考える練習(3) なぜ、人は眠るのか? | お手伝いさんたちのブログ

お手伝いさんたちのブログ

中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

考える練習(3) なぜ、人は眠るのか? (3/5)



眠れない夜。絶好の「睡眠薬」があります。たとえば「人はなぜ眠るのか?」と考えてみます。


地球ができたとき、まだ地球が若くて元気だったので1日は4時間半だったと考えられています。それからさらに40億年の年月が経って多細胞生物が海の中に生まれた時にはすでに1日が20時間を超えるようになり夜も8時間ぐらいになっていたでしょう。




やがて陸上動物が活動し始めます。昼の活動中は老廃物が体の中に蓄積し、最初はすぐ肝臓などで処理したのかも知れません。でも、夜行性の動物は別にして昼に活動するものは活動できる時間をフルに利用し、どうせ活動できない夜にまとめて老廃物を処理するものが登場してくたことも容易に考えられます。




簡単に数字で示しますと、活動しながら老廃物を処理する場合は1時間に1.0しか行動できないとすると、1日の半分を活動し、1日の半分は寝ていて老廃物を処理するだけに使う動物は1時間に2.0の活動ができることになります。2倍の活動量ですから、「寝る動物」が「寝ない動物」より競争力があり、次第に「寝る動物」ばかりになったとも考えられます。



・・・・・・・・・


人間の睡眠時間はほぼ7時間ですが、4時間半が老廃物の処理、2時間程度が頭脳の情報の処理、そして30分ぐらいがその他の調整と考えられています。




かつて人間は毎日、畑にでて朝から晩まで力をふるい、あるいは家事に追いまくられて生活をしていました。その時の昼間の活動量は今の2倍はあるでしょう。そこで蓄積された老廃物を処理するのに4.5時間ですから、今では3時間もあれば十分と考えられます。




一方、頭脳活動の方はやや盛んになったとはいえ、かつては「天気はどうか?」、「不意に盗賊が襲ってくることはないか?」など考えることも多かったのですが、今ではスイッチ一つ、命令一つでそのまま動けば良いのですから、頭脳もほとんど使わなくなったと思います。それでも一応2時間程度その他の活動も含めて割り振ってみます。




そうすると{老廃物3時間+頭脳2時間}で5時間睡眠が適当ということになります。いずれにしても、現代ほど肉体労働が少なければ体の老廃物が蓄積することは無いのかも知れません。「泥のように眠った」と昔はよく言いましたが、体が疲れていると「バタンキュー」だったのです。




・・・(ここまで考えてもまだ寝付けないときに)・・・


ところで現代人は昼間の老廃物が夜に残ることがあるのでしょうか? 食べ過ぎて消化にエネルギーを使う場合は別にして、健全な生活をしていたらもしかすると老廃物をとるために夜、寝る必要が無いかも知れません。



30年ほど前、ある実業団のテニス部の部長をしていたことがありました。ある時、キャプテンが並外れた体力を持っていて、練習中は若干老廃物がたまっている感じがしましたが、ベンチで休んでいるとみるみる回復していくのが判るのです。合宿などに行くと毎日3時間ほどしか眠らないのに、体の切れが変わらず疲労が蓄積しないのです。




その時、私は「ああ、活動中に回復する人もいるのだな」と感心したものです。人によって違うと思いますが、もしかすると「現代風の訓練」をすることによって活動中に老廃物を処理できれば寝るのは2時間ということになります。




さらに頭の情報を処理するのも最先端のコンピュータのように「活動量が減った隙に処理する」という並行処理を行えるようになれば、寝なくても良いのかもしれないのです。


・・・・・・・・・さらに私は考える・・・・・・


ところで「眠る」というのはどういう状態を言うのでしょうか? 目をつぶってベッドで横になっているのは「眠る」とは言いません。意識がなくなり普通の意味で「眠る」状態にならないと眠ったとは言いません。




でも、体の老廃物を処理するなら、横になって目をつぶり体の力を抜いて「基礎代謝」だけにすれば、むしろ意識があるので体の老廃物の処理速度は速くなるでしょう。そして老廃物が処理されてから、おもむろに頭の情報処理をするために「眠る」だけで良いのかも知れません。そうすると「横になっている時間が5時間から3時間ほど」で、「眠る」のは2時間で良いということになります。




「眠れない」と悩むときには、まず第一に「考える練習」をして、それでもイライラするときには、「横になっていれば体は休まる。頭はどうでもよい」と思えば、不眠症も緩和されるでしょう。




ところで、アメリカ人90万人、日本人10万人(別々の調査)を対象にした睡眠時間の調査によると「睡眠時間7時間」がもっとも長寿で、短くても長くても寿命が短いとされています。




このような結果は何回かでているのですが、「睡眠時間が長い人はなぜ短命か?」という疑問があり、病気の人は睡眠時間が長いかも知れないということで、病気の人を除いた調査を行っても、同じ結果が得られました。そこで、どうも「眠っている時間」は代謝が少ないのでその間に細菌などの攻撃を受けるのではないかと考えられています。


・・・・・・すやすや・・・・・・


(平成24年3月5日)





--------ここから音声内容--------



ええとあの、眠れない夜がきますね。えー、そのときに、ま、睡眠薬を飲むと、お酒を飲むっていう手がありますが。私もまぁ、やや眠れないタイプなんで。えー、そのときには格好のテーマがありまして、「人がなぜ眠るのか?」を考えてるうちに眠たくなると、こういうのがあるんですね。えー、ちょっとそれを「考える練習」の一つとして取り上げてみます。








ええまぁ、地球ができたときはですね、非常に若くて地球も元気だったもんですから、ぐるぐるぐるぐる自転するわけですね。大体、一日が4時間半ですから、まぁ昼が2時間半で夜2時間ですからね、どんなに寝ても2時間と、そんな感じだったわけですね。







ところがまぁ、だんだん地球も歳を取って、ゆるゆると回るようになって、現在24時間ですね。多細胞生物ができたときも、多分20時間をちょっと超えたぐらいのときであろうかと、まぁそういうふうに思います。まぁ10時間/10時間とか、12時間/8時間といった昼と夜の割合だったと思うんですね。







その頃、ま、陸上動物が活動し始めるわけですが、そのときに寝たのか?っていうことですよね。ええと、昼に活動するものだけですよ、夜行性の動物はまた別ですからね。昼に活動する動物ですが、ま、昼の活動で老廃物が体に蓄積するから、それで寝るんだ、とこう言いますけども、最初はおそらく寝るっていうのはなくて、えー、ゆるゆると活動しながら、ゆるゆると肝臓なんかで老廃物を処理してたんでしょうね。







ところが、そのうちですね、どうせ夜は活動しないんだから、夜にまとめて老廃物を処理するというタイプのものが出てきたんじゃないかと思いますね。これは人間みたいなもんですね。もちろん人間の前に、ずっと動物は寝るようになったわけですが。例えばこんなふうに考えますね、活動しながら老廃物を処理するということになると、ま、1時間に1ぐらいしか処理できないとしますよね。ところが一日の半分はもう活動だけして、一日の半分は寝ていて、そのときに老廃物をまとめて処理するということになると、こう老廃物をまとめるっていうことさえすれば良いわけですね、蓄積する。







そうすると、活動が例えば2倍になるとします。そうするとですね、あの、ゆるゆると寝ないでぐずぐず動くものは昼しか動けないし、その割には動きも早くない、と。ところが、昼活動して夜寝るという動物はですね、寝た後に処理する分だけ余計に活動できますから、だからどうも「寝る動物」の方が勝ったんじゃないか、というふうに思うんですね。“なるほど、そうか。夜寝るっていうのは、どういうふうにしてできたのかなぁ”と、これはあの、考える練習なんですね。







それから、更に人間の方にいきますと、大体、人間の睡眠時間は7時間なんですけども、そのうち4時間半が老廃物の処理、2時間程度がまぁ頭脳の情報の整理というふうに言われてます。30分ぐらいは、ま、中間とか色々、レム睡眠とかノンレム睡眠とか、その間を繋ぐとか色々あるんですけど、そういったもんがある、と。







ところが良く考えてみますとね、昔は男は畑に出て、朝から晩まで鎌を振るってたりしたわけですよ。女性は家事に追いまくられたわけですよ。その頃と今のね、我々の活動とみると、どんなにみても昔の方が今の2倍はあるでしょうね。もっとあるかもしれませんが、ま、今の2倍としましょう。それを蓄積された老廃物を処理するのに4時間半ですから、今は多めに見ても3時間もあれば十分に処理できるんでしょうね。そうするとまぁ、あんまり寝る必要ないかな、と。







それから頭脳活動の方も、昔は大したことなかったって事ないんですよ。昔は、「天気はどうなんのか?」、「日照りがくるのか?」とか、「不意に盗賊が襲ってくることはないか?」とか、もう考えることいっぱいあったわけですよ。今はかえってですね、やること決まっていましてね、テレビのスイッチ点けりゃ、すぐテレビ見れるし、職場に行きゃ、命令が来るからその通りやってりゃいいし、あまり頭脳も使ってるって言や、そんなこともないわけですね。2時間ぐらいでいいか、と。そうすると老廃物の処理に3時間で、頭脳2時間としますとね、5時間睡眠で適当なんじゃないかな、って気もしないでもないんですね。







で、昔はこの、「布団にもぐるとバタンキュー」と、「後は泥のように眠った」と言ったわけですが。最近そういう眠りができる人って、あまりいないんじゃないですかね?えー、大体ですね、昼間はほとんど筋肉労働せずに夜ぐっすり寝ようなんていう、それは私は良く寝(ら)れないんです、って・・・まぁ、私なんかもそうなんですが、それは当たり前ですよ。私なんかでもせいぜいですね、講演したりですね、パソコンのキー叩いたりするぐらいが労働で、他何にもしないんですからね。これで寝(ら)れないって言う方が、当たり前かなと思いますね。よくあの、運動もしないで食べてばっかいて太る太るって、それはそうだ。それは運動すればですね、そりゃ身体はスリムになりますが、運動もしないで食べてばっかいりゃ、そりゃエネルギーのバランスっちゅうもんがありますから、太るに決まってまさぁね。








えー、ところでですね、だからもう少し考えてみますとね、現代人っていうのは、もう上手くやればですね、寝なくて良いんじゃないの?って感じがしないでもないんですね。ていうのはあの、ずいぶん前にですね、実業団のテニス部の部長をしてたことがあります。その頃のキャプテンの一人がですね、並外れた体力を持っておりまして、これ一人だけですが、私の経験ではですね。練習中、まぁ激しくこうラリーなんかやってるときには若干、体のキレが悪くなってくるんですよ。ところがその選手はですね、ベンチに暫く休んでるともう回復しちゃうんですね。で、合宿なんかですと、ま、3時間ぐらいしか眠ってないのに、一週間ぐらい全然平気なんですよ。で、「おぉ!それはやっぱり、一流選手は違うなぁ」と、「活動中に身体が回復する人がいるんだな」と非常に感心したわけですが。








これあの、その人がそういう人だってことはですね、我々もですね、訓練をしますと、現代人ぐらいの老廃物の溜まり方なら、その都度処理しちゃってもう夜は寝ない、と。そいでまぁエジソンのおかげで電灯がありますからね、24時間ずーっと活動するというのは、できないわけじゃないと思うんですね。頭の情報の処理も要るよって言うけども、頭の情報の処理の方は、最近のコンピュータのように並行処理ってできますからね。えー、ちょっと活動量が減って、ぼやっとした時にですね、並行してやれば良いというわけですから、それもそれで終わりでしょうね。








えー、まぁこのぐらいで大体眠っちゃうんですけど。まぁ布団の中に入ってこれまで考えますと、大体“あぁ、そうだなぁ・・・”とかって、眠っちゃうんですが。えー、もう少し私は考えるぐらい寝(ら)れないんですね。「寝る」(眠る)っていうのは一体、どういうのか?と。目をつぶってベッドに横になってるのは、「寝る」(眠る)とは言わないんですよ。だって、「眠れない」っていうのはそういう状態、「ベッドに入ったけど、昨日はいつまでも眠れませんでした」って言うんですからね。つまり意識が無くなってる状態じゃないと、眠ったと言わないわけですよ。








だけどですね、体の老廃物を処理するなら、横になって目をつぶって体の力を抜いてりゃ、そりゃ「基礎代謝」だけになりますから、そりゃ処理速度、むしろ上がるでしょうね。我々が寝るのは、老廃物を処理するなら、むしろ別に寝なくたって良いわけですよ。ベッドに横になってりゃ良いんです。








実は私ね、もう小さい頃から寝(ら)れないもんですから、もうこの頃は「寝(ら)れない」ということをあまり口にもしなくなりました。というのはですね、横になってりゃ寝てると一緒ですからね。頭はものすごく使ったって言うんなら別ですが、あんまり使ってないわけですから。だから不眠っていうのは、どういうこと言ってんでしょうかね。








例えばスポーツ選手でよく、重要な試合の前で寝(ら)れないって言いますけど。だって、スポーツ選手は頭はもちろんまぁ使いますけどね、身体を回復させるのが重要であれば、横になってりゃ別にいいわけですよ。問題は横になって、「寝(ら)れない、寝(ら)れない」と言ってギッタンバッコンしてりゃですね、それで体力使っちゃいますが。「もう寝(ら)れないでいいんだ、当然」と思ってですね、横になってりゃいいわけですね。








しかし、退屈しちゃいますからね。そん時は、この例えば、考える練習をしたらどうでしょうか?“ええと、人間はなぜ眠るのかなぁ?”とかですね。私、最近考えてんのがですね、色々あるんですよ。何であの最近になって、最近っていうか500年ぐらい前からなんですけど、人間には野菜が必要になったのかなぁ?と。それまでは野菜って無いんですよね。五穀豊穣つって、穀物と、それから大漁つって魚は必要なんですけど、葉っぱつうのは、ほとんど出てこないですね。それとか、最近は更にですね、“人間って何でこんなに小っちゃいのかなぁ?”って、“1メートル50から2メートルぐらいなんだけど、ほんとになんでこれ、5メートルになんないのかなぁ?”と思ったりですね、色々あの、考える練習してるわけですが。えー、ま、イライラしてもしょうがなくてですね、ま、横になってりゃ体は休まるんだと、頭の方はまぁどうでもいいと思えば、なんと言うか、寝る時間っていうのはハッキリしませんね。








ところで最後に、逆のことをちょっと申しますが。アメリカと日本で、ま、90万人、10万人という大規模調査がありまして、睡眠時間と寿命という関係では、「睡眠時間7時間」がもっとも長寿だ、と。短くても長くても寿命が短いという結果が得られております。








ま、こういった結果が得られたんで、最初はですね、「睡眠時間が長い人がなぜ短命なんですか?」っていう疑問が湧いてきて。それはあの、元々病気の人が睡眠時間が長いので、睡眠時間が長いから寿命が短いではなくて、病気の人は睡眠時間が長いので、病気の人だから寿命が短いんじゃないか?と言われたんで、今度は病気の人を除いた調査を行っても、やっぱり7時間だったんですよ。








どうも眠るっていうのは、それほど良いことじゃないんじゃないかと、細菌の攻撃なんか受けるんじゃないかと今言われております。私はね、この7時間ちゅう調査をですね、色々調べてみたんですが、その7時間眠ってるっていうのはですね、眠ってるのか、床についてるのかが、あんまりはっきりとは定義が無いんですよ。








つまり、ここで言う「睡眠時間」っていうのはですね、ベッドで横になってる時間とも言えるんですね。つまり眠りに入った時間を自動的に測定してるんじゃないんですよ。ですからね、私はなぜ睡眠、つまり眠ること、ベッドに横になっても、眠ってない状態は眠ってないとした場合に、ほんとに7時間かなぁ?と非常に疑問に思っております。ま、こんなところで、もう眠たくなりましたので止めます。


(文字起こし by danielle)