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第三章 幸福在処   3-1   こころ -小説

私たちは、不幸を知っているからこそ、幸福を知っている。


愛を知ればこそ憎しみ合い、その境界の只中にいることで心を震わし生きている。


私たちは、相反する概念の境に真実を知る生き物だ。

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小説 愛食家な彼女 7

現場の状態は、散散な状態だった。

この場合、散散は、『みじめ』という意味ではない。

物理的に、『ちりぢりにされている』という意味でだ。

四肢が切断されているのではなく、筋肉がそぎ落とされている。

それがところどころに散らばっていて、・・・・本当に散々。

いや、『みじめ』という意味も含めていいだろう。

この状態を、みじめと言わずしてなんという。

確かに・・・・・確かに・・・・・あの話を聞いた後では、それは食い散らかした後だ。

てんで冗談でも比喩でもなく、まさしくそうだ。


奥出警部(例の人間不信)が、野次馬の顔を写真で撮っておけと、指示している。

常軌を逸した殺人者のなかには、自分の犯した惨状を、一つの作品として、愛でる習性がある。

何か出来ずにいた人間が、人にできない事をした。

そう誇りに感じる習性がある。

野次馬を写真に収めるのは、ごくごく当たり前のこと。


けれど、今回はその写真に何の意味もないだろう。

普段、自分が食べ残したものを、わざわざ見に来る人間はいない。

この犯人はそうだ。

間違いなく、純真に、何の矛盾もなく人間を『餌』ととらえている。

野次馬だって、そいつにとっては、生ゴミをあさるからす程度にしか見えないだろう。

気にも止めない。

「高柳、今来たようだが、帰ってさっそく捜査会議を始める。下働け」

「え?ああ、はい」

俺は突然の呼びかけに驚きつつも、適当に相槌をうつ。

すると、奥出警部が、急に肩を寄せて、耳のそばでつぶやいた。

「言っとくが高柳」

「はぁ」

「捜査本部で、自分の持ってる情報を隠すのはやめろよ」

「あの、隠してませんよ?」

「ふん、自分が犯人捕まえたいからって嘘ついてんじゃねぇよ。そんなことしなくても、出世できるだろうが、エリートなんだから。それとも、ヒーローにでもなりたいのか?」

さすがにムカッと来た。

なんなんだ、こいつ。自分がエリートじゃないからってひがむなよ。

と、内心では思いつつ。

「俺はいつだって、警部のお役に立ちたいと思ってますよ」

と、心にもない事を言う。ああ、もう、最悪、一つ汚れた気分だ。

「はっ」

と、一言言ってから、奥出警部は、野次馬をかき分けていった。



鑑識、は、あたり一帯に痕跡がないかを、捜査している。

そのなかで、俺は一息・・・・すぅ・・・・と、息を吸い込む。

何となく、邪気を感じない。

無差別、でも個人的。

頭の中に思い描くような、映像はー。






『大好き』






・・・・・・・・。


◆ ◆ ◆


・・・・・・・・。

「高柳!」

その声で、意識が戻った。

ああ、そう。現在は捜査会議中。

当然ながら、事情聴取の内容を話す。

あわてて、立ち。その場でメモを確認。

大筋を伝える。


そして最後に・・・。


「被疑者は、犯人を女性だと言い、自分のナイフを使って被害者を食していたと」


当然、そんな出まかせ放っておけムード。


正直、俺だって言うのが恥ずかしかったよ。

まぁ、でも一応、人間不信が隠し事はするなというからな。



捜査会議は、大した情報も得られぬまま終わった。


それも結局、11時。


今日は帰って寝るか・・・・。

頭の中に、そんな事がふとよぎる。


どうせだからと、俺は犯行現場を立ち寄ることにした。

banabana

小説 愛食家な彼女 6

さて、事は急いだ方がよさそうだ。

自分も現場に行こう。

事件の情報自体は、捜査会議で得られるが、事件の空気は旬がある。

時を逃せば、風や他の雰囲気というやつに流され霧散する。

俺は、容疑者を拘置所に移送した後、すぐ様上着を着た。

スリムスーツは、もともと薄手であることが多いが、夏場の京都を歩くには少し暑い。

すぐに、そでを通すのをやめて、腕に抱える。


「お?なんだ?やる気じゃないか?君にしては珍しい。どうしたの?面白い話でも聞けた?」


藤本先輩は未だコーヒーを飲みながらにやにやする。

むしろ、テンションあがっているのは、先輩の方だろう。

無意識に、俺はそんな事を思うと警察手帳と、手錠の確認をした。


「そうじゃないですよ。始末書書くのに飽きてきただけです。それに、ほら、先輩も体を動かせって言ってたじゃないですか?」


「確かに、しかし熱中症には気を付けたまえよ。」


「そんなに外に出張りませんよ、さすがに。知ってるでしょ、俺はインドア派なんですよ。」


平刑事にインドア派なんてあってたまるか。それは税金泥棒のサボりと言うんだ。

そんな事を、藤本刑事は愚痴りながら、コーヒーをまた一口。


「そうじゃない、高柳啓司。私は、君が事件に熱中しすぎるなと言っただけだ。」


「なんですか?それ?鬼刑事藤本沙世の言葉とは思えないですよ。第一なんですか、人を犯罪狂の変人みたいに。おれはそんな趣味持ってませんよ。」


「そうじゃないさ。刑事っていうのは最前線だ。犯人を捕まえる可能性が一番あるのも刑事だが、犯人に殺される可能性が一番高いのも刑事だ。ルーキー、君には、その経験がまだないだろう?」


まぁ、確かに、警察に入って以来かかしていない、武道の修練も、正直言ってどこまで犯人に使えるのか、まだ分かっていない。そう言う大立ち回りはまだ経験したことがないから。けれど、逃げる判断だけは間違わない自信がある。そう言う『空気を読む』のは大の得意だ。


「せいぜい気をつけますよ。」


俺はそう言って、最後にかばんを持った。

領収書入れは、大丈夫。入ってる。

どうせなら、通勤費も捜査費で落ちないだろうか?

いや、それは、本当に税金泥棒だろう。そこは品格というやつだ。


俺は、扉をあけ、現場に向かった。


その時、残った藤本刑事が、にんまり笑って。

「何が、犯罪狂じゃない・・・だ、最高にイキイキしやがって。れっきとした変態だよ君は、・・・高柳。きっと君の初恋の人は殺人鬼だ。」

そんな事を一人呟いていたことは、後になっても知ることはない。

ただ、この時の藤本沙世の言葉は大方にして当たっていた。

鬼刑事の感というやつか・・・・。

いや、もっと単純な話だろう。

古今東西、いつの時代も、どの土地でもよく言われていることだ。


『女の感はよく当たる。』

banabana