簡単で深刻: 1年にレントゲン400回・・・よく納得できますね | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

簡単で深刻: 1年にレントゲン400回・・・よく納得できますね



瓦礫の議論も同じですし、福島の子供たちに「1年20ミリまでOK」と文科省が言ったときに日本の大人はほぼ納得しました。心配したのはお母さんぐらいで、心配するお母さんを「ヒステリー」と読んだ「大丈夫おじさん」も多かったようです。



普通の人は1年20ミリと言われても、すぐにどのぐらいかわからないものです。最近、スピーディが千葉の線量から福島原発では1日に10兆ベクレルの放射性物質が漏洩しているという予想があったことが公開され、びっくりしたのですが、そのときにある人が私に「10兆でも、10億と言われても、わからないので、どっちもびっくりする」と言われました。



2ミリでも20ミリでも、また10兆でも10億でもこれまで放射線を扱っていなかった人が正確に理解することができないのは当然です。だから専門家は数字だけを言うのではなく、「茨城から千葉までの地域は強制移住に相当する汚染だという意味です。1平方メートルあたり4万ベクレル以上では除染が必要ですが、10兆ベクレルというのはおおよそその2倍です。」とその意味を付け加えておかなければなりません。



ところで、1年20ミリの場合は、私なら「1年20ミリというのは、現在、1回の胸のレントゲンが約0.05ミリですから、1年に胸のレントゲンを400回も撮ることに相当します。また、胸のレントゲンの時には胸だけX線が当たるようにして、腹部は保護しますから、実質的には400回以上になります。また女児はおなかに卵子を持っていて、それは一生変わらないので、より厳しいといえます」と言ったでしょう。



もし文科省が正直に誠実にこのように言ったら、1年20ミリを支持する国民はそれほど多かったとは思いません。また「20ミリなど大丈夫だ。母親はヒステリーだ」という大丈夫おじさんは登場したでしょうか?



今では「国が国民の健康を守るはずもない」と考えている人が多いのですが、本来は国は国民の健康や安全を守るのがその第一の仕事です。



【納得性の問題】
私が今度の原発の事故での被曝問題、それは今でも続いているのですが、あまりにこれまで言ってきたことと違うので、科学的には正しいか間違っているかは別にして、多くの人に納得性が無いと思うのです。それをなぜあれほど早く大人、特に男性の大人が納得してしまったのか、今度何かの機会があったら聞きたいと思います。



つまり、1年に400回のレントゲンを「大丈夫だ」という人はなかなかいないと思います。もしかすると1年100ミリでも大丈夫という医師のように、学問的には大丈夫としても(私はそうは思っていませんが)、一気に1年に2000回のレントゲンでも大丈夫といわれても、毎日6回ずつこどもにレントゲンを撮らせる親がいるでしょうか?



病院で医師がレントゲンを撮るときに、患者をセットすると別の部屋に行って、被爆を避けながらスイッチを押しています。そのぐらい気をつけているのを日常的に見ているのですから、1年400回の旨のレントゲンをすんなりと受け入れてしまった日本の父親がどうしても理解できないのです。



私にはむしろ1年に400回の胸のレントゲンというのにびっくりして、心配になる母親の方が日本のお母さんらしく、それでこそ日本の乳児死亡率が世界一低いということになっている理由と思います。もっとも、「減税すると言っては増税」というような正反対のことも受け入れそうな国民ですから、そのぐらいは納得するのかも知れません。



10年ぐらい前「安全・安心」という言葉が流行し、この研究に多くの補助金が出た頃、知識人の多くが「安全か科学的なものだが、人間は心の動物だから安心が大切だ」といって多くの研究費を取っていきました。その人たちは今度の1年400回のレントゲンをどのように聞いたのでしょうか?



こんな状態で「瓦礫を引き受けないのは人の心を知らない」とか「絆の歌」などよく言ったり、やったりできると感心してしまいます。少しは心が痛まないのでしょうか?


(平成24年4月8日)



--------ここから音声内容--------



一年にですね、20ミリまでOKと…まぁいうように文科省が言ったわけですね。一年ぐらい前です。多くの日本人がそのまま納得しました。これに心配したのはお母さんでしたね。で、そのお母さんを「ヒステリー」と呼んだ「大丈夫おじさん」が多かったんですけど、ちょっと謝って欲しい感じがします。まあマスコミも含めてですね。





えー、それはですね、普通の人は一年20ミリと言われても、ま、どのぐらいかピンときません。えー、最近あの、SPEEDIがですね、千葉の線量から(推定して)、福島原発では一日に10兆ベクレルの放射性物質が漏洩してた、という予想をしたことがわかってですね、えー、みんながびっくりしたわけですね。





えー、しかしですね、えー、ある人がですね「10兆と言われても、10億と言われてもわからないね。どっちもびっくりしますよ」と言われたわけですね。確かにそうで、普通放射線やってなかったら、2ミリでも20ミリでも、10兆でも10億でもそれはよくわからないわけですよ。





ですから専門家はですね、もう少し丁寧に言わなきゃいけないですね。その数字を言ったあと、例えば「茨城から千葉までの地域は、強制移住に相当する汚染だ、という意味です」と。「1平方メートルあたり40000ベクレル以上では除染が必要ですが、10兆ベクレルですと、だいたいその2倍ぐらい土地が汚染します」ぐらいはですね、意味を付け足さなきゃいけないわけですよね。あのー脅すとか脅さないとかそういうことじゃなくて、事実をそのままやっぱり伝えないとですね、あー、その…10兆ベクレルで事実だけ伝えてるっていうんですけど、それじゃあ事実にならないわけですね。





えーところで1年20ミリの場合だったら、私がテレビでもし説明するならですよ、文部科学省の役人で…ま、役人になると人格が変わっちゃうのかもしれませんが、「1年20ミリというのは、現在一回の胸のレントゲンが0,05ミリですから、えー、一年に胸のレントゲン400回とることになります。また、胸のレントゲンの時には胸だけエックス線が当たるようにして腹部は保護しますから、実際上は、まぁ400回以上になるでしょう」と。ま、「特に女児ですね。小学校の女の子はお腹に卵子を持っていて、それは一生変わりませんので、よりこの基準は厳しいと言えます」と言ったでしょうね。





もし文科省が正直に、あの記者会見の時にそう言ったらですね、一年20ミリを支持する国民はそれほど多くなかったと思います。文部科学大臣は「20ミリいいじゃないか、なに言ってんだ」と、こんな調子でしたね。だから、「そんなの心配すんのはおかしいんだ」って、えーと、なんだか教育委員会もみんなそれに右へならえしましたけど、ほんとにそういう人が登場したでしょうか?





つまり、誠実味のない発表に薄々みんなも気がついていながら乗ったということじゃないかと思うんですね。私、この問題はですね、学問の問題とはちょっと違うと思うんですね。えーと、つまり、えー、そのー、今までですね、お医者さんなんかがレントゲンとる時にですね、えー、レントゲン室に…まぁ、立派なレントゲン室が、まずあるわけですよ。重たいドアがあって、みんながそこ入る時はですね、「あ、レントゲンだから、やっぱり放射線があるから、外に漏れちゃいけないんだな」と、こう思うわけですね。で、入りますと仰々しいところで撮影をして、えー、それで、そのー、とる方はちょっと別室に行ってスイッチを押しますからね。「ああ、そうか。えーと、お医者さんは毎日レントゲンとるから、やっぱり放射線浴びないようにするのかなぁ」と納得するわけですよ。





えー、まあ、私はですね、そういう現状から言って、ま、一年400回のレントゲンを大丈夫だという人はなかなかいないんじゃないかと思うんですね。ところが、例えば一年に100ミリなぁんて言うとですね、さらにその5倍ですから、一年に2000回になるわけですが。ま、一年100ミリでも大丈夫だと言っているお医者さんもいますけどね。えーそれがほんとだったとしても…僕はほんとだと思ってませんよ、そう思ってないんですが、ほんとだったとしてもですね、そんなことをすぐに納得して子供にさせることはできるか? っていうことですよね。





私はですね、えー、その、人間ってのは心ですから、よく、あの、安全・安心っつってですね、安全っていうのは絶対的な安全かどうかだけで、安心っていうのはやっぱり心の問題だってよく言いますよね。それで、ちょっと前までは安全・安心っていう国のプロジェクトがあると、みんなお金ほしいためにですね「安全・安心が大事だ」って、今までは安全だけを強調したけど「安心が大事だ」なんていう人いっぱいいたんですよ、補助金もらいたいために。





だけども、私は胸のレントゲン一年に400回でみんな納得するお母さんが、ほんとにお母さんなんでしょうかね。日本の乳児死亡率は世界一低いわけですが、これはやっぱり心配してくれるお母さんがいるからなんですよ。だけどまあ、今このくらいいいんですかね? 減税すると言って政権を取った、あのー、民主党がですね、増税に命をかけるっつってるぐらいですから、何言ってるかわかんないですよね。もうなんでもいい、と。それでも一応それをみなさん受け入れてですね、自民党…民主党支持率がゼロパーセントになるかなと思ったら、ならないんですよ、なかなか。なんでまだ今でも民主党を支持してる人がいるのかなぁ、と…こういうふうに思うわけでもないですよね。





で、そういう日本で、えー、ほんとに人を裏切るっていうか、裏切り続けているのに、えー、「瓦礫を引き受けないのは人の心を知らない」って、この場合の人の心っていうのは、私、裏切る心を知らないっていうかですね、ま、瓦礫自身が一回だけだったら大丈夫なんですよ。それはもう何回も私言ってるんですけど、そうじゃないんですよ、言ってることはですね。





今までこれだけウソをついてきて、「瓦礫は本当ですか?(ウソをつきませんか?)」ってのが一つと、それから「瓦礫みたいなものを100回引き受けても大丈夫なんですか? 私たちの子供の時代に土地は汚れないんですか? 」っていう長期的なことを心配してるわけですから、それに答えなきゃいけない。この前なんかテレビ見てましたら「絆の歌」ってのやってましたね。いや、よく歌うことできるなぁと思いますね。福島の子供たちに400回のレントゲンをさせて平気で、そして「絆の歌」を歌う。いやぁ、僕にはちょっとできません。えー、それはまぁ人によってできる人がいても、まぁいいんですが。私にはそれはつらくてできませんね。