注:青太字はさるうさぎによるもの
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121011/237930/?P=5
2012年10月17日(水)
齋藤ウィリアム浩幸さんに日本の問題解決の方法を聞く【1】
国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、国家戦略会議フロンティア分科会など、日本の問題解決にかかわる会合にひっぱりだこの齋藤ウィリアム浩幸
氏。米ロサンゼルス生まれの日系二世で、現在は自ら創業したベンチャー支援の会社でスタートアップ企業の支援を行っている。課題先進国と言われて久しい日
本。なぜ問題解決ができないのか、なぜイノベーションが起きないのか。齋藤氏に聞くと、それは「日本にはチームがないから」と語った。“仲間”でもなく
“グループ”でもないチームとは何かを聞いた。
齋藤さんは国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、国家戦略会議フロンティア分科会と国の仕事に携わりました。
そういった議論の過程で、内容がおとなしいことに驚いてしまったほどだと聞いています。齋藤さんが見る日本組織の問題点とは何でしょうか。
齋藤:1つは失敗を恐れ過ぎて何も言え
ない、実行ができない状況になっていることです。国家戦略会議でもスタート時点からその点について疑問を呈しました。実は会議が始まる前に、事前にメール
でいくつかの問題が提示され、どう解決するかについて、前もって答えを提出してほしいということでしたが、私はそれに反対しました。
問題を提起して、それに対してソリューションを出すことが大事なのではないと。日本人は既に何が問題かはほとんどの人は分かっているんです。場合によっ
ては、解決策も分かっている。本当の問題は、なぜそれが実行されないかということです。実行の方法について、ほかの参加メンバーと議論したいと申し出まし
た。
それに対して反応はどうだったんですか。
齋藤:日本の政府で仕事をするのは初めてだったので非常に勉強になりましたが、アメリカと違うなと思ったのは、英語で言う「バイトサイズ」、個々の問題提起をしたほうが話しやすいということです。
問題の本質は問題提起から解決方法に至るプロセスにあって、問題の定義の仕方、議論の進め方、そして、法案に落とし込んでいくという政治プロセスを今一
度見直したほうがいいと主張しました。しかし、なかなか難しいことなので、具体的な問題をいくつか出して、それについて議論しましょうという話に結局は戻
りました。分かりやすいキャッチフレーズに落として話をしようということです。
なぜ、そうしないと議論が進まないのでしょうか。
齋藤:結局、参加している委員の方も、皆さん何らかのステークホルダーなので、農業だったら農業、文化だったら文化と、英語で言うところの「ペットプロジェクト」を持っています。それを守りたい、むしろ売り込みたいということもあると思われます。
もちろん、そういう気持ちは分かります。僕にもアントレプレナーシップという守りたいテーマがあります。でも、それは脇に置いておいて、もっと俯瞰して考え、提言することが私の役目だと思いました。それもグローバルな視点で。
なぜ、日本の組織は、問題も、問題の解決策も分かっているのに実行に移せないのでしょう。
齋藤:減点主義の社会の在り方に慣れて、失敗を恐れているからです。何をやるにしても、リスクをできるだけ少なくしようとして、自分の評価を下げないようにする。それはイコール、何もやらないことになります。
結局、議論のプロセスが変わることなく報告書を出すことになってしまったことはちょっと残念でした。Aという問題に対して、いくつかの実行案は示されたので、それはそれでいいんですが、どう実行するかという議論まで踏み込めなかったことが心残りです。
日本の組織の前では、イノベーターである齋藤さんも歯が立たなかったということでしょうか。
齋藤:誰とは言わないけど、わざわざ議
事録のしゃべった時間を計算した人がいたのですが、それによると私は結構しゃべった方でした。パッションを持っていろいろ提言したのですが、実際にそれが
報告書に反映され、外部にお伝えするということについては、まだまだ力不足でした。ただ、すごく勉強になったので、これから政治家や官僚の方と話をする際
には役立つと思います。
国だけでなく、組織が問題解決できないことの原因に、チームの不在があると齋藤さんは言っています。何かを解決したり、何か新しいことを生み出したりする
ためには、チームが必要だと。そして、日本にはあらゆる面において、チームがなくて、そのことが問題解決ができない、イノベーションが生まれない原因だと
言います。
そもそも、齋藤さんがおっしゃるチームというのは、どういうものなんでしょうか。
イノベーションは失敗の積み重ねの末に生まれるもの
齋藤:最近、世界経済フォーラムや、サマーダボス、OECDといったところでいろいろ話をする中で、チームの考え方も広がってきました。また、なぜチームづくりがイノベーションにつながるのかについて話してくれと頼まれることがすごく多くなりました。
イノベーションがいきなりぽっと生まれるということは、今までの人間の歴史上なかったことです。イノベーションというのは、いろいろな研究や失敗の積み
重ねの過程で「たまたま、運よく」生まれるものであって、いきなりイノベーションが「できた、生まれた」ということはありません。長いプロセスにおける
数々の失敗のおかげでイノベーションは生まれるのです。
だから、国家戦略会議の会合でも、イノベーションという言葉は失敗という言葉と一体として理解されない限り使ってはいけないと強く提言しました。失敗と
いうことが許されなかったら、イノベーションはあり得ません。イノベーションは必ず失敗と隣り合わせで、失敗したとき、どうやってほかのメンバーに助けて
もらうか、どのような役割分担で助け合えるかが大事で、それができるのがチームなんです。
失敗したときに、失敗をカバーし合うのがチームということでしょうか。
齋藤:もっと言うと、アントレプレナー
シップというのはアイデアを実行するプロセスです。よくアントレプレナーシップはリスクテイカーと言いますが、私はリスクテイカーと言うと、わざわざ好ん
でリスクを取ることのように捉えられて誤解されると危惧します。そういうことではありません。
本当のアントレプレナー、あるいは本当のイノベーターというのは、わざわざリスクは取らない。リスクをはかって、そのリスクをどう防ぐかを考える存在なんです。
齋藤:ただ、そのリスクを完全に防ぐこ
とは難しい。時々、想定外の問題が起こる。全てのリスクについて、前もって手を打てるかどうかと言うと、それはできない。そこで、リスクが発生する度に、
微調整したり、対策を打ったりするのがチームなのです。いろいろな人の意見を聞き、議論し、完全ではないけれどもベストソリューションを探すプロセスで
す。イノベーションはこういったプロセスそのものを指す、ということもできます。
これまで数多くのアイデアを見てきましたが、1人でイノベーションを実現しているという例は世の中にほとんどありません。必ず2人とか3人で始めてい
る。最近はノーベル賞も1人で受賞するケースは少なくなっています。お互いの意見を聞きながら、お互いの意見を足し算したり、掛け算したりして、リスクを
分散して、対策をたて、具体的な成果につなげるプロセスがチームの一番大事な部分なんです。
チームにはダイバーシティーがとても大事
いろいろな意見とか、いろいろな人がいるというのがチームには重要なのでしょうか。
齋藤:そうなんです。ダイバーシ
ティー、つまり多様性というのがチームには不可欠です。日本は残念ながら、多民族国家であるアメリカに比べてダイバーシティーが非常に少ない。個々の頭脳
レベルは高いけれど、組織の在り方は、ダイバーシティーに欠けていると思います。年齢や性別に関係なく意見を普通に伝え、お互いに普通にコミュニケーショ
ンできる組織もめったにないし、そのような組織・企業風土もない。悪いことは悪い、間違っていることは間違っている、リスクはリスクと、誰もが自然に言え
る環境にしないとまずい。そういったコミュニケーションがまともにできない結果が今の日本の閉塞感を招いていると思います。
同じような経歴の人ばかりとか、男ばっかりとか、女ばっかりとか、同じような人が集まってもイノベーションが生まれないのはなぜですか。個々の人はみな、優秀だと思いますが…。
齋藤:同じ畑から出た優秀な人というのは、グループ構成員としては合っているんです。同じ人が1ミリずつ物をこつこつと良くしていく。改善という言葉がありますよね。英語で言う、インクリメンタルイノベーションをやっていくという面では合っています。
グループという概念、グループという組織は悪くはないんです。例えば、高度成長の時代にはグループはすごく合っていました。ただ、時代が変わっていくと
き、グループの目標である改善という概念は使えません。グループの場合は、今までのやり方を守る力が強くなりますが、ちょっと変わった人が新しい目標設定
について考えるイノベーションには合わない。しかも、時間軸がすごく短くなっていて、イノベーションの方法がどんどん進んでいる中では、改善の結果イノ
ベーションを生むことを待っている暇はもうないんです。
時間軸が短くなっただけでなく、世界のあらゆるところでいろいろな変化が起きている。そんな中で、ゆっくりと微調整していく時代ではもうなくなったのです。
これまでの方法を踏襲するためのグループではなく、イノベーションを生むチームをつくるためには、女性の登用がカギだとおっしゃっていますね。
齋藤:OECDの中でも日本は、女性と一緒に仕事することについて遅れています。女性がキャリアをつくるのがシステム的に難しいんですね。女性がもっと活躍できるようにするだけでもGDPが15%も伸びるというデータもあります。
日本の学生と話していて思うのですが、男性は、大学に入って、卒業して、就職して、課長になって、家を買って、結婚して、部長になって……という、エスカレーターに乗らないといけないという社会的ルールがあるようですね。
一方女性はそういったルールに基づかない生き方ができる自由が男性よりあるようです。結婚相手を探して専業主婦になるのがいいという雰囲気も最近感じま
すが、そうではなく、海外で勉強をしたり、冒険したりして自分の世界を広げている女性は多い。本当は男性もそういう経験をするべきなんですが、組織に縛ら
れていると、そういう余裕がない。
齋藤:もう1つ大事なのは、日本人の人
口に女性が占める割合は51.4%なんです。わずかながら男性より人口も多いんですよ。結構、財布を握っているのは女性です。消費行動の主役は女性です。
なのに、女性向けの物を作るための会議に女性がいなかったら、ちょっと変です。いくつかの会社の経営会議に出席した中で、この製品を女性に売ろうと言いな
がら、その会議の中に女性が1人もいないということが時々あるんですよね。女性のマインドセット(気持ちのあり方)を経営とか製品・サービスに反映しない
と意味がありません。
女性自身がダイバーシティーを身に付けているということですね。
齋藤:はい。それに、女性であるということで、考え方とか価値観とか問題の処理の方法とかも違わけですが、今までそれを経営ストラクチャーに反映してこなかったことはもったいないと思います。
先ほど、チームでは率直にコミュニケーションができることが大事だとおっしゃいましたが、女性はコミュニケーションの面でも重要な役割を担うのでしょうか。
齋藤:チームを言い換えれば、コミュニケーションと言ってもいいというぐらいで、コミュニケーションはチームにはすごく大事な要素です。
チームが動く根本はコミュニケーションをすることなんです。遠慮なく、ちゃんと言うことを言うというのが基本です。新入社員や大学制のインターンが企業の会長に向かって「これは違うんじゃない?」と言えるぐらいのことです。
女性はそういったコミュニケーション能力が高いということですか?
齋藤:アメリカでもよく言われますが、女性のEQ(心の知能指数)は男性より高いそうです。ただ、男性社会の中に、たった1人の女性を投入しても、なかなかうまくいきません。
私は世界経済フォーラムの特別委員をしていて、女性の雇用問題を話し合うグループに入っていました。メンバーのうち14人が女性で私だけが唯一の男性です。これはすごいプレッシャーでした。相手は実務経験もキャリアも豊富な女性たちですから。
世界トップクラスの女性が集まる会議で出た結論とは…
そこで、女性役員がいない上場企業は上場を廃止させてはどうか? という提言について話し合っていたときのことです。では、何人女性役員が必要かという
話になりました。1人でも女性役員がいなければだめだ、というメッセージにしようと言ったら、「それはだめです」と、ある企業の女性副社長が言った。女性
が1人だけだと、しゅんとなってしまって、言いたいことも言えなくなるから効率がよくないと言う。
じゃあ、2人ならどうかと言ったら、ノルウェーの女性が「うちも10年前ぐらいに女性官僚を2人にしたけれどもだめでした」と言う。なぜなら、女性が2人だと女性同士でけんかしちゃうからだという。
結果、3人が最少人数で、ベストは4人ということになった。世界のトップクラスの女性が集まった会議でダイバーシティーの議論ができて、ファクトとしてこういうことが分かった。これを日本で日本人の男性だけの会議で議論していたら、こんな結論は出てこないでしょう。
齋藤:日本の大企業のチームづくりを手
伝ったことがありますが、女性を入れたけれど、うまくいかないということが多い。私は責任を与え、女性を受け入れるチームの環境をつくってあげないといけ
ないと提言しました。女性、女性と言って女性をただ組織に入れるだけではだめ。日本ではその後のフォローがなさ過ぎるんです。
女性、女性と言って女性をただ組織に入れるのは逆効果で、なぜ女性を入れるのかの趣旨を分からせ、女性が活躍できる環境をつくらなければいけない。ノルマを果たすようなやり方で女性を組織に入れるだけで終わってしまうのはよくない。
日本人は「WHAT」が好きなんです。女性を入れるなど、これやれ、あれやれと言われるのは好きで、みんなきちんとやりますが、「WHY」を知らない。なぜやるのかを考えないのです。
チームは「WHY」を引き出すことがポイントなんです。グループは「WHAT」を聞いて、はい、分かりましたと言って1ミリ削る。チームはなぜ1ミリ削
らないといけないかを考え、チームのメンバーとコミュニケーションしながら、「なぜ」を見つけていく。つまりコミュニケーションを密にとって解決策を見つ
けるのです。
その「なぜ」を見つけていくプロセスがイノベーションにつながるのですか。
齋藤:イノベーションにもつながるし、問題処理にもつながります。
想定外とか例外処理に日本が弱いのは、「WHAT」はみんな知っているのに、「WHY」を知らないからです。何をするかではなく、なぜそれをするかを考
えれば、どんな問題が起きても柔軟に対応できる。何をするかだけだったら、ただチェックリストの通りにしか行動できない。なぜを考え、知らないと、ちょっ
とでもマニュアルと違うことが起きると困ってしまう。
日本製の携帯電話が売れないことはみんな知っているんだけど、なぜ売れないかを知らない、というようなことですか。
日本人は「なぜ」を見つけられない人が多い
齋藤:なぜうちはiPhoneのような製品ができないのか、って、例えば品川の会社とかは思っているでしょう。でも、それは「WHAT」なんですね。何が売れないのかしか分かっていない。根本の「WHY」については考える余地がありそうです。
「WHY」である「なぜ」を見つけるのは難しそうです。でも、それは多様性のあるチームによって見つけられるのですか。
齋藤:そうです。日本のマネジャーは優秀なんですよ。「WHAT」をやることについては、誰にも負けない。でもマネジャーが管理職になって社長になると、それはマネジャー社長でしかなくて、「WHAT」はできる。けど「WHY」が分からない。
方向性を決めるのはリーダーの仕事ですが、日本人の社長はそういうふうには育っていないんです。「WHY」を部下から聞き出せない。ほかの国ですと、
「WHY」を聞き出すことができる。そして、その「WHY」に対してどう答えるかを決める人たちが社長になる。そうすると、世の中が方向転換しても、柔軟
にリーダーシップを発揮できるのです。