あきらめた (5/29)
10年ほど前、網膜剥離で光を失い、しばらく真っ暗闇の中での人生だったとき、少し精神的におかしくなって精神科のお医者さんに睡眠薬をいただきました。一日3回、その睡眠薬を服用すると実に快適で、それまで数10年間、不眠症で悩んできたことがウソのようでした。
「ああ、これで自分の人生も楽になる。もうあの不眠症で苦しむことはない」と思ったものです。ところが目の手術が成功した後、服用する量を3分の1、6分の1と減らしながら普通の生活に戻っていったのですが、なぜか飲むと激しく心臓が鼓動することがあり、恐ろしくなって「人生、たった一つの頼り」だったその睡眠薬も飲むことができなくなったのです。
あきらめました。寝ること自体、翌日の体力を心配することも、普通の生活をすることもすっかりあきらめて、「しかたがない、寝ることはできない。それもまた人生だ」と思って、ある日からまったく睡眠薬もお酒にも頼らず、ただそのまま床につくようになったのです。
毎晩、不安がよぎり、またあの退屈で不安な夜が来るのかと思いながら布団をかぶる毎日でした。
ところがあるとき、「眠る」というのと「横になる」というのがどう違うのか?とふと気になりだしました。普通、「眠る」と言えば意識がなく、「横になる」というのは体は寝ている時と同じで、頭の活動だけ違うのです。それなら、「眠っていても、横になっていても、明日の体力は同じだな」ということに気がつきます。
それ以来、あれほど長く苦しんだ不眠症もどこかに行ってしまいました。床につくときに「眠ろう」と思うと「眠れるかな?」と心配になりますが、「横になる」だけなら100%できるからです。
それから10年。元気な毎日を過ごしています。横になっても眠れないとき、あらかじめ準備してある小説の朗読やニュースを聞いたりして退屈で暗いひとときを過ごしますが、それも少しずつ少なくなってきているようです。
(平成24年5月29日)
---------ここから音声内容--------
えー、十年ぐらい前の事でしたか、網膜剥離でちょっと光を失いましてですね、暫く真っ暗闇の人生を過ごしました。そん時、少し精神的におかしくなりまして、精神科のお医者さんにご相談しまして睡眠薬をいただきました。一日3回、その睡眠薬を服用しますと実に快適でですね、いやもうそれまで私は、数十年間の間は不眠症で悩んできたんですけども、それがウソのようになりました。
「ああ、これで自分も・・・自分の人生も楽になるなぁ」と、大げさですけども、不眠症って結構辛いんですよね。「もう、あの不眠症で苦しむ事はない」と思ったものです。ところが、目の手術が成功しまして暫く経ちまして、服用する量を1/3、1/6と減らしながら普通の生活に戻っていったわけですが、何故かある時からですね、飲むと激しく心臓が鼓動するようになりました。恐ろしくなって、ま、これも大げさに言えば、「人生、たった一つの頼り」だったその睡眠薬を飲むことを諦めたわけです。
もう、そん時はすっかり諦めてですね、どういう気持ちだったかって言いますと、「寝ること自体、もうダメだ」と、「翌日の体力を心配する事もできない」、「もう普通の生活は、もしかしたらできないかもしれない。まぁ仕方が無いな」と、「寝ることも出来ないけど、それもまた私の人生だ」と思って、その日から全く睡眠薬も飲まず、お酒にも頼らず、ただそのまま床につくというようになったわけですね。
えー布団に向かうときには不安がよぎりまして、「あの退屈な、不安な夜が来るのかなぁ」と思いながら、布団を被ったわけです。ところがですね、間も無くしてだと記憶してますが、「眠る」というのと、「横になる」っていうのはどう違うのかな?と気が付きだしたわけですね。普通、「眠る」というのは意識が無いわけで、「横になる」っていうのは、身体は寝ていても、頭はハッキリしてるっていう状態ですね。
で、それをこう私考えてるうちに「あ、そうか」と、「眠っていても、横になっていても、体力という点では明日の体力は関係ないかな?」と、こういうことに気が付くわけですね。それ以来、実はですね、あれほど私の人生で長く苦しんできた不眠症はどっかに行ってしまいました。ていうのはですね、床につくときに「眠ろう」と思うと眠れるかなという心配になりますけど、「横に寝る」だけならですね、もう100%必ずできますから。横にさえなりゃいいんですからね。
それからもう十年経ちましたが、元気な毎日を過ごしています。横になっても眠れない時、あらかじめ準備してある小説の朗読とかニュースを聞いたり、もう目を開けると絶対ダメなもんですから、目をつぶって聞いたりですね。そうしていますと、そのうち寝てしまったり寝(ら)れなかったり、それも気にしてませんからね。横になってますからもう寝てるのと同じなんで、別にあの、そのままなんですね。
夜が段々明けて、外が明るくなってくることが分かる事もあります。それでもですね、自分の身体が横になってる限りは何も気にはなりません。そうこうしてるうちに、何か最近ですね、「なんか寝(ら)れるようになってきたな・・・」という感じがしました。諦めて、気が付いて、そして自然の中で生活ができるようになったと、ま、こんな感じです。
(文字起こし by danielle)