緊急速報  データの見方 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

(文字起こしをお手伝いして下さった方からの投稿です。danielle(ダニエル)様、ありがとうございました)


緊急速報  データの見方(1/8)


--------ここからブログ記事--------


(セシウム降下量は落ち着いて来ているようですが、本日、具体的なデータはもう一度検討します。その間、データの見方について簡単に書きました)

今回のセシウム降下物が増えたことについて、どのようにデータを見たらよいかについて、急いで解説をしておきます。読者の方には大変失礼ですが、私がいつも学生に注意していることが中心になります。

学生は、科学的な研究を始めて経験するので、どうしても「人間的」にデータをみる傾向があります。主な注意点は、1)自分の意見や損得でデータを取捨選択する、2)最初からデータが間違っているといって除く、3)有効桁(説明します)の意味を理解していない、の3つです。

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学生が一所懸命、卒業研究をしてきて、おおよその見当がついてきた12月頃、それまで積み重ねてきた結果と違う実験データが出てくると、きまって「おかしなデータが出たので、間違いと思います」と言って来ます。

彼(学生)が「間違っている」と思うのは、データを科学的に見て言っているのではなく、「卒業までわずかなのに、こんな時期にこれまでのデータと矛盾するデータが出てきて貰っては困る」ということでもあります。でも「彼の卒業」と「実験データ」は何の関係もないので、本当は心を強くして真正面から「卒業できなくてもいいや。科学が大切だから」と思えば良いのですが、そんな心の強さを持っている学生にはまだ会ったことがありません。

実に難しいことです。今回のセシウムのデータでも、「騒ぎになるから」とか、「まだデータが確定していないから」とか、いろいろな邪念がわくのですが、それと科学的なデータの結果を切り離すのはそれなりに訓練がいるようです。

第二に、データを見るときには誰でも事前にある「つもり」があります。よくよく考えますと、「判らないからデータをとる」のですから、自分のつもりに合致したデータがでるなら、もともとデータをとる必要はないのです。

つまり、どちらかというと、自分が「データはこうなるだろう」という「つもり」と逆のデータがでるときが、もっとも価値のあるときなのですが、人間は面倒だったり、考えるのがイヤだったり、思惑があったりしますので、自分のつもりにあったデータの方を喜ぶ傾向があります。

そこで、「つもり」と違うデータがでると学生は「間違っている」と言います。なぜ間違っているのか?と聞きますと、「こんなデータが出るはずがない」と言います。出るはずのないデータがでるのが良いのですが、逆のことを言うのが普通です。

学生が「出るはずがない」というのは時々、データに「間違い」があるからです。確かにデータには間違いがあります。間違いというか、データはある意味ではすべて正しいのですが、本人が考えている条件でデータがとれているかどうかが問題だからです。今回のケースでは12月25日ぐらいに測定器を誰かがセシウムで汚れた手で触ったかも知れません。

その場合でも、データは正しいのですが、「降下物を測る」という条件にはなっていないということです。データが間違っているかは、すぐに結論を出さず、とにかく最初は「正しい」と思って処理をすること、これが大切ですが、学生はほとんどその勇気がありません。

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第三の問題は、「有効桁」の問題です。科学には、単に1ベクレル、2ベクレルというように「一桁」しか判らない場合と、1.4ベクレル、3.5ベクレルというように「二桁」まで判る場合があります。今度の場合、文科省や福島県は、252ベクレルなどと3桁まで書いていますので、測定の精度は3桁までは大丈夫ということになります。

その場合は、3桁同士のデータを足したり引いたりできることになります。つまり、自分で測定したデータを示すときには、「測定精度」を考えて、単に3ベクレルとか、5.4285ベクレルなどと示します。

でも、学生が、5.4285ベクレルと言うと、私が「えっ!5桁も精度があるの?」と聞きますと、「いえ、38ベクレルを7日で割ったらそうなりました」と答えます。その場合は、38、つまり2桁しかわからないのですから、5.4ベクレルとしなければならないということです。

今回の場合、もし、252メガベクレルという数値を私が整理したら、「そんなところまで判らない」という人が出てくると思いますが、示された数値を有効として考えるのが科学の約束です。これを有効桁などと呼んでいます。少なくとも通常は、252メガベクレルと言ったら、最後の2には誤差が入っていても25には誤差はないとしなければなりません。

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このことから今回のセシウムの場合、

1) まずは、データは正しいとする、

2) 3桁ぐらいまでは読んでも良い、

3) 定時降下物と呼ぶ限りは、定時降下物と思って良い、

4) 従って、8月以来、異常な状態である、

と結論して最初は考えるべきであることがわかります。音声付きです。

(平成24年1月8日(日))



--------ここから音声内容--------


ええと、あの、セシウムの降下量はちょっと落ち着いてきてるので、今日少し本格的にもう一回整理をして、皆さんの生活の指針になれば、それを提供したいと思ってますが、ちょっとその前に、データの見方についてですね、ちょっと簡単なお話をしたいと思います。ここで言うのは、私がですね、普段学生に、ま、ちょっと注意してるようなこともあるので、大変失礼なんですけども。



今度のセシウムのデータの見方ですね。それから、ちょっと新聞なんかが報道してない理由なんかもですね、関係してますので、ちょっとここで、ええと、お話をさしていただきたいと思っています。



学生がですね、卒業研究で、ま、私に注意されることはですね、だいたい3つありまして。1つがですね、学生がこう意見とか損得で、データをよく取捨選択するんですよ、えぇ。それからよくね、「このデータ間違ってる」つって言うこともあるんですね。それから、ま、最後に「有効桁」っていうの、これはまぁちょっと科学の世界のことなんですが、これを簡単に説明したいと思います。



でまぁ、あの、場面はですね、学生が一所懸命勉強してきて、卒業研究してきてですね、いよいよ4年の12月ぐらいになる、と。そうしますとですね、だいたい学生の頭の中には「こういうふうにして卒業論文を書こう」っていう、イメージができあがってるんですね。そんときに、まぁ実験もだんだん良くなってくるんですよ。ま、最初のころの実験っつうのは、非常にこう、悪い実験って言いますか失敗が多いんですけど。



ま、12月ごろになると学生の実験も良くなって、精度も上がってくるんですね。いいデータが出てくるんですよ。そうするとね、学生はですね、だいたい「おかしなデータが出ましたんで、これ間違いだと思います」って言って来るんですね。それは間違いだと言ってんのはですね、学生がこうじゃないかと思ってるデータと違うものが出てきたんですよ。そうしますとね、卒業までもうわずかで、もう卒業論文書かなきゃいけないのに、こんな矛盾したデータ出てきたら困るって、こういうこと言ってるんですね。


つまり学生としては自分の卒業というもの、これはまぁ全然人間的なものですね。それから科学的実験データというものとは違うんですよね。違うんだけど、それを一緒くたにしちゃうんですよ。つまり自分が卒業したいから、実験データはこういうデータが出てほしいと。ま、こんな感じなんですね。今の政府も似てますかね?
ええと、原子力発電所の事故を小さく見せるためには、セシウムなんか落ちてきてもらっては困る、っていうね、ま、そういうやつなんですね。


そのときに学生がですね、「いや、自分は卒業できなくてもいい」と「科学が大切なんだ」というふうに思えばいいわけです。私は、ま、そういうふうに指導してるんですけども、なかなかそういう心の強さを持っている学生は、なかなかいないんですね。ええ、まぁそういうことです。


それから第2にはですね。もちろん実験をするわけですから、何か‘つもり’があるんですよ。「こういうふうなデータを取りたい」とか「こうなるんじゃないか」っていうのがあるんですね。そうしますと、自分が思ってる「こうなるんじゃないか」ってふうになると、まぁ満足して、違うデータが出てると、どうも違うんじゃないかと思うんですね。ところが本当はですね、自分のつもりと違うデータが出たときに、喜ばなきゃいけないんですよ。つまり予想したデータが出るんだったら、もともとですね、測らなきゃいいんです。データ取らなきゃいいんですね。


今度のセシウムもそうですね。ずっと変わらないんなら、測定する必要ないんですよ。変わるから、測定してるんですね。ですから文部科学省みたいに「もう変わらないから、一ヶ月にいっぺんにする」なんつって、ダメなんですね。それはあの、データにならないんですよ。つまりデータになるってことは、自分が予想してるものと違う結果が出ることがあるので、測定してるんです。だから文部科学省という…文部科学省ですからね。文部科学省ともあろうもんが、科学のもっとも基礎の部分を知らない、ってことになるんですよね。おかしな話ですよね。



科学というのは、非常に謙虚にデータを取り続けなきゃいけないんですよ。そうしないとですね。データを見ることによって、自分の間違いを見つけるんです。ところが、学生はですね、(この部分は音声が飛んでいて不明です)ないから、ま、今の科技庁と一緒かもしれませんが。学生が自分の判断をしてデータを間違ってる、とこう言うんですね。ま、こういうことってあるんですよ。データが間違ってることはあるんですが、実はデータっていうのは、間違ってるといっても正しいんですよ。これ、難しいんですけどね。



例えば、今度の件ですけども、12月25日にですね、測定器を誰かがセシウムで汚れた手で触ったかもしんないんですよ。そうしますとね、「定時降下物」の測定データではなくなっちゃうんです。そういう意味では、間違いなんです。だけども、データそのものは、やっぱりそのデータなんですね。ということはどういうことかって、「我々は定時降下物を測りたいと思ったけども、手が汚れてたので、別のデータを測ってしまった」ということであって、データそのものは正しいんですね。ま、そういうことがあります。しかしこれも大切なんですが、学生がそういうふうに思うのもやはり勇気が必要なんで、なかなかそういかないですね。



それから最後の問題は簡単ですが、「有効桁」という問題を言っときます。これはですね、学生に教えるのにとても苦労するものなんですが。普通1ベクレル、2ベクレルといったら「1桁」使える、ということなんです。1.4ベクレル、3.5ベクレルっていうふうにいうとですね、「2桁」使えるってことですね。今度は文科省とか福島県が252ベクレルというふうに3桁書いてますので、読む方はですね、データを見る方は、「3桁」まで使えるなと思っていいんです。



もしも測定側がですね、もっと誤差が大きいと思ったら、切り上げなきゃいけないんですね。そういうことで、そういう場合は3桁として、足し算・引き算はできるし全部できるわけですね。つまり例えば、5ベクレルっていうのと、5.4285ベクレルと、こういうのとではですね、違うんですね。学生が「5.4285ベクレルでした」と、「えっ!その5桁もあの測定器で判るの?」と僕が言うとですね、「いや、38ベクレルを7で割りましたから、そうなりました」って、こういうことが多いんですよ。




ま、よくあの、官庁のデータなんかもそういうこと多いんですよね。だけども、ほんとは38ベクレル、つまり2桁しか測れないんであれば、7日で割ってもですね、7日っていうのはこれ、測定値じゃありませんからね。桁数が無いんですけども。7日で割ってもですね、5.4ベクレルって書くべきなんですよ。つまり「2桁ですよ」ってことはいつも示しとかんといかんですね。


今度ですね、おそらくね、変な反論も来るだろうな、と思ってるわけですよ。「だいたい、セシウム降下物を3桁も判るはずがない」。だけど、そんなこと言っちゃいけないんです。測定者がですね、252ベクレルと報告してれば、見る方はこれを「3桁は判る」というふうに見なければですね、科学はできないですよ。科学ってね、一つ一つがきちっとしてるんですね。こうだろう、なんてやつはですね、科学の世界では許されませんので。ま、そこはこういうことですね。


そうしますと、こういった、まぁ一般的な私が学生に注意するようなレベルで、今度の定時降下物セシウムの濃度を見ますとね。まずはデータは正しいとしなきゃいけないんです。これはですね、データを検討して、1ヶ月後ぐらいにこういう問題点があった、誰かがセシウムで汚れた手で測定器を触った、っていうことが判るかもしれませんが、それを最初から思っちゃいけないですね。特に、自分の思惑とか利益とか、そういうものでデータはですね、勝手に間違ってるって言っちゃいけないですね。



それから3桁までは読んでいいっていうことなんです。そうしますとね、かなり異常ですね。それから「定時降下物」という名前で公表してる限りは、定時降下物だけしかいけないんです。そりゃあね、もちろん、そのいろんな理由がありますから、降下物じゃなくて、下から、土から舞って来たんだってこともあるんですけどね。だけども定時降下物と見なければいけないんですね。


したがって今度の年末年始の状態は、8月以来、異常な状態である、ということが判ります。それから、この前ちょっと書きましたんで、鋭くお分かりになった方がいるんですが、原因を追究するっていうのは、その次なんですね。これはまぁ、火事の例で言いました。皆がいる居間に…リビングルームに火が迫ってきた。そのときは、まず大切なのは、その火が迫ってきたという事実を確認して、逃げる方が先なんですね。そのときに一生懸命、台所から火が出たのかとか、お風呂場から火が出たのか、っていう検討してちゃいけないんですね。



つまり、福島の降下物が高くなって、他もちょっと関東辺りが高くなっていて、子どもをどう守るか?っていうことを考えなきゃいけないときに、あまりですね、4号機じゃないかとか、風が舞ったんじゃないかとか、花粉から来たんじゃないか、っていうふうに思うんじゃなくて、ま、これはね、すぐやんなきゃいけないですよ、すぐやんなきゃいけないけど。



まずはですね、順序は、降下物があるのかどうか、それが増えるのか増えないのか、それをですね、先に考えて、その次にはそれをどうするのか、逃げるのか逃げないのか。それから次に原因を考えて、そして長期的な対策をとる、と。こういう順番ですね。これも、あの実験、科学的なデータの処理の仕方の王道なんで、一応ちょっとここにそういうふうに書いておきました。