前回の『義とされた罪人の手記と告白』から約2ヶ月、またまた多摩南読書会にオンライン参加させていただいた。最高気温35度の時期だけに、炎天下の中を出かけることなくこういった機会が持てるのはすごくありがたい。
今回の課題本は、デイモン・ガルガットのブッカー賞受賞作、『約束』。ある白人一家の数十年を「葬儀」に集約して描いていて、あくまで一家族の物語でありながら、その背後に1980年代から2010年代までの南アフリカ共和国の現代史が薄く透けて見える仕組みになっている。
……と書くと何だかすごくとっつきにくそうだが、実際に本を手にとって読んでみると意外なくらい「すらすら」読める。三人称の小説だが、語りの視点が一人の人からまた別の人へとスライドし、結果として一家族を取り巻く大勢の人間の内面にするりと潜り込んで内面の声を届けてくれる。南アフリカという、日本からはかなり遠い国の話なのに、どの声にも妙に得心できて、「いるいる、こういう人」と思わずにいられない。
そういうところがこの小説の思いがけない読みやすさの一因でもあるのだが、それでいて時折、わざと語り手の声を強く出してスムーズなスライドを遮るような箇所もある。のめり込んで読んでいる読者に、これが「ただのフィクション」であることを強引に思い出させる、とでも言おうか。そういう語りの仕掛けも、私にはすごくおもしろかった。
今回の読書会は参加人数こそ少なかったものの、その少ない人数の中にアフリカ在住経験を持つ方がいらっしゃって、その方自身の体験談に加え、その方のお知り合いで南アフリカ共和国に10年以上暮らしたことのある人の話を聞くこともできた。おかげで、この小説の解析度が一気に上がったと思う。
ほんと、こういう機会が持ててありがたいったらない。