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自己消失 1-17 物

解答編

シギ
死戯というものが『この世界に』には存在する。

はっきり言えば都市伝説のようなものだ。

所詮うわさに過ぎないそれは、私たちの世界の『首なしライダー』のようなもの。

あるいは口裂け女。

ただ、死戯は、妖怪やお化けではない。
死戯は、殺人鬼だ。

世に数多といるであろう殺人鬼。
殺人者を超越してしまった歪んだ人間、

それはもう人とすら呼ばれず鬼と呼ばれる。

ゆえに殺人鬼。
その殺人鬼の中でもより上位の存在がいる。

それは都市に潜み100をも超える人間を殺し、

殴殺し、斬殺し、強殺しながらも、

人に見られることなく、その存在の残り香を残す完全殺人を繰り返し続ける存在。
そいつらを判別するのに理屈はいらない。
なにしろ、姿を見せずに噂が生まれるのだ。
君は、出会った瞬間、すぐに解る。
出会った瞬間、すぐに死ぬ。




   ◆ ◆ ◆



ぼくは、携帯電話をその場に捨てる。

ありがとう、Alice。本気で助かった。

いや、助かってないのか。

きっと、どっちもだ。


遅かった。

古矢さんは死んだ。

まだ、間に合う。

弓端さんは確実に生きている。


時刻は午前0時を超えて深夜になっている。

もはや、この世界を支配しているのは深き夜の闇とそこに差し込む月のみ。

ぼくは、犯人のもとに向かう。

あれほど、頭を駆け巡っていた混沌は、今は冴えた水の如く清流となり、正しき流れでを僕に現している。

冷静な思考は、自分のやるべきことをはっきりさせる。

やることはただ一つ。


 完全否定


◆ ◆ ◆


ぼくは、弓端さんの部屋の前に立つ。

そもそも、始めの始めから異常だったのだ。

携帯電話の中の彼女はあれ程までに、正常で、あれほどまでに明るく、あれほどまでに父親と仲が良かった。

しかし、僕の出会った弓端さんは違っていた。

声こそ感情が飛び交っているが、表情は人形のように変化がなく、

人に声をかけると無茶苦茶な声のかけ方をし、奇人のように行動を起こす。

ふと、キャベツを見てピクリとも動かなくなったり、

できもしない料理を作ろうとしてまた、フリーズ・・・

それはそれで、僕は大好きだったけど、

・・違ったんだ、

そんな事本来の彼女ではありえなかったんだ。

だってそうだろう?

あれほど仲の良かったお父さんをただの知り合い呼ばわりして、

殺されてもなんとも思ってないなんて・・・そんなの、

町が消されると聞いて、本気で風都に怒った彼女に、そんな優しい彼女にあってはいけないことなんだ。


彼女は失い続けていたんだ。

僕に逢うはるか前から殺され続けていたんだ、

悲しくて、辛くて、僕の受けた喪失感を何度も何度も味わったんだ。
そして・・・・

―僕は、弓端さんの部屋の扉に手をかける。

お前が、弓端さんを追い込んだ!

―扉を開けた。


ついに、犯人とご対面だ。


そこには、弓端さんが倒れていた、

糸の切れた人形のように、もう何にも反応できず、

いや、今までどうやって反応してきたかも思い出せずに、そこに人形のように虚空を見つめていたのだ。


(そうか、もう、動き方すら思い出せない・・・)


可哀そうに、弓端さん。


ぼくは、彼女の部屋に入る。

『重苦しい』、そう、魔法使いに特有の『重苦しい』雰囲気。

瓦解しそうな世界がギシギシと悲鳴をあげギリギリのところで崩壊を防いでいる。

思えば、結界だった。

来ようと思わなければここに立ち寄ろうともしなかっただろう。

ここは、この屋敷の中で最も異質な空間だった。

弓端さんを探そうとすればここをまず初めに探すべきはずなのに、僕はここに立ち寄ることすらしなかった。

『この部屋に来よう』と思って初めてここにたどり着けたのだ。
まさしく、結界。

結界とは、もともと仏教用語で、大雑把にいえば内と外を分けるもの、境界線。
地球には、

地表には、

地面には、

そもそもここからが、この領域だとするものはない。


地面はどこまでも続くし、海もまたしかり、

境界を決め領域を決めているのはあくまで人間だ。

つまり、結界とは、人間が内と外を隔絶するために、心にかける精神的防壁に他ならない。
結界とは、相手の脳内に組み立てるものなのだ。
だから、実際に防壁を組み立てる必要はない。
ただ、ここの嫌な雰囲気を感じ取れば、『無意識』の内に、ここから遠ざかってしまう。

「そうだ、この中途半端な結界が、まさしくお前の存在を証明しているよ。」

ああ、下らない。

確かに、これはミステリーとしては最悪だ。

指を適当に差せば犯人を当てられるほど登場人物が少ないこの状況下で、

犯人が、登場人物に上がらないようトリックを仕掛ける。それ自体は、使い古されていてもに良いネタだとは思う。


が、タネがあまりにも陳腐だろ。

「そう、わかっていたのに気付かなかったのは、ありえないと思ったから、

いや、概念がなかったからか、

それもないな、知っていたともお前みたいなの、一応神道は、家庭の事情で教わったからな」

弓端さん以外に、部屋の中には誰もいない。

あるのは、壁と床と天井とランプとくるみと机と・・・人形だ。

部屋の中に人間はいない。

部屋の中に人間の犯人はいない。

「ともかく、僕はお前だとわかっている。」

ぼくは、発する。殺意を持って発する。死を持って発する。

地獄の彼方、煉獄たるこの世はおろか、天獄の彼岸をも殺滅し、

良俗悪俗区別なく、

その生に意味を認めず、

蹂躙し、凌辱し、剛虐し、

その魂魄幾度死を与えられ、

怨念の業火に焼かれようとも

お前は死滅し、


自壊し続けろッ!




さっさと答えろッ!―




ふと、世界が歪んだ。


「ツクモ神」





日記「細かすぎて伝わらない作者のこだわり・・・予告編

ふぅ~、と第二章がやっと書き終わったのが昨日でして、

現在第一章を、こちらにアップしているのですが

実はこの第一章、結構裏設定が随所にありまして、そんなわけで。

第一章終わった後に、第二章の連載と並行して新しいコーナーも受けようかな・・・・と

新コーナー「細かすぎて伝わってないかもしれない作者のこだわり」

みなさんも、第一章読みながら、探してくれるとありがたいです。

自己消失 1-16 くるくる

母屋の中に入り、台所に向かう。

だが、そこに料理をしている古矢さんの姿はない。

居間にも、応接室にもいない。

いや、古矢さんもいないのだ。

弓端さんもいない。

「クソッ!こんなことなら・・・」

こんなところで愚痴り始めても仕方がない。

状況は最悪だ。

だが、応接室の中で急に電話が鳴った。

ここに、電話なんかないぞ。

見回す、見まわす。見回す。

そこには何がある?

何が、何が

目に入るものを、高速で注視する。

机、

壺、

壁掛けの皿、

掛け軸、

扉、

椅子、

ソファー、

花、

花瓶、

いや、花瓶、花、ソファー

―ソファーの上!

携帯電話が、ソファーのクッションの影に隠れていた。

それが鳴っていたのだ。

通知設定はされているが、名前の登録がない。

誰だ?

僕は弓端さんの代わりにその電話に出た。


「誰だ?」

「もう!電話してよ、約束したでしょ!家にかけても誰も出ないし、心配したじゃない!」

ああっと、忘れてた。

Aliceか。そう言えば連絡するっていったっけ?

「悪い、今は忙しい。切らしてくれ。」

「ダメ。それは駄目。絶対に許さない。」

「おい、・・マジ頼むそれどころじゃないんだ。」

本当に、空気読めよ!女子高生!

「切ったらひどいわよ。何かしてるなら、いいから切らないで、私と話しながらしなさい。

さぁ、今の状況から話してよ。」



  ◆ ◆ ◆



「・・・なるほどね」

「どうだ?」

おれの考えは間違ってるのか?

「大方間違ってないよ。

うん、でもさ、私も、古矢さんが事件に関わってると思うよ。

そうね、私からの追加情報って言えるのは

殺された23人は、弓端さんと一緒に行ったて言う商店街の人たちってことくらいだし。

新聞にでてたよ」


そうなのか、それで、商店街は閉まってたのか・・。


「けどさ、古矢さんは魔法使いじゃないんでしょ、

それで、屋敷から出る方法も解ってないんでしょ。

ならやっぱり古矢さんは、犯人じゃないよ。」


「でも、それ以外―」

「うん、ミユミユは確かにサドでグロでブラックだけどユダ君とちがって無意味に嘘はつかないものね。

だから、やっぱり『ひぃちゃん』はずれてるよ。

ズレずれだと思う。

足りないのはね、概念だよ。

概念・・考え方、

認識の方法、なんでもいいよ。

よく考えて、考えてよ。

被害者が『個』を奪われてるってどういうこと?

それって何?、

『ひぃちゃん』が一番恐れていたことじゃないの。」


『個』をうしなう。


それがどういうこと?


「奪われた『個』って何?」


あっ・・あれ・・・。

僕は、一瞬息をするのを忘れた。

Aliceの言葉にじゃない。

「古矢さん・・・」

思わず、僕は携帯の電源を切った。

もう,

訳がわからない。

何の声も聞きたくない。

何の情報も受け付けない。


一度、一度整理させろ。

そうだよ。

魔法使いでもない古矢さんが犯人じゃない。

なら、どうだ・・・・だいたい、だいたい、この事件が一人の犯人でやったことだとしたら、

あいつの言うとおり一人だとしたら、


おい、
おいおい、
・・・・本当人間に可能なのか?

体温が一瞬で下がる。

寒い・・・寒い・・・

「古矢さん・・・」

ダメだろ。

「死んでちゃ・・ダメだろ。」

目がグルグル回る、大きく回る。

世界がグルグル回る。目まぐるしい。

歪んで回る。

頭がごちゃごちゃする。

情報の整理が不十分。

事実の整理が不十分。

秩序がない、

混沌・・・・

混沌が回る。

ぐるぐる・・・

くるくる・・・


ピッ―強く握った携帯から、音がする。何かのボタンを押したらしい。


くるくる・・・世界は小さく回る。


どうやら画像データだ。

最初に見せてもらったあの画像。

被害者の画像。

あ、あれ?

もう、わからない。

もう駄目だ。

異常すぎる。


画像に映し出された被害者の病室のネームプレート・・。

弓端幸一・・。

靴箱に入っていた男物の靴、イニシャル―K・Y。

どうなってんだ、

ねぇ、弓端さん。

お父さんは、死んでるじゃないか!

何だよ。

とっくに異常だったんじゃないか―

この屋敷、僕が来た頃には、もう何もかも始まってたんじゃないか。

いや、終わってたのか?

どうなってんだよ、ただの知り合いじゃなかったのかよ。

お父さん、知らないってどう意味だったんだよ。

弓端さん。

これじゃ全員被害者じゃないか!

誰も得してないじゃないか!

わけわかんねぇよッ!


くるくるくるくる


どうなってる?

何だ、どうつながる。

どう意味だ。


人間に可能か?可能なのか?

本当に・・・。






―奪われた『個』って何―




『個』って何だ?
なんでできてんだ?
個って言うのは自分だろ。僕は、何でできてんだ。
僕は僕だ。僕を僕たらしめたのは何だ。
―それは、僕が積み上げてきた経験だ。
僕が積み上げてきたものは経験て何だ。
―それは歴史だ。
僕の歴史って何だ。
―事実の積み重ねだけではない人と人の中で積み上げられる思い。
なら、他者がいないと僕は、僕ではなかったのか?
―むしろ、他者の中には、僕がいる。逆に問う。
―僕よ、僕は何でできている。その以前に、できあった僕はどうやって、僕を見ているんだ。
―人間の眼は外界しかとらえることはできない。その瞳で、そうやって内にいる僕を見ているんだ?
僕は見ている。僕は見ている。

一緒に歴史を積み上げてきた人の中にいる確実なる僕の一部に、相手の瞳の中に映った僕を見て僕を認識している。

―されば問う。奪われた『個』とは何だ。―

他者と僕との間に築かれた僕の自身だ。
―されば問う。
お前は何故今、目の前にした死を見て何故困惑している、
何を恐れている、
何を怯えている、
この喪失感は何だ。
さびしいんだ。
僕は失ってしまったから、
僕の中の死んでしまった人の一部が、その孤独にあえいでいるんだ。
死んでしまった人の中にあった僕の一部が、目の前で死んでしまったから。

ぼくは、Aliceを失うことで、僕を失ってしまう。
ぼくは、柄原を失うことで、僕を失ってしまう。
ぼくは、弓端さんを失うことで、僕を失ってしまう。
ぼくは、古矢さんを失ったことで、僕を失ってしまった。

ぼくに、関わった人たちが死ぬ事で、僕という『個』は、失ってしまう。
こわいこわいこわいこわい。
弓端さんはずっと、この恐怖の中にいたのか、今も・・いるのか。

・・・・・












ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ







ちょっとそこのあなた!・『異界(いかい)』、京都・人形のような整いすぎた佇まい。・弓端(ゆみはし)御世(みよ)さん・京都の旧家の生まれ・ただ近所に住んでいるというだけの知り合いを・無表情な口からもれる、変化にとんだ声色。人形に、人間の声を吹き込んだかのようだ。・なんで人の携帯で動画とってるの?やめてよ。それより、せっかく海に着たんだから、お父さんも泳いだら?・『個』の欠落・やりやがったな、魔法使い。・『芸風』が似ている。・魔法は、あくまで神の秘法、『人間が扱って良いものではない』・相反する世界法則が、安定した世界を侵食する。・観測すれば、それは事象として意味をもって、観測者に影響を与え、恐怖させる・魔法という世界法則・知恵の実・ルール説明・みぃちゃんの文章構成能力は、愕然とするくらいの低さ・赤外線感知装置・鉄壁の防御、難攻不落の要塞・母屋・蔵・離れ・屋敷・三重の防壁・堀・使用人の古矢惣一、うちの世話を12年間続けて・キャベツを手に取り、無表情に凝視する・みぃちゃんが普通に、話してる。・男物の靴ばかりが靴箱に入っている。・靴にはK・Yと書いてあった。・こっちが普通のみぃちゃん本当に人が住んでるのか?ここ。・くるみ割り人形だ・どういった心象風景・『重苦しい』の一言・古矢家は代々、弓端家に仕えている一族・父親なんて知りませんが?・魔法使い独特のあの『重苦しい感じ』・直接接触するほかない・昔は、使用人がたくさんいた・蔵の一番高い窓からチラッと明かりが見えた・古矢さん・一度侵入を許してしまえば逃走経路も正門しかない・蔵には一番上の階にしか窓がない・井戸・今朝にかけてC市の住人23名が、相次いで・何で今更・無駄な大量虐殺・死にかけてる・弓端さん・、『なんで殺しきれないなんて事が出来るんだ』・違う魔法・これはミステリーじゃない。パズルだ。・商店街には人が一人もいない。それどころか、商店街のすべての店のシャッターが下ろされている・足りないのは考え方・・概念・完全に出入りのできない密室(外界)で、被害者を密室(外界)内に潜んだ殺人鬼に殺されたように見せかけた・世界最大の密室大量殺人事件。・狭い井戸に『詰まった』たくさんの死体。・殺された23人は、弓端さんと一緒に行ったて言う商店街の人たち・奪われた『個』って何?・お父さんは、死んでる・他者と僕との間に築かれた僕の自身・ぼくに、関わった人たちが死ぬ事で、僕という『個』は、失ってしまう。・・・・・・・・・・・・・犯人は、本当に人間なのか?
・・・・ツクモ神の事・犯人は『魔法使い』。消えた弓端御世。みぃちゃん。



ぼくは、ついに犯人を見つけ出した。