深層心理を少し考えてみる・・・ネット暴力 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

深層心理を少し考えてみる・・・ネット暴力 (4/17)



私が大学の頃、まだコンピュータができたてだったので、レバーを操作して2進法で命令を入れたものです。しばらく経つと、それがテープになり、テープに空いた穴で数字もアルファベットも読み取って機械語でプログラムを書いたものです。



今から見ると、当時(40年前)のコンピュータは思うようにならず、やっかいで面倒なものだったのです。そのうちにだんだん進歩してきて、今では機械語はもちろん、コンピュータ言語を知らなくても自由自在に扱えるようになりました。



大変結構な時代になり、私たちはテレビや新聞を見なくても十分に情報を得たり、楽しんだりすることができるようにもなったのです。でも、人間というのは奇妙なもので、良いことがあると必ず悪いことがあるという感じです。



10年ほど前、私が大きな手術をした後、私は眼科でしたが、入院していた病院の精神科の先生とすっかり意気投合して、いろいろな情報をお互いに交換したのですが、その精神科のお医者さんの話で印象的だったのが、「コンピュータをやっている人の精神病は治しにくい」と言うことでした。



20才ぐらいからコンピュータを扱い、30才ぐらいになると統合失調症のような症状を見せる患者さんがおられると言うことでした。実は私もその当時、コンピュータ・シミュレーションを担当させている学生にある特徴があることに気がついていました。



私の研究室は、実験する学生とコンピュータで計算する学生のグループがあったのですが、実験する学生の方は和気藹々とやっているのに、コンピュータのグループはいつも喧嘩して分裂してしまうのです。



その状態が精神科のお医者さんが言われる内容とそっくりなのでびっくりしたものです。そのときの先生と私の結論は「コンピュータはなんでも言うことを聞くので、自分が偉いと錯覚し、言うことを聞かない友達に腹を立てる」と言うことでした。



つまり、コンピュータでは”master and slave”の関係になるのですが、日本語では「主人と奴隷」と言うことです。主人が命令したことは奴隷は文句も言わずに聞いてくれる、そんなコンピュータを扱っているうちに、「なぜ、あいつは俺の言うことを聞かないのだ!」という精神病になるということです。



すでに名前がついているかも知れませんが、私は「マスター病」と名前をつけました。つまり、どんな相手でも「自分が主人で、おまえは奴隷」と錯覚する病気です。

この病気はコンピュータを扱う人ばかりではなく、自動車を運転する人(自動車は自分のいうことを聞いてくれる奴隷だが、他の自動車や歩行者は言うことを聞かない人間)、会社の購買担当(ものを買ってもらいたいと出入りの業者に毎日ごまをすられている)、東大教授(あまり実力はないのに、いつもチョンチョンされている。私の恩師のお一人はそれで東大教授を若くしておやめになりました)、下請けを使っている大会社の人(電力を含む。特に若いうちから下請けとの関係ができるとおかしくなる)・・などが見られます。



コンピュータを前にしてネットで仕事や遊びをしていると「こんなに便利で楽しいものはない」と思いますが、それが落とし穴なのでしょう。昔のあの「言うことを聞かないコンピュータ」ならこんなことは起こりえません。



もしかすると、2チャンネルとかツイッターなど、すばらしいネットのシステムも「マスターばかりが集まる」ので、喧嘩にならなければよいなと思います。どんなすばらしいシステムでも人間が使う限り、人間の心の問題が発生します。それをいかに回避してコンピュータの良いところを生かすことが人間の知恵というものでしょう。



私もよく体験します。ブログの攻撃やネット上の批判を見ていますと、普段、私に直接、お話をする人の言葉使いとは全く違うのです。なにか、鬼か蛇が攻撃してくるような感じがします。それもかなり内容が高度で、「この人はかなりの人だな。もしかすると大学教授ではないか?」と思うぐらいなのに、その文章や攻撃の仕方は実に激しく、失礼で、かつ自分の名前すら名乗らないということが多いのです。



攻撃してくる人の目的がわかりにくいこともあります。ものすごい勢いで攻撃してくるので、丁寧に説明すると、どうも何か知りたいということではなく攻撃自身が目的なのかなと思うことすらあります。見ず知らずの人で利害関係もなく、相手の言っておられることが理解不能になることすらあります。



単なる感想や苦情などは匿名でも良いですし、自分が被害を受けるから匿名でというならわかるのですが、本来なら名を名乗り、理由を述べて質問や議論すれば良いのに、匿名で口汚く罵る人にネットでお会いすると、もしかするとマスター病になっているのではないかとかわいそうに思います。



ネットをやっているうちに、少しずつ自分の心が傲慢になり、マスター病にかかった人、その人は自分の思うとおり行かない周囲の人とだんだんと疎遠になり、家族とも喧嘩が多くなり、そしてやがて不幸な人生の道に入っていくでしょう。コンピュータを介しているだけで、その向こうにいる人はやはり思うようにならない人間なのです。



それに気がつくのが第一ですが、なんとか、コンピュータに人間味(使う人の思うようにならないシステム)を入れていかなければならない時期かも知れません。

(平成24年4月17日(火))




--------ここから音声内容--------




深層心理というほどのことはないんですけど、少しですね、心の動きというものを考えてみました。えー私がまぁ大学の頃、コンピュータはまだ出始めでですね、えー何と言いますか、こうレバーがこう出てて、そこを上げたり下げたりしながら2進法を入れていった時代があるんですね。もちろん機械語でプログラムを組んでおりました。





ま、その後少し良くなってですね、黄色いテープにこう、穴が開いておりましてね、8つ。それをこう読むと、大体アルファベットとか数字とか判るような感じでした、コンピュータばっか毎日やってました。ほんとに、ええっと、言うこと聞かないコンピュータでですね、えー、時々もうプログラムが通るのに夜中の3時頃になってそのまま徹夜するっていうような、そんなような時代でしたですね。





しかし今ではコンピュータはもう、全然もちろんコンピュータ言語知ってる必要もないですし、ただマウスでクリックしたらですね、何でもできるっていう時代になりました。ま、大変に結構な時代になったんですが、ま、人間ていうのはこの、コンピュータが自由に使えるようになるとまた変なことが起こるもんですよね。





えー10年ぐらい前ですね、私ちょっと入院しておりまして、えー、ま、そん時にある機会があって、もう精神科のお医者さんとですね、意気投合しまして色々話をさしていただきました。えー、入院中だったもんですから、時々ぶらっと行ってはですね、話をするというそんな感じだったんですが。えー、そん時にですね、非常に印象的だったのが、えー「コンピュータをやってる人の方が精神病になると非常に治しにくいんだ」という話がありました。





えーまぁお医者さんの話ですと、20歳ぐらいからコンピュータやり始めてですね、まぁ10年ぐらいになって何かこう、統合失調症のようなですね、症状を見せる患者さんがおられて、ま、非常にこう治療が難しいのだと、何かアドバイスは無いだろうか?というようなですね、話がお医者さんの方からありまして。私もですね、実はその同じようなこと、困っとりました。





私の研究室では実験とコンピュータ・シミュレーションを二つ同時にやってたんですが、実験をやるグループの学生はとてもあの仲が良くてですね、和気あいあいとやってるのに、コンピュータのグループの学生はいつもケンカして分裂しちゃうんですね、ほんとに似てるなと思いました。





でまぁ、そのお医者さんと二人で、えー、話をした時の、その時の結論はですね、えーもう「コンピュータは何でも言うことが聞くので、だんだんそれをやってるうちに自分が偉いと錯覚してですね、言うことを聞かないと怒り出すっていうか、友達に腹を立てるということになる」と。





ま、つまりですね、コンピュータでは“master and slave”(マスター&スレーブ)って言うんですけど、「主人と奴隷」の関係ですね。ま、奴隷つうのはもう何言ってもいいってことで、怒鳴りつけるわけですね。ま、そういったものを扱っているうちに「何故、あいつは俺の言うことを聞かないんだ!」っていう精神病になるわけですね。





で、これがあのお医者さんが・・・これが行き過ぎた人で、もう自分が制御できなくなるっていう人のことを、ま、言ってたわけです。私はまぁあの、もう既にそのときから10年経ってますんで病気に名前が付いてるかもしれませんが、「マスター病」という名前を付けたわけですね。つまり、どんな相手でも・・・最初はコンピュータだけなんですが、どんな相手でも「俺は主人で、お前は奴隷だ」って錯覚する病気ですね。





えーこれはあの、コンピュータを扱う人ばかりでなくて、例えば自動車を運転する人。自動車ってのは、ま、自分の言う通り聞いてくれるんで、えー他の自動車や歩行者も言うことを聞いてくれるんじゃないかって錯覚するわけです。普段温厚な人が自動車を運転するとものすごくこう、狼になるって昔よく言われましたが、これがそうですね。





そいから会社の購買担当。これ、物を買う担当の部長っていうのはいつも威張ってんですよ。これどうしてかって言いますと、ま、出入りの業者に毎日ゴマをすられてますからですね、そういう病気になると。

東大の教授、これもそうですね。あんまり実力無い人でもチョンチョンされるわけです。私の恩師のお一人の先生でとても偉い人がですね、若くして東大教授をお辞めになりました。そして、そん時に言われたのが「東大教授はチョンチョンされるから自分の人生をダメにしてしまう」とこう言われましたですね、非常に印象的なお言葉でした。





そいからもちろん、あの下請けを使っている大会社の人で、ま、電力なんかそうですけど、特に若いうちから、ま、下請けと関係があると自分よか年上の人が頭下げてくるもんですから、だんだんおかしくなるわけですね、そういうとこ見られる、と。





で、まぁコンピュータが良くなると、ネットなんかそうですね、「こんな便利で自由なことはない」と思うんですが、まぁやっぱり人間の心にある問題を起こすんですよね。最近ですと、2ちゃんねるとかツィッターっていうのは素晴らしい、まぁシステムなんですが。えー、ついついやっぱり「自分が主人だと思ってしまう、マスター」で、そいでケンカになっちゃったりなんかするんですね。





ま、つまりどんな素晴らしいシステムでも人間の心の問題が入ってくる、だけどそれを回避することが、ま、人間の知恵なんですけど、ま、そういうのが上手くいってる場合と上手くいってない場合があります。





私なんかもよく体験するんですよ。えー、ブログからの攻撃とかネットの批判ってのはすごいんですよね。ま、普段私が直接その、いろんな方とお話して感じてます言葉づかいも違えばですね、何か鬼か蛇かですね、そういうものを攻撃してくるような感じがするんですね。





ま、ときには非常に内容が高度なときがあるんですよ。そうすっともう例えば、“大学教授じゃないかな?”と思うような文献を言ったりですね、もうそういう人いるんですね。だけど、その内容とですね、攻撃の仕方とか文章というのが非常にこう失礼で、名前も出せないと。内容は非常に学術的なんですからね、名前ぐらい別に出してもいいんだけど、そういうの多いわけですね。





それからもう一つ、私がちょっとね、変だなと思うのは攻撃してくる人の目的が判りにくいことがあるんですよ。すごい勢いで攻撃してきたりなんかするもんで、こう丁寧に説明しますとですね、何かを知りたいとか、自分の意見を言いたいっていうんじゃなくてですね、攻撃そのものが目的みたいな感じがするんですよね。





だけど、その人と私と見ず知らずですからね、ま、そんな利害関係もあるわけじゃないんだし。そうすっとね、なかなかコミュニケーションとれませんね。やっぱり人間は何か目的っていうかですね、これを知りたいとか、何かそういうのがあって初めて相手が言ってることが分かるんですよ、だけど分からないときもありますね。





えー、まぁあの、匿名というのも問題だってことは再三言われてますが、ま、本来、ま、あの匿名も良いとこあるんですよ。だけど匿名には匿名のやっぱりルールがありますでしょうね。匿名の間はあんまり激しく相手を非難しないとかですね、何か嘘をつかないとかそういうのあるんでしょうね、あー、苦情は言えませんからね。ですからまぁ本来ならばネットとかそういうんでも名を名乗って、どうしてそれを知りたいかとか、何故私はそれに対して反論しなきゃいけないのかという立場を言って、ま、それでやるわけですけど。





私は、ま、匿名で非常に口汚く罵(ののし)っているネットの人を見ますとですね、もしかしたら「マスター病」になってるのかな?というような感じもしますですね。ま、つまり、ネットをやってるうちに少しずつ自分の心が傲慢になって、もうその…自分の思う通りにいかない人の範囲をものすごく怒鳴るという。




ま、そういうことをしますと、私は私生活でもケンカが増えたり、不幸な人生に入っていくんじゃないか?えーつまり、コンピュータを扱ってると、そのコンピュータの向こうにいる人が、コンピュータと同じように思うようにならないので、怒鳴り散らすっていう、ま、そんな感じですね。





まぁあの、それに気が付いて何となくコンピュータが、えー人間味があるようなコンピュータ・・・例えばコンピュータがですね、“いや、そんなひどいこと言っちゃいけませんよ”ていうような、言ってくれるとかですね。ま、そういうようなのも新しいコンピュータとしては必要かもしれませんね。




えーつまり、全部が人間の思う通りになるコンピュータではなくて、若干やっぱり思うようにならないという、ま、そういうコンピュータがあれば、そのマスター病になるってことも無いし、ま、その精神科のお医者さんがですね、大変に苦労してなかなか治療が難しいと・・・ほんと治療が難しいと言っておられましたね。





やっぱ人間の心っていうのは一旦傲慢になると、そんなのは自分で直ぐ治せばいいやと思うんですけど、治せないんでしょうね。ま、人間にとっては貧乏が良いし、苦労も良いと言うのはそういうこと言ってんじゃないかと、ま、そういう風に思うことがあります。

(文字起こし by danielle)