猫のミチがうちに来てからというもの、すっかりご無沙汰になっていた馬に関する小説に、久しぶりに手を出してみた。
The October Horsesシリーズの著者ジュヌヴィエーヴ・マッケイによる別のシリーズ、Three Sisters Farmの1作目。タイトルから仲良し三姉妹による牧場経営の話を想像していたら、全然違った。
主人公のフィナは、5人兄弟の長女。長男のセバスチャンとフィナは高校を卒業し、オンラインで大学の講座を履修しているが、双子の弟はまだ子供だし、末っ子の妹アスペンに至ってはまだ8歳で、おまけに(明記されてはいないけれど)ちょっとASDっぽいところがある。カナダの厳しい自然環境で、人里離れた農園での生活はハードだが、大好きな馬のベアトリスと一緒にいられるならフィナには特に文句はなかった——6番目の子供を流産して入院中の母親が、突如、家族のヴァンを使って病院から逃亡し、一家の貯金を全額銀行から引き出して姿をくらますまでは。
半年後、母親は母親の実家に戻ってきた。ただし、その時には所持金もヴァンもなく、おまけに記憶喪失で出産はおろか結婚した覚えさえないという。母親の失踪以来、すっかり腑抜けて(明記されていないけれど)鬱状態だった父親は、結婚に反対されてこれまで完全に没交渉だった義理の両親から連絡を受け、とりいそぎ母親に会いに行こうとするが、子供たちや農園をそのまま放置するわけにはいかない。というか、そもそもそこにたどり着くための自家用車すらない。そこでフィナが計画を立て、愛馬ベアトリスにカートを引かせて(ペットの犬や家畜も含む)家族全員で母親の実家に向かうことに。
母親の身に何が起こったのか? 金と車はどこに消えたのか? そもそも、母親が主張しているらしい記憶喪失は本当なのか?
ここまでは物語のほんのさわりで、フィナたち一行がどうにかこうにか母親の実家に辿り着いたあたりから、ようやく話が本筋に入ってくる。母親は、夫や子供たちと再会してもまったくの無関心、あくまで記憶喪失の一点張りだ。その一方、フィナにも少しずつ結婚前の母親の事情が見えてくる。長男を妊娠して駆け落ち同然で父親と結婚する前の母親は、実家では乗馬のジャンプ競技に熱中し、ご近所の幼馴染と許嫁同然だったらしい。唐突に振られた幼馴染の男性は、その後めでたく別の女性と結婚し、三人の娘を授かったものの、残念ながらその女性は他界。今は新しいガールフレンドと大人の付き合いをしながら、財力にモノをいわせて乗馬クラブ「Three Sisters Farm」を経営している。
やれやれ、やっと出ました「Three Sisters Farm」。フィナは、クララ、イザベル、アリスの三姉妹と知り合いになり、あらたな乗馬の魅力に目覚める。これまでは我流でベアトリスを乗り回し、いっぱしの乗り手を気取っていたけれど、正規の乗馬訓練を受けた人たちに比べるとこんなにも差があるのか!
……フィナが「Three Sisters Farm」に出入りし始めると、話は一気に乗馬の世界になり、それはそれで結構だが、でも肝心の母親をめぐる謎がほったらかしになっているような気もする。実際、ネタバレ覚悟で書くが、少なくともシリーズ1作目の本作では謎は謎まま、はっきりとした答えは出なかった。
読んでておもしろいのは確かだし、もちろん2作目以降の読むつもりだけど、母親に関する事柄だけは何かちょっと釈然としないぞ!
