CP5に到着すると先に付いていた武井正美さんが座って靴を脱ぎ足を冷やしている、持病のモートン病の痛みと動悸が乱れているということで悔しいリタイヤを決断したということだった。椅子に座り少し武井さんと話しながら補給をして次の正丸峠に向かう、しばらく上りが続く正丸峠への道は長く足を上げる筋力が弱まってきているのを感じた。上り坂が一段落したところでゆるゆると下る、ぼんやり走っていたせいなのかマンホールの突起に足を引っ掛け転んだ。
普段なら踏ん張って転ぶのを避けられるが大腿筋が弱っていて支えられず肩から大袈裟に転んでしまった。幸い大した怪我は無く、左手から少々流血があった程度。コンビニで手を洗わせてもらって先を目指す、昨年は全てを走って登ることが出来たこの坂道がキツく感じられ、お腹の調子も良くない。歩きながらガスター10を服用してまたゆっくり走る。
先を行く人影が見えてきて追いつくとCP1の手前でパスしていった岩下さんだった、本来は物凄く速い岩下さんだけど、なんだか調子が悪そうで「リタイヤしようか迷っている」と苦しそうに言った。私もお腹の調子がイマイチだったので元気とは言えなかったが、リタイヤする気は毛頭ない「ゴールでお会いしましょう!」と言ってノロノロと走る。坂道で歩いている山村さん土橋さんに追いつき、言葉を交わしながらノロノロと走る。山村さんたちはしばらく歩いて行くと言っていたが私のノロノロペースとそう変わらない。

あまり食べられない

仕方なく出発
何とか暗い坂道を登り切ってCP6正丸峠へ到着。お腹の調子が良くないのでカップ麺は食べられない、フルーツや飲み物を少し頂いて次に向かうことにする、次のCP7ロックガーデンは下りばかりの正丸峠と下り基調の国道を10km走った先にあるので、例年すぐに着くという印象だった、正丸峠からの下りをジョギングで下っている途中で山村さんと土橋さんが追い抜いて行った、明らかに体調がおかしくてお腹に力が入らない。
◆ハンガーノック
国道に出てからの走りやすいはずのロードも何故だかまともに走れなくなり、ハンガーノックを起こしているらしいことに気がつく。持っていたクリフバーを取り出して食べながら歩き、少しお腹が満たされてまた走れるようになる。下りばかりの10kmですぐに着くと思っていたのにこんなに苦労することになるとは思わなかった。情けない気持ちになりながら何とかCP7に到着。
山村さんがご飯を食べ終えて出発するところだった。少々お腹が張っている感覚があったが、またハンガーノックは嫌なので無理やりに食べる。炊き込みご飯を軽く2杯いただいて、また強く降り出してきた雨の中を最後のCP8目指して走る。どんどん強くなってきた雨で歩道には水溜りだらけ、ライトで足元を照らしているが水溜りの深さはわからないので思ったより深い所に足を突っ込んで驚くこと数回、濡れるのが楽しくなってきてわざと水溜りに突っ込んだりしてニヤニヤしながら走る。
水遊びを繰り返している内に見覚えのある市街地に再び到着しCP8、山村さんも休憩中だった。CP8では雨が強くなってきているテントの中に、まだ小さな子どもがエイドのお手伝いをしてくれていた。「大丈夫?眠くないの?」と聞くと、「さっきまで寝ていたから」と言っていくらとろろ丼をくれた。おじさんたちに「雨で大変だね~」と言われるが「楽しいですよ~、もっと降って欲しいくらい♪」と言うと、「どうしてそんなになっちゃんたんだ」と笑ってくれる。
笑顔でCP8を出る、少しの会話でもたくさん元気を貰えたのでまた走れるようになった。雨は降り続いているけど少し物足りない降り方、この際もっと降って欲しい。どなたかに電話をかけながら歩いている山村さんをパスして、その先に居た選手もノロノロと追い抜く、前回道を間違えた区間なので注意深く後ろからくる人に確認しながら進んだ。
前回二度目のミスコースをしたコンビニを通り過ぎて陸橋を下りファミリーマートでこの日初のレッドブルをチャージ。昨年はここからペースアップできたので今年もそれに期待する。ペースアップして全力を尽くしたい気持ちはあるが体が一向について来なくてペースは上げられない。信号があれば喜んで止まり、先を急がない。
CP8を出たのがスタートしてから16時間20分程経過、目標だった19時間を切るゴールはどうやら達成できそうだったのでそれ以上追い込むことをせず終始マイペースで進んでしまった。山村さんもキツそうで同じようなペースで時折話しながらゴールを目指す。入間川まで辿り着くとなんとか完走したんだなという気分になった。遠く先をゆく山村さんを見失わないようにしながら今回コース変更となった交差点「今成交差点」を右折する。
事前にチェックしていたコースマップからはここを曲がるとすぐにゴールというようなイメージだったが実際は割りと距離があって前を行くはずの山村さんの姿は暗闇に消えて見えない。前から走り終えたらしい選手がゼッケンを付けたまま応援してくれる。「お疲れ様でした~!速いですね~!」と言いながら走る、今回のゴール地点「小さな旅川越温泉」に曲がる角どを走り、誘導灯を振りながら迎えてくれるスタッフの方にお礼を言いながらゴールした。
ゴールタイムは18時間33分と何秒かだったと思う。

今年もキツくて楽しかった。
◆ゴール後
ゴール地点では館山代表、恵美さん他数名のスタッフの皆様と、一足先にゴールした山村さんが握手で迎えてくれた。「相変わらずきつかったけど楽しかった」という感想を言ってゴールタイムを書き込み荷物の整理をする。立っていると目の前がフワフワと揺れるような感覚になり、座り込みながら荷物をまとめる。すぐそばに先日心臓の病を克服してインドのラダックで「LA ULTRA THE HIGH 222km」という平均高度4000m超という過酷極まるレースを完走した佐藤良一さんがいらして、テレビのドキュメントを観た事と、とても感動したということを伝え、そのレースの話を少し伺った。来年は333kmのコースに挑むということでそのチャレンジ精神には感服。しばらく話して中の温泉へ。
出来たばかりのきれいな温泉施設で足を引き摺りながら受付、なんとか入浴まで漕ぎ着けた。衣服を脱いでいる時に気がついたが、走っている時に「痛いな~」と感じていた股ズレがかなり酷い。赤く腫れてとても湯船には入れないな・・・と負傷した箇所を見ながら思う。シャワーをかけてみて体中に似たような傷があることに気付いてうめき声を上げる。風呂にはいるのはとても無理だったので歯磨きをして体を洗って外に出た。
立ち上がるとフワフワするような感覚がまだあり、お腹がとても減っていることに気がつく。食堂で醤油ラーメンを注文して食べ休憩所でしばし横になる。前日食事を摂った仲間のゴールすると言っていた時間が近づいたのでゴールを迎えるべく外に出ると既にゴールしていたようで食堂の前に吉田さんがいらした。目標だった22時間完走を大きく上回る20時間台でゴールしたそうで余裕がありそう。
昨年は残念ながらリタイヤだったが今年は19時間台で完走された千木良さんとも挨拶。これで4回目の挑戦だったゆいなさんとサトちゃんはベンチで寝ている、ぐっすり寝ているようで今回は無事にゴール出来たんだなと安堵。リタイヤを悩んでいた岩下さんも無事に完走されたそうで、走って良かったと言っていた。初挑戦の時に一緒に走った髙橋さんもゴール後に会えた。
3年前の「雁坂」は一人でスタート地点に並んでゴール後は充実感でいっぱいになりながらも、そそくさと帰った。今年もまた新しく素晴らしいランナーと知り合いになり、私にとっては競争としてのウルトラマラソンというより、同じ過酷な挑戦を通じて類は友を呼ぶ仲間に会える大切な場所になっている。
帰りの電車は武蔵野線が台風で運休、大回りして自宅に帰った。来年は暑くて苦しい雁坂を走りたい。 ~終わり~