ダブルスタンダードと「独自基準」 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

ダブルスタンダードと「独自基準」 (5/6)




親は「政府が間違っていたから」という理由で子どもの健康を害しても良いとことはない。政府が悪ければ、親が正しくなければ子どもの信頼に応えられない。

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農水省は「1キロ100ベクレルという新基準を作ったのに、それ以下の独自基準はけしからん」と言い、それに追従するマスコミも見られる。マスコミの論調は「違法でなにが悪い! 庶民は被曝しても文句を言うな!」という内容が書いてある。専門家も御用学者も「空気がそうなら、そう言う」という信念を貫いている。


でももともと「違法な独自基準」を決めているのは政府の方である。日本の法律に違反しているのにマスコミが「ヨーロッパは・・・」とヨーロッパの基準を持ち出すなど、日本を馬鹿にしているのも甚だしい。国民の健康を心配するなら、せめて「法律を守れ」ぐらいは言って欲しい。


繰り返すことになるが、日本の法律は「1年1ミリシーベルト=外部+内部被曝」と決まっている。これを正面から否定する人はいない。厚労省の大臣がさらっと「1年1ミリですよ」と言って、これまでの違法を謝罪しない。まさに現場から離れた東京の論理だ。


それなのに、またも政府の機関が決めた今回の食品の基準は「食品だけで1年1ミリ」と公言した。厚労省の食品安全担当が、厚労省の大臣とは違うダブルスタンダードなのだから驚く。交通事故で言えば、飲酒運転が禁止されていても、酒飲みの運転手を保護して、はねられる子どもを無視するという方針だ。最初から、食べる人の健康ではなく、食材(本当は汚染された食材は食材とは言えない)を作る側に軸足を置いた値である。


まず食品基準を決めるときには、次の手順が必要である。


1) 原発が原因となる被曝は1年1ミリ以下に納めるのが、原発を実施するにあたっての国民同士の約束(法律、規則、指導)であり、それを守るのは当然だ、


2) 1年1ミリは外部被曝と内部被曝の合計であるので、まず、政府全体でその割合を決めなければ個別の規制は決まらない(たとえば、内部食材0.4ミリ、内部水0.1ミリ、内部土ほこり0.1、外部0.4ミリ・・・これが示されないと議論にもならない)、


3) 個別の食材の規制では、内部食材0.4ミリの場合、次に厚労省の標準食品表(1日あたりの日本人の標準的食品の量)に基づき、計算し、食事の偏り(サカナの好きな人などの幅)の計算を公表する、


4) もしくは、現在の農薬などに適応されている「無毒量(1年1ミリ)の100分の1」の原則を使用する(これが低レベル廃棄物やクリアランスレベルの0.01ミリ)で、個別の食材に100分の1則を使うのは、データの不確かさ、個人の防御力のばらつき、個人の嗜好の幅などが考慮される、


5) 50年間の内部被曝、人体からの排泄などを考えて、1年の積算被曝量を出す、


6) それに基づくと、1キロ40ベクレルが最高で、それ以上にはならない。


というものだ。このような理論的な計算をしてから議論しないと、政府や厚労省、農水省、一部マスコミの論調は「おまえら国民は何も知らなくて良い。結果だけ教える」というもので、まったく民主主義というものを尊重していない。


福島原発の後、政府は徹底してダブルスタンダードを使っている。1年1ミリの法律を使って14才の少年を書類送検してみたり、同時に1年20ミリの新基準をだしている。食品でも「暫定基準」なるものがセシウムだけで1年5ミリ、全核種で17ミリとして、半年あまりで1年1ミリ(内部被曝だけ)とする。


まるで、夜店の値引きのようだ。原発が事故を起こしたら、どのような基準で行くかもすでに原子力安全委員会で決まっているのに、誰も知らないからという理由で勝手放題である(10万年に1回の事故に限って、上限を1年5ミリまであげうる、被曝によるがん死は1年150人以下にするなどが決まっているが、政府、マスコミはそれを守ろうともしない)。


政府、マスコミに法律や決まりを守る誠実さを求めたい。誠実であっても子どもに被害が出るかも知れないが、それは不可抗力だ。でも、最初から不誠実で子どもに健康被害がでたら、私たち大人は大人を止めなければならない。


(平成24年5月6日)




--------ここから音声内容--------




非常に質の悪い新聞記事が出ましてですね、ちょっと私も気分が悪いんですが。「政府が間違ってたから」、子供が健康を害して良いなんてことはないんですよ。やっぱり政府が悪ければ、マスコミとかが正しい情報を提供して、親が正しく子供を守れるようにしなきゃいけませんね。農水省が「1キロ100ベクレルという新基準を作った。それ以下の独自基準はけしからん」と言ったわけです。これにマスコミが追従してますね。





論調はですね、「違法で何が悪いんだ!」と。「庶民は被曝して、子供が健康を害した。文句言うな!」っていう内容なんですよ。で、そこに登場してる専門家とか御用学者はですね、「ま、空気がそうなら、そう言うよ」という信念を貫いています。元々、「その違法な基準」を決めてんのは政府なんですね。もう非常にはっきりした基準なんですよ。





例えば、日本の法律は、繰り返しますが「1年1ミリシーベルト、これ内部、外部、合わせて」と決まってるんですよ。これを正面から、今否定する人はいないんですね。昔はいましたけど・・・昔っていうか、1年前は。今は厚労省の大臣ですら、さらっとですね、「1年1ミリですよ」なんつってるんです。いやこれ、これまでの違法状態を謝罪もしないんですよ。これはあの、正に現場から離れた東京の論理で、“口先だけ、何でも言える”っていうわけです。





ところが、その同じ厚労省がですね、「食品だけで1年1ミリ」と公言してんですよ。何ですか?っていう感じですよね。だって、厚労省の委員会が、厚労省の大臣と違う「ダブルスタンダード」なんですから。しかも法律や規則を違反する、と。





例えば、交通事故で言えばこういうことですね。飲酒運転が禁止されててもですね、酒飲みの運転手を保護して、はねられる子供のことを考えないってやつです。食べる人の健康ではなくて、食材・・・ほんとはですね、汚染された、放射線に汚染された食材なんていうのは食材と言えないんですが。これを作る側に軸足を置いてるわけですね。





ま、ここんとこでハッキリとですね、ま、お判りだと思いますがマスコミなんかはですね。一応、『食品の基準を決める手順』をちょっと示しときます。原発が原因となる被曝は1年1ミリ以下に収めるというのが、国民同士の約束ですね。法律とか規則とか指導っていうのは国民同士の約束であって、そんなことをマスコミとか政府が勝手に変えることはできないんですよ、これは国民同士の約束です。





で、1年1ミリは外部被曝と内部被曝の合計です。そうすっとですね、合計ですから、食品安全を決めるためには、内部被曝と外部被曝の割合を決めなきゃいけません。例えば、内部被曝0.4ミリ、水は0.1ミリ、土ぼこり0.1、外部0.4、何でもいいですけど、とにかく決めなきゃいけませんね。何しろ、福島のように外部被曝の多いとこに住んでおられる方もおられるわけだから。それも全部考えて、その内部被曝の限界を決めなきゃいけません。





で、個別の食材の規制ではですね、今度はどうするかって難しいんですね。これは専門家ですから大丈夫ですが、内部被曝0.4と決まったら、次に普通だったら厚労省の標準食品表でどのくらい食べるかを計算するんです。それから、「偏り」を計算します。魚の好きな人は魚だけ食べますから、標準ではいかないですからね。この計算を公表しなきゃいけません、どういう計算をしたか?ってこと。全然、公表されておりません。





もしくは、現在の農薬などに適用されている考え方を適用しても良いんです。これは「無毒量(1年1ミリ)の1/100」ですね。これはまぁ、実際上はその、福島に住んでる方とか、そりゃ外部被曝が多いから、内部被曝を抑えなきゃいけません。しかしまぁ九州に住んでおられる方は外部被曝が少ないから、内部被曝もっといい、と。





そういうのを全部計算しますとね、あと好き嫌いありますから、子供とか。全部計算しますと、結局んところ、無毒量、これは1年1ミリですね・・・の1/100の原則を適用することになります。これを適用してんのが、低レベル廃棄物とか、クリアランスレベルの0.01ミリですね。





で、個別の食材に対して、何故全体の1/100の方を使うかっていうと、ま、データの不確かさとか、個人の防御力のばらつきだとか、地域性だとか、嗜好とか、そういったもので考慮されるわけですね。これが現在の食品の安全の考え方であります。それに基づいて、今度は50年間の内部被曝を計算して、人体からの排泄を考えて、1年の積算量を出すんですね。





私はまぁ、いつも言ってるようにバッシング、全然気になんないんですけども、「武田の計算は50年の内部被曝だ」、全然そんなことないですよ。まずは50年の内部被曝を計算するんです、これ第一段階ですから。これは素人ですね。しかしその、排泄とか色々ありますから、それを全部考えて1年あたりの被曝線量を出す、と。これが内部被曝の出し方ですね。





それに基づくと、私の計算では1キロ40ベクレル以上にはなりません。なるんだったら、やっぱりそれ根拠示さなきゃダメですね。今はですね、結果だけ示してですね、「お前ら国民はどうせ分かんねぇんだから。結果だけ教える」っていうやり方なんですよ。もう全然、民主主義の考え方じゃありませんね。





それから、もう一つ一番いけないのが、徹底した政府のダブルスタンダードですね。僕はいつも言ってますように、「1年1ミリじゃないよ」って言ってる政府が・・・去年の夏に言ってたわけですね。その政府がですね、自分たちで14歳の少年を「1年1ミリ違反したから」って、書類送検したわけですよ。ま、こんなことしてるわけですからね、どうにもなんない、と。





ま、ぼくはあの、夜店の値引きみたいな感じはするんですよ。とにかくですね、もう法律も決まってる、それから事故が起こしたらどうするかも決まってんですよ。これもね、専門家知らない顔してんですけども、「10万年に一回の事故に限って、被曝上限を1年5ミリまで上げ得る」っていうことなんです。




で、「被曝によるガン死は1年に150人以下にする」っていう風に決まってるんです。これを決めますとね、実は避難させる人とか全部決まるんですよ。それを絶対に言わないですね。まぁ、最初1年1ミリも言わないんですから、事故の時にどうするかっていうようなこと言わないのは、もうそれ当然なんですけど、それ汚いんですよね。だって、政府が自分たちで決めたことを自分たちで守らないんですから。





それをマスコミがね、あたかも何か、“「法律を守る人」をいけない”つってんですよ。こんな世の中つくって良いと思いますかね? それで子供が被害を受けたらどうすんでしょうかね。それは我々が自分たちで約束した色んな法律、「1年1ミリ」もそうですし、それから「10万年に一回に限って1年5ミリまで」とか、そいから「被曝によるガン死は1年150人」とかいうのも間違ってるかもしれませんですが。





しかし、それを一所懸命守ろうとしたら、それは子供に被害が仮にあっても、ま・・・仕方ないっていうとこありますね。ところが最初っからですね、不誠実で、もう守ろうともしないで、子供に健康被害が出たらですね、私はね、大人が大人を止(や)めなきゃいけないと思いますよ。もちろん政府の人なんか全部、仕事辞めなきゃいけませんね、それは。それはだってそうですよ、だって自分たちが決めたんですから。





ま、特に東大の教授、僕言うんですけど、東大の教授がほとんど関与して、こういった規則を全部決めてきたんですね。その東大の教授がせめて、その学者としてのプライドでですね、「私たちが決めた規則を守ってくれ」って、何で言わないんですかね? 全部、今隠れちゃってんですよ。全部隠れて、じーーーっとしてんです。





それで、自分たちが決めたやつを守らないことは十分知ってます、自分が決めたんですからね。それがバレないように、じーーーっとしてるんです、何でですかね。

自分の地位が危ういから? 勲章が取れないから? 東大教授っていうのは、常に勲章取りたいんですね。勲章が取れないから・・・何か理由があるんでしょうね。今までちやほやされてきたから、一回でも罰せられたくない、何かあるんだと思うんですが。ま、私はですね、東大教授にしても、色んな専門家にしてもですね、子供よりか価値は無いですよ。やっぱり子供を守るってことが、我々大人の最低限の任務ですからね。





だから、こういったことを全部専門家以外は判らないと、国民をバカにしてですね・・・ま、あの自治体の市長さんとかそういうのもそうですね。今日あの、メールもいただきましたけど、瓦礫の引き受けもですね、実際に「2300万トンの瓦礫のうち、何で400万トンだけやらなきゃいけないんですか?」っていう質問をされた市長さん、ある市長さんが、「いや、それはよく分からないんですけど・・・」って、「だけども、被災地を助けなきゃ」って。あなた、何考えてんの?って、そんな感じですよね。被災地はほんとに「瓦礫の処理設備が必要だ」って言ってんですから。





ほんとは違うんですよね、政府はもしかすると、この低レベル廃棄物よりか基準の高いものを瓦礫として各地に引き取らせて、それをテコに、今度原子力発電所が止めることになると、そこにある廃棄物を全部仕舞わなきゃいけませんから、それの口実を作ってるかもしれませんね。そういう説明が政府から、瓦礫を引き取る各市長さんにいってるかもしれませんよ。いやぁ、ほんとに『国民不在』というのは、このことを言うんでしょうね。


(文字起こし by danielle)