出来、締め切り間近で提出することが出来ました。当時のことを振り返ると、無我夢中で間に合わせたことを彼女は感慨深く話していました。

 

            しばらくすると、日本の文部科学省から連絡があり、書類審査を経て、彼女は無事、日本への留学の切符を手にしました。結果的にはタイ王国メーホンソンで会った日本の兵隊の幽霊が話してくれたとおりの内容が現実になったので、彼女は非常に驚くとともに日本への留学に胸を躍らせることとなりました。

 

            それから、日本への留学までの間、タイ王国チェンマイで日本語の語学勉強に精を出しました。数ヵ月後、彼女は休職そして大学院を辞め、タイ王国北部の町チェンマイより2回のフライトを経て日本の兵隊の幽霊が言った通りに日本にやってきました。