第一章自己消失 1-3 京都駅大カイダン ―小説
これは、京都府にすむ、
もっといえば、京都の景観をぶち壊すために作られたと言っていい、
耐震基準が守られているかはなはだ疑問である築何十年の古い貸しビルに住む
僕自身の物語でもなんでもなく、
伝説でもなんでもなく、
日記でもなんでもなくただの愚痴なのである。
愚痴であるのだから、
自分の好きなように語り、
好きなように絶望し、
好きなように怒り、
好きなようにこの話をおえてしまうのだが、
それは僕の愚痴を聞く気になったあなた様の好奇心、
もしくはそれにも満たない暇つぶしの都合あわせに付き合う僕のことを思えば、
不愉快に思うことなく、最後まで僕の愚痴に付き合うのが筋だろう。
曲りなりにも、僕たちはもう知り合いなのだから、
そしてよければ友達なれるかもしれないのだから。
京都府京都市京都駅内に存在する
大階段を建物にして三階分だけあがったところから入れる喫茶店、
そこから話は始まる。
「あなたは、3日間、私の護衛に時間を割けますか?」
と、唐突にいわれた。
しかも知らない人に・・・・
というか、突然僕の向かい側の席に座り、
「ちょっとそこのあなた!」
と怒ってきた人に・・。
なんなんだろう?
とにかく、初対面の人間にいきなり暴言を吐いてくるような人間だ
・・・頭のおかしい人には違いない、
まともであるはずもない。
はっきり言って、これは奇行以外の何物でもない。
なんだろう?
怖い
気持ち悪い
寒い
イタイ
鬱陶しい
脳内の細胞という細胞、魂を紡ぐ意識という意識が、今後自分がすべき模範行動を導き出す。
よし、無視しよう。
「無視をしてはいけません。
それを私は許しません。
まぁ、いいでしょう。無視してもいいから、私の話を聞いていなさい。」
なんなんだ、無視をするなといったり、いわなかったり。
「あなた、この世界ではものすごく有名な人らしいですね。
ええ、そうです。
この世界というのはもちろん、厄介ごとと狂気と血にまみれた世界です。
すなわち、ここ『異界(いかい)』、京都です。
まぁ、それでも青森ほどではありませんが。
ここも相当そういう異常にどっぷりつかったといっていいでしょう。」
本当に勝手に一人で話し始めたよ面倒だな。
しかし、ここのコーヒーフロートのアイス小さいなぁ。
僕としては、コーヒーが苦い分甘いアイスは多いほうがいいのだ。
なにせ、ぼくは苦いのが苦手だ。
ていうか、嫌いなのだ。
じゃぁ、コーヒーフロートを頼むべきではないと思うだろう?
いやいや、わからないかな・・
この苦いのが嫌い
というのが、もっとも飲むに値する要因なのだ。
嫌いなものを克服して、コーヒーを飲んでいる自分を顧みて、悦に浸るという。
何っていうか、おれかっこいい・・・みたいな。
当然、アイスクリームが浮かんでいるのだから、
別に克服したわけでもなんでもないのだが・・。
「ご紹介してくれた方は、あなたがこういうことに、常日頃から関っている。
変わり者だと仰っていた訳です。
私にはあなたのほかに頼る当てもない。
聞けば、イェルサレムに巣食うあの集団を一人で撃退したと・・・
武力も、
財力も、
人力も使わず。
それは驚異的な話でしょう?
まぁ、私は、その話をまったく信じてはいないのですけれど。
だって、あなた、どこからどう見ても凡人以外の何者でもないのですもの。」
僕は、こういった食し方を心的嗜好と名づけている。
きっと、専門用語があるのだろうが、
あいにく僕は、心理学者や精神論者、ましてや宗教家や、精神科医といった『科学使い』の連中とは違うので門外漢だ。
しったこっちゃねぇや。
名言だね・・。いい言葉だよなぁ。
おっと、そういえば、一緒に頼んでいたケーキがまだ来ないな。
苦いものは嫌いだが、甘い物は大好きだ。
実のところ和菓子のほうが大好きなのだが、
残念だがこの喫茶店にはそういったものは置いていない。
まったく、何のために京都に住んでいると思っているんだ。
おっ、やっと来た。
「しかしながら、どうしようもないということです。
だってすでに人が5人死んでいますから、
四の五の言っていられません。
まったく、困ったものです。
だからこそあなたの協力が必要というわけです。
安心してください。
当然タダ働きなどさせませんわ。
私はこれでもお金には困っていません。
ええ、働かなくてもいいくらいに。
働いているのは、単なる長すぎる人生の暇つぶしです。」
あちゃー、スポンジとスポンジの間にオレンジ系の果物が挟んであるよ。
余計なことするなぁ。
ショートケーキはイチゴ以外は不純物だよ。
そう、その他一切が不純物。・・・バキでも言ってたってのに。
とはいっても、このクリームの甘さが激あまでなくては、そのイチゴの酸味は何の意味も持たないがね。
酸味と糖分のバランスをわからずして甘党のカタルシスは語れないのだ。
・・・いや、うまく返しては、いないけどさ。
ズダンっ!
唐突にテーブルが大きくたたかれた。
おい!テーブルが可哀そうだろ!
なんて、欠片も思っていませんが・・・
「あなたっ!本当に無視していませんっ!!!!!?」
無視していいって言ったじゃん。
驚いてケーキを食べる集中力が途切れてしまったじゃないか?
どうしてくれる、この尼。
そう、思って目の前の奇人を見た。
正直、はじめて、この奇人の全体像を認識した。
まさか、
あ、
いや、
美人だったとは。
背は165センチくらい、女性としては高いほうだろうか?
いや、きっと最近ではそうでもないかもしれない。
肩にかかるほど伸ばした黒髪に、
凛とした顔つき、
年は20くらいか・・・若いなぁ。
着ている和服の影響だろうか、
なんとなく、大和撫子といった感じだ。
まるで、人形のような整いすぎた佇まい。
なんてこった。
僕は今まで、こんな美人の話を無視していたのか。
これは大いなる罪だ。
罪悪に違いない。
ぼくは、甘党であると同時に面食いでもあるのだ。
さて、どうしよう。ここは軽く弁解しておこうか。
スイマセン・・キイテマセンデシタ。BYソフトバンク家族のお兄ちゃん
いや、地雷だな。多分。
とにかく、話を聞いてみよう。
第一章自己消失 1-2 溶け出す ―小説
第1祭・・自己消失
―disappearance of identity
ぼやける・・ぼやける・・ぼやける。
自分の形が定まらない。
自分がどんな形なのか分からない。
自分がどんな形だったのか覚えていない。
自分が何であるのか分からない。
いや、そもそも、自分とは何だ?
わからない分からない、・・・ワカラナイ。
ああ、まるでままならない。
これではまるで赤ん坊・・・
あれ?私は赤ん坊ではなかったか?・・・
赤ん坊って何?
定義が崩れる・・・
世界は崩れる・・・・
自分なんてものはとっくの昔に崩れている・・・
まだ、・・・まだかろうじて言葉を発する。が?
なんだ?
私は何を話しているのだろう。
何を語り紡いでいるのだろう?
まるで秩序がない?
ちがう、ああ、でも・・・・
私って今までどんな喋り方・・・してたっけ?
ああ、
ああああ、
溶解する(ぼやける)・・・
溶解する(とけだす)・・・
溶解する(とけきってしまう)
ああ、私はどんな姿だったか?
まだ、ぼやけてるけど・・・なんとなくわかる。
でも・・・・・私・・・・
どんな顔で笑っていただろう。
第一章自己消失 夢 ―小説
THE DOLL BELIEVES HIS DREAM・・・
私には大切な人がいる。
あまりに大切で、計り知れないくらい愛している。
愛しているがゆえに、
私は彼女のすべてを独占せずにはいられない。
ああ、彼女にあるすべてを自分色に染め上げたい。
いや、いっそのこと彼女の存在全てが、
私という物質により構成されていてくれればどんなにうれしいか、
どんなに安心か、
どんなに満足か・・・
だが、けしてそれらはかなうことなどない。
この身は所詮、ただそこにあるという意味しか持たぬ者、
自らではこの身一つすら動かすことはできない。
そんなことできるはずもない。
わたしは天を恨んでいた。
ただただ、恨み続けていた。
そんな時、蛇が林檎をくれたのだ。
甘き甘き林檎。
その英知の実を私に差し出した。
それは旧約聖書にあるまさにそれ・・・
蛇は、私を楽園より追放するだろう・・
だが、わたしはただただ感謝する。
蛇にただただ感謝する。
そう、これで望みは叶うのだから