東北大地震が予測できなかった科学的な理由と人災 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

東北大地震が予測できなかった科学的な理由と人災 (7/8)




ここに示したグラフは地震が起こる1週間前から地震が起きた当日にかけての伊豆半島の地震の様子を示したものです。3月5日過ぎから急激にマグニチュード(右目盛り)2程度の地震が頻繁におこるようになります。



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このグラフは横軸に2011年の3月5日頃から3月11日までで、縦軸の棒グラフが一つ一つの地震振動、折れ線が「累積地震数=3月5日頃から数えたトータル地震数」です。京都大学の地震研究者のデータをサイエンス誌が掲載していました。




3月5日頃から急に地震が増え、とくに大地震が起きる直前には急激に増えて折れ点が見えます。 横軸は時間で折れ線の最後の●のところが大地震です。このグラフで何がわかるのでしょうか?




この余震を観測したとき、「大地震の予兆ではないか」と考えた地震学者もいたようですが、それを「学問的に結論づける」ことはできませんでした。つまり、「なぜ、これほどの兆候があっても地震が予知できないのか?」ということが問題なので、それを科学的に解説をします。



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地震にも数種類ありますが、簡単に言えば「固い岩石が地下の岩盤がズレる」ということです。一つの場所だけでずれれば何にも起こらないのですが、「地球の地下(地殻)」は「固い固体」でできていますから、どこかがズレて形が変われば、そのズレは日本列島全体に及びます。




大地震であるほど「大きくズレる」わけですから、震源に近いところは2メートルとか10メートルとかズレ、かなり離れたところ、たとえば日本海岸でも数10センチはズレるところもあります。




つまり、地震を予知するということは、「岩石同士がいつズレるか?」を予想することです。上の図で小さな振動が見られるのは大地震の前に小さな岩石のズレが起こっているということです。ところが、この小さなズレが数日後に大きな地震になるかがわからないのはなぜでしょうか?




よく道路に面した崖に大きな石が乗っていて、今にも落ちそうなことがよくあります。その崖の岩石が今にも落ちそうだ(近いうちに大地震が来そうだ)、でもそのまま30年は落ちていない(大地震が来ない)というのと同じで、「地殻に大きな歪みがある」というだけでは「明日か100年後か」はわからないのです。




ところで上の図を見た学者は、なぜ3月8日頃、せめて警告を発してくれなかったのでしょうか? その理由は、

1)もしかすると大地震の前兆だが、そうでないこともある(学問的な問題)、

2)そうでなかったら批判を受ける(社会的な問題)、
ということなのです。



つまり地震学者が予算を取りたいために40年ほど前、「地震の予知ができる」と誤解されるようなことを言ったので、自分で自分の首を絞めて、学問と社会の責任問題が絡んでしまったのです。




もともと「東海地震が来る」というのは学問的にウソで、「どこに地震がくるかどうかわからないが、東海地震を研究材料にして、いつの日か地震予知ができるようにしたい」と言うのが正しかったのですが、地震関係の天下り団体を作り、学者がお金をもらえるために、阪神淡路大震災、新潟付近の地震、そして今回の東北大震災の犠牲者を出したのです。




地震が起こった1ヶ月後には「東北地方の地震について」の研究会が予定されていたほどです。その1ヶ月前に、これほど明確な兆候があっても、「地震が来そうだ」ということも言えないという状態だったのです。




学問的に間違っていること・・・「原発は安全だ」、「被曝しても大丈夫」・・・などと言う学者がいるのですから、仕方がないのですが、「日本の原発は耐震性(震度6以上)も耐津波設計もされていない」、「被曝と健康の関係は学問的には不明で、目安があるだけ」、「地震の起きるメカニズムはわかってきたけれど、予知などはまだまだ」と勇気を持って言う必要があります。




国民の方も「地震予知は学問が進まないとわからない」と正しく認識し、目先の「役に立つ研究」より、「基礎研究を充実させることで日本国を立派にする」ぐらいの雰囲気ができないと犠牲者を増やすだけになるでしょう。




今度の東北大震災は私は「人災」と思っています。それはあたかも東海地震が予知できるようなことを言い、阪神淡路、新潟、東北の備えをおろそかにし、今でもその反省が見られずに、今でも予知できるようなことを言う人が跡を絶たないので、困ります。




東北大震災で犠牲になられた方の無念を思えば、「学者のメンツ」や「役所の責任逃れ」などにならずに、本当に「地震予知はできない」ということを前提に防災対策を講じる必要があるのです。


(平成24年7月8日)




--------ここから音声内容--------




えーと、ここに示しましたグラフはですね、地震が起こる1週間ぐらい前から地震が起きた当日にかけての、これは伊豆半島なんですが、地震の様子を示したものなんですね。3月5日ぐらいから急激にマグニチュード2程度の地震が頻繁に起こるようになりました。





このグラフをちょっと解説します。横軸がだいたい(2011年の)3月5日から3月11日まで…地震の直前ですね。それから、縦軸の棒グラフはですね、地震、震度を示しておりまして、折れ線グラフになってるところが「累積の地震数(=3月5日頃から数えたトータル地震数)」ですね。京都大学の地震研究者のデータで、サイエンスの関係誌に載ってたものであります。





で、これを見ますとですね、折れ線グラフが急に3月5日少し過ぎたらですね、折れ点が見えます。で、最後に地震に至るわけですね。で、こういったいわゆる、大地震の余震というのはあるわけですね。そして何でこれを見た人が「地震が近いんだ」と言ってくれればですね、津波でお亡くなりになった人が随分減るわけですね。まぁ、そういうふうに考えた、実は学者もいたらしいんですけども、だからと言って、「これは大地震が来るよ」ということを発表するまでに至らなかったわけです。「なぜそうだったのか? なぜこれほどの兆候があっても、あの大地震を予知できなかったのか?」ということをですね、ちょっと解説をしたいと思いますが。





地震っていうのは、まぁ数種類あるんですが、基本的には「固い岩石が地下でズレる」んですね。ドサッとズレますから。それで、大きな揺れが来ると、まぁこういうことなんですね。で、この揺れはもう、「地下の下は岩石で固い」ですから、どっかでズレが起こりますと、もう日本全体でガサッとズレますんでですね、揺れるばかりか場所も変わる。例えば、2メートルから10メートルこうズレたりですね、数10センチズレるってところは日本全体で起こるわけですから、まぁこれすごいですね。





これはどういうことか?って言いますと、結局岩石がズレるわけですからね、そうするとこう、その大きなズレの前に小さなズレがあるわけです。例えば、崖にひっかかってる大きな石がありますとね、その石がこうザッーっと落ちてくる時には、前には小さい石がコロコロコロコロと転がって、そして大きな石がドカーンと落ちる…まぁこんな感じですね。しかしこれがですね、どうしてこうなるのか?っていうことですね。





えーっと、例えばですね、崖に大きな石が一個ひっかかってると。「あれ落ちてきたら、道路に落ちてきたら危ないな」と思ってみんなでこう見上げてると。たまにはですね、近くの石がコロコロ転がっても、その大きな石が落ちるってことが無いと、こういう場合とですね、大きな石が落ちる寸前に小さな石がコロコロ落ちてくるっていう場合と二通りあるわけですね。ですから、「岩石が落ちそうだ」っていうことと、「これは近いうちに大地震が来るんだ」っていうことと、「このまま30年は落ちない」ということとの間に、ほとんど差が無いんですよ。ですから、「地殻に大きな歪みがあるから地震が来る」だけども「明日か100年後か分からない」と、こんなことなんですね。





つまり、これをまとめますとですね、「なんで3月5日頃、この図があるのに警告を発してくれなかったのか?」と二つ問題がありますね。一つは、「大地震の予兆であるかどうかが、学問的にハッキリ分かんない」、で、「もしも地震じゃなかったら批判を受ける」ってこういう学問的な問題と、社会的な問題が絡んでおりますね。これがまぁ、今非常にこじれております。





例えば、40年ぐらい前、「東海地震が来る」っていうようなことをですね、言ったわけですよ。これはまぁ、地震学者が予算をとりたいとか、天下り組織を作りたいとか、まぁこういうことがあったんで、これで自分で自分の首を絞めちゃってですね、学問と社会の責任が分離できなくなっちゃったんですね。これはまぁ、ほんとに原発の今度の事故と割合と似てるんですね。勿論「東海地震が来る」というのは学問的にウソなんですよ。





つまり、それまで地震予知の研究してなかったわけですよね。それからもう40年50年経ってもまだこれ出来ないわけですから。だから、正しく言うならこう言わなきゃいけなかったんですね。「現在のところ、どこに地震がくるか分からないけど、東海地方を研究材料にして、いつの日か地震予知ができるようにしたい」というふうに言うのが正しかったのですが、なにしろ役人が「天下り団体を作りたい」、学者は「お金を貰いたい」というふうに言ってる間に、阪神淡路大震災、新潟付近の二度の地震、そして今回の東北大地震で多くの犠牲者を出したわけですね。実はですね、東北についても地震が起こった1ヶ月後ぐらいに…地震が起こる前ですよ、(「東北地方の地震について」の)研究会が予定されていたぐらいなんですね。だけど、ダメなんですよね。





まぁ、先程から繰り返しますが、このグラフのものがですね、予兆なのかどうか?っていうことが「分からなかった」ということですね。これはですね、学問っていうのは、必ずしも何でもかんでも分かるわけではないんですよ、ええ。「原発は安全だ」とか「被曝しても大丈夫」なんて言う人がいるんですけど、そんなのは分からないんですよね。だから正しく言わなきゃいけないんです。「日本の原発は震度6以上の耐震性とか耐津波設計がされていないので、地震とか津波に危ないですよ」と、「被曝と健康の関係はハッキリしてないんで、目安ぐらいしかないんですよ」とこういうふうに言わなきゃいけないわけですね。えー、「地震についても、メカニズムはかなり分かってきたんだけど、いつ起こるかは分からないんですよ」というふうに学者が勇気を持って「分からないことは分からない」と言うことが大切ですね。





で、国民側もですね、私はこの頃、役に立つ研究とかですね、こういうことに役に立ったってよくニュースなんかでやるんで、役に立つ研究が良いんだって言ってますけども、やっぱり基礎的な研究が進まなければ、ほんとに役に立つことは出来ないんですよ。ですから、基礎的な研究の進歩を待つということですね。





私はこのブログでも言ったことがあるんですが、東北大震災はですね、「人災」の一種ですね、ええ。それによって多くの人が亡くなったわけです。私はですね、東北の大震災で犠牲になられた方の無念を思えばですね、これまでの「学者のメンツ」とか「役所の責任逃れ」っていうんじゃなくて、まずは「地震予知は出来ないよ」っていうことを前提にですね、防災計画を練っておく必要があると。やがて、あと100年も経って、地震予知が出来るようになったら、その時には、その防災計画も少し緩めればいいとこういうことで、今でもですね、「いつ地震が来るの?」っていうようなことがしょっちゅう新聞とかテレビに出るのは本当に問題だと思います。

(文字起こし by haru)