自己消失 1-15 潜んでいた異常
外に出て、僕はまず最初に蔵に向かう。
当然抜け道探しだ、それから小1時間ほど探ったが正価は全くと言っていいほどなかった。
諦めて、外に出る。
そろそろ古矢さんが食事を用意し出す頃だろう。
さて、どうするか・・・
なんというか、犯人と疑っている人の食事はとり難い。
ん?そう言えば井戸・・・。
コンクリで固められているから無理だとは思うけど、まぁ一応。
僕は、井戸を確認する。
よく観察すると、
ん?
このコンクリ・・・劣化してる。
固められてはいるが、もう境目に雨が侵食して動かそうと思えば、動かせるじゃないか。
僕は、その重い石蓋を何とか、ずらして開ける。
そこには、暗い、暗い闇があった。
底、見えないな・・・・。
ただ、妙に臭い。
これが古い井戸の匂いなのだろうか?
その時、月の光が真上から差し込んできた。
外壁のせいで外套の光すら入ってこないここでは月の光が照明になる。
ともかく、これで底ものぞけるだろう。
月の光が井戸の底を照らす。丸い井戸の底が光に当てられると、そこに月があるようだ。
その満ち欠けはゆっくりと満月へと向かい、すべてをあらわにする。
・・・ちょ・・・
そこに、期待のものはない。
期待のものは何もない。
ないないない。
抜け道などない。
ああぁ、抜け道ではない。
抜け道であれば・・・。
先ほどから感じていた異臭がただの臭いを通り越しいまや吐き気へと変わる。
あったのは・・・・
あったのは、死体だ。
一人や、二人じゃない。
三人や、四人じゃない。
五人や、六人じゃない。
狭い井戸の中でからまってよくわからないが、最悪の状態であることだけはわかる。
ただの死体じゃない。
異常だ。
魔法使いに『個』を奪われ自身がどんな形であったかも思い出せず、
スライム化した人達、その肉体が生命活動すら奪われ腐乱した状態でそこに『詰まっている』。
「くそ・・・」
呟く。
頭に駆け巡る。
何だ?
何だこれ?
何だこれ!?
何なんだッ!
いや・・・冷静になれ。
十分だろ。
密室トリックなんて解く必要もない。
犯人が内にいた証拠だ。
この屋敷にいた証拠だ。
犯人は古矢さんだ。
間違い無い。
魔法使いの気配を持たない古矢さんが魔法を使っている理由は分からないが、
もう間違いはない。
迷う必要もない。
古矢さんを捕まえなくてはッ!
僕は母屋へと駆け出した。
◆ ◆ ◆
自己消失 1-14 世界最大密室殺人事件 ―小説
犯人が古矢さんなら、NEWSで報じられた今朝の殺人事件が単なる大量殺人じゃなくなってしまう。
密室殺人だ。
密室殺人の最大の利点は、被害者を自殺に偽装したときにある。
自殺にしか見えない姿で、状況が密室なら普通は自殺とするだろう。
つまり、別の事件をでっち上げ真犯人が疑いをかけられる可能性を減らすことができる。
近頃のミステリーは、意味もなく密室だけを作り上げ不自然な状況で恐怖となぞを演出したがるが、
はっきり言えなそんな密室など犯人を捕まえることを至上の目的とするミステリーからすれば
何の障害でもない。
むしろ、犯人は確実に『殺人事件だよ』と堂々宣言しているにすぎないし、
手を加えた分だけ探偵にヒントを与え、
それが解けてしまったというそれだけで犯人が特定されてしまう危険性がある。
平たく言えば無駄の上に過ちを上塗りしたような粗雑なトリックになってしまう。
はっきりいってそんなトリック解けずに犯人が特定できたのなら、解く必要すらなくなるトリックだ。
話は戻る、密室殺人の最大の利点の一つは、別の事件をでっち上げることで真犯人の疑いをそらせるところだ。
今回の事件はどうだ?
密室などどこにもない。
だが、密室と同じ効果が起きているではないか。
ここは城塞だ、あの晩、僕が玄関を見張っていた以上、絶対に『外に』出ることはできない。
いや、仮にこの屋敷の塀の内側を外として、塀の外側を内側とするならば、外界という、世界でいちばん大きな部屋(くうかん)の『内に』は決して入れない状況になっている。
まさに世界最大密室だ。
さてその『その内側で』どんな事件がでっちあげられたか、
それは簡単、『外界に潜む謎の殺人鬼』がおこした大量殺人事件。
そう、完全に出入りのできない密室(外界)で、被害者を密室(外界)内に潜んだ殺人鬼に殺されたように見せかけたのだ。
・・・・。
と・・・あくまで古矢さんを犯人と仮定した場合の話だ。
古矢さんも、仮定で犯人にされ捕まったとあっちゃ納得できんだろう。
これは所詮パズル的アプローチだ。
手法を見つけ出した時初めて解答となりえる。
つまり、古矢さんが外界に出る方法を見つけなければ何の意味ももたない。
そう考えるならば、古矢さんが昨晩いた場所で最も怪しいのは・・
―蔵だ。
「で、どうですか?あの人の話を聞いて何かわかりましたか?」
古矢さんがあの人と言っているのは柄原美雄のことだろう。
「いえ、あいつペラペラ喋るんですけど何言ってるのかよくわかんないんですよ。僕にはさっぱりです。」
と、いっておく。
「ちょっと、頭を冷やしてきます。」
僕は、そう言って母屋の外に出た。
いつの間にか、日は傾き橙色の光が目に差し込んできた。
もうじき夜が来る。
その夜が明ければ、
犯人が予告した最終日、
・・・三日目の朝が来る。
自己消失 ミステリーとパズル ―小説
「ミステリー・・・パズル?」
真実へのいたり方、それにはいくつか方法があるのだろうけど、ミステリーではなくパズルでの方法・・・か。
・・・・。
ふむ、ミステリーとパズルの違い―。
最大の違いは目的。
ミステリーは、犯人を当てることが最重要の目的だ。
犯人を当てて捕まえることさえできればいい。
最悪、トリックの幾分かはわからなくても、時と場合によっては犯人から聞き出せばよい。
パズルは違う。
そもそも犯人(けっか)が先に提示されている。
パズルの目的は結果に導く手法を探し出すのが最大の目的だ。
この概念を念頭に置くと確かにこの事件へのかかわり方が全く変わってしまう。
今までのように犯人を当てようとすると、僕の捜査不足が浮き彫りになり、
犯人を捕まえるどころか弓端さんを守るなんて夢また夢だろう。
足りないものは
情報だ。
だが、あいつはこの事件のジャンルはパズルだといった。
殺人事件でなおかつ犯人が捕まえなければならないこのミステリー的状況を目にしてパズルだといった。
つまり、パズル的アプローチでもこの事件は解決できる。
そう言ったのだ。
ならば、解けないとすれば足りないのは
考え方・・概念だろう。
だが、パズル的手法と言っても犯人(けっか)が分かっていないのに、それに至る手法を見つけることなんてできない。
「あれ、柄原さんは、もう帰られたんですか?」
古矢さんの声にふと思考の海から這い上がる。
「え、ええ」
「そんな、お茶菓子をお出ししようと思ったのに、見送りもできませんで・・」
「あいつに、気を遣う必要はありませんよ。」
いや、犯人の前提はもう置ける。
情報の整理が足りないだけ・・概念の理解が浅いだけ・・
と、あいつは言った。
つまり、もう登場してきた人物の中に犯人はいると言ったんだ。
だったら、こうなると登場人物の少なさが答えを簡単に導き出してしまう。
犯人は、古矢さんただ一人だ。