蒸れないブログ -218ページ目

小説 愛食家な彼女 9

「こんばんわ」


その一言は、とても間抜けな発言だっただろう。

思考の半分は、完全に停止。


ただ・・・少女の姿態に見とれていた。


みれば、服はびしょ濡れ。

先ほどまで雨に打たれたように・・・。


目も少し濡れている。


この状況をどう判断するか・・・・口元から垂れた血も含めて。


「あの、どうされましたか?」

そう聞いたのは俺じゃない。

目の前の少女。

どうしたかではない―それはどう考えたってこっちのセリフだ。


まさか乱暴された?いや、ならばこの反応はどうだ?

まるで充足感。彼女は何の影もなく笑っている。

「いえ、それより、そちらこそどうされたんですか?そんなにびしょ濡れで・・・」

「さっき、噴水の縁に座ったら、バランス崩しちゃって・・・・」

そんなことありえるか?

その口元の血は何なんだ?

こんな夜中に、女性一人で歩いて何してんだ?

疑問なんていくらでも出てくる。だが、それより何より俺は、上着を少女に渡した。

「あの・・・」

これなんでしょう?

「いえ、着といた方がいいでしょう。その・・・・服が透けてますから」

はぁ、と鈍い反応。

どうも恥ずかしいとも思ってないようだ。

ただにっこり笑って―。

「おやさしいんですね」

と、言う。

そんな彼女だから―。

「自分は刑事です。よければ、ご自宅までお送りします」

などと―下心なしで俺はそんな事を言った。

彼女は全くこちらを不信と思わず―。

「はい、ありがとうございます。」

といった。



その会話のどれもが不自然だ。

まるで現実離れ・・・・こんなこと起こりえるはずはない。


まるで真実味がない。


夢うつつ・・・・自分の脳は、現実を直視するのを拒否し、世界を自分の理想で固めたのか?



今日は熱帯夜・・・脳を溶かす暑い夜。

ジワリジワリと肌から汗を・・・・心から欲望を・・・・・


人の内側を垂れ流す・・・・・そんな気持ち悪く不快でまどろむ闇の帳。

小説 愛食家な彼女 8

夏場の気の狂いそうな蝉の声も、さすがに夜になると止んでいき、ただ今晩の蚊の被害をどうしのごうかと憂鬱になりながらも、コンビニ弁当を買って、ただ俺は骸のあった場所へと向かう。


死体を見るたびに思う。


形はどうあれ、自分もこうなる。

不思議なことだが、人間はどんな形で死のうと、その印象自体は人間だ。

だから、その有様がグロテスクであればある程、自分の心の中にある人間像という『ある種の理想』とのギャップにさいなまれ、恐ろしくもなり、気持ち悪くもなり、悲しくもなる。

自分も実は『ああ』なのではないか?

そう考えてしまうのが常なのだ。


逆に言えば、死体をグロテスクに改変させる犯罪者は、自己の心理を他者に投影し、自分の散々たる有様を大衆に見せつけ、憐れみを乞い、ただただ救いを求めているのではないか?


そんな事をふとよぎる。


だとすれば、馬鹿な話だ。自分の心のありさまを表現したつもりが、他者に与える心情は真逆・・・・そこには憐れみではなく、拒絶が生まれる。


だが、そんな小難しいことではなく


―ふざんけんな!

お前マジ『キモイ』よ!ついていけねぇし、許せねぇからあっち行け!あまえんな!―


ということだろう。


まぁ、犯罪者が理想的にロマンチックに駆り立てるほど、どの方向においても現実(リアル)っていうのは、シビアなもんだという話。


マンガや、ゲーム、小説のようにはいかない。


人間の心は常に理想(バーチャル)を求め、それでいて現実(リアル)に作動する。


心がどれほど求めても、心の現実機能が理想を拒絶する。

それを常識と呼ぶかもしれないし、あるいは理性と呼ぶのかもしれない。


狂気的な犯罪者は、ある意味、この現実機能がぶち壊れてしまったか、機能が低下してしまったのだ。



と、考える俺はなんという理想主義者(ロマンチスト)なのだろうか?




本日熱帯夜、夜歩きであろうと、肌から汗は流れる。

藤本先輩殿鬼刑事は、走り回って、このスーツをくしゃくしゃにしろと言うが、そんな労力しなくても、勝手になってしまう。


ただ、現場である公園につくと、体感温度は少し下がった。

夏場になると、鴨川沿いの店は、今風に言うとバルコニーを一気に出して、川辺の音を聞きながら食事をするサービスが人気を博する。

この公園にも、毎日大枚の金を垂れ流しながら(というのは誇張しすぎだが)噴水が今日も吹きあげている。

おそらく、これのおかげだろう。少し汗はひいた。


現場に到着する。


犯行現場の近くに入る前に軽く食事。

コンビニ弁当を取り出しあける。

ああ、くそ、いつものことながら保存料のせいで妙な湿度を持つこの弁当は今日もべちょべちょだ。

あのシャワーのように吹きつけた保存料さえなければ、きっとすごく美味しい湿度の料理に違いない。

ただでさえ、湿度の高い京都を、これ以上湿度を上げてどうするんだ?


まぁ・・痛むよりいいけどね。


そんなとき、ふと、噴水の縁に血痕をみつけた。

珍しい・・・・これは、さっきの捜査会議で上がっていなかった情報。

こんな見逃し普通はあり得ないほど、あいつら優秀なのに。


そう思って、よく見てみると、噴水の底に、長い髪が落ちている。

関係ないとは思うが、まさか髪を洗ってたなんてことは・・・・・いや、もしかしてたら血を落としていたのかもしれない。


はん!ありえないありえない・・・本当に俺はロマンチストらしい。

最高に最悪の馬鹿。

どうやったら、真昼間にこんな人眼に着くとこで血を落とすことができるんだよ。

いや・・・・待てよ。あの汐ナニガシ君が、そうであるように案外目撃者はいるのかもしれない。しかも、普通に。

ただ、人間の心は理想を求め現実を施行する。

ならば、脳が見なかったことにするのも当然の反応か・・・・・。


駄目だ、軽く頭がおかしくなってる。そんなはずあるか・・・夏場に熱くて気が狂うと言うがこういうことだな。


帰って、クーラーのきいた部屋でネットでも見よう。


そうおもって、結局現場に行くことを心の中で断念。

明日に回す。


ふと、ぽちゃりという音を聞いたような気がした。

振り返ると、人影。


誰かが噴水の水で口を漱いでいる。


それは白いワンピースを着た思ったよりも幼い少女。

瞳が大きくまつ毛は長く、唇は赤い。


けれど、その赤い唇は赤くその線をしたたる水で引いている。





『綺麗だ』『本当に綺麗だ』『背筋がぞくぞくする』『鳥肌がたつほどに』




「こんばんわ」

彼女は微笑みそう言った。なんて無邪気で汚れない。

なんということだ。

たった一度のこの微笑みで




俺のなかの理想(恋―ロマン)は、俺の現実(理性)を駆逐した。




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目次 第三章 幸福在処 小説




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