読者のご質問に答えて14. 東電訴訟:「無主物」がもたらしたもの(12/19) ~前半~ | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
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(文字起こしをお手伝いして下さった方からの投稿です。danielle(ダニエル)様、ありがとうございました)

読者のご質問に答えて14. 東電訴訟:「無主物」がもたらしたもの(12/19) ~前半~


--------ここからブログ記事--------(放射線や東電との戦いが長くなりますから、少し難しい内容ですが。また下記の文章では本格的な裁判が始まり判決が降りたように記載しましたが、裁判官の判断は仮処分を却下したということです。でも、本質質的には変わっていませんが、正確な方が良いので。)



あるゴルフ場が東電の福島第一から飛んできた放射性物質のために損害をもたらしたとして訴訟をしたら、地裁が「ゴルフ場に降った放射性物質は、どの人のものか判らないから東電が片付ける必要はない」という驚くべき判決をした。これを、1)民放の解説(読者の方から)、2)被曝を防ぐ法律、3)公序良俗、の点から考えてみた。


(読者の方からの提供)「民法242条は「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。」とあります。ここでいう「物」とは動産のことです。つまり、今回のような放射性物質(動産)が不動産(土地・建物)に付着し、これが結合して分離・復旧させることができない、もしくは、そうするために過分の費用を要するような場合には、その動産の所有権は不動産の所有者が取得する、というものです。


よって、その放射性物質は不動産所有者の物となったのだから、東電に所有権はなく、よって、所有者自身が自分の物を他人(東電)に排除しろと請求すること(物権的妨害排除請求)はできない、と言いたいのだと思われます。(もっとも、不動産所有者の物であるから、不動産所有者がそれをどう処分しようと東電も文句は言えない。)


ただ、この民法の規定の趣旨は、そのような結合してしまった物を無理やり分離・復旧すると、それぞれの物の機能が失われたりなどして、社会経済上も、それぞれの当事者にとっても不利益であること、にあります。とすると、今回のような放射性物質の場合、これらをできるだけ分離・復旧すること(除染すること)は、むしろ社会経済上も被害者にとっても「利益」になることですから(不利益なのは加害者である東電だけ)、本条の規定の趣旨とは明らかに反しています。よって、今回の事例のような場合には、本条の適用はない(本条の予定するところではない)と思われます。」


関連資料1(電離放射線障害防止規則)(放射性物質がこぼれたとき等の措置) 第二十八条  事業者は、粉状又は液状の放射性物質がこぼれる等により汚染が生じたときは、直ちに、その汚染が拡がらない措置を講じ、かつ、汚染のおそれがある区域を標識によつて明示したうえ、別表第三に掲げる限度(その汚染が放射性物質取扱作業室以外の場所で生じたときは、別表第三に掲げる限度の十分の一)以下になるまでその汚染を除去しなければならない。


関連資料2(民法)「第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」



--------ここから音声内容--------



福島原発で爆発したヨウ素とかセシウムがですね、近くのゴルフ場に降ってきたので、ゴルフ場がすっかり汚染されてお客さんが来なくなった、と。という事に対してゴルフ場は東電を相手に訴訟を起こしたんですね。ま、当然ですよね。
普通でしたら、他人の家に汚いものを撒き散らしたらですね、菓子折りでも持って「すいません!」って頭下げて、すぐキレイにして謝って帰る、って言うのが普通ですよね。


ところが皆さんご存知のとおり東電はですね、「別に汚して悪くないじゃないか」と、こんなこと言ってる、と。
しかも勝俣会長というのがそのまま居座ってる、と。社長は2億円の退職金を取るっていうような。


それから、いつまで経ったって東電の社員ばかりでなくですね、電力会社団結してんですから、電力会社に少し呼び掛けてですね、一割ぐらいずつ人出して、福島の除染をしなきゃいけないのに何にもやんない、と。そういう状況な訳ですね。


で、これの判決がびっくりしましたよ。ゴルフ場に降った放射性物質はですね、どの人の物か判らないから東電が片付ける必要がない、ってこういう訳ですね。

「無主物」。つまり主人が居ない、と。何でかっていうと、「ゴルフ場はゴルフ場のものであり、降ってきたセシウムはその時は東電だったんだけど」…まぁへ理屈を言ったわけですよ。
「ゴルフ場の草にセシウムがついたら、そのセシウムはもうゴルフ場の草と切り離すことが出来ないから、
東電の物ではない」と、こう言うんですね。すごいもんですよ。

この問題をですね、民法としての解説、これ読者の方から参りました。
それから被曝を防ぐという法律ではどうか、それから民法の全体的なものですね。公序良俗の面からどうだ、
という事を3つ考えて頂いております。



少し内容難しいんですけども、私はね、放射線や東電との戦いは永くなると思うんですよ。その時にこんな変な判決が下ったらいけないし、このゴルフ場は大変に勇気ありますね。私たちは一人一人が子供を守るために、東電を訴えるという事が出来ないんですよ、実際上は。
だからこういうものをどんどんですね、ゴルフ場だとかそれから自治体だとか、そういうとこやって欲しいですね。


自治体もですね、東電を訴えて下さい。私はそう思いますね。その根拠を我々で考えていこうという点でもですね、この問題を取り上げたいと思います。
読者の方からも随分質問のあった、また意見を言ってくれという要望のあったものですので、取り上げたいと思います。

読者の方から提供された情報は非常に正確で、民法242条は「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を有する」とあるわけですね。つまりここでいう「物」とは動産のことであります。つまり今の場合、「セシウム」ですね。



つまり、今回のような放射性物質(動産)が不動産(土地・建物)に付着して、これが結合して分離・復旧させる事ができない、もしくは、そうするために過分の費用を要するような場合には、その動産の所有権は不動産の所有者が取得する、というわけですね。



つまり東電から降ってきたセシウムは最初は東電の物だけども、それがくっ付いた後は復旧させることができない。もしくは、そうすると大変に費用が掛かるという時にはですね、その動産の所有権は不動産の所有者が取得するんだ、と。「取得する」というのは良い事だから取得するんでしょうね。悪い事を取得させられると酷いんだけど。



よってこの放射性物質は不動産所有者の物となったのだから、つまりゴルフ場の物になったんだから、東電に所有権はなく、よって、所有者自身(ゴルフ場)が自分の物を他人(東電)に排除しろと請求すること(物権的妨害排除請求)はできない、という訳ですね。
いやいやいやいやいや、まぁ、大変なことですね。

で、その後にこの読者の方は法律にお詳しいので、こういう風に書いてあります。
「ただ、この民法の規定の趣旨は、そのような結合してしまった物を無理やり分離・復旧すると、それぞれの物の機能が失われたりなどして、社会経済上も、それぞれの当事者にとっても不利益であること、にあります。



とすると、今回のような放射性物質の場合、これらをできるだけ分離・復旧すること(除染すること)は、むしろ社会経済上も被害者にとっても「利益」になることですから(不利益なのは加害者である東電だけ)、本条の規定の趣旨とは明らかに反しています。よって、今回の事例のような場合には、本条の適用はない(本条の予定するところではない)と思われます。」


これ、もう少し解説を付けて頂いていますが、少し法律的になるので、ここで一応切りたいと思います。
ま、これが常識的ですよね。

つまり、例えば他人の洋服を汚したと、洋服は不動産ではありませんがそれをきれいにする。もしくは、人の家の庭に汚いものを流したと、それをきれいにする。と言うのは日本社会では当然のようにやられている事であります。ですからこの判決はですね、とても変な判決であります。


この判決をするときに、民法242条を解釈するときに、解釈には色々な付属した知識が必要ですね。
それには一つはですね、放射性物質という物がここで言う「動産」なのか、ということですね。
これについて今までの国はどういう事をやっているかって、これは規則でもありますし、「放射性同位元素等による放射線の障害の防止に関する法律」ていうのもあるんですけど、私はこの「電離放射線障害防止規則」が一番解りやすいんですね。



これ解りやすいってことで使ってるんで、どの法律が適用されるとかいう厳密なことを言っているんじゃないんです。法律というのは元々社会の人が利用するものですからね。ものすごく難しい法律を利用するんではなくて、社会にいる人は精神を取ればいいんです。
後は弁護士が、裁判官が考えればいい事ですね。

ここにはこう書いてあります。
「電離放射線障害防止規則」(放射性物質がこぼれたとき等の措置) 第二十八条  事業者は、粉状又は液状の放射性物質がこぼれる等により汚染が生じたときは、直ちに、その汚染が拡がらない措置を講じ、かつ、汚染のおそれがある区域を標識によつて明示したうえ、別表第三に掲げる限度(その汚染が放射性物質取扱作業室以外の場所で生じたときは、別表第三に掲げる限度の十分の一)以下になるまでその汚染を除去しなければならない。

これは放射性物質というのは、こぼした人がつまり汚染した人が、除染しなきゃいけないと。こう書いてあるわけですね。つまり、切り離していかなきゃいけない。このときに、法律論ではですよ、ここにある汚染の恐れのある区域というのは、これは動産を言うのかとか、土地を言うのか、どこの土地を言うのかとか、色々あると思いますね。


しかしここの趣旨はですね、放射性物質を扱ってもいいよ、と。だけども責任は取りなさいよ、と。もしも外にこぼれた時は、放射性物質を使っている人が責任取らなきゃいけませんよ、という事を規定しているんですよ。
だからこれはもう当たり前なんですよ。今まではごく当たり前と思われてきたんですよ。だって放射性物質で汚した所もね、汚した人がきれいにしに行かないなんてのはですね、もうとんでもない考えられない事なんですね。