日本だけ(7)・・・止まれなかった日本 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

日本だけ(7)・・・止まれなかった日本 (5/3)




(シリーズの7を録音して、すでにだしたと錯覚していました。)



明治維新からやっと独立した日本が、やがて慣性力にまけて止まれなかった時期が来ました。



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--------ここから音声内容--------




えー、私あの小学館のご厚意でですね、「ガリレオ放談」ていうのやっとりまして、シートを示しながら色んなテーマで話をする、その時「嘘の慣性力」って言うのやったんですね。一回嘘をつき始めますと、なかなか人間止まれない。ギリシャ時代は槍を投げて槍が止まるのはですね、「力が失ったからだ」と、まぁいうことだったんですが。その後ですね、ニュートンが「慣性力」っていうのを発見しまして、物っていうのは慣性がつくと、そのまま慣性力というのでどこまでも行くんだと、こういうことを立証したんですね。





えー、これはあの、物理の世界ばかりでなくて、人間の社会にも嘘が一回つくと、嘘が止まらなくなる。そういうのと同じようにですね、歴史を見ますとですね、何か一回膨張し始めますとね、止まらないんですね。例えば、ローマはどんどんどんどん膨張して、「大ローマ帝国」になりますし、このシリーズの第一回にお話したモンゴルもですね、ほんとにあんな遠くまで行く必要はあったのか、というように思うんですが、まぁ行き過ぎてしまうんですね。





現代のアメリカがそうです。えー、東海岸に上陸したですね、最初13州ぐらいの小さな国だったんですが、西へ西へと行きたくなりまして、メキシコと戦ってテキサス州を獲り、カリフォルニアに行き、太平洋が前にあるんだからもう止めたら良いのに、更に西に行ってですね、フロンティアですね・・・西のフロンティア、アラスカをロシアから買い、ハワイ王国を滅ぼし、スペインと戦ってフィリピンを獲り、太平洋戦争で日本に勝ち、朝鮮戦争で韓国を獲り、ベトナム戦争は負けましたが、更にアフガニスタンに行き、今はイラクまで行ってると、もう少し行くと世界一周しちゃうと、まぁいうような、そういうクセがあるんですね。





それが日本の場合もあってですね。まぁ明治維新以来、最初はとにかく独立でしたからね、独立するのが非常に大切だったんで、夢中になって教育をし、軍艦を造り、お金を貯めて、日清、日露戦争にやっと勝ってですね、そして独立を保ちました。それは大体1910年頃ですね、大体この1870年ぐらいから日本国という形が出来てきましたから、その意味では40年から50年ぐらい経ちますと、やっぱ行き過ぎになっちゃうんですね。





ええまぁ、あの「対支二十一カ条の要求」というのは悪者の代表みたいになってますが、ま、そうとも言えないんですが、段々段々日本が海外進出をする、と。もう独立というのを果たしてですね、「列強(れっきょう=大国や強国)の仲間入りをして、アメリカとかイギリスとか、フランスとオランダと戦っていこうじゃないか」と、いうことになります。アジアの国としては珍しかったんですが、そういう風になりますね。





ついに有名な松岡洋右(まつおかようすけ)外相がですね、満州国を日本が獲ったもんですから、これを批判されたもんですから、当時の国際連合・・・国際連盟つったんですけども、そっから脱退するわけですね。えー、『42対1(日本)票、棄権1、国際連盟総会勧告書を採択する』 これはまぁ、ヨーロッパ人の書いた満州に対する勧告書ですからね。 (日本の新聞記事見出しには)『我が代表堂々退場す』ということで、国際連盟を脱退します。これからまぁ、一気に日本は孤立化を深めてですね、戦争に行き、敗戦してしまうんですが。





しかし、これはですね、「連盟よさらば!」というようなことになってますが、意気揚々として、「日本は世界で独立してやってくぞ!」とまぁいうわけですね。松岡洋右というのは大変に教養のある人で、演説なんかも素晴らしい演説をする人なんですね。しかし、歴史の流れっていうのはですね、その中で個人というのは小さいものであります。





ナポレオンのですね、ロシア進出を小説にしたトルストイの「戦争と平和」という有名な小説ありますが、そこでトルストイはですね、「個人というものは歴史の流れの中の一つである」と、いかにナポレオンぐらいでもですね、「やはり歴史の中に沈んでしまう一つの物体に過ぎない」っていうようなですね、感想を持って書かれたと思います。





正にこの当時の日本もですね、どんどんどんどん膨張していく事を、もう人間の力では止められないんですね。太平洋戦争に負けまして、アメリカ軍が日本の首脳部を裁くという段になってですね、「実は戦争の前、誰も戦争したくなかったんだ」と、まぁいうようなことになっちゃうんですね。だって、戦争を決めた人が「戦争嫌だった」って言うんですから、不思議ですよね。





これが、一つは私がこのブログで書いている「空気的事実」、空気を作ってしまうと日本人の頭は凍り付いてですね、それを変えることが出来ない。例えば、「原子力発電所は安全である」と言うとですね、どんなに危ない原子力発電所でも安全になってしまいますし、「地球がCO2で温暖化する」と言うと、それがいかにおかしくてもCO2で温暖化するということになってしまいます。





ま、この当時はですね、「鬼畜米英」、「アメリカとかイギリスはおかしいんだ」と、「これをやっつけなければいけないんだ」と、「我々は中国を占領する権利を有するんだ」と、こういう風に一旦なってしまいますとですね、それに反する人は全部投獄されたりなんかする、と。現在でも、私なんかまぁ、別に普通の事を言ってるように自分では思ってるんですが、投獄は今だからされませんけどね、いわゆるバッシングを受けたり、時々テレビに出られないとかですね、色んなことが起こりますね。





当時はもちろん憲兵もいますし、一丸となってやるってことですね。私、「まぁリサイクルあんまりしても意味無いですよ」って言ったときに、「国民が心を合わせてリサイクルするのに、それを水を差すのか!」つって、ものすごくやられましたけどね、それと同じことですね、ええ。国民が一丸となって、アメリカ・イギリスと戦おう!という気分になってるときに、「そんなことに文句つけてたら、何だ!」っていうことで、皆しょっ引かれちゃったわけですね。そういう時代でした。





まぁ、この行き過ぎは残念ですね。途中で止まれないんですね、「建前社会」ですから。建前社会っていうのは途中で止まれないんです。建前じゃなくて現実論でしたらね、アメリカの軍隊はこのぐらいいるとか。最近でしたらですね、日本の原発は地震・津波の設計がされてないんだと、こういう風に事実が分かるんですけど。





建前ですから、とにかく。だからもうそのまま、ずーっと自分が破滅するまで突っ走るっていう、これが日本流のやり方であります。最後まで突っ走るのは「日本だけ」と言ってもいいんですけども、ま、ドイツがちょっと似てますけどね。ま、そういう時代でありました。


(文字起こし by danielle)