知の侮辱(12) 足し算のできない東大教授 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

知の侮辱(12) 足し算のできない東大教授



「知の侮辱」シリーズとしても「程度の低い知の侮辱」です。まあ、小学校を卒業していればわかるものですが、「瓦礫に反対する奴は非科学的」と言う人がいて、同じレベルなので、一応、書いておきたいと思います。



原発の事故直後、ある東大教授がNHKで「胃のレントゲン1回が600マイクロシーベルトですから、福島市の10マイクロシーベルトは60分の1で問題ない」と発言。多くの人が何しろ{東大―NHK}の組み合わせだから、すっかり信用して大きく被曝しました。



私はこのことを「かけ算のできない東大教授」と書きました。福島市の10マイクロシーベルトというのは1時間あたりですから、福島市に60時間いれば{10×60}で600マイクロシーベルトになるので、もし正しく言うなら、「3日間、福島にいたら胃のレントゲンを超える被曝になり、1ヶ月いたら10回以上の被曝になる」ということでした。


・・・・・・・・・


原発事故から2週間ぐらい経った時、今度は茨城産の「こうなご」から1キログラムあたり4000ベクレルを超える汚染が見つかりました。今度は民放にでていた東大教授が「コウナゴは少ししか食べないから安全だ」と発言しました。



今度は「足し算のできない東大教授」の例で、お二人ともあまりに恥ずかしいことと、一般の国民に自分の専門の領域で被曝させたのですから、すでに東大を去っているのではないかと思います。



この「足し算ができない東大教授」はその後、「食品安全委員会」に感染し、次に「瓦礫を引き受けたい市長」へと拡散しています。いったい、何の「足し算」ができないのでしょうか?



・・・・・・・・・足し算・・・・・・・・・


●外部被曝+内部被曝=被曝限度1年1ミリ


●福島原発事故で直接的に飛んできたセシウムなどによる被曝+3月4月の放射性ヨウ素による被曝+福島からトラックのタイヤで運び込まれることによる被曝+3月4月に衣服についた放射性物質からの長期被曝+家具などに付着したものからの長期被曝+福島から移動する食材の中に入っている放射性物質が生ゴミとして捨てられ焼却場からでることによる被曝+福島からくる人、車、衣服などに付着してくることによる被曝+旅行などで一次的に新幹線などで福島を通過するときに被曝する分+・・・・=外部被曝


●飲料水からの被曝+日常用水からの被曝+道路か

ら巻き上がる二次飛散から呼吸で入る被曝+樹木の葉から飛び散ったり落ち葉からの放射性物質が空気中に舞う被曝+お米、肉、サカナ、野菜、穀類、お菓子、乳製品、調味料・・・などの食材からの被曝+・・・・=内部被曝


●内部被曝の内、今までまだ良く研究されていない放射性物質の体に対する影響についての安全係数



「瓦礫の引き受け」について、これらすべてを足し算してから「市民は大丈夫」としている自治体はありません。いずれも「足し算」をしない場合に限定されていて、「引き受けたいから安全」という論理です。



また全体としては瓦礫量が2300万トン、汚染制限が1キログラム8000ベクレルだから、「国が定めた」全体の上限は2300×10の7乗×8000ベクレル=約2×10の14乗となり、それを日本人の人口1.2×10の8乗で割ると、一人あたり100万ベクレルを超えます。



この一人あたり100万ベクレル、もし日本全体の10分の1の自治体が引き受けたら引き受けた地域の住民は一人あたり1000万ベクレルの被曝を受けます。それもストロンチウム、プルトニウムなどの他の核種の被曝を無視した場合です。


・・・・・・・・・


私は「足し算もしないで大丈夫という人」、特に計算できない人は仕方が無いとして、専門家は足し算をしなければならないことはよく知っています。つまり、被曝も今から50年ほど前なら「被曝させる方の論理」、つまり「牛肉が1キロ1000ベクレルだが、これだけ食べても大丈夫」ということでしたが、最近は「被曝する方の論理」、一つ一つの被曝は大丈夫だが、日常生活で被曝する総量はどうか?ということに変わりました。



これは、食品安全でも環境保全でもすべてそうで、それが数10年も昔に戻ったような話は聞きたくありません。そして自らは数10年前の論理で話していて、「瓦礫の移動は危険」という人に「非科学的」というレッテルを貼るのです。



もっともあまり理由を言わずにレッテルを貼るのは、これも人格攻撃と同じで、ウソを言っていて支えられないから、テレビで集中的に放送したり、相手を人格攻撃したり、レッテルを貼ったりするのだから、相手の心理状態も判ろうというものです。



瓦礫引き受けの前提:被曝する市民側に経った計算値を公表すること、国全体で汚染の拡散をどのように防ぐかについての基本方針を明確にすること、福島を助けるためにみんなで被曝しようなどという魔女狩り時代の論理を使わないことなどがまずはたいせつです。


(平成24年3月8日)



--------ここから音声内容--------




ええと、この、あの…ブログもですね、あの原発の事故から一年たち、少しは前向きの色々なことを書きたいんですけども、いつも引きずり戻されるんですね。えー、今度はですね、瓦礫の処理について、えー非科学的であると言って、えー瓦礫の移動を反対する人に非難をする人が後を絶たないんですね。えー、これを「足し算のできない東大教授」といって、私が昔批判したのと同じで、あまりにも知の侮辱というには知の程度が低いんですけどね。





えー原発(事故)の直後に、ある東大教授がNHKで「胃のレントゲンが1回600マイクロシーベルトだから、福島の10マイクロシーベルトは1/60で問題ない」と発言しました。えー、多くの人がですね、東大教授とNHKの組み合わせですからね、ま、すっかり信用して大きく被曝しました。私はこのことを、すぐですね「掛け算のできない東大教授」と書いたわけですね。福島の10マイクロシーベルトったら「一時間で」ですからね。福島市の60時間いれば、そのまま600マイクロシーベルトになるわけですね。ですから正しく言うんだったら、「三日間福島にいたら、胃のレントゲン(一回分の被曝)を超えますよ」と、「一ヶ月したら、10回以上の胃のレントゲンの被曝になります」ということだったわけですね。





また、今度は原発事故から二週間ぐらいたちますと、食品が汚れてきます。食材がですね。えー、コウナゴから1kgあたり4000ベクレルが超えるわけでありますが、えー、今度は民放に出てた東大教授がですね「コウナゴは少ししか食べないから安全だ」とこう言うわけですね。えー、コウナゴだけ汚染されてればそうですが、これも足し算のできない東大教授の例だったわけです。ま、お二人ともあまり恥ずかしいことを言ったわけですから、しかも専門職というのは…一番いけないのは、自分の専門の領域でだまして一般の国民に被害を与えるってのは、これはもうね職を辞さなきゃいけないんですよ、ええ。




これはまあ医療過誤なんかがありますけど、それと一緒ですからね。医療過誤でお医者さんに厳しく言って、えー、東大教授は自分の専門の領域でウソを言ってもいいって…そういうことありません。しかしこの、足し算のできない東大教授は感染力が強くてですね、続いて食品安全委員会に感染しました。食品安全委員会はですね、外部被曝+内部被曝が一年1ミリじゃなくちゃいけないことを知っていながら、内部被曝だけを問題にする、ということになりました。それから瓦礫を引き受けたい市長の方はですね、またこれも足し算をしないということになりました。えー足し算を簡単に示しますと、外部被曝と内部被曝を合わせて足し算をしまして、一年1ミリであります。「足し算」ですからね。片方が5ミリであればもう超してしまうわけです。引き算は入っておりません。






えーそれから外部被曝はですね、色々なものを全部足さなければいけません。もちろん福島から飛んできたセシウムなどの被曝があります。それから3月、4月のヨウ素などによる一次的な被曝があります。えー、トラックのタイヤで運び込まれてきます。衣服にも付きました。家具にも付着しました。ま、そういうものからずーっと被曝を受けるわけですね。それを「全部足して」外部被曝は出ます(算出されなければならない)。したがって例えば、東京都はですね、東京都民の一番被曝した人が外部被曝でどのくらい被曝するかってまず出さなきゃいけません。





今度(は)内部被曝ですね。これは飲料水、水、それから飛散したホコリ、それからもちろん…食べる米、肉、魚、野菜、穀類、お菓子、乳製品、調味料から全部足して、これで内部被曝を足します。しかし内部被曝はちょっと難しくてですね、放射線核種にもよりますし、たまる臓器にもよります。これで内部被曝を計算して、東京都はですね、「二つ(外部被曝と内部被曝)を足したら何ミリになる」と、まずこれ出さなきゃいけないんですよ。そして、「瓦礫を引き受けることによって足されるやつは何ミリになる」と。「だから大丈夫だ」と。これを自分たちが何も言わないで「黙れ」なんて言ったってですね、あなた「黙れ」って何を言ってんですか? 非科学的じゃないですか…っていうことなんですよね。





もしそういう計算がめんどくさいんであれば、全体の計算をしなきゃいけないんですね。えー、瓦礫量全体が2300万トン、汚染制限が1kg(あたり)8000ベクレルですから、国が定めた全体の上限は、えー、2×10の14乗になる、これを日本人1人に割るとですね、だいたい一人あたり100万ベクレルって量になるわけですね。もちろんこれ、えー、日本全体に拡散するわけじゃありませんし、それからまあ、瓦礫も1/4ぐらいしか出せませんし、ま、色んなことがありますが、おおよそだいたいこんなレベルなんですよ。






ですから、これはどういう影響を与えるのかということをですね、もちろん言わなきゃいけない。しかもこれセシウムだけなんですよ。ストロンチウムやプルトニウムはないんですね。だから、東京都はもし都民に「黙れ」と…こう言うんだったらですね、これをちゃんと示して「わかりましたか?」って言うのが東京都(のあるべき姿)なんですよ。東京都、なにも偉いわけじゃないんですよ? えー、ちゃんと日本国憲法に書いてあるように、東京都は単に都民から委託を受けて都政をやってるだけなんですよ。えー、権限は都民の方にあるんですよね。で、まあ、私はですね、専門家じゃない人はまあ仕方ないかな…と思うんですよね。ま、実際もちろん専門家ですよ。足し算できないって人もいますけど。






それからもう一つはね、えーと10年前…あ、数十年前ですね、今から30年ぐらい前はですね、すべて、全部、えー供給側の論理だったんですよ。つまり例えば牛肉を出す、と。牛肉業者がですね、「ま、この牛肉は1kg 1000ベクレルしか入っていないけども、ま、これだけ食べるの大丈夫ですよ」っていう言い方を農薬でもなんでもしてたんですね。ところがそれはダメだってことになって…当たり前ですけどね、被曝する方の論理、つまり農薬なら農薬を食べる方の論理になったんですよ。そうしますとですね、ほうれん草に農薬がいくつ、牛肉に農薬がいくつ、農薬っちゅうか添加物がいくつとかって計算して、総量でどのくらい健康の被害を受けるかという…つまり被曝する側って言いますかね、被害を受ける側で計算することになってるんですよ。






これはね、食品安全でも環境でもみんなそうですよ。 みなさん「環境が大切だ、環境が大切だ」って言ってますけどね、環境だって一つずつだったらたいしたことないんですよ。大気汚染だけ、水質汚染だけ、食品汚染だけってやったらですね、もう100も200もありますからね。一つ一つが安全だ、と。だけども結局その人が環境から病気を受けるかどうかは、受ける方の(受ける側が)計算しなきゃいけないんですからね。これはもう、数十年前から確立しております。ま、その意味で、えー「瓦礫の移動が危険だと言う人は非科学的だ」というレッテル貼ってる人は、本人が非科学的です。そんなこと言うのはやめてください。科学というのはそんなものじゃありませんから。





しかしまあ、この前話しましたように、人格攻撃をしてくるっていうのはウソをついてるってことは本人がわかってるからなんですね。ま、レッテルもそうなんですよ。レッテルを貼るってのはやっぱそうなんですね。それからテレビで集中的に放送してですね、なんとかこぎつけよう、と、もしくは相手を人格攻撃する、レッテルを貼るってのはですね、おおよそ相手の心理状態わかりますね。追い詰められてるわけですね。






えー、ちょっと前向きに言いますと、瓦礫の引き受けの条件が、前提があります。まず一つはですね、被曝する市民側に立った計算値を公表することです。それからもう一つの条件は、国全体で汚染の拡散をどういうふうに防ぐのか、ということですね。それからこの基礎条件としてはですね、やっぱり中世に戻っちゃいけないってことですよ。福島の人を助けるためにみんなで被曝しましょうなんていう、そんな魔女狩り的な論理を使わないことがまず大切ですね。






この前ある人の話を聞いていたら非常に矛盾していました。「被曝はたいしたことない、瓦礫なんかたいしたことないじゃないか」って言った次の言葉にですね、「みんなで瓦礫を引き受けて、みんなで被曝して助けよう」ってんですね。(被曝がたいしたことないなら、分散して引き受ける必要がない、という意)
ですから、ほんとは被曝は怖いんでしょうね。だけど、まあ、そういうこと言って支離滅裂になってしまった…まぁいうことですので、ここはですね、えー、知の侮辱(12) 足し算のできない東大教授
誠実で善良な日本人に返ってもらって、そして悪いことは悪い、良いことは良い、と…まぁいうふうにきちっと話をする、と。足し算ぐらいはする、と。…まぁいうことで、足し算のできない東大教授に感染しないように…えぇ、したいと思います。