日本の電気代はなぜ高い?  鉄鋼業と電力業 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

日本の電気代はなぜ高い?  鉄鋼業と電力業 (4/23)



日本の電気代はアメリカの2倍です。長い間、日本の国民は高い電気代に泣かされてきました。中小企業は安い電気を使う海外との競争に疲れ、日本の家庭ではすっかり「節電」が定着しています。



道徳としての節電が良いか悪いかは別にして、電力会社にお金を出すために高い電気代を設定し、国民が我慢するという構図を、原発事故を境に止めたいものです。



日本の電気代が高いはずはありません。具体的に、燃料費、発電所建設費、送電距離、送電変電効率、電力品質などを比較しても良いのですが、このように細かく計算するとほとんど必ず電力会社の計算値に多くの人がだまされます。



それより、「日本の鉄鋼は品質価格ともに世界一なのに、なぜ電気は劣等生なの?」という質問の方が的を得ています。



鉄と電気は最終製品こそ似ても似つかないものですが、生産方法はまるで同じです。石炭を焚いて、鉄鋼では溶鉱炉を、電気では発電機を動かし、それで鉄と電気という製品を作るわけです。



新日鉄やJFEという巨大な鉄鋼会社と、東電・関電という電力会社の規模はいずれも巨大ですし、やっていることは同じで、日本の鉄鋼は国際価格で、しかも品質は第一です。



おまけに電力には日本特有の有利なことがあります。日本は人工稠密で国土が良い状態で管理されているので、送電距離が短く、国民が電気の送電に協力しているので、電柱などを敷設する問題も少ないという特徴があります。



それに三菱重工の高効率発電機、パナソニックが開発した高性能ガイシ、それにSF6の高圧スイッチ、ケイ素鋼で作られた変電装置など日本の電力技術は世界最高峰でもあります。



ダメなのは、地域独占、政商と化した電力のビジネスモデルにあります。まさにかつての日本の農業をダメにしたコメ政策を思い出します。まずは、発送電分離でもなんでも良いので、電力の独占から競争環境にすることでしょう。



電力会社にお勤めの皆さん。多くの方は若い頃、もうけより日本の電気のことを考えて就職されたと思います。2011年の原発事故は東電ばかりではなく、すべての電力会社の責任でもありますから、ここで初心に返り、外国に負けないコストで電気を作るべく頑張ってもらいたいと思います。



石炭、天然ガスで十分に現在の電気代の半分になります。事業の独占とはそれぐらい恐ろしいものなのです(西ドイツと東ドイツが統合したとき、西ドイツの人は東ドイツの工業製品が20年以上も遅れていたのにびっくりしました。同じ民族でも競争のないときにはそうなります)。

(平成24年4月23日)




--------ここから音声内容--------




日本の電気代っていうのは非常に国際的に高いわけです、アメリカの2倍なわけですね。これはもう日本の国民はもう非常に高い電気代に泣かされて、中小企業は安い電気を使う海外との競争に疲れたわけですね。まぁあの、日本の家庭では「節電」がすっかり定着したわけです。




まぁあの道徳としての節電が良いか悪いか、ちょっとこれは問題いろいろあるんですが、電力会社にお金を出すために高い電気代を設定し、国民が我慢するっていうこの構図はですね、もうこれは原発事故を境に止めたいもんですね。




大体ですね、あの日本の電気代を考えてみますと、一つ一つ言えばですね、例えば建設費、燃料費、そいからまぁ送電する距離だとか送電の効率だとかそういうのあるわけですが、大体こういうの細かく計算するとですね、電力会社の術中にはまっちゃうんですよ。





ま、別に電力会社が騙そうと思ってるんじゃなくて、やっぱり人間つうのは自分に有利なようにやりますからね、えー、ま、しょうがないと言うかですね、えーまぁこれはあんまり非難もできないかもしれませんがいずれにしても、ま、自分の会社が有利なように計算するのは、これしょうがないんですね。





ただもう少し大きく構えるとですね、こういう風に考えたらいいわけです、「日本の鉄鋼は品質、価格共に世界一なのに、何故電気は劣等生なの?」ってことなんですね。鉄鋼と電気と違うじゃないかって言うけど、これほとんど同じで、ええと石炭を買ってきて焚いて、鉄鋼では溶鉱炉で燃して・・・これ燃やすっていう表現は厳密には違うんですけど、ま、大体燃やして、えーっと、それで鉄を作る。




一方、電気ではですね、酸素と石炭を反応さして燃やして発電機を動かすんですね。で、まぁ鉄と電気を作る、と。製品はまぁ鉄と電気でえらい違うんですが、全く同じなんですね、やり方は。石炭を買ってきて、それを焚いて、鉄を作ったり電気を作ったりするっていうわけですから同じですね、やってることは。





そいから会社の規模も似てるんですよ。新日鉄とかJFEつったら、もう巨大会社ですね。それから東電・関電ってこれも巨大会社ですから、これもやっても同じ、大体規模も。ということは日本の鉄鋼が国際価格で、品質が素晴らしいのに、電力は劣ってるの?ってことなんですよ。




しかもですね、日本の場合はですね、割合と国土は非常に良いんですよ、治安も良いしですね。ま、どこに送電線を置いたから何か変なことされるってことも無いし、送電距離も短い、というようなことでですね、非常に有利なんですね。





しかもですね、例えば電気に関しては三菱重工が高効率の発電機を作る、パナソニックの技術者がですね、開発した非常に高性能のガイシがあります。これはあの、粒界にですね、ま、色んな元素を拡散したりなんかしまして、非常にこう耐電圧性を上げるっていうようなことをしてるわけですね。それからSF6というガスを使った高圧スイッチ、ケイ素鋼で作られた変電のですね、高効率変電装置なんていうですね、もう電気の技術っていうのはもう日本、非常に世界的にすごいんですよ。





技術はもう、電気はものすごいんですけどね、ダメなのがビジネスモデルなんですね。ま、ちょうど日本の農業をダメにしたコメ政策と似てるんですかね。ま、そういう意味では発送電分離でも何でも良いから、とにかく電力の独占から競争環境にするってことが僕、電力会社にとっても良いと思いますね。





電力会社の人も寂しいですよ、優秀な人が行ってんのに全然競争もできなくて、で、一人でトラック走ってるようなもんですから、やっぱり競争相手が時々は要るでしょうからね。だからやっぱり電力もですね、自分たちで積極的に発送電分離でも提案して、もしくはあの、同じ領域で独占しないでですね、供給責任がどうのこうので難しいこと言わずに、「とにかくまぁ、みんなでどんどん競争しながらやりましょうや」と。経営陣もそういう風に覚悟を決めて欲しいですね。





えーつまり、東電とかそういうとこ働いた人もですね、やっぱり僕は、えーその、昔は理想に燃えてたと思うんですよね。えーそれから、去年の原発事故はですね、東電ばかりでなくて、全ての日本の電力会社共通して責任を取らなきゃいけない。責任の取り方は、まぁもちろん原子力発電所安全にするとか、再稼動しないってこともありますけど、やっぱり電気自体を外国に負けないコストにするんだと、我々はそんなに惨めな人間じゃないんだと、そういう風にですね、電力会社の人もプライドを持ってもらいたいと思いますね。





えー石炭とか天然ガスを利用してですね…やりますと、まぁ電気代はとにかく1/2になります、これ間違いないと。やっぱりね、事業の独占っていうのはほんとに良くないんですよ。東ドイツと西ドイツが統合したときですね、もう東ドイツの車のボロいのに西ドイツの人はびっくりしてるわけですね。やっぱり同じ民族、あの優秀なドイツ民族ですらですね、競争が無いと、かつての東ドイツのようにダメになっちゃうってことですね。





今、電力会社の人は自分たちがダメだってことに、あんまりよく気が付いてないんですよ。あんなに傲慢だって言われてもですね、自分たちは傲慢じゃないと多分思ってますね。これが、独占が人の心を蝕(むしば)むということを示しております。


(文字起こし by danielle)