ひめひさちゃん | 家畜おたすけ隊

家畜おたすけ隊

家畜を助けたい有志たちの、営利を目的としないボランティア組織です。2012年8月9日に(社)ふるさとと心を守る友の会になりました。

(先々々週は餌運びと浪江町の牧場3カ所の見回り、先々週は柵作りをしていました。)

今回UPする写真とURL動画は、誤って溝に落ちていたのを引き上げたひめひさちゃんについてです。
先週9日(日)の立ち入り時に発見しました。

一週間程、助けを求めていたと思います。
首もすっかり細くなり、かなり衰弱していました。

しかし、私たちが行った時に頭をひょこりと出してくれたので気付くことができました。

「あれ?」
畜主である浪江町和牛改良友の会メンバーの渡部典一さんが真っ先に気付きました。

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溝にはまって殆どからだが見えませんでしたが、気付くことができました。
他の牛も集まってきます。
呼んでいたのかもしれません。

助けを呼びにメンバーが行っている間、持ってきていたポカリ3本をすごい勢いでごくごく飲んで、ずっとかわいい澄んだ目で見つめてきてました。

一日35リットル飲む牛には全然足りない量です。
当然差し出した青草も食べられません。

涙の跡が大量にこびりつき、お腹が始終ギュるギュルなって苦しそうでした。
ウサギの糞みたいに糞が小さくぽろぽろになっていました。

蛆も見えました。


がんばれ!


撫でていた手を止めてちょっとでも位置を変えると、不安そうに重たい頭を回して見てきます。

大丈夫、どこにも行かないから。


…早く救出しなくては。


でも、まず上部を渡してある大きな鉄棒を取り除かねばなりません。
山本さんたちが工具を取りに行きました。


ひめひさちゃんの頭を撫でながら、原田さん:「おまえ、なんでこんな所に入っちゃったの?」

とても温かい声でした。

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邪魔になっていたものを取っ払い、大きな鉄棒を5人がかりで何とか取り払いました。

クレーンがないのでショベルカーで引っ張り上げます。

ひめひさちゃんの角に紐を結び、溝から出します。

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(音頭をとる和牛改良友の会会長山本さん、運転する渡部さん、オーライする友の会事務の原田さん、脚を立たせようとするおたすけ隊)

隣に大きな機械があったので、その更に向こうからショベルカーで持ち上げます。持ち上げながら向きを半回転するのも大変でした。


ひめひさちゃんは身動きもとれずずっと変な体勢で居たので、脚が痺れていたのでしょう、なかなか力が入らず立てません。

横たえる形で安全な地面に降ろしました。


ひどい擦り傷があちこちに出来ていました。

去勢をして下さっていた岡田獣医師に頂いた傷薬を付けました。
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ごくごくごくごくごく…

ばけつに一杯水を飲んでいました。

すーっと飲んでいました。

畜主は水を何杯も下の川まで汲みに行きました。

栄養価の高いおみそも取りに行き、水に混ぜてあげました。(みそはそのままでは舐めなかった)



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ようやくほっと一息ついたひめひさちゃん、
お腹は始終痛そうな音がしており、息もかなりぜーはーしていました。
ひどい下痢を耐えるときのような表情をしていました。


げっそりくぼんでしまった両目を、それでもぱっちり開いて見てきました。
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渡部さん:牛は賢いんだ。犬以上によくわかってる。人間より賢いかもしれない。

渡部さんに甘えるように頭で追いかけていました。


水をいっぱい飲み、おしっこも出ました。

もう大丈夫だろうかと思いました。



立ち去らねばならなくなったとき、


行かないで。


と聞こえた気がしました。

後ろを振り返るとひたすら見つめるひめひさちゃんの瞳がありました。


ごめんね。

また来るからね…!



翌日、渡部さんは様々な用意をしてすぐに駆けつけましたが、着いたときには、この子は既に亡くなっていました。




警戒区域なので畜主も私たちも、一切の人が立ち去らねばなりません。
どんなに心配でもついていてあげることができません。

今まではずっと心配が尽きるまで思う存分付き添ってあげられた家畜…
お腹空いてないか、
喉渇いてないか、
痛いところないか
常に心配で。
かわいくて。

弱っていたら、
そばにいてやっから、、
と、癒えるまで一緒に畜舎で寝泊りする農家もいました。


日本の、そして福島の農家にとっては家畜は家族です。
食肉として畜主の命を支えて世話になっている命なので、
手元にあるときにはその分、大切に大切に飼う、大事な家族なのです。



ひめひさちゃんは、助けてくれる畜主の存在を感じ、渇きが癒され、心配そうに付いている仲間達に見守られる中、少しは穏やかなものが最期の彼女の心を占めてたと願いたいです。
見知らぬ誰かに恐怖したり、子どもは助けてと懇願しながらの死ではないだけで「マシ」なのかもしれませんが、それでも、畜主と、もっといっぱい、いっぱい生きたかった命だと思います。