第二章 多重存在 さよなら友達 僕は彼女を愛さない ―小説
二人の嬌声がライフサイエンスビルにこだましていた。
雄々しく、女々しく。ときに交わり、互いに命の花を散らしあう。
それは、どうだろう。実際彼と彼女は性的にも、殺戮の途中接触していた。
キスしながら、互いの体を引き裂き、より相手の死体をグロテスクな世界に引き込んでいく。それでも、最後まではいかなかった。性的にもそうだが、殺しあいとしても。
「ダメだな、吉野巫女。
俺はお前とは合わないみたいだ。
ちっとも勃たねぇ、
欲情してるのに、
恋情してるのに、
愛憎してるのに。」
俺は告げる。
もう今は、ただ泣きそうな吉野巫女。
彼女はその身を俺のために死戯にまで落としても、けして俺に受け入れられない。
「俺は、瑠璃にイカレテるんだよ。
あいつじゃなきゃ駄目だ。
性的にも殺戮的にも、もうあいつのことしか頭にないんだよ。
やっぱりお前を愛することはできない。
あの時と同じだ、俺はお前にちゃんと告げなきゃ・・・諦めてくれ。」
俺は言った。
やっぱり友達以上にはなれないよ。
俺達、『友達だから』。
「どうしてッ!どうしてよッ!
どうして好きになってくれないの!
私はこんなにユダ君のこと好きなのに!
愛してるのに!
どうしてあなたは私に冷たいのよ!
どうして瑠璃ちゃんしか見えないの!
少しだっていいじゃない!
わたしを見てよ!
わたしを殺してよ!
わたしに殺されてよ!
無責任に!乱暴に!ほんの少しでもいいから私に触れてよ!」
無理だよ、吉野。
お前を理解してやれる・・・それが友達の限界なんだよ。
「いや!もういや!
死にたい!気持ち悪い!頭が痛いいいいい!
オカシクナルううううう!
愛ってこんなにも苦しいのおおお!?
恋ってこんなにお気持ち悪いのお!?
痛いのオオ!いやいやいやああああああああああああああああああ!!!!」
発狂する吉野巫女。
ごめん、吉野、俺はお前を助けてあげられない。
やっぱり俺にできることは一つだけだったみたいだ。
「ひいいいいい、もういやぁ!
死にたい!じにタイぃ!ころしたいいい!
だれでもいいから、もう止めてえええ!
私の恋を止めてよおおおお!!」
ダメだ、もう吉野は現実に耐えられない。
退行現象―今の吉野は何才だろう。
ああ、そんなお前楽にするにはもう・・・・。
ごめん、ごめん、ごめん
吉野・・・・・
俺は裏切る。
「あ?止まった・・・・?」
吉野巫女は、心臓を、俺は手刀で貫いた。
一撃。
あっけなく。
ただ一撃。
今までの戦闘が、阿鼻叫喚の地獄絵図がまるでなかったかのようにあっけなく。
俺はその一撃に何も込めなかった。
殺意も、闘気も、愛情も、恋情も何もかも。
ただ機械的に、貫いた。
俺は吉野巫女を殺した。その事実はあいつの臨むものだが。
あいつの臨んだしはこんな物ではなかったはずだ。
死戯にとって、殺人は衝動。
死戯にとって、殺しあいは逢瀬。
その殺し合いの最中に放たれた、唐突な、機械的なただの攻撃。
それに彼女は反応できなかった。
逢瀬を交わしていたはずの相手が、突然無感動に自分を無視したのだ。
普段であれば当然のようにかわせただろう。
愛しあう中での裏切りは・・・どんな人間にもかわせない。
「ごめん、吉野。さようなら。俺は瑠璃を愛して生きていきます。」
その時、吉野巫女の口が動いた。
声は発してないが目で見て解る。
「 」
もういいよ、吉野。おまえ・・・即死の筈だろ。
楽に・・・なったかよ。
だいたい、最後に何でまた点数何だよ。
俺、最後までお前の採点基準わかんなかったぞ。
―200点!ユダ君大好き!―
第二章 多重存在 もう、あなたしか・・・ ―小説
おれは、近づいた。彼女の眼はおびえている。あごに添わせる、指。胸を鷲掴みにする手のひら・・・しかし、俺はそこから動けずにいた。
「そんなに、罪罰ユダのことが好きか?」
「?」
わけのわからないという顔をした。
それは・・・そうか。
「お前にこんなこと言っても意味ないことだけどよ、向こうの霧宮瑠璃もいい女だった。俺のことを助けてくれた。だから、おれはこの『未来を見る目』で、お前のいる世界をよりよい方向に向かわせようとしたんだ。いいか?おれはたくさん殺したし、いろいろ裏切ったし、ひどいこともしたけど、それでも世界を終わらせないために頑張ったんだぜ?なのに、さ・・・」
「あっち側?・・あなた、まさか」
俺はその瑠璃の言葉を聞かず、一人続ける。
「なんで、俺を裏切ったんだろうな?」
そう続ける。
俺は、ギュッと力を入れた、掌に包まれていた、瑠璃の胸が歪む。
「い、いたっ・・・」
「まぁ、それでも友人であることには違いなかったんだよな、下で殺し合いを繰り広げているもう一人の・・・いや、本来この世界にいるはずの『必要な』罪罰ユダが、吉野瑠璃にそうであるように・・・・。」
俺は、口を近づける。瑠璃の唇へ・・・。
そこで、動きを止めた。
瑠璃が呟くのを聞いてしまった。
ああ、そうですか。
おれは、彼女から離れた。
はぁ、とため息を吐く。12月のビルお屋上は寒い。白い息がふわっと出てきた。
「駄目だな、俺は。あんたじゃ勃たねえよ。霧宮瑠璃。」
どうして、こうなっちまったか。
「俺はどうも、この世界の吉野巫女にイカレテるらしい。」