100年後まで「新エネルギー」は無関係・・・技術の本質とはなにか? | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
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100年後まで「新エネルギー」は無関係・・・技術の本質とはなにか? (8/18)




いくら何でも心配性が過ぎる。ものには程度問題が大切だし、それにつけ込む方もつけ込む方だが。



日本人の多くが「新しいエネルギーが必要」と信じている。実は今から30年前の私も同じで、「石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料」がそのうち無くなると錯覚していたからだ。




私がエネルギー分野の研究をするようになって、化石燃料が数100年でなくなることはなく、人間が使うエネルギーというのは1000年と言わず、300年ぐらいでガラッと変わるので、現在の知識で余り考える必要が無いことが分かったのは、30年前だった。




どんなに悲観的に見ても(世界の鉱山の常識と各国政府の政策から見ても同じだが)、化石燃料は数100年はある。もちろん、生活の中で普通に使えるような値段で得られるもので、2009年から本格的に掘り出したシェールガス(本当の意味の天然ガス)などは寿命数1000年、値段3分の1と予想されている。




値段が上がらず、数100年は持つ化石燃料があるのに、世界で日本だけが省エネ、節電、それに新エネルギーに熱心だ。世界の情報から隔絶された日本を感じる。世界の石油系の企業は「メジャー」、「スーパーメジャー」と呼ばれるぐらいの大きな会社で資本力もある。もし、石油系の燃料が短期になくなるのだったら、これほど悠々としているだろうか?




アメリカや中国の政府もそうだ。あれほど大きな国だから、エネルギー政策やもし温暖化などが大変だったら、国はつぶれてしまうだろう.それなのに、形式的には少しやったり発言したりしているが、本格的に代換えエネルギーの政策を進めたり、ましてCO2を減らしたりしていない。




これに対して日本の識者は「それはメジャーも、アメリカや中国もバカだから」と言うけれど、本当にそんなに簡単な結論を出して良いのだろうか?




40年前は原子力発電は実質的になかった。100年前にやっと石油を使い始めた。石炭を燃料に使ったのは200年前だ。だから、安い化石燃料が200年持てば、エネルギー資源のことは専門家に任せておいて、普通の人は生活をエンジョイすればよい。まして「足りない」と言われる税金を使って新エネルギーとか太陽光発電にお金を投じる必要は無い。




技術にはある経験則がある。基礎的な研究を始めて40年経っても実用化(既存の技術を凌駕するような状態)にならないものは有望ではないということだが、太陽光発電は基礎研究は長く、今から40年前にサンシャイン計画という膨大な税金を投入して国家プロジェクトを始めている。




だから、今更、太陽光発電がキロワット時で42円もするなら、技術として成功する見込みが少ない。技術の本質、世界の動向、人間の進歩など大きい目で一つ一つのことを判断するのも大切なように思う。


(平成24年8月18日)




--------ここから音声内容--------




新エネルギーの問題ってのは日本人非常に好きでですね、何か新しいエネルギーが必要と思ってるような気が致します。実は私もですね、今から30年ぐらい前は、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料はそのうちなくなる、だから新しいエネルギーが必要だ、原子力かなんか必要だとこういうふうに思ってたんですね。





ところがエネルギー分野の研究をするようになってですね、どうも化石燃料っていうのは100年、200年ぐらいでなくならないしですね、もしも1000年とか、300年とかもったらですね、今から1000年前は紫式部の時代ですし、300年前ったら徳川時代ですからね。ま、あまり今の知識で深刻に考えることはないんだなぁってことがわかったのは、今から30年ぐらい前でした。





私はですね、どんなに悲観的に見ても、これはあの…私自身が資源の計算をするってこともありますが、世界の鉱山の常識ってのがあるんですね。各国政府の政策もあります。そういったものは非常に客観的でですね、しっかりしてるわけですが、どんなに考えても化石燃料は数百年はあるという方向で進んでいます。世界各国が全部間違ってれば別ですけどね。そうでなければそうです。





もちろん数百年もつってのは、生活の中で普通に使えるような値段で買える石油ですね。例えば2009年からシェールガスを掘り出したわけです。シェールガスの存在ってのは前からわかってることで、初めてわかったわけじゃないんですが、日本ではなんか「新しくシェールガスっていうのが出てきた」って言われますけど、そんなことありません。これはやっぱり数千年(はもつ)、値段1/3なんてことも言われてるんですね。





じゃあ値段が上がらずに数百年はもつ化石燃料があるのに、世界で日本だけが「新エネルギーがいる、省エネだ、節電だ」というふうに熱心なのはどうなんでしょうか。なんとなく世界の情勢からですね、隔絶されてるように思います。例えば世界の石油会社では、メジャーとかスーパーメジャーと言われる非常に巨大な石油会社があるわけですね。資本力もあるわけです。





もし石油系の燃料が非常に短い時間になくなると思うんでしたらですね、やっぱり投資しますよ、なんらか。やっぱり自分の会社がなくなっちゃうといけませんから、新しいエネルギー産業に投資しますけども、そんなこともあんまりしてないんですよね。





アメリカと中国の政府もそうですね。あれほど大きな国ですからね。エネルギーの政策とか温暖化がもし大変なことだったら、国がつぶれてしまいますよ。それなのに一応形式にはなんか「少しやります」とかなんか言ってますけども、もう全然数字としては、もう微々たるもんなんですよね。CO2ももちろん減らしてません。





こういったことを私がですね、日本の識者にお伺いしますとですとね、「いや、メジャーもあれはあんなにお金持ってんのに、全然新しいエネルギーなんて、再生可能エネルギーなんてやってません」と、「日本政府よりかメジャーとかスーパーメジャーの方が経営はよく考えんじゃないんですか」とかですね、「アメリカも中国もけっこうシビアな政府だから、将来のことを考えてんじゃないんですか」と、「みなさんはアメリカとか中国は環境の恐ろしさを知らないなんて言うけど、知ってんじゃないんですか」と言うとですね、だいたいは「アメリカと中国はバカだ」という答えが返ってくるんですよ。だけど、ほんとにそれでいいんでしょうかね。ちょっとTPPってのが出てきただけで、日本中でうろたえているわけで、本当にそういうことでいいのかと非常に疑問ですね。





40年前ってのは原子力発電は物質的になかったわけですね。石油はやっと100年前に使い始めたんですよ。石炭が200年前ですね。ですから今の時代というのはですね、長くて200年、最近ですと100年とか40年とかいう社会なんですね。ですから、安い化石燃料が200年ぐらいあればですね、エネルギーってのは国民が考える必要がないんじゃないかと。普通の生活をして、エネルギーを使ってエンジョイしたらいいんじゃないかと思うんですね。





ましてですね、もう「税金がない、税金がない」って言ってるわけですから、増税もしようとしてるわけですからね。税金を使って新エネルギーを開発しなきゃなんないなんてことは、私はないと思いますよ、ええ。それはちょっとですね、なんちゅうか錯覚じゃないかとか、まぁ、補助金がほしいのかもしれませんけどね。





それからもう一つここでちょっとですね、技術的な経験則というのをちょっとお話しておきますと、基礎的な研究を始めて40年たっても実用化されないってものはあまりないんですよね。例えばエジソンが電気を発見する、電灯ができるとかですね、蒸気機関車ができるとか色んなことが過去にあったわけですね。最近ではテレビとか携帯電話までずっとあるわけです。これはですね、だいたい基礎的なことが発見されてから40年以内に実用化されるんですね。これ技術ってのはだいたいそういうスパンっていうか期間を持ってるわけですよ。





太陽電池はね、もう40年前から国家プロジェクトだったんですね。ですから私はですね、今に至っても太陽光発電がキロワット42円っていうことはですね、これはあんまり見込みないんじゃないかと、そういう見通しもちょっと自分にはあるんですね。細かく言えば、転換効率がどうだとかいうこと言えます。





また商売から言えば「補助金もらえる間はできるんだ」っていう考え方もありますが、私のように技術的に考えますとですね、やっぱりまず第一にアメリカとか中国、またはその他の国がですね、エネルギーがあると言ってるのに、またもしくはエネルギーを使ってるのに…化石燃料ですね。日本だけが省エネしたり節電したり、みんながフーフー言ってるっていうのは、なんか納得性がないですね。





それはその技術の本質、つまり技術ってのは100年、 200年で大きく変わっていくんだ、変わっていく先は我々に見えないんだっていうですね、技術の本質を無視した議論ではないかと、そういうふうにも思いますね。





それから私があともう一つ心配なのは、第二次世界大戦の前に、戦争の前ですね、日本だけが世界の孤児だったわけです。私はね、昔ね、高等学校ぐらいでずいぶんそういうことを教わりましたね。なんで戦争を起こしたのか、それは日本だけが独自だったから、日本だけが国連を…国際連盟を脱退したからだ。世界というものを見なかったからだ。





今、ほんとにそうですね。温暖化についても、エネルギーについてもですね、ほんとに日本独自の考えでやってるという感じがしますね。原発でもそうですね。一見フランスも日本も原発を促進しているように見えますけど、フランスは地震がない、津波がない、川の上流に作るというやり方をしてるわけですね。





日本は地震があり、津波があり、海岸性に作るというやり方をしてます。もうぜんぜん技術的には違うんですね。同じ原発とは言えないぐらい違うんですよ。やっぱこれも日本独自なんですね。日本独自でやるのが悪いっていうわけじゃないんですが、日本独自でものを考えたり、やる時にはですね、やっぱり充分な議論を必要とすると、私はそういうふうに思います。