ビートルのなか ―小説
残念ながら、断られた。
いいあだ名だと思ったのだが・・。
「発想が中学生ですね。」
「どちらかといえば、小学生でしょう。」
「自覚がおありなのですか?」
驚かれた。
それがはじめて見た弓端さんの表情だった。
弓端さんは鉄面皮というか、
とにかく、口はまわっていて声色もころころ変わるが、表情というものが常に欠落している。
しかし、失礼な・・
僕とて一般常識からかけ離れた人間ではないのだ。
僕らは、先ほどの喫茶店から場所を移して、現在弓端さんの車の中だ。
なんと、車はビートルだった。
ふむ、このフォルム、カテゴリ的にはマーチなのに、かなり異彩。
自分は車に詳しいほうではないが、
基本かわいいが、
おしゃれカツかっこよさが備わっている。
室内はあまり大きくないけど。
「それにしても、ひどいと思いませんか?」
「ああ、今回の殺人事件のことですか?いや、ひどいですね。『人をあんな風に殺すなんて』ぼくには信じられません」
「いえ、それもそうですけど、あなたのことです。」
?
僕がひどい?
「私が話しかけた時、堂々と無視を決め込んだじゃないですか。」
・・・・
・・・・・いや、だって・・・
「けど、弓端さんにだって責任はありますよ。普通は、あんな声のかけ方しませんよ」
「え、だってどうしていいか分からないじゃないですか・・・
そんな瞬間『経験したことがない』んですもの。」
なるほど、弓端さんは、確かに根っからのお嬢様だし、美人だから、自分で声をかける必要もなく周りがいろいろしてくれていたのだろう。
こんな不器用なところも、美人がすればひそかな萌えポイントだ。
「しかし、僕のことはどうやって知ったんです?」
「ああ、ネット友達が紹介してくれたんです。ツカハラ ミユさん。」
「ああ、なるほど」
あいつ、ネットなんてやってたのか。
そういや、あいつ結構引きこもりだからなぁ。
しかし、僕のことをそんな宣伝されても・・・・。
「ええ、彼女が、Aliceさんをご紹介してくれて。」
僕じゃないのかヨッ!?Yo!
「そしたら、アリスさんが、『私のご主人様のほうが適任だ』って」
かわいそうに、たらい回しか。で、めぐり巡って僕のところに。泣けてくる話だ・・・無論、僕が。
「あの・・・失礼ですがアリスさんとはどういう関係なんですの?」
「へっ!?」
「女の子に、ご主人様と呼ばせるのは正常な関係じゃないと思います。はっきり言えば、『変態』です。」
「いっておくけど、『あいつが、勝手に』僕の『奴隷になる』といってきて、勝手にそう『おもいこんでる』だけだ。
僕は、一度として認めたことは無いよ。いらない誤解だ」
「そうなんですか?」
「神に誓って」
「神は信じていません」
「僕だっているとは思ってないけどね」
アリス・レイス・ハピス。なんというか、やはり一筋縄ではいかない子だ。
あの、ロシア人とフランス人のハーフ。
人の対面というものを今度じっくり教えてやろう。
「まぁ、いいです。あ、そろそろ着きますよ。」
僕らは、京都駅からずっと南に下った先にあるぼくの知り合いのアパートに向かっていた。
彼女の仕事に取り掛かる前に、事態の確認も兼ねて少し合っておきたいやつがいたからだ。
「これから会う人って、どういう人なんです?」
う~ん。あいつねぇ・・・ああ、一言で言うと。
「正義の味方――」
「まぁ・・・」
「―にあこがれる少年」
「がっかりですね。」
「そうでもないよ。」
確かに、がっかりな言い回しかもしれないが・・・やっぱ、そうとしか言いようが無いよなぁ。
アパートは二階建て、絵に描いたようなボロアパートで、
いや、骨董アパートといったほうが的確か・・・。
とにかく、戦後テイストただよう感じだ。
なお、現在の年号は当然平成である。
そんなアパートの二階、右端から三番目に位置するさび付いたドアを、軽くノックする。
「カザト、いるか?」
ごそごそと、おそらくサンダルでも履いているのだろう、物音の後に、すぐ扉は開いた。
「お久しぶりです?どうしたんですか?また愚痴ですか?」
それは、今後の展開しだいだ。
ただ、そうだな、この時実際愚痴を言いたかったのも事実だ。
どうして、おまえはそう爽やかなんだ。
KuRU/KuRU第一章自己消失 1-4やりやがったな魔法使い
目の前の美人さん、
弓端(ゆみはし)御世(みよ)さんは、京都の旧家の生まれで、
現在、独身(最重要情報)なのだそうだ。
直接聞いたのではないが、見たところ、B89・・ふむ、なるほど、実に興味深い、
そしてウエストが・・
ああ、いやそのくらいにしておこう。
これ以上この路線で続けると、この愚痴を、カザトやミユに聞いてもらえなくなりそうだ。
愚痴はできるだけ多くの人に聞いてもらいたい。
で、ともかくその弓端さんは、その知り合いを相次いで無くしているらしい、
そう、亡くしているのではなく、無くしているのだ。
しかも、予告つきで・・・。
「どういうわけだかは、よくわかりません。
知りたくもないし、知る必要もない。
私はタダ、予告を受けるだけ、
しかも仲がいいともいえない、ただ近所に住んでいるというだけの知り合いを・・・」
弓端さんの声色は物悲しく、なのに感情を感じさせない・・・・。
彼女は顔をしかめることもしなければ、目をうつ伏せることもしない・・ただ、無表情につぶやいた。それだけのように感じる
なんだろう?・・違和感。
無表情な口からもれる、変化にとんだ声色。人形に、人間の声を吹き込んだかのようだ。
「で、その人たち、死んでないんですよね?何がいけないんです?」
「ですから、無くしているんです。」
・・・自我を。
「肉体に外傷はなく、生理的には完全にいきています。
けど、ココロが死んでしまって。
自我がない。
植物状態と違って、脳波はあります。
完璧にどこからどう見ても、『科学的』には生きていますが、人として死んでいるのと変わりが無い。
魂がないといいましょうか・・・。」
「ん?科学的にいきている?脳波はある?なら、思考はしてるって事ですか?」
「ええ、しています。生きる行動はとっています。けど、死んでるんです。」
うーん、よくわからない。
人間は、脳波が一定過ぎても病的だ。
それを科学が病的と呼ぶ。
けど、そこまで綿密な科学をもってしても病的とならない状態。
うぅうぅ・・よくわからないが、
それって精神病の一種じゃないのだろうか?
良い精神科医を教えてあげるべきだろうか?
ただし『宇宙最強の(ぶっ飛んでる)』。
「いえ、精神科医やセラピストではどうしようもありません。
何しろ空っぽなんですから。
無いものを治療しようにも治療しようがありません。」
そういって、弓端さんは、携帯電話を取り出した。
メルアド交換か?
いいね。
タダでさえ5件しか入っていない携帯電話の電話帳にこんな美人が加わるなら最高だ。
弓端さんは、携帯電話のディスプレイをこちらに向けてきた。
ムービー?
「きゃ、お父さん。なんで人の携帯で動画とってるの?やめてよ。それより、せっかく海に着たんだから、お父さんも泳いだら?」
「・・・・」
キャラ違うくないってのもあるけど・・・その前に
水着姿の弓端さん、ご馳走様でした!
でも、これが何だというのだろう。ていうか、うらやましいですお父さん。
「間違いました」
そういって、弓端さんは何事もなかったかのように、次のムービーを見せた。
次は着替えシーンなどが望ましい。
「・・・・・」
ああ、ああ、あああああ・・・ああなるほど・・
なんだこりゃ?
そこに映し出されたのは病室で『溶けている』被害者の姿だ。
一言で言えば、『個』の欠落である。
弓端さんの「魂が抜けた」というのはあながち間違いはない。
重度のアイデンティティの『欠落』、それに伴う肉体的変化は自己の形を亡くした証。
そして、被害者は、目を開きながら、活動しながら夢を見ている。
すなわち、幻覚。しかし、通常の幻覚と違うのは、そこに彼らはいないということ。
彼らは、夢の中にいながら、それをなんとも思っていない。夢と同化してしまっている。
そう、自分の形を忘れるほど肉体的変化を伴って・・・。
これでは、スライムじゃないか・・。
なるほど、科学の範疇ではない。科学ではここまでの異常は起こらない。
いや、科学の範疇でおきうる現象は、どんな突飛なこととはいえ、正常なのだ。
尋常なのだ。
やりやがったな、魔法使い。
みなが知っての通り、この世の中には科学があるように魔法がある。
と、いうと・・・多くの人はどう思うだろうか。
誇大妄想狂がありもしない常識を語りだしたと思うだろうか?
それとも、非常に優しく夢見がちな人間として扱ってくれるだろうか?
そうではない。そうではないのだ。
この世界には、科学では説明がつかないことがたくさんある。
これは間違いのない話だろう。
その中には、
いまだ説明がついていないものと、
けして説明のつかないものがあるのだ。
『いまだ説明がつかないこと』というのは、現状の科学、
そのメカニズムでは説明はつかないが、その延長線上にある将来の科学でなら説明のできること。
そして、『けして説明がつかないこと』、
それは科学というメカニズム、システムそれら一切合切、
未来においても過去においても説明のつかないことである。
なぜ、説明がつかないか?
簡単だ。
この世を成り立たせている世界の法則が、科学だけではないからである。
その絶対法則こそ、過去から連綿と伝わる神の秘法、『魔法』なのである。
その絶対法則を操る知識を持つ人間を魔法使いと呼ぶ。
なるほど、これは確かに、僕に話がまわってきてもおかしくない。
僕は、けして『魔法使い』ではないが、
『科学使い』ですらないが、・・・・
うん・・・『芸風』が似ている。
「そして、二日前に新しく手紙が届きました」
すっと、出された紙には・・・・
オマタセシマシタ、キョウカライツカイナイニオムカエニマイリマス。
オジョウサマ。
「どうですか?私の護衛のために3日間、空けてもらえますか?」
弓端さんは、なんということはなく言う。
ええ、そりゃもう、美人ですから。
「その前に、ひとつ質問があります。大事なことです。真剣に答えてください」
はい、と彼女は言う。
「呼び方は、みぃちゃんでかまいませんね?」