小説 愛食家な彼女 57
―覚えていますか?―
ああ、覚えている。
―覚えていますか?―
ああ、覚えているとも。
―覚えていますか?―
覚えているって言ってるだろうがッッ!!!
―うそつき―
本当は、忘れていた。
―覚えていますか?―
忘れていたよ、ごめん。
―そう、なんで忘れていたんですか?―
仕方なかったんだ・・・・・。あまりにも辛かったから。
―私にキスしてくれたじゃないですか?―
仕方ないじゃないかッ!!
潰れそうだったんだ!
崩れそうだったんだ!
吐き出しそうだったんだ!
爆ぜそうだったんだ
溶けそうだったんだ
砕けそうだったんだ
抉れそうだったんだ
歪みそうだったんだ
狂いそうだったんだ
割れそうだったんだ
締め付けられそうだったんだ
無くなりそうだったんだ
俯きそうだったんだ
腐りそうだったんだ
傷つきそうだったんだ
曲がりそうだったんだ
病みそうだったんだ
間違いそうだったんだ
乱れそうだったんだ
切りつけられそうだったんだ
打ちつけられそうだったんだ
捻じれそうだったんだ
折られそうだったんだ
撓みそうだったんだ
捩じ切られそうだったんだ
死にそうだったんだっ!!
心が・・・。
心が耐えられなかったんだ。
―なんで?―
なんでだろう?
それが思い出せない。
なんで君のことを覚えていなかったんだろう。
なんで・・・
なんで心が
潰れそうで
崩れそうで
吐き出しそうで
爆ぜそうで
溶けそうで
砕けそうで
抉れそうで
歪みそうで
狂いそうで
割れそうで
締め付けられそうで
無くなりそうで
俯きそうで
腐りそうで
傷つきそうで
曲がりそうで
病みそうで
間違いそうで
乱れそうで
切りつけられそうで
打ちつけられそうで
捻じれそうで
折られそうで
撓みそうで
捩じ切られそうで
死にそうだったんだろう?
オモイダセナイ。
―ホラ、覚エテイナイ―
覚えてなきゃ・・・・いけないのかよ?
◆ ◆ ◆
「ケイジ君?」
「はい?」
紗江が俺の額にストローを当てる。
先ほどまでホワイトソーダの中に使っていたそれが、冷たい雫を垂らしていた。
紗江は、「また、呆(ぼう)っとしている!」
と不満そうに告げた。
そういうと、ストローをまたジュースの中に突っ込む。
汚いよと言うと、なら取り換えっこしましょうと提案してきた。
どうやら、俺の頼んだチョコレートパフェに興味があるようだった。
ロクに寝てもいないせいで頭があまり動いていない。
惚れ薬とやらのあても外れて、正直行き詰っており。
どうせだからということで、思いっきり甘いものをとって頭を整理しようとしていた。
「ケイジ君。けいじ君の鼻でわかることってないんですか?」
そう言われると、俺はポケットの中から小学生からもらった(徴収?)例の惚れ薬を手に取る。
「中に入ってる成分をかぎ分けられると言っても、成分それ自体が俺の知らないものだったらそもそもどうしようもないし、俺には薬理学的知識もない。あの女の子は嘘を言ってなかったくらいしかなぁ。
となると、地道に被害者周辺でこの薬がばらまかれてなかったか調べるつもりだったけど、そもそもこれの効能自体があの女の子の話じゃ御守りみたいなものだし。
意味があるのかどうか。」
今度は、交換したチョコレートパフェのスプーンをくるくる回しながら
「なら、刑事の感って言うのはどうです。」
と紗江は聞いた。
そもそも、そう言うのは藤本刑事の管轄だ。むしろ女の感に期待したい。
「でも、正直なところケイジ君にもそれなりに感みたいなものがあるんでしょ?だって、あたりをつけないと、刑事になって早々連続して事件を解決なんてできないですよね。」
まぁ・・・・なぁ・・・・。
と、頼りなげにうなずいていみる。
「だったら、賭けてみませんか?刑事の勘に。
クラシックなのもカッコいいですよ。」
絵 最近悪い癖が出てきた
どうにもこうにも
昔からの性質(たち)なので、どうしようもないが
また、ここ最近悪い癖が出てきた。
一つ、バランスが悪いと気がつくと、どうにもこうに全体すべてが悪いような気がしてきて書いた絵を消しゴムツールで白紙にしたくなるのだ。
こだわりあるじゃん―て言ってくれる人の中に入るけど
これが厄介で
そうやって、自分の未熟さを認められないままその場からを書くことを逃げ出すと
結果的に、書きかけの絵を大量生産することになる
何十枚もの駄作を作りだして
最後まで完遂しないことはもはや愚行に等しくて
それでは絵がどうやってもうまくならないのだ。
自分の未熟な部分を見つめ続けないと、成長できない。
自分がなんで未熟なのかの本質が吟味できないから。
そんなこんなで、もうちょっと粘ってみようとおみます。
タイトル絵のくせに、単なる日記かよって?
―そう言う日もあります。
小説 愛食家な彼女 56
「うん、知ってるよ。」
その少女は、笑ってそう言った。
なんの影もない笑み。後ろめたいことがないと言わんばかりだった。
「ていうか持ってる。」
小学生に蔓延する惚れ薬なる存在。
笑い話ですむような話だ。
惚れ薬なんて存在しないものが、子供の間ではやっている。
―どこをどう見てもほほえましいくらいのネタ。
それが今の高柳には歪な現実としてその眼に映る。
彼らとしては遊び、世間としても遊び、社会としても遊び。
遊びで金が動いている。
娯楽というものはそう言うものなのに、この時ばかりは違った。
紗江が紹介してくれた少女は、小学4年生らしい。
微妙な時期だ。はっきりとした罪悪感なしで行動を起こしてしまえる時期でありながら、ある程度の思考形態をちゃんと持っている。
彼女はGパンのポケットから一袋の粉薬を見せる。
こんな風にして見せられると麻薬か何かみたいだった。
「最初見つけた子はネットで見つけたって言ってた。それで、きくきくって評判になって、ほら恋のおまじないみたいな感じ、あんな感じで広まってさ。うん、わたしもネットで見つけようとしたんだけど、今はそのサイトがないみたい。」
「じゃあ、どうやって手に入れたの?」
紗江がやさしく聞き換えす。
すると、少女は携帯を取り出し一つの番号を見せた。
「この電話番号に電話するの。なんにも返事と化しなくて、ずっと電話の向こう側は無言なんだけど、こっちから、『おひとつ下さい』っていって住所を言ってから、次の日にはポストに封筒が入ってるの。その封筒にお金を入れてポストに入れたら、今度は薬の入った封筒がポストい入ってる。」
「その封筒に宛先とかって入ってるのか?」
今度は俺が聞いた。
少女は少し、記憶の中を探し回ると、答えを見つけ。
「なにも。」
といった。
「入れるって言っても郵便ポストじゃなくて家のポストだし」
よく、親が見つけないものである。
いや、みつけても宛先のない封筒では、どうしようもない。
「実際効くのか?」
「どうかなぁ、でも効くってみんな言うよ。
面白がってるだけかもだけど。
私も好きな子ができた時用のお守りみたいにして持ってるだけだし
ああ、でもこの薬のおかげで付き合い始めた子はたくさん知ってるよ。
やっぱり効くのかな?」
何ともあいまいな話だ。
しかし、この話を聞く限り本当に麻薬のようなものではないようだ。
むしろ、本当に恋のおまじない程度のはやり方で効果もそのようなもの。
「使い方がまたおまじないぽくって、これを好きな男の子に飲ませた後にね、一こと言わなきゃ聞かないんだよ。」
その時―
俺はその言葉を聞いて・・・・背筋が凍りそうになった。
ゆっくりと、少女のやわらかそうな唇が動くのが見える。
―ねぇ、覚えてる?―
心臓が跳ね上がった。
俺はあわてて、紗江のほうを見る。
少女の目の高さに視線を合わせるため、かがみ込んだ紗江の表情は立っている俺には解らない。
ただ、少し笑っているような気がした。